長谷川一夫のチャンバラ映画


『修羅城秘聞(前後編)』(1952年・大映/監督:衣笠貞之助)

丸亀藩主・若木讃岐守は悪家老・鷲塚主膳(荒木忍)によって幽閉され、江戸藩邸の若殿・新之助(長谷川一夫)は主膳の腹心・伊賀半九郎(大河内伝次郎)に毒殺されそうになる。江戸家老の神島伊織は娘・百合(沢村晶子)の危難を救ってくれた浪人・桃太郎(長谷川一夫の二役)が新之助の双子の弟であることに気づき、桃太郎に新之助の身代わりを頼む。桃太郎は国許の不正を暴くために旅立つ。半九郎の手先となっている桃太郎を恋する踊りの師匠・小鈴(轟夕起子)、同志への連絡のために国許へ向かう百合が桃太郎の後を追うが、桃太郎の行く手には半九郎の魔手が……(ここまでが前編・双竜の巻)

半九郎一味に襲われ、危ういところを修験者の一行に助けられた桃太郎は、彼らと丸亀城下に潜入することに成功する。そして、潜入に失敗して捕えられた百合を救出し、新之助として丸亀城に乗り込むが……(後編・飛雲の巻)

原作は時代劇のスタンダードとして広く知られている山手樹一郎の『桃太郎侍』です。その最初の映画化で、原作に忠実なのはいいですが、前後編にしたため全体的に冗長になりましたね。2時間くらいにまとめたらスッキリしたと思いますよ。

悪役が際立っている(大河内伝次郎の伊賀半九郎はもちろんのこと、鎖鎌を使う羅門光三郎、スケベーな奉行の殿山泰司も抜群)のに対し、桃太郎役の長谷川一夫とヒロインの二人(沢村晶子と轟夕起子)が今イチ冴えないです。長谷川一夫には桃太郎の天真爛漫さがないものなァ。

 

『月下の若武者』(1938年・東宝/監督:中川信夫)

三輪荘の豪族・由良の三郎(長谷川一夫)は、宿敵・真刈の秀熊(高堂国典)の脅迫により嫌々嫁ごうとしていた桔梗(花井蘭子)をたまたま救ったことから、二人は恋に落ちる。兄の十郎(丸山定夫)は三郎の軽挙を戒めるが、反発した三郎は桔梗と村を出て織田家に仕官する。桔梗を奪われた秀熊は怒り狂い、三輪荘を焼き討ちする。一族は村を失い、流浪の旅へ。それから数年後、三郎は信長の命により、朝廷に献上物を届けることになる。その献上物を狙って、秀熊の一党が……

中川演出は、遠景シーンなどの自然描写には見るべきところがあるのですが、全体としてラブロマンスと集団アクションがうまくリンクしておらず、中途半端な感じを受けます。表面的な長谷川一夫の悲壮美キャラと迫力不足な集団抗争シーンに終始しており、脚本をなぞっただけのやっつけ仕事のような気がしますねェ。

 

 

 

『酔いどれ二刀流』(1954年・大映/監督:森一生)

貧乏長屋で放蕩無頼の生活を送っている中山安兵衛(長谷川一夫)は、同じ長屋に住むお鶴(若尾文子)が借金のかたにヤクザの親分の妾になる苦難を救ってやりたかったが、どうすることもできなかった。そんな折、高田の馬場での叔父・菅野六郎右衛門(香川良介)と村上兄弟との果し合いに駆けつけ、卑怯な村上兄弟を討ち果たす。襷用にしごきを差し出した娘(三田登喜子)の父・堀部弥兵衛(菅井一郎)に見込まれ、娘の婿にと懇願され閉口するが、父想いの娘や家臣想いの主君(黒川弥太郎)の情にほだされ、仕度金をお鶴に渡し長屋を出て行くのだった。

走るシーンが似合わない役者というのがいまして、長谷川一夫もそんな一人ですね。それがわかっているせいか、一番盛り上がるところの高田の馬場への駆けつけシーンがアッサリしたものになっています。

長屋の娘への愛情が中心となっていて、高田の馬場での決闘はメインじゃないんですね。チャンバラ映画というより人情時代劇でした。

 

番町皿屋敷・お菊と播磨』(1954年・大映/監督:伊藤大輔)

旗本・青山播磨(長谷川一夫)は腰元のお菊(津島恵子)を愛し合っていたが、叔母(東山千栄子)より将軍家と縁続きの姫君との縁談を勧められていた。ある日、加賀藩との火事場のいざこざから播磨は謹慎を命じられる。御家取潰しを救うには、姫君との婚礼しかないと兄(田崎潤)から聞かされたお菊は、播磨の心を試すために家宝の皿を割るが……

殿様の大事な皿を割って手討ちとなった下女が幽霊となって、「いちま〜い、にま〜い……」と皿を数える怪談でなく、お菊と播磨のメロドラマになっていました。それも恋愛悲劇ね。

下手に作ると芬々ものになるのですが、伊藤大輔の格調高い演出により、どうにか見られる作品になっていま〜す。

 

『女と海賊』(1959年・大映/監督:伊藤大輔)

御崎庄五郎(長谷川一夫)は、花魁・綾衣(京マチ子)の色香に騙され、公金に手をつけて捕らえられるが、公金横領していた上司と綾衣の奸計によるものだと知り、脱獄して二人を斬り逃亡する。その後、海賊となった庄五郎は、襲撃した船の男は総て殺し、女は慰みものとして部下に与える残忍な男になっていた。捕われた豪商の娘(三田登喜子)が庄五郎を誘惑しようとするが、庄五郎はに膠もなくはねつける。ところが、捌いた盗品から足がつき、役人に追われて船に戻ると、駆落ち者の男女が潜んでいた。豪商の娘・お糸(京マチ子の二役)と手代の幸七(木村功)で、幸七はお糸を庄五郎に差し出し、自分だけ助かろうとする。お糸が綾衣と瓜二つだったことから庄五郎は……

海洋を舞台にしたピカレスク・ロマンを期待したのですが、甘っちょろいメロドラマだったのでガッカリ。ラストの処理はご都合主義で、二枚目長谷川一夫の為にむりやり話を作り替えたような気がしますね。

面白い題材でも作り方を間違えると失敗という見本で〜す。

長谷川一夫と三田登喜子

 

 

トップへ    目次へ   次ページ