リメイク時代劇


秘剣破り(1969年・大映/監督:池広一夫)

市川雷蔵の『薄桜記』(1959年/監督:森一生)のリメイク作品です。

池広一夫はソツなくまとめていましたが、役者の違いは如何ともしがたいです。雷蔵、カツシンが松方弘樹と本郷功次郎ですからね。雷蔵の悲壮美は、雷蔵の身体から滲み出る美しさによって醸しだされるもので、代役は存在しないんですよ。

松方弘樹は東映から大映に招かれて、雷蔵の持ち役だった眠狂四郎や若親分を撮っていますが、キャラクター的には失敗だと思いますね。後の“仁義なき戦い”シリーズでは、私は松方弘樹を巧いと思いましたけどね。

どんどん斜陽化していく中で、市川雷蔵というドル箱スターを失った大映の最後の悪あがきが、松方弘樹の雷蔵代役でしたねェ。

 

 

国士無双(1986年/監督:保坂延彦)

1932年に製作された伊丹万作の傑作時代劇のリメイクです。食い詰めた浪人二人(火野正平と岡本信人)が、将軍家指南役の伊勢伊勢守(フランキー堺)の行列を見て、ニセの伊勢守(中井貴一)を仕立て、旅籠で豪遊してツケを本物にまわすんですな。自分を利用する二人と別れたニセ伊勢守(本人はこの名前が気に入り、ニセ物と考えていない)は、道場破りの浪人(中村嘉津男)と知り合い、道場破りをするんですが、名前に怖気ついた相手はお金でかたをつけます。

雲助に襲われている伊勢守の娘・八重(原田美枝子)を救い、八重に惹かれたニセ物は本物と対面し、怒った本物と立会いますが、何となく勝ってしまいます。恥じた本物は修行に出かけ、その間、ニセ物は身投げの娘・お初(原日出子)を救ったり、ヤクザの女親分(江波杏子)の助っ人をしたりして、女性たちに慕われます。仙人(笠智衆)のもとで修行していた本物は仙人を破り、自信を持ってニセ物の再び対戦。結果は前と同じで、ニセ物と八重は固く結ばれてエンドね。

題名は当時マージャンが流行しており、滅多に起こらない出来事という意味合いで、伊丹万作が付けたとのこと。当時として革新的で、時代風刺したナンセンスにより、万作の才気あふれたコメディ時代劇と評価されています。

オリジナルは観ていないのですが、オリジナルを忠実に再現しようとしている気はしますね。ゆったりしたテンポやセリフ(オリジナルは無声なので字幕を利用か?)は、戦前のものです。ただ、そのままリメイクしても面白いものにはなりませんね。巧い役者が揃っていたので、それなり笑えましたが、時代とマッチした演出が必要で〜す。

 

江戸遊民伝(1959年・松竹/監督:萩原遼)

『河内山宗俊』(1936年/監督:山中貞雄)のリメイクでした。市井無頼の徒の河内山宗俊(近衛十四郎)と金子市之丞(宇野重吉)が、不良の弟(松本錦四郎)を気遣い、けなげに生きる町娘(青山京子)のために身命を投げ出して戦う叙情的時代劇なんですが、オリジナルと比べると叙情性が今イチですね。原節子と青山京子に差があることと、カメラアングルの違いからきていると思います。

ラストで姉の身請け金を持たせた弟を逃すために、森田屋清蔵(沢村国太郎)の子分たちとの大立回りとなりますが、これは主演の近衛十四郎のチャンバラを見せるための演出ね。オリジナルでは、宗俊は材木で通路を塞ぎ身体を盾にして死んでいくのですが、この作品ではバッタバッタと斬り倒し、森田屋一家を皆殺しね。結局死なずに、松江候から金を騙し取った悪事で、捕り方に囲まれて御用となるのです。

山中貞雄は、『百萬両の壺』で従来の丹下左膳のイメージをぶち壊し、『河内山宗俊』でも従来の天保六歌撰のイメージをぶち壊したのですが、強い宗俊では従来のピカレスクヒーローと同じです。革新から保守に戻っちゃった。

 

『椿三十郎』(2007年・東宝/監督:森田芳光)

上役の汚職を粛正しようとする若侍たちに浪人・椿三十郎が力を貸して御家の一大事を解決するという娯楽時代劇です。原作は山本周五郎の「日々平安」ですが、脚本・演出・演技において完璧な娯楽映画だった『椿三十郎』を、そのままリメイクするときいて予想はしていたのですが、予想通りでしたね。オヤジ世代は、お金を払って劇場で観る映画じゃないですよ。この映画を観た若い世代が黒澤明のオリジナルを観て、黒澤明の娯楽性に気づけば、それなりに価値はあるでしょうけどね。芸術性が持ち込んでから黒澤映画はつまらなくなりましたからねェ。

それにしても織田祐二の三十郎は、もうじき四十郎には見えませんでした。実年齢は近いのに、何故か軽いんですよ。三船と比較するのは可哀そうだけど……

 

 

『隠し砦の三悪人・THE LAST PRINCESS(2008年・東宝/監督:樋口真嗣)

黒澤明の傑作時代劇のリメイクね。前作の主人公(三船敏郎)だった真壁六郎太(阿部寛)に代わって、『スターウォーズ』のロボットコンビに影響を与えた狂言回し的な二人の百姓の一人が今回の主人公(松本潤)になっていました。

前作をそのまんまリメイクした織田裕二の『椿三十郎』より賢明な対応だと思いますね。三船敏郎や藤原釜足・千秋実のような役者は、現在にはいませんからね。雪姫も長澤まさみより上原美佐の方が私好みだしね。

だけど、前作とは別の映画(松本−長澤の青春アクション)として観れば、それなりに楽しめる内容になっていました。ところで、敵方の大将(椎名桔平)の鎧兜がダースヴェーダーのスタイルだったのは、前作への迂回オマージュかな。

 

 

 

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