映画は映画館で(2006年)


『レジェンド・オブ・ゾロ』は、時代的には西部劇だが……(2006年2月)

『マスク・オブ・ゾロ』の続編で、監督も同じマーティン・キャンベルです。前作と違って今回はファミリー向けですね。ジョンストン・マッカレーの『快傑ゾロ』とは関係ないオリジナル作品ですが、“ゾロ”のキャラクターは、日本人なら“鞍馬天狗”を誰でも知っているように、アメリカ人なら誰でも知っており、大人が子どもと一緒に観て楽しめるようにした感じです。杉作ならぬ、ゾロの息子が活躍するというのも子供客を意識したんじゃないかなァ。

物語は、1850年の南カリフォルニア。アメリカ合衆国の州になるための住民投票が行われており、投票箱を奪った無法者マクギブンス(ニック・チンランド)からゾロ(アントニオ・バンデラス)が取り返すのですが、その時、謎の二人の男に顔を見られるんですな。ゾロの妻エレナ(キャサリン・ゼダ・ジョーンズ)は、夫に“ゾロ”の活動を辞めてもらいたいので、喧嘩ばかり。例の二人の男がエレナに近づき、突然ゾロはエレナから離婚届を受取ります。エレナはヨーロッパからきたアルマン伯爵(ルーファス・シーウェル)と親密になり、ゾロはヤキモキ。ゾロがアルマンを調べると、彼がマクギブンス使って何かを企んでいることがわかり……

1849年にゴールドラッシュがおこり、時代的には西部劇の世界のはずですが内容は西洋チャンバラです。戦いはフェンシングで、拳銃を使わないんですから。当時、パーカッション式の連発銃があったというのにね。ところが、何故かマクギブンスが当時まだなかった思われるヘンリー・ライフルを持っているんですよ。考証的には色々おかしいところが多々ありますが、一番許せないのは体制の守護神になったことですね。ゾロの価値は、庶民を虐げる権力に対して戦うことにあるのですからね。だから、正体が分からないように覆面をつけているんですよ。

不満はあっても、ゾロの愛馬トルネード(先代の愛馬から何代目になるのかな)と、ゾロの息子ホアキン(アドリアン・アロンソ)の演技に免じて是といたしましょう。それと、貴婦人とは思えない“コンチクショウ顔”でアクションしてくれるキャサリン・ゼダ・ジョーンズにも拍手したいと思いま〜す。

 

πie+1=0は『博士の愛した数式』(2006年2月)

新しく着任した数学教師(吉岡秀隆)が、自分が数学教師になった思い出を語るところから映画は始まります。彼が10歳の時(斎藤隆成)に、彼の母(深津絵里)が天才数学博士(寺尾聡)の家政婦となります。博士は交通事故の後遺症で記憶が80分しか持ちません。つまり、交通事故までの記憶はあっても、それ以後の記憶はわずか80分だけの一瞬なんですね。それで、何を喋っていいかわからないので、他人と話しはじめる時は言葉の代わりに数式を持ち出します。

「あなたの足のサイズは?」

「24です」

「4の階乗数ですね。素直な数字だ」という具合にね。

ある日、母が博士の晩御飯の支度をしている時、博士が子どものことを尋ねます。「母子家庭なので家で留守番をしている」と言うと、博士は怒り出し、「子どもを独りにしていてはいけない。明日から連れてきなさい」と言うんです。明日になったら博士は当然忘れているので、メモに書いて安全ピンで自分の服に留めます。

翌日、子どもがやってくると頭を触り、天辺が平べったいので彼をルートと呼び、数式の美しさを色々話します……

小泉堯史監督のヒューマン映画です。

全体的にサラリとしていて、これといったドラマがなく、ひたすら美しく優しい映画です。私は少し物足らなさを感じました。

博士の交通事故以前の記憶は残っているわけで、義姉(浅丘ルリ子)との不倫に対する心の傷について触れられていないのは疑問です。小川洋子の原作でもそうなっているのかなァ。

それと、この作品は一人称映画(少年の目を通して描かれる)なので、義姉が博士の手紙を読むシーンや、義姉と博士が能を見るシーンは疑問です。映画で描かれるのは少年自身と母を通して知りうる範囲でないとね。

それにしても、数学を学ぶ人には、この映画はタメになりますよ。私のような知ったかぶりをする人間にも、雑学披露用に役に立ちま〜す。

 

『ダ・ヴィンチ・コード』はフィクションだけど……(2006年6月)

ルーブル美術館で、館長ソニエールがキリスト教団体オプス・デイのシラス(ポール・ベタニー)に撃たれ、自らの身体を使ってダイイング・メッセージを残して死ぬ。彼と会う予定になっていた宗教象徴学の権威ラングトン(トム・ハンクス)はベズ警部(ジャン・レノ)に殺人現場へ呼ばれ、尋問を受ける。そこへ、暗号解読官のソフィー(オドレイ・トトゥ)が現れ、暗号となっているメッセージが彼女に宛てたものであることをラングトンにこっそり伝える。ソフィーはソニエールの孫娘で、ラングトンは彼女の手助けのために選ばれたのだった。

一方、ベズ警部はオプス・デイの信徒で、司教(アルフレッド・モリーナ)からラングトンが殺人犯であることを告げられていた。ラングトンとソフィーはベズ警部の追及をかわし、聖杯探求家の富豪ティービング(イアン・マッケラン)の屋敷に逃げ込むが……

ロン・ハワード監督は、ダン・ブラウンの原作を読んでいなくても観客に面白味が伝わるように、そつなく纏めています。暗号解読の良質のサスペンス映画といえますね。ただ、黒幕については出演スターのランクで予想がつくのが難点ですけどね。

テンプル騎士団、聖杯といったお馴染みの伝説が出てきて、宗教史・西洋史の勉強になります。敬虔なカソリック教徒が、この作品の内容に反発したそうですが、フィクションとわかっていてもキリストへの冒涜と思うでしょうね。よくできているフィクションだけに、史実との境界がわかりにくく、勉強してみる価値がありそうで〜す。

ところで、ラングトンを主人公にした続編『天使と悪魔』が計画されているそうです。宗教象徴学の教授がヒーローになるのだから、欧米人にとって宗教は生活に密接な拘わりをもっているんですねェ。

 

 

 

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