現代西部劇


『続・テキサス決死隊』(1940年/監督:ジェームズ・ホーガン)

テキサス大牧場で大量の牛が盗まれ、テキサスレンジャーが捜査を開始する。牧場内部に犯人の一味がいるとにらんだレンジャーズの隊長は潜入捜査官を派遣する……

題名に“続”がついていますが、1936年の名作西部劇『テキサス決死隊』(キング・ヴィダー監督)とは何の関係もありません。ビデオの解説にもそのことが書いてありますが、未公開作品なのに、この邦題は問題です。ジュネス企画は、昔の名作西部劇を発売してくれるので嬉しいのですが、こんなやり方はパスして欲しかったですねェ。

内容はというと、1940年のテキサスが舞台ですから現代西部劇になります。製作当時としてはリアルタイムの世界ですが、2002年の現在からみると、懐かしの西部劇の世界ですね。

主人公の潜入捜査官と、東部から帰ってきた牧場の娘が、互いに一目で好きになり、ケンカをしながら恋仲になるというありきたりのパターンで、どうってことのない平凡な作品です。それでも、サグワーロ・サボテンをはじめとする西部の景色はマカロニには見られないもので、本場の良さを感じました。

主演のジョン・ハワードもそうですが、悪役のアンソニー・クインも同じようにコールマン髭(ロナルド・コールマンの髭、クラーク・ゲーブルやエロール・フリンも同じような髭をしていた)をしており、当時の流行のようですね。最近、あんな髭をした男優を見なくなりましたねェ。

 

『アイアン・カウボーイ』(1968年/監督:アラン・スミシー)

ユタ州モアブに西部劇の撮影隊がやってくる。小さな牧場を営むロブ(バート・レイノズ)は、アルバイトとして俳優・スタッフの送迎用の運転手として撮影隊に雇われる。彼が送迎するスタッフの一人にフィルム編集助手のジーン(バーバラ・ローデン)がいた。二人は惹かれあい、愛しあうようになる。ジーンにはロスに恋人がおり、撮影が終わるとロスへ帰っていった……

テレビ放映時のタイトルは『夏の日にさようなら』で、西部劇というよりラブ・ロマンスです。メリハリのないシーンがダラダラ続き、ドラマとしては見るべきところがないのですが、ユタ州南東部の風景が素晴しいです。それと、撮影している西部劇が『血と怒りの河』(メーキング・フィルムの流用か?)で、撮影隊の様子や記憶に残っているシーンが随所で見られたことが嬉しかったですね。

バート・レイノルズとバーバラ・ローデン

 

『ハッド』(1962年/監督:マーティン・リット)

どこまでも地平線が続くテキサスの平原。この広大な土地で牧場を営むバーノン一家。

厳格な祖父(メルヴィン・ダグラス)に育てられた17歳のロン(ブランドン・デ・ワイルド)は、酒のみで、荒っぽく、女性に対して行動的な叔父のハッド(ポール・ニューマン)に密かな憧れを抱いていた。しかし、祖父はハッドを嫌っており、牧場の牛が口蹄病に罹ったことから、その処理を巡って二人の溝はさらに深くなる。

祖父を隠居させ、牧場の実権を握ろうとするハッドの行為に疑問を持ったロンは、そのことを祖父に告げる。祖父は腹に収めていたことをハッドにブチまける。

15年前の酔っ払い運転で同乗していた兄(ロンの父)を死なせたことがハッドを憎む原因だと思っていたのに、それ以前からハッドの性格が嫌いだったことを知らされ、ハッドはショックを受ける。したたか酔っ払い、ハッドは自分に好意を持ってくれている家政婦のアルマ(パトリシア・ニール)の寝室を襲い乱暴を働くが、駆けつけたロンに止められる。アルマはバーノン家を去り、祖父は防疫処理で全ての牛を失ったショックから落馬事故で死亡し、ロンも自分の生き方を見つけるために旅立つ。何も残っていない牧場にハッドは、ただ一人……

ブランドン・デ・ワイルド

自分に忠実であることが成功や勝利を約束するはずの西部劇の概念が、この作品では逆に敗北を強調しています。これは1960年代以降の西部劇に出てきた新しい流れで、マーティン・リットは現代の西部を舞台に、西部劇におけるヒロイズムの概念を壊そうとしていますね。完全に壊したリットの西部劇に、後年『太陽の中の対決』がありますが、これはその先駆けといってもいいかもしれません。

この作品はロンが町にハッドを捜しにくるところから始まり、ロンが牧場を出て行くところで終わります。作品全体がロンの目を通して描かれており、ジョーイ少年の目を通して描かれた『シェーン』と同じなんですね。演じているのがブランドン・デ・ワイルドというのも何かの因縁かもしれません。

ロンは、最初ハッドを理想のカウボーイとして崇拝していますが、祖父との対立を通してハッドの性格的欠陥を見抜くまでに成長していきます。ハッドは古い西部の伝統に背を向けているんですが、大人として成長していないんですよ。

石油には見向きもせず、ロングホーンの育成に情熱を燃やしている祖父が死に、古い西部の世界が幕を閉じた時、ロンも新しい世界を求めて旅立ちます。

蛇足ですが、パトリシア・ニールがこの作品でアカデミー主演女優賞を受賞しています。人生には疲れているが、誇りだけは捨てていない芯の強い女性を演じていました。まるで実生活もそうであるように……

 

『日本人の勲章』(1955年/監督:ジョン・スタージェス)

西部の小さな田舎町ブラック・ロックに左手のない男(スペンサー・トレーシー)がやって来る。ある日本人を訪ねてきたのだが、町の住人たちは敵意と警戒の目を男にむける。その日本人の家は焼かれて廃墟となっており、男は日本人が殺されたことに気づき……

 派手なアクション(トレーシーがアーネスト・ボーグナインを空手で倒すシーンがあるだけ)や射合い(ラストでローバート・ライアンがトレーシーを銃撃するシーンがあるだけ)はありませんが、ミラード・カウフマンの脚本が良いのと、ジョン・スタージェスの歯切れの良い演出とが相俟ってサスペンス満点の緊張感あふれる作品となっています。

列車が西部の荒野を疾走するシーンに始まって、スペンサーが列車に乗って立ち去るラストまで、シネマスコープの広い画面を巧く使った映像感覚は、流石ジョン・スタージェスで〜す。

 

『黄金』(1948年/監督:ジョン・ヒューストン)

主人公は、メキシコの町で食い詰めた生活を送っているドッブス(ハンフリー・ボガート)という中年男。彼は同国の白人旅行者(これがジョン・ヒューストンなんです)に小遣銭をもらって、どうにか日を送っている。カーティン(ティム・ホルト)という若い男と、コーミック(バートン・マクレーン)という請負師に雇われて仕事をするが賃金を持ち逃げされる。しかし、町で偶然コーミックを見つけた二人は、酒場でコーミックをブチのめし、金を取り戻す。なりふり構わずといったボガートの格闘にはカッコ良さはありませんが、執念が感じられリアルな迫力を生んでいます。

二人は取り戻した金を元手に、木賃宿で知り合った金鉱掘りのハワード老人(ウォルター・ヒューストン)を加えて、シェラネバダの山中へ金鉱探しに行きます。そして運よく砂金を発見するんですな。ここからハンフリー・ボガートの演技が光ってきます。猜疑心の強い汚い性格を、見事なまでに表現しています。

町へ買出しに行ったカーティンの後をつけたコディ(ブルース・ベネット)というテキサス男が仲間に加わりたいと言って現れ、山賊がやってくることを三人に知らせる。四人は山賊を待ち伏せして撃退するが、コディは山賊に射たれて死んでしまう。コディのポケットには妻子からの手紙があり、カーティンはコディに同情するが、ドッブスは厄介者が消えてくれて安堵する。ティム・ホルトの善良で素直な性格に対して、ボガートの嫌らしい性格が際立って存在感を持ってきます。

金を取りつくした三人は、砂金の袋を持って山を降りる。途中でハワードは溺死寸前のメキシコ少年を救い、その部落にひきとめられる。二人はハワードの砂金を預かって先に行くが、ドッブスがカーティンを射って独り占めにする。メキシコ人に助けられたカーティンは、ハワードとドッブスを追うが、ドッブスは山賊に殺されていた。ティム・ホルトとウォルター・ヒューストンが自然体で演技しているのに対し、ボガートはクセのある演技で、それが逆にドラマとしての厚みを持たしていますね。

荒地での男たちの欲望をむき出しにした争いは、まさに西部劇です。ロバを売った金を持って、死んだテキサス男の家族のところへティム・ホルトが旅立つラストは、ヒューストンのドライな演出の中にあって、西部劇の情感が溢れていま〜す。

 

 

トップへ    シネマ館へ    目次へ  次ページ