和製ホラー


虹男(1949年・大映/監督:牛腹虚彦)

摩耶家の別荘で放火殺人があり、当主・隆造の後妻の姪である由利枝(若杉嘉津子)が逮捕される。由利枝の親友・美々(暁テル子)は、恋人の明石(小林桂樹)とともに由利枝の嫌疑を晴らそうとするが……

摩耶家の人々が、「虹が、虹が……」と言って殺されるんですが、その時だけ虹の模様が現れ、カラーになるんですよ。日本の最初のカラー映画『カルメン故郷に帰る』より2年も早いことになります。当時としては、かなり野心的な試みといえるでしょうね。

原作は角田喜久雄の新聞小説で、犯人捜しよりもスリラー的要素の大きな展開となっています。全然怖くないですけどね。

 

白髪鬼(1949年・大映/監督:加戸敏)

自動車事故で死んだ男(嵐寛寿郎)が白髪鬼となって甦り、妻(霧立のぼる)と愛人の画家(大友柳太朗)に復讐しようとする物語。

アラカンは金の力で霧立のぼるを妻にしたんですが、霧立のぼるはアラカンに愛情を持っておらず、大友柳太朗を愛していたんですな。アラカンは嫉妬に狂って自動車事故を起こすのですが、同乗していた霧立のぼるは傷ひとつ負わずピンピンしています。端から脚本が破綻していま〜す。セムシ男が登場したりして不気味感を出そうとしていますが、話自体が陳腐なので如何にもなりませんね。円谷英二が特撮で参加していますが、目を見張るようなものはありません。当時の状況についてアラカンが語っていますので、少し長くなりますが引用します。

“何とゆうたかて、敗戦直後がワテの生涯の苦境やった。時代劇スターのなかでワテがいちばん出おくれた。妻さん(阪東妻三郎)は伊藤大輔監督と組んで『素浪人罷り通る』、ほてからにあの坂田三吉、『王将』を撮っていちはやくかえり咲いた。大河内はん、これは現代劇に転向して『わが青春に悔なし』、黒沢明監督で当てた。千恵さん(片岡千恵蔵)さんは『七つの顔』『三本指の男』、比佐芳武・松田定次のコンビでこれも現代劇。長谷川一夫はん、新演技座をつくってワテと同じ巡業の苦労しました。それでもワテより一足早く衣笠貞之助監督『小判鮫』、前・後編のヒットで人気をとりもどした。月形のオッサンは戦争中、『姿三四郎』から敵役に廻って安泰です。まあ右太(市川右太衛門)さんでしゃろ、チャンバラ禁止でワテと同様に泣いたんは。へえ、旗本退屈男が縞のマドロスシャツ着て、ダンスを踊ったんではサマになりまへん。『ジルバの鉄』というシャシンですねん、世にも奇妙でおました。他人のことはいえん、ワテかて変なのを撮っとる。『白髪鬼』、競馬評論家をいまやっとる加戸敏監督。これはスリラー映画や、ガウン着てまっ白けな髪で化けて出る。相手が霧立のぼる、不感症女優でおます。こっちゃ真剣に演っとるのに、ちっとも怖がらんと吹き出しよる。ワテ、世をはかなんだ。なんでこないなものを撮らなあかんのや、嵐寛寿郎アホとちゃうか!”(竹中労:著「鞍馬天狗のおじさんは」より)

 

鉄の爪(1951年・大映/監督:安達伸生)

ある夜、殺人事件が起り、殺された男の愛人・雪江の目撃によると犯人はゴリラのような人間獣だという。そして雪江が男と逢っていると、再びゴリラ男が現れ、男を殺す。警察医の山崎(二本柳寛)は、南方で戦死したと思われていた雪江の夫(岡譲二)が生きていることを知り……

ゴリラに襲われて、ゴリラの爪で負傷した個所からゴリラの血が人体に入り、それが潜在意識となってゴリラ男に変身するのですが、まるで“狼男”ですね。

普段は教会で浮浪児たちの世話をする人格者が、酒を飲むと興奮してゴリラ男に変身する“ジキル博士とハイド”だし、ゴリラ男が雪江を抱えて高層ビルに登るのは“キング・コング”で〜す。

ところで、ストリップ劇場で“透明光線”なる出し物があって、ガラスの箱に入っている女性に光線を当てると、服が一枚一枚消えていって下着姿になり、今度は……と思ったら、透明になっちゃた。(笑)

 

怪談おとし穴(1968年・大映/監督:島耕二)

資産も学歴もコネもない男(成田三樹夫)が、社長令嬢(三條魔子)に見そめられ、結婚を言い寄る恋人(渚まゆみ)を殺し、令嬢と結婚する。殺された恋人は幽霊となって男に祟る。

なんというか、やっつけ仕事で作ったような作品。ストーリーが破綻しています。渚まゆみの兄役の船越英二は何なんだ。幽霊騒ぎとの関連が全然わかりません。とってつけたようなラストには唖然としました。

成田三樹夫は幽霊に怯えるような男にゃみえません。幽霊になって化けて出てきても、何度でも殺すようなタイプだもの。だけど、クルーゾォの『情婦マノン』のラストのように、渚まゆみの死体を逆吊りに肩にかついで歩くシーンには満足、満足。

デビューしたて渥美マリ(大映最後のエロチカル・クイーン)が受付嬢役で、ホンのチョッとだけ出ていましたね。

 

蛇娘と白髪魔(1968年・大映/監督:湯浅憲明)

赤ん坊の取り違えで生き別れとなった少女・小百合が両親とめぐり合い、両親と暮すようになる。父は毒蛇の研究でアフリカへ出張。母は交通事故にあって以来、精神状態が不安定だった。そしてもう一人、屋根裏部屋には姉のタマミが……

 原作は楳図かずおの恐怖マンガ。地下の研究室には毒蛇がいっぱい。冷たく表情のない母親、醜いアザを隠すためにマスクをしている姉、家のことを取り仕切る家政婦と、不気味ムード満載ですが、口裂け少女などの直接的表現になってからはダメ。白髪魔が登場するにおよんでは、チーピーなスリラーになってしまいました。怖がらせるツボを見事に外しています。

もともと低予算のSP作品なのでしょうが、安かろう悪かろうというのは……

 

 

憲兵と幽霊(1958年・新東宝/監督:中川信夫)

波島憲兵少尉(天知茂)は、軍の機密書類を盗み、部下の田沢憲兵伍長(中山昭二)に罪をかぶせる。波島は田沢の妻・明子(久保菜穂子)に横恋慕していたのだ。田沢は、明子と母を拷問されて偽りの自白をし、呪いの言葉を叫びながら銃殺刑にされる。波島は、田沢の母を自殺に追い込み、明子を毒牙にかける。そして、中国人スパイの情婦・紅蘭(三原葉子)と通じると、明子を捨て大陸に赴任すると……

当初、“売国奴と愛国者”(売国奴と言われた者が実は愛国者で、愛国者と見られていた者が売国奴だった)というテーマで中川監督は描くつもりでしたが、大蔵貢の要請でムリヤリ怪談物にされたそうです。おまけに、お色気シーンを強調するのに万里昌代がセリフなしのダンサー役で出演しています。

不本意な作品だったでしょうが、黒バックに無数の白い十字架が並んだラストの外人墓地のシーンは中川監督らしい才気が見られます。

それにしても天知茂は色悪が似合うなァ。肩ヒモのないドレスを着た三原葉子も良いのだ。

 

 

 

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