長谷川一夫のチャンバラ映画


『麝香屋敷』(1955年・大映/監督:田坂勝彦)

島原の乱の功名を自慢する武士が殺され、偶然その場に通りかかった夢想小天治(長谷川一夫)は、麝香の匂いが漂っているのに気づく。その匂いから小天治は湯女のお林(高峰三枝子)を思い出す。様子を探るお林の仲間・怪童むささびの後を追った小天治は、むささびが由比正雪(柳永二郎)の屋敷に入るのをつきとめる。正雪は配下の金井半兵衛(沢村国太郎)や丸橋忠弥(田崎潤)たちと、キリシタンの残党を使って、徳川幕府打倒を計画していたのだ。お林は将軍家光を狙うが……

島原の乱のキリシタン残党が、由比正雪に利用されて将軍家光の命を狙うのですが、市井に暮す柳生但馬守の甥がその陰謀を暴くという娯楽時代劇です。ヒロインは高山右近の娘(高峰三枝子)で、長谷川に恋をし、仲間を裏切って(悪から善になるのだから、“表返る”になるのかな)、正雪一味は一網打尽。キリシタンが暮せる海外(フィリピン)へ追放になってメデタシメデタシとなります。

原作は吉川英治の『神変麝香猫』で、大友柳太朗が主演した東映版を子どもの頃観た記憶があるのですが、長谷川と大友では全然イメージが違いますね。

主人公は柳生新陰流の達人なんですが、長谷川一夫の立回りはヘナヘナして見ちゃいられません。腰がすわっておらず、手先だけで刀を振り回しているので、全然迫力がないんですよ。バッタバタと悪人を斬り伏せるとなると、やっぱり大友だなァ。

 

『浅間の鴉』(1953年・大映/監督:田坂勝彦)

一宿一飯の義理から六田の三蔵(黒川弥太郎)を斬った沓掛時次郎(長谷川一夫)は、三蔵の頼みで、堅気となって女房のおきぬ(山根寿子)と子どもの太郎吉の面倒をみることになる。しかし、おきぬの出産費用が必要となり、悪徳ヤクザの聖天(上田吉二郎)一家と喧嘩する八丁徳(沢村国太郎)の助っ人になるが……

原作は長谷川伸の『沓掛時次郎』です。長谷川一夫は戦前にも衣笠貞之助監督で沓掛時次郎を演じており、これはそのリメイクですね。原作は読んでいないのですが、色々な本からの情報を総合すると、ほぼ原作通りの展開になっているようです。クライマックスの八丁徳一家と聖天一家の喧嘩シーンで、時次郎が単身本陣に斬りこんで聖天親分を捕らえ、喧嘩に勝つのは原作と少し異なりますけどね。

長谷川一夫の相手役は山根寿子で、男と女の情感を演じさせたら、長谷川一夫は巧いですね。それと立回りも、剣豪のチャンバラは見られませんが、ヤクザの喧嘩剣法だと少しはサマになっていますよ。

 

『刃傷未遂』(1957年・大映/監督:加戸敏)

勅使供応の役目についた岡部美濃守(長谷川一夫)は、剛直な性格から指南役の吉良上野介(柳永二郎)に賄賂を贈らなかった。それを心配した奥方(三田登喜子)は、武家生活を嫌って市井で暮らしている弟の辰馬(勝新太郎)に相談する。辰馬は仲間(山茶花究)に頼んで勅使接待の記録手に入れ、湯女の糸重(岡田茉莉子)を身請けして吉良家に間者として情報を探るが……

林不忘の原作を伊藤大輔が脚色した明朗時代劇です。カツシンが接待方法を探り出し、長谷川一夫が吉良上野介の鼻を明かすんですな。チャンバラはありませんが、ストーリー展開の面白さで、最後まで退屈しませんでした。

 

 

『歌麿をめぐる五人の女』(1959年・大映/監督:木村恵吾)

裏長屋に住む喜多川歌麿(長谷川一夫)は、美人画で名声を得ていたが、自分の絵に満足していなかった。歌麿の描いた花魁・小車(毛利郁子)の刺青の下絵が大評判となり、松平周防守に招かれて、イベリア使節団の宴会でイベリア女性の絵を描くことになる。面白くないのは、周防守お抱え絵師の狩野栄川(河津清三郎)で、歌麿に恨みを抱き……

“五人の女”となっていますが、刺青の下絵を描いてもらった毛利郁子、行水姿を描いてもらった春川ますみ、気品ある武家の女房の淡島千景、歌麿を自分だけのものにしようとしている水茶屋の淡路恵子、歌麿を尊敬している芸者の山本富士子、赤い腰巻ひとつで鯉掴みのモデルとなった中田康子、歌麿が好きで身の回りの世話を焼いている野添ひとみと、7人の女がいるんですよ。5人の女って誰だァ?

内容はというと、女性美を追求する歌麿の姿を通して、何を言いたいのか今イチわかりません。毛利郁子、春川ますみ、中田康子といったグラマー女優のエロチズムだけは感じましたけどね。

 

『青葉城の鬼』(1962年・大映/監督:三隅研次)

大老・酒井雅楽頭(柳永二郎)は外様大名取潰しのために伊達62万石を標的にする。雅楽頭に甘言で篭絡された伊達兵部は、陰謀で当主・伊達綱宗(林与一)を隠居に追い込み、近臣を暗殺する。父を殺された宇乃(高田美和)は、重臣・原田甲斐(長谷川一夫)に引き取られる。伊達家は2歳の亀千代が世継となり、兵部が後見役となる。一連の事件の背後に幕府の策謀を感じた甲斐は、裏切者を装って兵部に近づき、信任を得るが……

原作は、それまで伊達騒動において逆臣の定説だった原田甲斐を忠臣として描いた山本周五郎の『樅ノ木は残った』です。NHK大河ドラマ(平幹次郎が原田甲斐)でも放映されていましたね。政治のかけひきや謀略を好まない甲斐の、藩を救うために胸の内を隠して行動する苦悩が説明的セリフで語られるため、内容的には厚みがありません。大河ドラマや小説だとうまく表現できるのでしょうけどね。

だけど、長谷川一夫の原田甲斐は威厳があって悪くないです。長谷川一夫は下手なチャンバラをするより、この手の刀を振り回さないヒーローの方が似合っています。

 

 

 

トップへ    目次へ    次ページ