映画は映画館で(2006年)


『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』は見世物的面白さ(2006年8月)

ウィル(オーランド・ブルーム)とエリザベス(キーラ・ナイトレイ)は、結婚を目前にして海賊スパロウ(ジョニー・デップ)を逃した罪で東インド貿易会社のベケット卿(トム・ホランダー)に捕えられる。ベケット卿は、ウィルに解放する条件として、スパロウが持っている羅針盤を奪ってくるように持ちかける。一方、スパロウは、“深海の悪霊”デイヴィ・ジョーンズとの契約の期限が迫っており、ジョーンズの心臓を入れたチェストの鍵を捜し求めていた。ウィルとスパロウは人食い人種の島で再会するが……

監督は前作に続き、アトラクションの見世物的面白さで迫るゴア・ヴァービンスキー。特撮技術の進歩により、あの手この手のアクション・シーンの連続で退屈しません。

心臓を別の場所に保管して不死身の身体になるというのは『バグダッドの盗賊』にありましたし、三角決闘は『続・夕陽のガンマン』からの頂きでしょう。

このジョニー・デップ、オーランド・ブルーム、ジャック・ダヴェンボートが繰り広げる三つ巴のチャンバラは、往年の剣劇スター、エロール・フリンやバジル・ラズボーンのような体技を駆使したアクションではありませんが、特撮&編集のおかげで愉しめるものになっていましたよ。

面白ければオリジナリティーなんて気にしませんが、『スターウォーズ/帝国の逆襲』のような、続きは第三部(来年予定)でドウゾとばかりに、盛り上げて落とすというラストは気に入りませんねェ。フラストレーションが溜まりま〜す。

 

昭和天皇は『太陽』(2006年9月)

終戦直前から戦後の人間宣言までの昭和天皇の心模様を描いたロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督作品です。題材が題材だけに日本での公開が危ぶまれていた作品ですが、8月5日に銀座シネパトスで公開されるや評判を呼び、シネコンでも上映されることになりました。ちょうど昭和天皇をめぐる靖国問題や戦争責任などの話題があって、タイミング的にはよかったですね。

映画的に優れているかというと?なんですが、昭和天皇の心情を描ききったという点は特筆できます。この映画の成功は、昭和天皇を演じたイッセー尾形に全てがつきます。昭和天皇をカリカチュアすることなく、完璧に似せていますね。モノマネだとパロディになってしまうのですが、一人芝居で培った“なりきり”の世界です。これは演技とは違う別物で、イッセー尾形特有のものですね。

それと、セリフはシナリオ通りかもしれませんが、動作には、かなりアドリブがありますね。明治天皇が見た極光について質問するために科学者を部屋に招いたシーンで、彼の予想外の行動に侍従役の佐野史郎が思わず吹き出しかけたり、科学者が驚いた表情を見せるのは演技じゃないですよ。シナリオにないイッセー尾形の予想外の行動じゃなかったのかなァ。

それから、マッカサー(ロバート・ドーソン)との会談シーンでの間のとりかたの巧いこと。セリフでは表現できないものを見事に表現しています。皇后役の桃井かおりとのやりとりは、先月NHKで放送された「たった二人の人生ドラマ」と同じような台本なしの演技のような気がしました。

イッセー尾形による天皇ヒロヒトの人生ドラマで〜す。

 

キャスティングが抜群な『武士の一分』(2006年12月)

免許皆伝の剣の腕前を持つ下級藩士・三村新之丞(木村拓哉)の城での仕事は毒見役。美しい妻・加世(檀れい)や老中間・徳平(笹野高史)と平和な暮らしを送っていた。彼の夢は、早く隠居して子供たちに剣術を教えることだったが、お役目中、赤つぶ貝の毒に当り失明する。新之丞の家禄を存続するために親族会議が開かれ、加世が顔見知りの番頭(バントウでなくバンガシラ)の島田藤弥(坂東三津五郎)に口添えを頼みに行くことになる。三村の家名は存続、家禄もそのままという寛大な処置がなされるが、新之丞の姉(桃井かおり)が加世と島田が水茶屋に出入りしているという噂を知らせにくる。加世は島田に代償を求められて体を許したのだが、調べると寛大な処置は藩主自身の考えによるもので、島田は何もせずに加世の体を奪ったのだ。新之丞は剣術の稽古に励み、島田に決闘を挑む……

藤沢周平の小説を映画化した山田洋次監督の時代劇三部作の締めくくりの作品。

前二作が夫婦愛を描くとともに、政争のために藩から命令されて刀を抜かざるをえなくなった主人公の苦悩(武士社会の不条理性)が描かれていたのに対し、今回は一分(面目)のための決闘といった単純なものになっています。

ハンデを負って決闘に臨むというのは、西部劇の決闘に似たところがありますね。

評判通りキムタクは好演しているし、初めて見た檀れいも悪くないですが、何といっても脇を固めるキャスティングが抜群でしたね。老中間の笹野高史、責任をとって切腹する小林稔侍、医者の大地康雄、お喋り姉の桃井かおり、そして敵役の坂東三津五郎。この作品が成功するかどうかは、主人公よりも悪役の演技の方が重要です。表面的には上級武士としての品があって、内面に卑しさを持つ役柄ですからね。坂東三津五郎の品のある悪役は最適でした。

 

 

 

トップへ    目次へ