怪談映画


怪談蚊喰鳥(1961年・大映/監督:森一生)

蒸し暑い夏の夜、寺の墓地裏に住む常磐津の師匠・菊次(中田康子)のところへ按摩の辰の市(船越英二)が揉み治療にやってくる。菊次がウトウトした時、辰の市の姿が消えていた。翌日、辰の市の弟という徳の市(船越英二の二役)が菊次をたずね、辰の市が菊次に恋焦がれて死んだことを告げる。やがて徳の市は菊次のところへ頻繁にやってくるようになり、菊次の情夫・孝次郎(小林勝彦)は、徳の市の金を目当てに菊次をそそのかして徳の市を誘惑させる。徳の市は菊次の家に入りびたり旦那然としてきたので、孝次郎と菊次は徳の市を殺す計画をたてるが……

宇野信夫原作の文芸怪談だそうだが、怪談は理屈でなく怖ければいいのです。因果応報、正体見たり枯れ尾花といった内容で、霊魂による怖さは全然ありません。

新東宝が作ればエロチックに迫るのでしょが、中田康子は中途半端な色気に終わっています。凡作。

 

怪猫有馬御殿(1954年・大映/監督:荒井良平)

有馬候の愛妾・お滝の方(入江たか子)が、殿様の寵愛を嫉む大奥の女たちに自害を装って殺される。愛猫の玉がお滝の方の血をすすり……

入江たか子の化け猫シリーズ第2弾。

戦前はヒロインとして確固たる地位を築いていた入江たか子だけに、気品と風格は並じゃありません。それが、化け猫に転じるや、するどい眼光で相手を睨み、猫じゃらしの踊りをさせる姿には、魔性の妖艶さがあって最高です。

指を食いちぎられた腰元が鐘楼に吊るされ、見回りの仲間にニッと笑う冒頭から、お滝の方の生首がとんで、自分を殺した黒幕のおこよの方の咽喉笛に食らいつくラストまで、目が離せません。化け猫映画の傑作で〜す!

 

怪談深川情話(1952年・大映/監督:犬塚稔)

踊りの師匠・吉登世(水戸光子)は男嫌いで通っていたが、弟子のお久(長谷川裕見子)を請負師の伝次郎(進藤英太郎)から救ってくれた新吉(堀雄二)に惚れてしまう。吉登世は、伝次郎に狙われている新吉を匿い、二人は深い仲になる。しかし、新吉とお久が仲良く歩いているのを見た吉登世は嫉妬の鬼となってしまう。そんな吉登世を嫌になった新吉は別れ話を持ち出すが、その時、ふとしたはずみで吉登世は顔に醜い傷を負う。新吉は、ずっと吉登世のそばで看病していたが、お久の相談に乗るため、外に出て留守の時、吉登世に食指を動かした伝次郎がやって来る。吉登世の化け物顔を見て驚いた伝次郎は吉登世を刺し殺し……

『真景累ヶ淵』の“豊志賀”の話が元ネタですね。怪談話というより人情話で、吉登世が新吉とお久に祟る理由がありません。伝次郎を呪い殺した吉登世を、新吉とお久が懇ろに弔ってエンド。女の深情けは怖いといった程度で、内容的にはどうってことのない作品です。見所は、明治時代の雰囲気がよく出ていることですかね。

 

怪談乳房榎(1958年・新東宝/監督:加戸野五郎)

原作は三遊亭円朝の怪談噺。

絵師の美人妻(若杉嘉津子)に言い寄るために、絵師に弟子入りした色悪(松本朝夫)が、絵師を殺し、残された女房の入り婿となる。しかし、絵師の亡霊が現れて……

若杉嘉津子が実に艶っぽく、「亭主を殺しても、オレのものに」という気をおこさせますね。

乳房榎とは、赤ん坊にやる乳の出なくなった女房が、亡霊に導かれて榎の木瘤から出る乳液を飲ませるところからきています。噺家の語りでジックリ聴いた方が、情緒がありそうです。

左記画像は、若杉嘉津子の行水シーン。

 

怨霊佐倉大騒動(1956年・新東宝/監督:渡辺邦男)

中山昭二と宇治みさ子

堀田藩の城代家老・堀田玄蕃(阿部九州男)は、領主・正信(中山昭二)の江戸居住をいいことに、佐倉両総12郡の年貢米の苛酷な取立てを行っていた。正信の側室・八重(宇治みさ子)の父・儀衛門は玄蕃の命令で偽枡を作ったが、名主の宗五郎(嵐寛寿郎)に相談に行く途中で、玄蕃の部下に殺される。宗五郎は江戸へ行って正信に嘆願するが、父を殺した犯人が宗五郎と玄蕃から知らされた八重の助言で正信は逆に宗五郎を捕らえようとする。危うく難を逃れた宗五郎は、大老・酒井雅楽守に嘆願書を差出し、さらに将軍にまで直訴する。直訴は天下の御法度で、宗五郎は堀田家に捕らえられ、妻(花井蘭子)や幼い子らと刑場の露と消えた。その夜、城内で処刑の模様を聞いていた正信の前に宗五郎の亡霊が現れる。腰元から玄蕃の悪計を知らされた八重は、自分が騙されていたことを悟り、正信に悪業を告げる。玄蕃一味は全て捕らえられ、厳しい年貢の取立てはなくなった。宗五郎は百姓たちから神として祀られた……

有名な佐倉義民伝の映画化で、最後が怨霊話になるところは新東宝です。英雄の亡霊だけあって、おどろおどろしいところはなく、キリストのような崇高さがありましたよ。

それにしても、阿部九州男の悪役ぶりは板についているのですが、藩士役男優たちのセリフがヘタなのには、まいりましたねェ。

 

 

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