ミュージカル西部劇


『アニーよ銃をとれ』(1950年/監督:ジョージ・シドニー)

射撃の巧い田舎娘のアニー(ベティ・ハットン)が、一目惚れしたワイルド・ウエスト・ショーの人気スターのフランク(ハワード・キール)と射撃競べをして彼に勝ち、バッファロー・ビル(ルイス・カルハーン)一座の一員となる。やがて彼女はショーで一番の人気スターとなり、フランクは男の面子からビルの一座を去り、競争相手の一座に移る。ワイルド・ウエスト・ショーは欧州公演で大評判となるが、資金的にゆきづまり、競争相手と手を組むことになる。お互いに惹かれあっていたアニーとフランクは、一緒に仕事ができることを喜ぶが……

ベティ・ハットンのパンチ力ある歌声が魅力の全てというミュージカル。

エセル・マーマンがブロードウェイで大ヒットさせたミュージカルを、MGMがジュディ・ガーランドのために、70万ドルという大金を投じて映画化権を獲得したものですが、パラマウントでもベティ・ハットンで映画化を考えていました。

ガーランドは自分の歌のレコーディングを全て終えてからバスビー・バークリー監督の下に撮影に入りましたが、2ヶ月ほどで病気(ノイローゼ)のために撮影が続けられなくなりました。

DVD(右上画像)の特典画像で撮影されたガーランドのシーンを観ることができますよ。それと、すでにレコーディングされていた10曲のガーランドの歌はサントラCD(ANN−001=右下画像)で聴くことができます。

 

MGMはガーランドの代りにベティ・ギャレットも考えたようですが、最終的にはパラマウント社からハットンを借りてきます。ハットンはエセル・マーマンの舞台を見た時から、この役をぜひやりたいと言っていたそうで、ハットンの最高のミュージカル映画となりました。

5ヶ月遅れて撮影が再開されましたが、監督がバークリーからジョージ・シドニーに代り、バッファロー・ビル役がフランク・モーガンが亡くなったため、ルイス・カルハーンになりました。

ガーランドであればバークリーの演出も活きるでしょうが、ハットンの歌を活かす演出ができるかというと疑問で、監督交代は正解だったと思いますね。CDを聴いて思ったのですが、歌の巧さのガーランドより、パンチ力のハットンの方がこの作品においては適役ですよ。

「気ままな暮らし」、「ショーほど素敵な商売はない」、「素敵だとみんなが言う」等の佳い曲がある中で、私が一番好きなのは、アニーとフランクがデュエットする「あなたができることなら何でも」です。

 “あなたにできることなら、どんなことだって自分の方が上手にできる”と息まくアニーが、ラストでフランクに勝ちを譲って幸せをつかむ……日頃は亭主をバカにしても、立てるべき時には男を立てる。最近そんな女性が少なくなったなあ。

 

『カラミティ・ジェーン』(1953年/監督:デヴィッド・バトラー)

デッドウッドの町へ人気女優を招聘する羽目になったジェーン(ドリス・デイ)は、シカゴからお目当ての女優と間違えて付き人のケティ(アリン・マクレーリー)を連れてくる。ジェーンの親友ビル・ヒコック(ハワード・キール)も、ジェーンが想いを寄せている騎兵隊少尉も、ケティにゾッコンとなる。ケティと一緒に暮らしはじめて女らしくなってきたジェーンだったが、少尉のお目当てはケティ。ケティも少尉を愛していたが、ジェーンとの友情のために……

全く史実に即していないワイルド・ビル・ヒコックとカラミティ・ジェーンの恋物語。

『アニーよ銃をとれ』の大ヒットに影響を受けて作られた二番煎じのオリジナル・ミュージカルです。アカデミー主題歌賞を得た「シークレット・ラブ」のようなシットリした歌だとドリス・デイの持ち味が出るのですが、男勝りのお転婆娘のパワーが不足しているので、ベティ・ハットンと比べると、どうしても見劣りがしますね。

とはいっても、ドリス・デイのチャーミングなカラミティ・ジェーンには満足、満足ですよ。要は『アニーよ銃をとれ』と比較して見なきゃ、いいんですから。

 

『ペンチャー・ワゴン』(1969年/監督:ジョシュア・ローガン)

ゴールドラッシュの西部。金鉱探しのベン(リー・マーヴィン)は、パードナー(クリント・イーストウッド)と知りあい共同生活をはじめる。しかし、男世帯は侘しいもの。ある日、二人の妻を持っている男から、ベンがエリザベス(ジーン・セバーグ)を買い取り、三人一緒に暮らすことになる。やがて、エリザベスとパードナーの愛が深まり……

ブロードウェイで好評を博したミュージカルの映画化ですが、いろいろな資料を読むと、舞台とはかなり違った内容になっているみたいですね。だけど、西部劇ミュージカルらしい空間的スケールの拡がりが随所にみられ、それほど悪い作品ではありません。

ミュージカルとしては、ダンスシーンが殆どないのが気に入りませんけどね。マーヴィン、イーストウッド、ジーン・セバーグじゃあ、踊れといってもムリかもしれません。

 歌も上手いとはいえませんが、独特のムードを持っているので、聴くにたえます。マーヴィンが歌う「Wandrin Star(放浪の星の下に生まれて=さすらいの星)」は名曲ですよ。歌いやすいメロディでね。イーストウッドも意外と甘い歌声。ジーン・セバーグだけはアニタ・ゴードンによる吹替えです。

むさくるしいマーヴィンと、こざっぱりしたイーストウッドが、ピッタリかみあってないのと、ラストの演出のハギレが悪いので、町が崩壊していくシーンが思ったより迫力ないのが欠点かな。

 

『オクラホマ!』(1955年/監督:フレッド・ジンネマン)

カウボーイのカーリー(ゴードン・マクレー)は、農園の娘ローリー(シャーリー・ジョーンズ)と恋仲だが、会うとケンカばかり。農園の労働者ジャッド(ロッド・スタイガー)はローリーに惚れており、二人がケンカをしたのを幸いに、ローリーを強引に村祭りに誘う。ジャッドは皆の嫌われ者で、村祭りで暴力事件を起こしてクビになり……

日本で公開されたトッドAO方式による初の70ミリ映画でした。キメの細かい巨大な画面、サウンド・トラック6本による立体音響は、DVDでも感じることができました。

ロジャースとハマーステイン・コンビのブロードウェイの大ヒット・ミュージカルで、「美しい朝」を始めとしてロジャース・メロディーをたっぷり聴かせてくれます。特に、ラスト近くの結婚式のシーンで歌われる州歌となった「オクラホマ」は、画面いっぱいに盛り上げていましたね。

個々のシーンには見るべきところは多々あるのですが、全体としては平板的な演出で、20世紀初頭のオクラホマの地形そっくりなアリゾナ州ノガレスの野外ロケが全然活かされていません。ロバート・ワイズの『ウエスト・サイド物語』のように、アングルやカッティングに工夫をこらして、映画ミュージカルの面白さを演出して欲しかったです。

リアリズム派のジンネマンでは畑違いのジャンルで失敗作といえますね。

 

 

 

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