橋蔵のチャンバラ映画


『緋ざくら大名』(1958年・東映/監督:加藤泰)

北条5万石の鶴姫(大川恵子)は、家老(大河内伝次郎)が決めた縁談を嫌がって屋敷を飛び出す。親戚筋の紀五郎を傀儡当主にして藩の実権を握ろうとしていた馬場三十郎(加賀邦男)は、鶴姫暗殺の追手を出すが、鶴姫は逃げ込んだ芝居小屋でサブ様と呼ばれている若侍(大川橋蔵)に助けられる。サブ様は、自分の住んでいる長屋へ鶴姫を連れて行き……

1950年代の時代劇には、親(この作品では家老)が決めた縁談が嫌で市井に逃げ出す、若君や姫様の物語がやたらとありますね。1950年代までは、親の決めた縁談に子供は逆らえないという社会的慣習が根強くあって、それに対する抵抗というか反感というものが、この手の映画の下支えになっていたような気がします。60年代になると恋愛の自由化が進み、大衆の喜ぶ題材でなくなり、陳腐化していったのでしょう。

それにしても、大川橋蔵と大川恵子は若君と姫様にピッタリだよなァ。最近の時代劇を観て感じるのは、若君と姫様にピッタリの役者がいなくなったことで〜す。

 

『江戸っ子肌』(1961年・東映/監督:マキノ雅弘)

加賀鳶の小頭・吉五郎(大川橋蔵)は、不良旗本に襲われている娘・おもん(桜町弘子)を救うが、おもんは加賀鳶とは犬猿の仲の町火消し・は組の小頭(黒川弥太郎)の妹だった。面目を失った不良旗本は吉五郎を呼び出し……

主人公に惚れている芸者(淡島千景)、ヒロインに惚れている心のひねくれた町火消し、火事場での大名火消しと町火消しの確執、仕返しを考えている不良旗本と、この手の映画のキャラクターが出揃い、定石通りに物語が展開していきます。どうってことない娯楽映画で〜す。

 

『用心棒市場』(1963年・東映/監督:小沢茂弘)

島帰りの極悪人・見附の寅五郎(田崎潤)が子分二人(多々良純、阿部九州男)を連れて戻ってきて悪業のし放題。酒造組合の千石屋十兵衛(高田浩吉)は、隣の宿場に腕の立つ渡世人・あかねの弥之吉(大川橋蔵)がいると聞き、用心棒を頼むことにする。お加代(北条きく子)とおきぬ(三島ゆり子)が隣町へ捜しに行くが、弥之吉と間違えて新吉(松方弘樹)がやってくる……

悪党がたった三人なので、ドラマ作りがまずいと退屈なモノになってしまいます。ミッキー・カーチスが気の弱い目明しを好演、それ以外は見るべきところなし。

 

『大喧嘩(おおでいり)』(1964年・東映/監督:山下耕作)

勝場一家の秀次郎(大川橋蔵)は、喧嘩相手の親分を斬り、恋仲のおかよ(十朱幸代)と別れ、旅に出る。3年後、故郷に帰ってきた秀次郎は、勝場一家の縄張りが赤岩の亀蔵(遠藤辰雄)に狙われていることを知る。一方おかよは、秀次郎の兄弟分で今は足をあらって岡っ引きになっている伊之助(穂高稔)と所帯を持っていた。勝場一家は、親分・藤蔵(加藤嘉)の兄弟分である上州屋仁右衛門(金子信雄)に応援を頼むが、仁右衛門は勝場一家と赤岩一家の共倒れを狙っており、用心棒の三鬼(丹波哲郎)を使って両家の喧嘩に火をつけようとしていた……

旅から帰ってきたら、恋人が自分の友人と婚約するくらい仲良くなっていた、というのは西部劇にありましたね。でもって、ノコノコ悪党のところへ行って殺されるんですな。西部劇と違うのは、友人に義理立てしてラストでは一人旅立っていきます。

ヤクザそのものを怨み、ヤクザ皆殺しを計画する丹波哲郎のキャラは存在感があります。橋蔵との決闘は、わかりやすい結末でした。集団チャンバラの殺陣にも工夫があり、満足のいく作品で〜す。

 

不知火小僧評判記・鳴門飛脚』(1958年・東映/監督:深田金之助)

江戸を騒がした義賊の不知火小僧の新三(大川橋蔵)が、ほとぼりを冷ますために旅に出る。そのことを知った捕物小町のお豊(花園ひろみ)も新三を追って旅へ。旅の途中で、新三は阿波屋の番頭・彦七親子と行きずりになるが、彦七は阿波藩士に殺され、彦七の娘・お夏を阿波屋へ届ける。しかし、阿波屋万右衛門(柳栄二郎)は彦七に預けていた阿波藩の借用書と藍玉売りの権利書を阿波藩に奪われたため、店がつぶれるのでお夏を預かれないと言う。新三はお夏のために借用書と権利書を阿波藩から取り返すことを約束するが……

斬られるのは、彦七を殺した阿波藩士だけという死人の出ない明朗時代劇。捕り手相手の橋蔵の立回りは、動きがスムーズで中々見せてくれます。刀を持ってのチャンバラだと力強さがないのですが、逃げながらの盗賊の殺陣は、軽さが却って幸いしていますね。

阿部九州男、加賀邦男、原健策の小悪党に、東映城の二番手姫君の花園ひろみ、雪代敬子が共演というB級作品ですが、意外と楽しめました。

 

『紅顔の密使』(1959年・東映/監督:加藤泰)

陸奥の国で悪路王(吉田義夫)が反乱を起こし、敵中で奮戦する胆沢城へ訓練中の坂上田村麻呂の軍が到着するまで持ちこたえるように朝廷は小田の武麿(大川橋蔵)を密使に出す。武麿はその土地の生まれで、城内にあるという防御に役立つ燃える水が噴出す井戸の場所を知っていた。逢坂峠の関所で、武麿は陸奥まで父を捜しに行くという狭霧(一条珠実)という娘と知り合い、夫婦を装って旅を行くが、悪路王の一味である赤鷲(田崎潤)と夜叉姫(故里やよい)に密使であることを見破られる。船中で武麿と赤鷲は格闘となり、武麿は足をすべらして海中へ転落する。赤鷲は狭霧を捕え、武麿をおびき寄せようとするが……

ジュール・ヴェルヌの『皇帝密使』を時代劇に翻案した作品です。眼を焼かれるトリックが出てきたり、密書を奪った赤鷲が偽の密使となって城に乗り込んだり、油による火責めで反乱軍をやっつけたりするところまで原作と同じです。

反乱軍の衣装が大陸系なのも原作を意識したんですかねェ。あれじゃ無国籍アクションです。だけど、ラストの戦闘シーンは当時の日本映画には珍しいダイナミックなもので、大画面の迫力を満喫できましたよ。

ところで、一条珠実という女優さん、新東宝の藤木の実じゃなかったかなァ。

 

 

 

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