新東宝の女優


前田通子を知ってるかい

前田通子は、私が高校時代にずっと思い続けていた片思いの女優さん。私が彼女のことを知ったのは、5社協定で芸能界から締め出され、動く彼女の姿を見ることができなくなってからなんです。だって『女真珠王の復讐』のスチール写真で、私は彼女を知ったんですから。日本で初めて吹替えなしで全裸を見せた女優というだけで、ドキドキでしたよ。

それでも唯一テレビ映画『江戸忍法帖』で彼女を見た時は嬉しかったなあ。その時は別の意味合いで期待していたんですけどね。『江戸忍法帖』では期待するようなシーンはなし。当時のテレビでは当り前ですけどね。

彼女が芸能界から締め出された経緯と、5社協定については川本三郎の『君美わしく』(文春文庫)に詳しく語られていますので、興味ある人はそちらでどうぞ。

 

『女真珠王の復讐』(1956年/監督:志村敏男)

三信貿易の木崎(宇津井健)が社長に書類を届けて帰った夜、守衛が殺され会社の金庫から1500万円が紛失する。木崎は浅沼専務(藤田進)の海外出張に同行する恋人・夏岐(前田通子)を見送った直後、逮捕される。社長も殺されており、木崎のポケットから金庫の鍵が発見されたことから全ての嫌疑が木崎にかかる。これは浅沼専務と部下の野口(丹波哲郎)が仕掛けた罠だったのだ。

夏岐は船上で浅沼に襲われ、海に転落する。打ち上げられた南海の孤島には、遭難して漂着生活をする5人の漁師がいた。肌も露わな夏岐を見て、3人の男が襲いかかるが、人間性を失わない石塚(沢井三郎)と山内(天知茂)によって夏岐は助けられる。そして食料を探して潜った海中で、偶然に真珠の宝庫を発見する。それから2年後、外国船に助けられた夏岐は、女真珠王・ヘレン南と変名して日本へ帰ってくる。その莫大な財力で浅沼の悪事を暴いていき……

公開当時、前田通子の全裸シーン(後ろ姿だけです)が話題になった作品。全裸シーンはストリッパーの吹替えが常識であった当時にあって、女優がハダカを見せるのは破天荒なことだったんですよ。彼女の前では、宇津井健も天知茂も丹波哲郎も藤田進も刺身のツマにすぎません。

映画は大ヒットし、男性人気が高まり、新東宝のトップ女優になります。だけど、他の女優のヤッカミはひどく、「裸になるような不潔な女優と一緒の会社にはいられない」とまで言われてそうです。

演技力は素人に毛のはえた程度ですが、シュミーズを腰にまとっただけの全裸にちかい姿で波打ち際に横たわっているシーンなんか、むんむんと女っぽさが匂っており、セクシー度満点でした。藤田進にブラジャーを引きちぎられたり、3人の漁師に追われて乳房をかかえて逃げどう姿のエロチックなこと。新東宝は、前田通子とともにエロチック路線に突入していったといっても過言ではないですね。

 

『海女の戦慄』(1957年/監督:志村敏夫)

評判になった『女真珠王の復讐』の翌年に作られた作品。タイトルシーンでは、うしろ向きですが、全裸の彼女が豊満な乳房を片手でおさえて砂浜に立っています。現在ではどうってことはないのですが、当時としては衝撃的でしょうね。

ヨシ(前田通子)の妹(三ツ矢歌子)がミス海女に選ばれ、雑誌社の座談会に出席するため友人のユキ(万里昌代)と東京に行くが行方不明になり、ユキの死体が岩礁に打ち上げられる。沖合いに船を浮かべて、密かに沈没船を調べる怪しい三人連れの男が、妹の行方不明に関係していることがわかる。そして、三人の魔の手がヨシに迫る……。

港町のホテル兼酒場は無国籍アクションの世界ですね。日活アクションの先取りという感じがしました。流れ者のヒーロー・若杉英二はバタ臭くて、小林旭ほどカッコよくないですけどね。

そうそう、この映画の主題歌「海女の慕情」は前田通子が歌っているんですよ。コロムビアの「日本映画主題歌集15」に収録されています。

前田通子、若杉英二、太田博之

 

 

『女競輪王』(1956年/監督:小森白)

ガンバリ屋の主人公がレースを勝ちぬいて、日本一の女子競輪選手になるが、敗れていく選手や八百長事件に接して、女の真の幸福について目覚めていく物語。

当時、女子競輪というのがあったんですね。日本競輪協会が撮影に協力しているんですよ。そういえば、女子プロ野球もありましたねえ。女子プロレスもあったし……

女性の自立が社会的に話題になった時期なんですね。ところで女子競輪て、いつ頃までやっていたんだろう?

 

 

高倉みゆきを知ってるかい

高島忠夫と高倉みゆき

『戦雲アジアの女王』(1957年/監督:野村浩将)

東洋のマタ・ハリと云われた川島芳子を主人公にした冒険アクション。

恋人・山野少尉(高島忠夫)と引き離され、蒙古王子と政略結婚した芳子(高倉みゆき)だったが、蒙古王子が馬賊に殺され、芳子が蒙古安国軍の司令官となる。3千人の安国軍を率いる芳子は、馬賊との戦いに日夜奔走するが、敵陣偵察で馬賊の捕虜になる。敵の本部で同じように捕えられていた山野と邂逅し、二人は敵の隙をついて逃亡する。しかし、山野は馬賊と結託している特務機関の上司の陰謀により安国軍の武器輸送隊を襲い、芳子に捕えられる。山野は真相を語るべく、関東軍の本部へ護送されるが、馬賊がこれを襲い、芳子の救援も間に合わず山野は絶命する。芳子は山野を手厚く葬ると、また戦いに向けて馬を走らせるのだった。

高倉みゆきの初主演作。彼女は翌年の『天皇・皇后と日清戦争』で皇后女優として有名になるんですけど、『明治天皇と日露戦争』、『天皇・皇后と日清戦争』、『明治大帝と乃木将軍』の3本を編集して1本の映画にした『明治大帝御一代記』(1964年/監督:大蔵貢)では、彼女の出演シーンは全てカットされていました。

 

『女死刑囚の脱獄』(1960年/監督:中川信夫)

中川信夫の作品ということで期待して観ましたが、会社の方針で仕方なく撮った感じの凡作。

無実の尊属殺人を問われ、死刑を宣告された主人公(高倉みゆき)が脱獄し、婚約者だった青年と共に真犯人を捜す物語。高倉みゆきの最後の主演作。

1960年に再契約をめぐって新東宝と衝突しフリーとなったが、当時社長であった大蔵貢がこれに激怒し、“妾発言”をしたため彼女はマスコミにもみくちゃにされ、映画界から締め出されて女優生命を断たれました。

気品ある愁い顔に、芯の強さを持っているような女優さんで、もっと活躍してもらいたかったです。

それにしても大蔵貢は、とんでもねえ社長だ。現在だったらセクハラ発言で抹殺されるのは大蔵貢の方ですけどねェ。

 

『女間諜暁の挑戦』(1959年/監督:土居通芳)

特務機関の岸井(天知茂)は、河石大佐(竜崎一郎)の命令で重慶スパイ団の幹部・晃彩(三原葉子)に近づく。岸井が憲兵隊に捕まり拷問を受けたことから、晃彩は岸井を信用し、愛するようになる。岸井の連絡員・三津井雪(高倉みゆき)も岸井に惹かれていたが、岸井の心は晃彩にあった。岸井のミスから高木参謀がスパイ団に殺され……

三原葉子は、艶っぽくてグッド。高倉みゆきも硬質な美しさがあって魅力にあふれています。内容は、新東宝らしいメロドラマを絡めた戦争アクション。

主人公の天知茂の行動にマヌケなところがあるのは、無理やりピンチを作るための出来の悪い脚本のせいでしょうね。

『東支那海の女傑』(1959年・新東宝/監督:小野田嘉幹)

終戦直後の中国・厦門、海軍司令部の横山大尉(天知茂)は戦後の復興資金にするダイヤを日本に運ぶ密命を受ける。しかし、陸地はテロが横行し、海上は中国官憲の目が光っていた。横山は海賊・漢万竜と東支那海の縄張りを争っている海賊・黄李花(高倉みゆき)を利用することを考える。横山は悪名高い貿易商の成海を通じて李花と接触する。横山が提案した条件は、駆逐艦1隻を譲り渡すかわりに、その乗組員を日本本土まで送り届けろというものだった。李花は横山の条件に同意するが、中国官憲が李花に駆逐艦と日本軍人の引渡しを要求してくる。李花はこの要求を拒絶するが、李花の副官・張(御木本伸介)は横山がダイヤを運んでいることを嗅ぎつけ……

いきなりストリッパーとおぼしきダンサーによるフロアーショーから開巻するところは、やっぱり新東宝です。アクションや演技に稚拙さはあっても、ストーリー的には結構面白い海洋アクションでしたよ。

高倉みゆきのキリッとした硬質的な美貌は、この手の映画にマッチしています。最近の女優にない魅力ですね。トホホ映画ばかりの新東宝作品に目が離せないのは、発想のユニークさと女優にありま〜す

 

 

 

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