長谷川一夫のチャンバラ映画


『伊那の勘太郎』(1943年・東宝/監督:滝沢英輔)

天狗党の脱出の道案内をしていた伊那の勘太郎(長谷川一夫)は、故郷の村を通ることになり、昔世話になった名主の家を訪ねる。一人娘のおしん(山田五十鈴)は、勘太郎の友である庄吉(黒川弥太郎)と所帯をもったが、大和田の重兵衛(鬼頭善一郎)から庄吉の博打の借金のかたに家屋敷を取られようとしていた。勘太郎と重兵衛は敵同士で……

録画した作品のタイトルは『伊那節仁義』でしたが、これは戦後再上映された時のものですね。

♪〜影か柳か、勘太郎さんか〜と歌う小畑実の挿入歌「勘太郎夜唄」が大ヒット(懐メロのヒット・ナンバー)して、映画は観ていなくても伊那の勘太郎の名前だけは知っていました。内容的には定石的股旅映画ですが、製作当時の時節柄、ヤクザまで勤皇精神溢れるものになっていますね。歌がヒットしなければ忘れ去られる作品で〜す。

 

 

『瞼の母』(1940年東宝/監督:近藤勝彦)

近藤勝彦監督の東宝移籍第1回作品。主演の長谷川一夫が東宝移籍第2回作品だから、長谷川一夫と一緒に松竹から移ってきたのでしょうか。松竹時代に結構この二人のコンビ作品があるんですよ。

番場の忠太郎(長谷川一夫)が滝を背景にして歩いて行くシーンは、ハッとするくらい素晴らしい映像でした。かなりの技量を持った監督だと思うのですが、戦後にはめぼしい作品がありません。戦後の東宝争議と何か関係があるのかなあ。この作品よりも、監督の経歴の方が気になりました。

長谷川一夫の情感過多の演技が鼻につき、内容は今イチ。

 

『昨日消えた男』(1940年東宝/監督:マキノ正博)

マキノ正博が、古川ロッパの病気で中止となった『家光と彦佐』の代わりに、たった9日間で撮った傑作。まさに早撮り名人の代表作といえます。

鬼勘とよばれる無情で強欲な大家・勘兵衛が何者かに殺される。長屋の住人は誰もが恨みに思っており、与力の原六之進が一同を集めて取り調べをするが……。

小国英雄がアガサ・クリスティーの『オリエント急行の殺人』をヒントに脚本を書いたミステリー時代劇。遠山の金さんが桜吹雪の彫り物を見せることなく、名推理で事件を解決します。長谷川一夫と山田五十鈴のコンビは、『影なき男』のウィリアム・パウエルとマーナ・ロイのコンビと同じ雰囲気ですね。それと、高峰秀子が可愛いんだなあ。少女時代の高峰秀子に魅力を感じます。

マキノ監督は、この映画で初めてズームを使っています。狭いセットを広く見せたり、役者の動きや場面のアクションに効果を発揮していました。時代考証も素晴らしく、江戸情緒満点。セットや小道具だけでなく、こよりを作って煙管の掃除をする山田五十鈴の何気ない動作ひとつにも江戸時代の生活を感じました。

 

『伊賀の水月』(1958年・大映/監督:渡辺邦男)

旗本に絡まれている池田藩士・渡辺靭負の娘みね(近藤美恵子)を救った荒木又右衛門(長谷川一夫)は、それが縁でみねと結ばれる。靭負は又右衛門を池田家に推挙するが、又右衛門は柳生宗冬(黒川弥太郎)の推挙で本多家に仕官することが決まっていた。それから2年後、靭負が河合又五郎(田崎潤)に殺される。又五郎が旗本・阿部四郎五郎(河津清三郎)の屋敷へ逃げ込んだことから、旗本と大名の対立が生じ……

この作品の方が先なのですが、市川右太衛門が主演した東映の『天下の伊賀越・暁の血戦』(1959年/監督:松田定次)と同じような内容なので、キャスティングが似ていました。黒川弥太郎と大友柳太朗、市川雷蔵と大川橋蔵、見明凡太郎と月形龍之介、河津清三郎と山形勲といった具合にね。

他の“荒木又右衛門”と違っていたのは、この作品では槍の桜井半兵衛が登場せず、河合又五郎が宝蔵院流の槍の遣い手となっていたこと。又右衛門が鉢巻に差して使う手裏剣が柳生十兵衛のものだったことですかね。

役の上で、渡辺数馬(鶴見丈二)より従僕の武右衛門(林成年)に大きな比重をかけていたのは、長谷川一夫の息子だからかなァ。

それにしても、長谷川一夫の二刀流の立回りは、やたらカッコをつけるので流れが止まって見ておれませんでした。長谷川一夫は剣豪スターじゃないよォ。

 

『獅子の座』(1953年・大映/監督:伊藤大輔)

宝生流十五代の宝生弥五郎(長谷川一夫)の勧進能開催は前評判が高く江戸中の話題であった。初日は将軍の上覧予定で、弥五郎は長男・石之助(津川雅彦)と連獅子を舞うことになっていた。石之助の稽古は厳格を極め、弥五郎の妻・久(田中絹代)の石之助への躾は峻烈なものであった。石之助の繊細な神経はそれに耐えかね……

芸道の厳しさと、親の子供への愛情を描いた作品。新派の大矢市次郎、伊志井寛、俳優座の東山千栄子といった舞台の重鎮が脇を固め、堀雄二、岸恵子といったフレッシュスターが彩りをそえた芸術映画?です。

どんなに厳しく躾けられても、親に強い愛情があれば、子どもはそれを感じ、独り立ちしていくんですねェ。

 

山田長政・王者の剣』(1959年・大映/監督:加戸敏)

1625年、シャムロ国に渡った山田長政(長谷川一夫)は、日本人義勇兵を率いて、シャムロに侵攻してきたビルマ軍を撃破する。長政はアユチャ王朝のソンタム王(千田是也)に厚い信任を得るが、それをよく思わないカラホーム軍務大臣が反乱を起こす。ガンボジア軍も越境してくるが、長政の活躍により反乱軍は鎮圧され、ガンボジア軍は撤退する。ソンタム王の縁者にあたるナリーニ姫(中田康子)と結ばれた長政は、親衛隊長として王の信頼を受けるが、王が亡くなると……

タイのアスピン・ピクチャーの協力のもとに、大々的に現地ロケした大作時代劇。出演者も他に若尾文子、市川雷蔵、根上淳といったスターが顔を揃えていますが、それで面白いかというと、ウ〜ン。

山田長政が完全無欠の二枚目英雄として描かれており、人間味がないんですよね。長谷川一夫主演だから、聖人君子にしたのでしょうけど……

 

 

 

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