劇場公開作品


『荒野の無頼漢』(1970年/監督:アンソニー・アスコット)

1870年代のメキシコ。マキシミリアン皇帝に対抗する革命軍の将軍を救出したアレルヤ(ジョージ・ヒルトン)は、将軍から謝礼が払えないので、武器購入のための政府軍の宝石を奪うように頼まれる。この宝石をめぐって、修道女に変装したアメリカの女スパイ(アガタ・フローリ)や、ロシアの皇太子を自称する泥棒(チャールズ・サウスウッド)、武器商人などが入り乱れて宝石争奪戦を展開する。

1970年以降、マカロニウエスタンのブームは急激に衰退していきます。同時に、それまでの情念の世界を描いた内容から、コミカルな内容に作品も変化していきます。珍兵器が色々登場し、マンガ的になっていくんですね。

冒頭で、アレルヤが将軍救出に使う機関銃が、ミシンの格好をしたミシンガン。ロシアの盗賊が初登場で使うのが、バラライカに仕込んだバズーガ砲。といった具合に、完全に遊びの世界です。

主人公は、ピンチらしいピンチに陥らず、スイスイ活躍し、物足らなさを感じますが、理屈抜きで、気楽に愉しむ作品だから、これでいいでしょう。

それにしても、アガタ・フローリがチラッと見せた太腿が色っぽかったのだ。

 

『皆殺しのジャンゴ』(1969年/監督:フェルディナンド・バルディ)

金の護送中に、ルーカス(ジョージ・イーストマン)が率いる強盗団に襲われたジャンゴ(テレンス・ヒル)は、馬車に同乗していた妻を殺され、自分も負傷を負う。ジャンゴは墓を作って自分が死んだことにし、ルーカスと黒幕のデビッド(ホルスト・フランク)への復讐を誓う。5年後、絞首刑吏に身をかえたジャンゴは、デビッドによって罪に落とされた死刑囚を助けて自分の仲間にするが……

私がテレンス・ヒルの名前を覚えたのが、この作品。『続・荒野の用心棒』のフランコ・ネロによく似た男というのが第一印象でした。

しかし、今回じっくり見たら、ネロほどの暗さがなく、どこか明るい感じなんですよ。後年の『ミスター・ノーボディ』や『風来坊』のヒルを知ってしまったからなァ。

墓場から取り出した機関銃は、てっきりお馴染みのジャンゴ機関銃だったと思っていたのですが違っていました。とにかく印象のうすい作品で、細部は殆ど忘れており、唯一しっかり記憶していたのが墓場シーンだったのに……

 

『スペシャリスト』(1970年/セルジオ・コルブッチ)

10万ドルの現金強奪の濡れ衣を着せられてリンチにされた兄の怨みをはらすため、名うてのガンマンとして評判の高いハッド(ジョニー・アリディー)がブラックストーンの町へ帰ってくると……

ヨーロッパ的な風景、アメリカ人とは明らかに異なる人相の出演者。おまけにフランス語版で観たので、アメリカ西部劇ともマカロニともつかぬ異質な感じを受けました。アンジェロ・ラヴァニーノの音楽は歌謡曲調だったし、う〜ん。

ただ、悪ガキたちに銃を突きつけられた町の住人全員(男女問わず)が、お尻丸出しのスッポンポンにされるのは、“ソドムの市”的でマカロニらしかったですけどね。

シェリフのガストーネ・モスキンと山賊のマリオ・アドルフはコメディ色が強いし、作品の狙いが中途半端で、スッキリしないんですよ。コルブッチのマカロニウエスタン(メキシコ革命劇は除く)は、『殺しが静かにやって来る』で燃え尽きていますね。

 

『盲目ガンマン』(1971年/監督:フェルナンド・バルディ)

鉱夫の花嫁になるはずだった50人の女性を奪ったメキシコ山賊から、彼女たちを取りかえすために凄腕ガンマンがやってくる。このガンマンというのが盲目で、座頭市のマカロニ版ですね。

この作品の製作・脚本・主演のトニー・アンソニーは、日本を舞台にしたマカロニ『サイレント・ストレンジャー』(日本未公開)で日本に来ており、座頭市に影響を受けたことは充分に考えられます。ただ、座頭市ほどカッコよくないんだなあ。トニー・アンソニーの作品は、私は他に『暁の用心棒』と前述の『サイレント・ストレンジャー』しか観ていませんが、これは彼のキャラクターによるものでしょうね。

トニー・アンソニーは、小柄で格闘させても強くなさそうだし、拳銃も早射ちといった感じではないんですよ。実際、本作品でも女に首を絞められて殺されそうになるし、主用な武器は銃剣つきのライフルでした。他の作品ではショットガンに火縄銃でしたし、イーストウッド、ネロ、ジェンマのように抜射ちした拳銃で鮮やかに敵を倒すシーンの記憶がありません。あのステファンの方が拳銃にかけては上でしょうね。

トニー・アンソニーの特長は頭を使うこと。相手を倒すのに、いろいろ工夫をしているんですね。大雑把なマカロニ・ヒーローが多い中で、これは特筆できます。 演技面でも意外と細かい表情を見せたりして、他のマカロニ俳優と少し毛色が異なりますね。“骨折り損のくたびれもうけ”となるようなラストは、トニー・アンソニーのキャラクターにピッタシで、納得感がありました。

それと、この作品で見逃せないのは、ビートルズのリンゴ・スターが山賊の弟役で出演していることです。ビートルズのマネージャーとトニー・アンソニーが親友だったので実現したらしいのですが、それにしてもねェ。

リンゴ・スターは、『キャンディー』(『盲目ガンマン』での役名がキャンディーなのは、この作品からきているようです)で初の単独出演をし、『マジック・クリスチャン』を経て『盲目ガンマン』に出演したわけですが、彼にとって全然プラスにならなかったような気がしますねェ。

 

ガンマン無頼 地獄人別帖』(1971年/監督:ウィリアム・レッドフォード)

幼い頃インディアンに両親を殺されてインディアン・ハンターとなった主人公(レナード・マン)が、捕らえたインディアン娘を連れて町にやってくる。娘を横取りしようとする町のならず者を倒した主人公は、町の顔役である彼らのボスに腕前を見込まれて雇われるが、彼こそが両親を殺した真犯人とわかり……

復讐がテーマのオーソドックスなマカロニウエスタン。インディアンを絡めたところが、少し変わっているといえますが、予想通りに展開し、ラストも悲劇的な結末にせず、メデタシ、メデタシです。

ウィリアム・レッドフォードの演出は、説明的なセリフや、迫力のないモタモタした銃撃戦など感心できませんが、寡黙で愁いのあるレナード・マンだけは好感がもてます。

 

 

 

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