ミュージカル映画


足ながおじさん(1955年/ジーン・ネグレスコ監督)

 

 私はミュージカルが好きなんです。何故好きかというと楽しいからです。現実の世界において、他人がいる前で突然歌いだしたり、ダンスをはじめたら、周囲の人は気が狂ったかと思うでしょうね。だけど誰も見ていないところでは、うれしさのあまり、歌ったり踊ったりするでしょう。少なくとも、私は何度かやりましたよ。カミさんに目撃されて、バカにされたこともありますが……

 普通は感情のおもむくままに表現したくても、理性が止めるんですね。映画という夢の世界では、何の遠慮もなく感情表現ができます。そして映画の登場人物と一緒になって楽しむことができます。

 感情を歌や踊りで表現することや、それを観て楽しむことを、日本人は昔からやっていたんですよ。歌舞伎がそうでしょう。日本人って、意外とミュージカル好きかも……

さて、『足ながおじさん』ですが、この作品を観るのは、これが3回目。

最初は学生時代のリバイバル上映。2回目がテレビの洋画劇場。これがひどかったんですよ。テレビサイズにトリミングされていたのは許せるにしても、フレッド・アステアの最初のナンバー「History of the Beat」(ドラムと踊り)がカットされていたんです。そして、レスリー・キャロンがローラン・プチの振付で踊るクライマックスの幻想バレーまでがカットされていて、私は完全に頭にきましたね。

 それで以後、テレビ放映されても観る気がしなかったんですが、今回はシネスコサイズでノーカット放映というので観る気になりました。

 いやあ、今回はこの映画の魅力を100%堪能できました。特に女子大でのダンスパーティーのシーンで、シネスコ画面一杯に使って踊るアステアとキャロンは最高。キャロンのパワーある踊りを、見事に受けきった衰えを知らぬアステアの踊りに脱帽。

 それと、「Something’s Gotta Give」でのアステアの踊りは、愛妻フィリスを亡くした直後に撮影したものでしたが、そんなことは微塵も感じさせず優雅にステップを踏んでいます。これも長年に渡って築き上げた芸の力なんでしょうね。

 

 

ファニー・ガール(1968年/ウィリアム・ワイラー監督)

1920年代のジーグフェルド・フォリーズのスターだったファニー・ブライスの伝記をミュージカル舞台化したものの映画化。この舞台でデビューしたバーブラ・ストライサンドが同じくファニー役を演じ、アカデミー主演女優賞を受賞しました。

 功成り、名をとげたファニーが楽屋で回想するところから始まり、芸能界入りの頃、賭博師ニック(オマー・シャリフ)と出会い、結婚、そして別れを語り、愛を捨ててステージに生きる決心をしたところで終わる。

 駅の構内を走り、汽車に乗り、タクシーを飛ばし、桟橋を駆け抜け、ダグボートの上で自由の女神のそばを通りすぎる時までバーブラが歌い続ける「パレードに雨を降らせないで」は、この映画の最高の見せ所ですね。

 ただ、バーブラの歌唱力は認めますけど、ダンスナンバーが少ないのでミュージカルとして物足りません。

 この映画を製作したレイ・スタークは、ファニー・ブライスの義理の息子。ホンモノのファニーには、ウィリアム・パウエルが主演した『巨星ジーグフリード』でお目にかかりました。それが、ビックリするくらいバーブラに似ていたんですよ。

 

 

ジョルスン物語(1946年/アルフレッド・E・グリーン監督)

映画の題名よりも、和田誠の名著で、「お楽しみはこれからだ」というセリフの方が有名な作品。私が観る気になったのも、このセリフが記憶にあったからです。

 自分のことより観客のために歌うのが生きがいという主人公の人生は、伝記映画用にかなり脚色されているみたいですね。実際のアル・ジョルスンは冷酷で自己中心的な人物だったとか……

 主演はラリー・パークス。ハリウッドの赤狩りにより俳優生命が絶たれた悲劇のスターです。もちろん唄は吹替えで、アル・ジョルスン自身が歌っています。

 この作品が大成功(40年代のミュージカル映画の中で、配給収益で第7位)となったので、続編『ジョルスン再び歌う』が製作されています。ホンモノのアル・ジョルスンがラリー・パークス役(劇中で『ジョルスン物語』製作のシーンがある)で出演しているそうです。

続編も観たくなったなあ。

(画像は和田誠のイラスト・ポスター)

 

 

ムーラン・ルージュ(2001年/監督:バズ・ラーマン)

19世紀末のパリの社交クラブ“ムーラン・ルージュ”を舞台に、貧しい青年作家(ユアン・マクレガー)と高級娼婦(ニコール・キッドマン)の悲恋を描いたミュージカル。

時代設定は19世紀末だが、その時代の雰囲気がまるでしません。現代感覚を持ち込むのが狙いなのかもしれないが、お話そのものが古臭い(日本でいえば『金色夜叉』とか『不如帰』の世界)のだから違和感がありますね。

それでも、ユアン・マクレガーとニコール・キッドマンは中々の熱唱を聴かせてくれ、過去のミュージカルにオマージュを捧げた新作ミュージカルとして楽しみましたよ。

ニコール・キッドマンが歌う「Diamonds Are a Girl’s Best Friend」を聴いて、マリリン・モンローの歌が聴きたくなり……

 

 

紳士は金髪がお好き(1953年/監督:ハワード・ホークス)

ジェーン・ラッセル、マリリン・モンローという二大女優によるミュージカル。

当時のランクからみるとラッセルの方が上なのですが、モンローのための作品といっていいでしょう。この作品はモンローの人気を決定づけ、モンローのキャラクター(ちょっとオツムの弱いセクシーな女)を決定づけ、当時の日本では“白痴美”という形容詞が使われるようになりましたね。

骨太のラッセルと並ぶと、モンローは華奢で、まさに“女”です。ラッセルも美人でスタイルもいいのですが、女を感じないのですよ。モンローの身代わりとなって裁判を受けるシーンのラッセルのゴツイこと。男が女装しているのかと思ったくらいです。(笑)

でもって、モンローの歌を聴いて、ニコール・キッドマンには悪いけど、色気に雲泥の差がありますね。結局、モンローの再生なんて不可能なんですよ。

 

 

シカゴ(2002年/監督:ロブ・マーシャル)

ロキシー(レニー・ゼルウィンガー)は愛人を射殺し、刑務所に入る。そこで妹を殺したショー・ダンサーのヴェルマ(キャサリン・ゼダ・ジョーンズ)と知りあう。死刑にならないためには、優秀な弁護士に頼むことだと言う刑務官ママ・モートン(クイーン・ラティファ)の薦めで、ヴェルマの弁護士・ビリー(リチャード・ギア)にロキシーは弁護を依頼するが……

ボブ・フォッシー作のブロードウェイの人気ミュージカルを映画化。監督のロブ・マーシャルは舞台でも演出しています。レニー・ゼルウィンガーとキャサリン・ゼダ・ジョーンズは歌に踊りにガンバッテいますが、全盛時のミュージカルを知っている私としては物足りなさがありますねェ。

これが『紳士は金髪がお好き』のマリリン・モンローとジェーン・ラッセルだったら、どんなにか素敵だろうと思うので〜す。踊りが、もっとセクシーで華やいだものになったでしょうね。今は音楽そのものが変わってきたから、あんな振付けしかできないのでしょうけど。

 

 

 

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