終戦直後の西部劇


「拳銃の町」チラシ

1945年8月15日、太平洋戦争が終結します。戦後最初の洋画は12月6日に公開された『ユーコンの叫び』でした。B級専門のリパブリック社のアラスカ活劇で、戦前に輸入されたまま蔵に眠っていた旧作でしたが、映画に飢えていたファンで、連日扉が閉まらないほどの満員だったそうです。当時の東京新聞では、「甘いケーキならぬ芋餡の饅頭ぐらいの味ある」と評価しています。“芋餡の饅頭”というところに時代を感じさせますね。

 翌46年に封切られた洋画は全部で41本あり、西部劇は『拳銃の町』、『アリゾナ』、『スポイラース』の3本でした。5月に公開された『拳銃の町』が戦後最初の西部劇になります。当時の宣伝コピーによると“豪快活劇”とか“野外活劇”という表現で、西部劇という言葉はあまり使われていないんですね。西部劇が一般的になるのは、翌47年の『荒野の決闘』からのようです。

『アリゾナ』は、『ユーコンの叫び』と同じように戦前に輸入されたまま、お蔵入りになっていたものでした。 

1947年の新作西部劇は『荒野の決闘』と『西部を駆ける恋』の2本、1948年は『カナダ殺人事件』、『悪漢バスコム』、『カンサス騎兵隊』の3本といった状況で、『西部を駆ける恋』は、ニューヨークのOL(ジーン・アーサー)が休暇で西部旅行をしてカウボーイ(ジョン・ウェイン)と恋をする現代西部劇。

『カナダ殺人事件』は、カナダの森林から木材を盗む強盗団に飼主を殺された犬が、カナダ騎馬警官と一緒に犯人を捜す名犬物語。この名犬を演ったのがリンチンチンJRでした。ちなみにテレビの『名犬リンチンチン』は、リンチンチンJRの孫で〜す。

封切西部劇は寂しいものでしたが、戦前に公開された『砂塵』、『大平原』、『オクラホマ・キッド』が再上映されています。戦前にリアルタイムで観た人より、戦後のこの時期に観た人の方が多いでしょうね。

「凸凹西部の巻」チラシ

 1949年は、『拳銃街道』、『高原児』、『追跡』、『西部魂』、『黄金』、『大草原』、『拳銃無宿』、『モホークの太鼓』、『凸凹西部の巻』、『進め幌馬車』の10本。

『西部魂』(監督:フリッツ・ラング)と『モホークの太鼓』(監督:ジョン・フォード)は、カラー映画でしたが、日本ではモノクロ版で上映されました。画面が時々マッ黒になったりして、ジョン・フォードらしからぬ愚作という評判になりました。テクニカラーも白黒で見せられては、映像表現は無き等しいものでしょうね。

『追跡』(監督:ラオール・ウォルシュ)は、サイコ・ウエスタンとして評判の高い作品ですが、私は未見なのでコメントは差し控えます。

『進め幌馬車』は、歌うカウボーイのロイ・ロジャースが初お目見えした作品でしたが、日本ではロイ・ロジャースは一部の西部劇ファンにしか知られておらず、話題にはなりませんでした。シンギング・カウボーイはお子様向け西部劇で、本格的西部劇を好む日本人には受け入れられなかったのでしょうね。それと、小さな子供たちが映画を観る環境になかったこともあります。

 しかし1950年は21本もの西部劇が封切られ、子供たちまでも巻き込んだ戦後最初の西部劇ブームが到来します……

 

 

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