現代西部劇


『マンハッタン無宿』(1968年/監督:ドン・シーゲル)

指名手配の凶悪犯リーガンがニューヨークで逮捕され、アリゾナ州の保安官補クーガン(クリント・イーストウッド)がニューヨークへやってくる。市警のマクロイ警部(リー・J・コップ)は、護送手続きが済んでいないと言って引き渡してくれない。クーガンはリーガンを強引に連れ出すが、拳銃を奪われ、リーガンに逃げられてしまう。クーガンは一人でリーガンの追跡を開始するが……

アイリシュ丸出しのコッブ警部がイーストウッドを田舎者扱いにして、何度もテキサスと呼ぶシーンが面白かったですね。都会の人間にとって西部はアリゾナもテキサスも一緒ということを強調しているのですが、アメリカではアイリシュも低層階級で田舎者と同じなんですよ。国民意識やカルチャー・ギャップからく可笑し味が随所に見られ、単純な物語に厚みを加えています。

ラストの追跡は、馬をオートバイに代えただけのモロ西部劇。

それにしても、リーガンの情婦役のティシャ・スターリングはロリータ的色気があって良かったで〜す。

 

『カウボーイ・ウェイ』(1994年/監督:グレッグ・チャンピオン)

キューバから亡命してきた娘のテレサ(キャラ・ブオノ)を迎えに行って行方不明となった親友のナッチョを捜しに、ソニー(キーファ・サザーランド)とペッパー(ウッディ・ハレルソン)がニューメキシコからニューヨークへやってくる。ナッチョは人身売買組織のスターク(ディラン・マクダーモット)に殺されており、テレサもスタークに拉致されていた。慣れないニューヨークの町で、二人はテレサを捜すが……

“荒野のヒーロー、N.Y.へ行く”と副題にあるように、生まれて初めてニューヨークにやって来たニューメキシコのロデオ・カウボーイが、人身売買組織と戦うコメディ・アクションで、西部と都会のカルチャー・ギャップから発生するトラブルが基本味になっています。

題名通り西部男の意地を描いており、キーファ・サザーランドとウッディ・ハレルソンが良い味を出していますよ。馬で追跡して地下鉄に跳び乗ったり、投げ縄で悪党をやっつけたりと、西部劇らしい小気味よい内容で嬉しくなりました。

 

『地獄の天使』(1967年/監督:T・C・フランク)

西部の田舎町をバイクで通りかかったビッキー(エリザベス・ジェームス)は、ダニー(ジェレミー・スレート)をリーダーとするバイクに乗った無法集団ヘルズ・エンゼルに襲われる。ビッキーは必死で逃げたが、町の住民は事なかれ主義で見て見ぬふりをする。傷ついたビッキーは病院に収容され、彼らの行為を訴える。町の娘の中にも彼らに暴行された者がいたが、彼らを恐れて口を閉ざしていた。ビッキーが病院から拉致されそうになった時、彼らと一人で戦っていたビリー・ジャック(トム・ローリン)がビッキーを救うが……

流れ者が町を支配する悪と戦う物語で、馬をオートバイに置き換えただけで、構造は西部劇です。

当時、アメリカの社会問題として賑わしていた暴走族(ヘルズ・エンゼル)を扱った作品で、公開時はキワモノ作品(脚本・主演女優のエリザベス・ジェームズの実話)的扱いでしたが、現在の視点で見るとハリウッドの定型化した映画文法を破壊し、映画本来のなまなましいリアリズムを打ち出したアメリカン・ニューシネマ映画といえます。

製作費40万ドル、オール・ロケという低予算映画で、素人に近い俳優による演技は安っぽい感じを受けますが、逆にそれが野性味あふれた独特の作品になっているんですね。

しかし、何といっても『地獄の天使』の面白さは、トム・ローリン扮するビリー・ジャックのカッコよさにつきます。関わりを恐れて連帯しない市民や、事なかれ主義の警察に代って、インディアンと白人の混血であるビリーが、ただ一人ヘルズ・エンゼルに立ち向かうんです。彼らのボスの眉間をブチ抜くハードなラストは一見の価値がありますよ。ちなみに、監督のT・C・フランクはトム・ローリンです。

ところで、乱暴された娘の母親役でジェーン・ラッセルが出演しているのですが、中年のケバいオバハンになっていてビックリ。往年の彼女を知っている私としては、わびしい気持ちになりました。それだけが、残念!

 

『出逢い』(1979年/監督:シドニー・ポラック)

ロデオの世界チャンピオンだったサニー・スチール(ロバート・レッドフォード)は、豆電球つきのカウボーイ衣装(原題の“The Electric Horseman”ね)を着て、テレビや看板やポスターで全米に知られるCMスターだった。しかし、そんな生活に嫌気がさし、毎日酒浸りの日々を過ごし、仕事においても失敗が増えていた。大企業の会長ハント(ジョン・サクソン)がラスベガスで催す大イベントの記者会見で、酔いつぶれて遅刻したサニーに対して女性記者のハリー(ジェーン・フォンダ)が鋭い質問を浴びせる。怒りを覚えたサニーは、CM用に麻薬づけにされた名馬ライジングスターに乗ってラスベガスから消える。サニーはライジングスターを野生に戻そうと考えたのだ。それはサニー自身も昔の自分に帰ることだった。ハリーは取材のためにサニーを追うが……

『出逢い』とは、単純だけど良い邦題だと思いますよ。男と女、人と馬の二つの出逢いと心の交流がこの映画の全てですからね。原題の“The Electric Horseman”をそのままカタカナにしたら何のことやら全然わからないでしょう。SFアクション映画だと思ったりしてね。

題名のつけ方も良かったけど、映画の方も後味の爽やかな気持ちの良い内容となっています。馬に乗った主人公が、人馬一体となって、追ってきたパトカーや白バイを翻弄するシーンは嬉しくなりましたね。現代西部劇の佳作で〜す。

 

 

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