現代西部劇


古きカウボーイ時代の自然がそのまま残っている土地があります。そして、古きカウボーイ時代の精神を現代にまで受け継いでいる人たちがいます。

そういう自然と人物が出てくれば、映画の出来の良し悪しは別にして、私にとってはリッパな西部劇なんです。

 

カウガール・ブルース(1994年/監督:ガス・ヴァン・サント)

ジャンルからみると、カウンター・カルチャー映画でしょうね。奇形コンプレックス(主人公の巨大な親指)、ゲイ(生理用品会社のオーナー)、フリーセックス(ニューヨーカーたちのパーティー)、ドラッグ(シロヅルの餌)、レスビアン(主人公とカウガールのリーダー)、男性社会から独立した自由な女性(カウガールたち)といった既存カルチャーでは否定的な行為を肯定していますからね。

だけど、デュード・ランチで働くカウガールたちが登場するので拡大解釈して西部劇。鞭の名手のロレイン・ブラッコや、カウガールのリーダーのレイン・フェニックス、それにユマ・サーマンのカウガール・ファッションはきまっていましたからね。

内容的には、ヒッピー映画に興味を持っている人にはお薦めで〜す。

 

モンタナの風に抱かれて(1998年/監督:ロバート・レッドフォード)

モンタナで牧場を営むトム・ブッカー(ロバート・レッドフォード)のところへ、アニー・マクリーン(クリスティン・スコット・トーマス)とグレース(スカーレット・ヨハンソン)の母娘が事故で片足をなくした馬・ピルグラムを連れてくる。トムはホース・ウィスパラー(馬の精神科医)で、事故以来人間に敵意を持つようになったピルグラムの治療を行う。そしてピルグラムの治療と共に、母親を嫌って心を閉ざしているグレースの治療も……

この作品は、『旅情』や『終着駅』に似た感じの古いタイプのラブロマンスに、動物(馬)と子供を絡めたアマ〜イお話です。善人ばかりで悪人は登場しません。

ロバート・レッドフォードは何のてらいもなく、最近の映画には珍しいくらいオーソドックスな方法で演出していますね。むりやりドラマチックなシーンを撮ろうとするのでなく、自然の流れにまかせたスタイルがかえって新鮮でした。モンタナの自然や牧場生活が、レッドフォードの演出と相俟って魅力的に描かれており、満足、満足。

馬の精神科医がいるなんて、流石カウボーイの国アメリカですね。

 

カムズ・ア・ホースマン(1978年/監督:アラン・J・パクラ)

第ニ次世界大戦が終わりかけている頃のテキサスが舞台の現代西部劇。

牧場を始めるために牛を連れて野営していたジェームズ・カーンが、いきなり相棒を射ち殺され自分も負傷するが、襲ってきた男をナイフで倒す。カーンは老カウボーイ(リチャード・ファンズワース)に助けられ、彼が働いている牧場の女主人ジェーン・フォンダの世話になる。彼女の土地は、石油採掘のために土地を狙うジェースン・ロバーツの目標となっており、カーンを襲ったのもロバーツの手下だった。彼女は銀行に借金があり、それを返すことができないと、銀行と手を結んでいるロバーツに牧場を取られてしまう。フォンダとカーンは協力しあって牛を育て、その販売代金で借金を返す。ロバーツは最後の手段として、フォンダとカーンを家に閉じ込め火を放つが、二人は辛くも脱出。襲ってきたロバーツと、その一味を逆に射ち殺してエンド。

カーン、フォンダ、ファンズワース、ロバーツと西部劇の似合う役者が揃っているので、安心して観ていられます。特に化粧気のないジェーン・フォンダが時折見せる何気ない表情(口をヘの字にしっかりと結んだ顔)が、父親のヘンリー・フォンダが西部劇で見せた表情にソックリでビックリしました。

物語は大自然にマッチして、ゆったりしたテンポで展開します。それを退屈と感じる人がいるかもしれませんが、西部劇にノスタルジーを感じる私にとっては癒しになります。

ただ、現代西部劇でなく、オーソドックスな西部劇で作ってもいいような内容で、その点が不満に残りました。

 

傷だらけのカーボーイ(1994年/監督:ロッド・ホルコム)

原題を直訳すると“囚人カーボーイ”なんですね。刑務所に牧場があって、囚人たちがその牧場で働いているんですよ。

主人公は殺人罪で無期懲役の刑に服している元ロデオ・チャンピオン。最近悪役ばかりのジョン・ボイドが、『真夜中のカーボーイ』の時のようないい味を出しています。

囚人でありながら、刑務所内で麻薬取引をしている悪党に対して、弟子のような若者を守るためにジョン・ボイドが戦う物語。

西部男のロマンが全面に漂っており、これはリッパな西部劇です。

ところで、三州対抗刑務所ロデオ大会が出てきたりして、モンタナにはこのような刑務所があるのだろうか。

※画像は、『真夜中のカーボーイ』の頃のジョン・ボイド

 

すべての美しい馬(2000年/監督:ビリー・ボブ・ソーントン)

マット・デイモンとペネロペ・クルス

1949年のテキサス、カウボーイの夢が捨てきれないジョン(マット・デイモン)は、祖父が残した牧場を母が売り払ったので友人のレイシー(ヘンリー・トーマス)とメキシコへ行く。二人はメキシコの大牧場に雇われ、遊びにきていた大牧場主の姪・アルハンドラ(ペネロペ・クルス)とジョンは愛し合うようになる。しかし、二人の関係を反対する大伯母がアルハンドラを家に帰す。ジョンとレイシーは警察に呼ばれ、馬泥棒の嫌疑で刑務所に入れられる。メキシコへの旅の途中で知りあった少年が、人を殺して馬を盗んだので仲間とみなされたのだ。刑務所は地獄のようなところだったが、アルハンドラの尽力で二人は釈放され……

『アラモ』(2004年)でデイヴィ・クロケットを演じた個性派俳優・ビリー・ボブ・ソーントンの監督作品。いろいろなことを盛り込みすぎたため、少し散漫な演出となっていますが、自然の描写は西部劇らしさが出ています。マット・デイモンに西部男のイメージはありませんが、悩める青年だから仕方ないでしょう。

『ハイロー・カントリー』では、インディアンとの混血のカントリー娘を演じて垢抜けたところのなかったペネロペ・クルスが、この作品ではメキシコの上流階級の娘として魅力を発散しています。唇が厚く、私好みの女優ではありませんが、この作品では美麗ですよ。

 

 

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