ミュージカル映画


『ローマで起った奇妙な出来事』(1966年/監督:リチャード・レスター)

古代ローマの奴隷が、自由を手に入れるために、主人夫婦の留守中に、その息子に取り入り、彼が恋した女性を取りもつ。しかし、彼女は娼婦でローマ軍の隊長に売約済みだった……

主要人物がオッサンばかりという、オジン・ミュージカル。だからダンスは期待できないのだ。踊りは、あるには、ありますけどね。

でもって、この作品は、ミュージカルというより、完全なスラプスティック・コメディ。

馬車(戦車)による追いかけは、戦前のサイレント・コメディと同じノリです。ブロードウェイ・ミュージカルの映画化(主役のゼロ・モステルは、舞台でも同じ役を演じている)ですけど、あの追いかけは舞台ではどのように処理したのだろう。

それと、この作品はバスター・キートンの遺作ですよ。キートンがセリフを喋っているのにはビックリしたけど、キートンならではのとぼけた味わいがありました。

 

『踊る結婚式』(1941年/監督:シドニー・ランフィールド)

タ・ヘイワースを売出すために、フレッド・アステアが相手役として招かれたコロムビア・ミュージカル。リタにとって最初のミュージカル。

アステアはリタの魅力について、次のように言っています。

「リタは総合的にカンがよく、昼食前に一連のステップを教えると、昼食後に戻ってきたときは完璧にものにしていた。さらに驚かされたのは、リタはリハーサルより本番の方がずっとよかったこと。カメラがまわり始めると、びくびくした内気な女の子から、生き生きとしてうっとりする美女に変身した」(以上、『アステア・ザ・ダンサー』から抜粋)

内容は、コーラス・ガールの美女(リタ・ヘイワース)にダイヤ入りのブレスレットを贈った舞台演出家が、そのことが妻にバレかけ、振付師(フレッド・アステア)の彼女ということにして誤魔かしたために、話が混線し、ひと騒動おこる、という他愛ない物語。

リタとアステアの踊りがあれば、物語の展開なんて、どうだっていいのです。リタの踊りはテクニックがどうのこうのでなく、若さ(当時、彼女は22歳)にあふれて躍動感があります。

アステアといえば、やっぱり巧いですねェ。特に、営倉で見せ場タップリに披露してくれたタップダンスは最高。

真珠湾攻撃のちょうど3ヶ月前に公開されており、初年兵のキャンプ生活をミュージカルで描いたのは、そういう社会的背景に対する要求があったのかもしれません。フィナーレでは、80名の男女コーラスが巨大なウエディング・ケーキの周りで踊り、正装したリタとアステアがケーキの上部で歌い踊りますが、ケーキの上部は戦車の形をしているんですよ。戦意高揚の意味があったのかもしれませんね。ちなみに、リタの歌はナン・ウィンの吹替えです。

 

『キャメロット』(1967年/監督:ジョシュア・ローガン)

キャメロットの城で王妃グエナヴィア(ヴァネッサ・レッドグレーブ)と暮らすアーサー王(リチャード・ハリス)は、平和を確かなものにするために新しい騎士制度を思い立ち、近隣の名高い騎士たちを呼びよせる。フランスのランスロット(フランコ・ネロ)も招きに応じてやってくる。ランスロットは、グエナヴィアを知り、その美しさに抑えがたい愛を感じる。グエナヴィアも馬上槍試合におけるランスロットの偉丈夫ぶりを見て、次第に心惹かれはじめる。密会がはじまり、やがてアーサー王の知ることとなるが……

ブロードウェイ・ミュージカルの映画化。舞台では、リチャード・バートン(アーサー)、ジュリー・アンドリュース(グエナヴィア)、ロバート・グーレ(ランスロット)が演じています。映画化にあたっては、中世の雰囲気を出すためにセットと衣装に金がかかっているのがわかります。CGでは味わうことのできないホンモノの魅力ですね。馬上槍試合も映画のためのオリジナル。

歴史絵巻として見た場合、満足のいく内容なのですが、ミュージカルとしては、ウ〜ン。

リチャード・ハリスもヴァネッサ・レッドグレーブも自ら歌っていますが、ミュージカルという柄じゃないんですよね。魅力的なダンス・シーンもないしねェ。ちなみにフランコ・ネロの歌はジーン・マーリナが吹き替えています。

 

『アンデルセン物語』(1952年/監督:チャールズ・ヴィダー)

靴屋のアンデルセン(ダニー・ケイ)は、子供たちを集めて話をするのが大好き。話があまりに面白いので子供たちは始業時間になっても学校に行かない。怒った校長が町長に訴え、アンデルセンは村を出てコペンハーゲンに行く。そこで、彼はバレリーナ(ジジ・ジャンメール)に恋をするが……

見所は何といってもジャンメールのバレーでしょうね。なにしろ全体の1/4がロラン・プチ振付のバレー・シーンなんですから。中でも17分間にわたる「人魚姫」が圧巻です。逆にバレー・シーンが多くなった分だけ、ダニー・ケイの持ち味が薄れ、ダニー・ケイらしさが出ていません。

ミュージカルとしてはバランスを欠いていますが、バレーに興味を持っている人には必見で〜す。

 

『青空に踊る』(1943年/監督:エドワード・H・グリフィス)

空軍パイロットのフレッド(フレッド・アステア)は、休暇中にカメラマンのジョーン(ジョーン・レスリー)と知り合い恋に落ちる。しかし、戦争中のため空軍パイロットは明日をも知れない命。ジョーンを愛している雑誌社の社長(ロバート・ベンチリー)に譲って、黙って別れようとするが……

空の勇士と女性カメラマンの恋という、いかにも第二次大戦中らしいミュージカル。

ジョーンを諦めようとバーで踊るシーンはアステアならではの見事なダンスです。ジョーン・レスリーとの踊りは2曲しかないのですが、リタ・ヘイワースより身長の釣合いがとれているので、コンビとしてバランスが良いダンスを見せてくれます。テクニックは別として、ジョーン・レスリーはアステアにとって踊りやすい相手だったと思いますよ。

他では、コメディ部分を受け持ったロバート・ベンチリーはとぼけた味わいがあって良し。蛇足ですが、アステアの戦友役で若き日のロバーロ・ライアンが出演していました。

 

 

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