伝七捕物帖


伝七捕物帖は、松竹で11本、東映で2本作られた高田浩吉のヒットシリーズです。捕物帖のシリーズとして長谷川一夫の銭形平次が大映でヒットし、松竹も長谷川一夫と同タイプの二枚目・高田浩吉を使って成功したんですな。高田浩吉は歌も歌えるし、子分役の伴淳三郎の臭いギャグも受けて、観客に喜ばれたようですが、内容が同じパターンの繰り返しで、飽きられるのも早かったようです。

原作は捕物作家クラブ(野村胡堂・城昌幸・土師清二・佐々木壮太郎・陣出達朗)の連作小説で、話題性はあったでしょうが、小説としての出来は果たして……? 後年、陣出達朗が一人で書くようになり、中村梅之助が主演したテレビの『伝七捕物帖』は陣出達朗の原作になっていましたね。

 

『伝七捕物帖・人肌千両』(1954年・松竹/監督:松田定次)

江戸の町を荒らしまわっている“疾風”と名乗る強盗団から、大野柳斉(三島雅夫)の屋敷に予告の矢文が入る。柳斉は奉行所に届けず、懇意の目明し・万五郎(薄田研二)と愛妾・お蘭(長谷川裕美子)の兄・伊丹重四郎(近衛十四郎)に監視を頼む。しかし、隣家の家事のドサクサに3千両が奪われ、柳斉の側室・お越が殺害される。万五郎の娘・お俊(月丘夢路)と恋仲の黒門町の伝七(高田浩吉)は、負傷した万五郎に代わって“疾風”の捜査を開始するが……

シリーズ第1作。伝七の恋人お俊(月丘夢路)に嫌らしく迫る三島雅夫が圧倒的な存在感を持っています。身の安全のためなら仲間の剣豪・近衛十四郎を騙して毒殺するふてぶてしさ、悪党の魅力満点でしたよ。澱みない展開で、見せ場もカッチリ作っており、これなら観客は満足するでしょうね。

 

『伝七捕物帖・刺青女難』(1954年・松竹/監督:岩間鶴夫)

彫物師が密室状態で殺され、伝七は軽業師が事件に絡んでいると推理し、見世物小屋を調べる。その頃、加島屋の一番番頭・清兵衛が殺され、加島屋の娘・お光(嵯峨三智子)と恋仲の番頭・伊之助(北上弥太郎)が下手人として早縄の五兵衛(山路義人)に追われる。凶器の匕首が伊之助の持ち物だったからだ。伝七の恋女房・お俊(月丘夢路)は伊之助の幼馴染で逃げ込んできた伊之助を匿うが……

シリーズ第2作。彫物師が密室状態で殺されている出だしは好調なのですが、それが簡単に軽業師の仕業とわかり、伝七(高田浩吉)が見世物小屋を調べはじめてから間延びしてきます。登場人物の思惑が色々絡んで事件を複雑にするという構造なんですが、セリフでの表現と映像での表現がうまく整理されておらず、謎解きの面白さが出ていません。事件の影に美女あり、嵯峨三智子が美麗だったので満足しましょう。

 

『伝七捕物帖・黄金弁天』(1954年・松竹/監督:福田清一)

根津権現の秋祭りで芸者のみよ春が手裏剣で殺される。みよ春の遺品の鍵が回向にきた坊主によって盗まれ、みよ春の馴染みだった山形屋も手裏剣で殺される。黒門町の伝七は、使われた手裏剣を作った刀匠の証言から、それが佐渡金山役人の大橋源五右衛門(近衛十四郎)のものであることをつきとめる。源五右衛門は半年前の金塊盗難事件の後、姿を消しており、みよ春と山形屋も佐渡に関係があったことから、金塊盗難事件が関係していると考える。そして、鍵を盗んだ坊主がよく出入りしていたという矢場を見張っていると……

シリーズ第3作。佐渡金山の金塊強奪に関連して起こった殺人事件を伝七が解決するのですが、かってに仲間割れして伝七は殆どなにもしません。それじゃ映画にならないと考えたのか、高田浩吉が強奪犯を探る浪人の二役で出演しています。歌って、いいカッコして、高田浩吉のワンマン時代劇で〜す。

 

『伝七捕物帖・女郎蜘蛛』(1955年・松竹/監督:福田清一)

恋女房のお俊を亡くした黒門町の伝七は、子分の獅子っ鼻の竹(伴淳三郎)と気晴らしのために伊豆にやってくる。火薬庫の爆発事故や火薬職人の殺害現場に居合わせた伝七は、事件に巻き込まれ、火薬庫の番人の娘・お俊(草笛光子)のために捜査を開始する。殺された火薬職人は、お俊の父の弟子で、女芸人のお千代(木暮実千代)に入れあげていたことがわかる。お千代には相馬伊織(須賀不二夫)という無頼浪人の情夫がおり……

シリーズ第4作。これまでの月丘夢路に代わって草笛光子が恋女房のお俊になりました。高田浩吉とのデュエットがあるので、歌える女優が条件だったのでしょう。

捕物映画における主人公の子分はコメディリリーフ的存在で、映画全体を明るくする役割があります。ただ、コメディ性が強くでると、全体とのバランスを欠いてシラケタものになるんですね。これまでは、バンジュンのギャグはオーバーアクトで、ひとり浮いていましが、この作品ではかなりおとなしくなってきています。

 

『伝七捕物帖・花嫁小判』(1956年・松竹/監督:福田清一)

江戸を荒らす“きつつき”と呼ばれる盗賊団一味を伝七は追い詰めるが、主犯格の大場弥十郎(近衛十四郎)、てんがいお町(浅茅しのぶ)、霞の清次(高田浩吉の二役)を逃がしてしまう。それから1年後、弥十郎は仲間を集め、盗賊団を再結成する。清次は清吉と名を変え、髪結いとして堅気の暮らしをしていた。両替商の山野屋に気に入られ、娘のおいく(伊吹友木子)と恋仲になっていたが、弥十郎は清次を仲間に引き入れようとして……

シリーズ第5作。堅気になった錠前師が昔の盗賊仲間に誘われて断るのですが、恋人が拉致されて盗みに加わるところを伝七の活躍で救われるという、捕物時代劇にはよくあるパターンです。

鍵を持ったまま金庫に閉じ込められた少女を、自慢の錠前破りで救うというのも、これまで似たような話を何度観たことか。目新しさのないストーリーをスター高田浩吉で見せるだけの映画で〜す。

 

『伝七捕物帖・髑髏狂女』(1958年・松竹/監督:福田清一)

髑髏の印のついた火矢と髑髏の覆面をした一団が石川島の牢を破り、さらに紀州大納言の行列を襲う。たまたま通り合わせた伝七が狂女を追うと、将軍家廟主・雲海(石黒達也)の五重塔近くで見失う。紀州家では藩主の娘・照姫が行方不明になっており、伝七は奉行の遠山金四郎(近衛十四郎)から秘かに探索するように命じられる。伝七が調べると、照姫は屋敷から何者かに拉致されたことがわかり、現場の状況から軽業師の仕業と推理する。江戸の町では安南曲馬団が興行しており、伝七は曲馬団に潜入する。曲馬団の花形スター・彦四郎(北上弥太郎)となみ(嵯峨三智子)は恋仲だったが、彦四郎には秘密があった。伝七は虚無僧姿の紀州藩士と座長のお真知(高峰三枝子)が密談しているのを目撃し……

シリーズ第9作。徳川紀州家の訴状によって取り潰された松浦家遺臣の復讐を伝七が解決する物語ね。姫君を拉致された紀州家が秘かに北町奉行の遠山金四郎に捜索を依頼し、金四郎の命を受けた伝七が調査に乗り出す設定は少し無理があるのですが、高峰三枝子・北上弥太郎・嵯峨三智子とスターを揃え、正月映画らしい顔見世作品になっています。

お俊役は福田公子。月丘夢路→草笛光子に続く、伝七の恋女房お俊三代目です。きりっと結んだ口元が美しく、着物が似合う美女でした。宝塚出身で、シリーズお決まりの高田浩吉とのエンディング・デュエットを聴かせてくれま〜す。

 

『伝七捕物帖・幽霊飛脚』(1959年・松竹/監督:酒井欣也)

若い娘を次々に襲う殺人鬼・幽霊飛脚から旗本・若狭家に殺人予告が届く。娘のお市(松山容子)の命を奪うというのだ。若狭家から相談を受けた牧野内膳亮(中山昭二)は剣術指南の大場接心斎(石黒達也)と北町奉行所に護衛を要請する。奉行の遠山金四郎(近衛十四郎)に命じられた黒門町の伝七(高田浩吉)は、若狭家を見張るがお市は幽霊飛脚に殺される。伝七は、殺された娘たちが将軍・徳川家斉の側室候補だったことに気づき……

松竹でのシリーズ最終作。お俊は嵯峨三智子のため、シリーズお決まりのエンディング・デュエットはありません。将軍の前で、金四郎が悪を暴くというのに、高田浩吉の下手くそな立回りばかり見せて、近衛十四郎の立回りがないとは、監督は何を考えているの。

 

 

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