ひばり時代劇


『ひばり三役 競艶雪之丞変化』(1957年新東宝/監督:渡辺邦男)

原作は三上於菟吉の大伝奇小説。非業の死を遂げた父母の復讐のために、美貌の歌舞伎の女形役者になって仇に近づき、相手の欲望を利用して、わが手を下さずに自滅へ追い込んでいく。

この作品は、ひばりのエンターテイメントの集大成といえますね。サブタイトルに“ひばり三役”とあるように、ひばりはこの映画で三役を演じます。三役自体は珍しくありませんが、ひばりは全く異なる三役をこなしているんですよ。純粋男性の闇太郎役、純粋女性役の母親役、そして本来男であるはずの女形が実は女という雪之丞役。こんなことができるのは、古今東西、彼女だけですね。

主人公が歌舞伎役者なので、当然歌舞伎の名場面は出てくるし、踊りも出てくる。主題歌もヒットしましたね。

 

『ひばり十八番 弁天小僧』(1960年東映/監督:佐々木康)

歌舞伎では、お馴染みの出し物。寺小姓だった菊之助が、盗みと殺人の嫌疑をかけられて役人に追われ、盗賊・日本駄右衛門(黒川弥太郎)の仲間となって、庶民から悪どく儲けている連中を懲らしめる痛快譚。

歌舞伎で有名な“浜松屋”の場面は、前述した『競艶雪之丞変化』の劇中劇の中でもひばりは演じており、女から男へ変化する格好の見せ場となっています。ひばりの歌舞伎演技は板についていますが、他の出演者がひどすぎますね。ひばり一人が浮いている感じです。

それと、場面展開における歌舞伎と映画の連動がうまくいっていません。そのため、途中で途切れた感じとなって映画としての盛り上がりに欠けます。ひばりは良いけど、映画としては失敗作ですね。

それにしても、ひばりの男役というのは不思議な魅力がありますねェ。同じ男役でも、宝塚の男役とは全く異質なものだし……

 

『ひばり捕物帖・唄祭り八百八町』(1953年・松竹/監督:斎藤寅次郎)

美空ひばりのアイドル映画。ラストのとってつけたような踊りのシーンは、ひばりを見せるだけのものです。

涙あり、笑いありの斎藤寅次郎の定番喜劇ですが、出演者だけが涙を流して、観ている私は全然感動しません。昔の観客は、こんな程度の低いお涙頂戴に涙したのですかねェ。

笑いの方は伴淳三郎がバツグンに可笑しいです。自分の息子を御落胤に仕立てるのですが、この息子とのやりとりのマが実に巧いんです。それにしても、あの息子のメーキャップは何だ。高勢実乗の子どもか、と思いましたよ。完全にブッ飛んでいます。

斎藤寅次郎は喜劇の神様と云われていますが、何時頃の話なんですかね。これまで面白いと思ったものがないんですよォ。

 

『鬼姫競艶録』(1956年・新東宝/監督:渡辺邦男)

将軍・吉宗と尾張城主・宗春との確執を利用して天下を覆そうとする犬山城主の陰謀を宗春の娘・綾姫(美空ひばり)と隠密(小笠原弘)が解決する娯楽時代劇。

陣出達朗の原作を関沢新一が脚色し、渡辺邦男がソツなくまとめています。

将軍の前でひばりが踊っているシーンから始まり、男装でのチャンバラ、事件が解決して将軍の前でひばりが歌ってエンドという“ひばり映画”の定型フォーマットで〜す。

音楽は万城目正で、ひばりが歌う主題歌「明日は日本晴れ」、挿入歌「尾張の馬子」には、野生に目覚めた狼さえも聞きほれる。(笑)

 

『唄祭り江戸っ子金さん捕物帖』(1955年・新東宝/監督:冬島泰三)

スリの銀次(川田晴久)が遠山の金さん(若山富三郎)に協力して、老中暗殺の陰謀を防ぐお話。美空ひばりも出演していますが、この作品のメインは川田晴久です。

ひばりは老中によって取り潰された大名の姫君。芸人一座の座長となって、復讐の機会を狙っています。芸人一座だから、当然唄を歌いますよォ。川田晴久も歌うし、銀次の恋人役の久保幸江も歌います。音楽は米山正夫。

歌が入ったために、物語の流れが止まって逆効果になっていますね。行き当たりばったりのシナリオ展開で、何だコレは!というようなラスト。

何もしない嵯峨三智子が美麗だったなァ。

 

川田晴久と若山富三郎

 

『おしどり喧嘩笠』(1957年・東宝/監督:萩原遼)

渋川の勘平一家の助っ人を最後に、堅気になって故郷に戻ろうとしていた伊四郎(鶴田浩二)は、旅籠でお才(美空ひばり)を助ける。お才はヤクザの親分の後妻という気に染まぬ縁談を嫌って木更津から逃げてきたのだ。ヤクザの子分と、お才に横恋慕した代官の手先がお才を追ってきた。伊四郎に惚れた渋川の勘平の娘・お辰(北川町子)が伊四郎を追ってきて……

場面転換のポイントでは、決まりきったように鶴田もしくはひばりの歌が流れます。二人のデュエットがないのが残念ですが。

代官の手先の山茶花究が、存在感があって巧いですねェ。ひばりを仇と狙う若侍は『変幻三日月丸』の中山大介。『変幻三日月丸』を知っている人は団塊の世代以上でしょう。渋川の勘平役の藤間林太郎って、藤田まことのお父さん……?

 

 

 

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