新東宝の時代劇


『復讐秘文字峠(前後編)』(1959年/監督:山田達雄)

剣の修行中に故郷に立寄った伴大次郎(嵐寛寿郎)は、藩主・祖父江出羽守(坂東好太郎)に両親を殺され、妹・小信(若杉嘉津子)を連れさられたことを知らされる。出羽守の暴政により困窮していた農民は一揆を起こし、大次郎は江上佐吉(明智十三郎)、有森利七(江見俊太郎)と共に出羽守の屋敷に斬りこむ。しかし、出羽守の力の前に目的を果たせず、大次郎が剣、佐吉が金、利七が色でもって復讐することを誓う。3年後、江戸に戻った大次郎は、出羽守の配下から法外道場の娘・千浪(池内淳子)を救い、出羽守に一泡ふかせる。佐吉は商人となって出羽守の一味に近づき、利七は出羽守の側室・お雪の方(北沢典子)に近づいて出羽守の情報を集める。出羽守は老中・中良井備中守(小林重四郎)と結託して幕府転覆を計画しており……

嵐寛寿郎と坂東好太郎

珍しく坂東好太郎が悪役です。だけど、これまでの中途半端なヒーロー役より、はるかに存在感があります。主役の嵐寛寿郎を完全に食っていましたよ。この作品は坂東好太郎の代表作といっていいですね。原作が“丹下左膳”の林不亡なので、書いていくうちにヒーローよりも悪役の方が魅力を持ってくるのかも。

 

『まぼろし鷹』(1959年/監督:山田達男)

尾張藩主・宗継には月丸(片岡彦三郎)と星丸(和田孝)という二人の息子がいたが、流鏑馬の行事で月丸が落馬し発狂してしまう。日頃から星丸を担いで藩の実権を握ろうとしていた次席家老の羽生大膳(芝田新)は、世継を星丸にすることを宗継に具申する。しかし、主席家老の柘植三郎兵衛(沢田清)が反対し、領内で何世代にも亘って反目しあう忍者集団、伊吹一族と結城一族を戦わせて、伊吹一族が勝ったら月丸を、結城一族が勝ったら星丸を世継に決めることなる。伊吹一族頭領の息子・源四郎(中村竜三郎)と結城一族頭領の娘・綾乃(松浦浪路)は愛し合っており……

悪家老の陰謀というのが、かなり無理がありますね。長男の月丸と主席家老を配下の忍者(小林重四郎)を使って殺し、後継者の星丸に自分の娘を嫁がせて実権を握ろうというものですから。

月丸と星丸は文武の達人で、月丸は狂人を装って家老の悪事の証拠を掴もうとするわけですな。そんなことをしなくても、家来に命じて注意深く見張っていればボロを出しますよ。

殿様は狂人の長男を世継にすべきか迷って、決断したのが忍者一族による決闘。これって、山田風太郎の『甲賀忍法帖』のパクリじゃありませんか。源四郎は肩に鷹を止まらせているのですが、この鷹が何の役にも立たない。いてもいない存在で、まさに“まぼろし鷹”でしたよ。

話はテンコ盛りで、チャンバラもたっぷりあるのですが中身は薄いです。見せかけだけの新東宝らしい時代劇で〜す。

北沢典子、片岡彦三郎、和田孝

 

『天下の鬼夜叉姫』(1957年・新東宝/監督:毛利正樹)

幕府の隠密・露木丈太郎(明智十三郎)は、江戸に帰る旅の途中でヤクザに絡まれている旅芸人の一座を助ける。座長の京之介(宇治みさ子)は丈太郎に惹かれるが、京之介は徳川によって取り潰された福島家の遺児・鶴姫で、薩摩藩の協力のもとに徳川へ復讐しようとしていた。その頃、薩摩藩の動静を調べて江戸に戻る途中の女隠密・お綱(若杉嘉津子)は、薩摩の剣客・重之進(天知茂)に命を狙われるが、丈太郎に助けられる。福島家の残党は、鶴姫の守役・藤蔵(丹波哲郎)に率いられて、豊臣家を裏切った森と京極家の藩主を暗殺する。丈太郎は、彼らの次の狙いが蜂須賀家と推理するが……

チャンバラ映画の定番の一つである女剣戟ものです。男装姿で大の男をバッタバタと斬りまくる宇治みさ子は新東宝の“女剣戟王”として知る人ぞ知る存在でした。

この作品でも、それなりのチャンバラを見せてくれますが内容的にはウ〜ン。いくら家来に担ぎ上げられたからといって、将軍暗殺の首謀者が罪を許されて、惚れた男とハッピー、ハッピーというのはね。これでは、丹波哲郎を初めとして徳川打倒のために死んでいった連中が浮かばれませんよ。(笑)

登場人物は多くてもドラマが希薄なので、物語に厚みがないんですね。若杉嘉津子に対する天知茂のキャラなんて面白いと思うのですが、描き方が不足しているので、何じゃこりゃ!といった存在になっていま〜す。

 

『剣豪相馬武勇伝・桧山大騒動』(1956年・新東宝/監督:山田達雄)

国境の桧山の領地を巡って津軽藩に殺された南部藩の山奉行・尾崎富右衛門の子・秀之助(嵐寛寿郎)は相馬大作と改名して、老中と結託して桧山を自領地とした津軽藩から戻すために脱藩する。そして、津軽藩主・越中守(沼田曜一)の将軍目通りの行列を襲うが……

次から次へとチャンバラシーンは展開しますが、ドラマのない内容の薄っぺらい新東宝らしい時代劇ですね。相馬大作は実在の人物で、大砲でなく地雷火を使って津軽藩主の行列を待伏せしたのですが、うまくいかなくて関係ない人を数名殺してしまい、江戸で捕まって処刑されています。平山行蔵の門下生で、本名を下斗米秀之進という元南部藩の浪人です。大作の津軽藩主襲撃動機が不明なので、講釈師が忠臣に仕立てて、神出鬼没の大活躍をデッチ上げたわけですな。戦前の活動写真華やかりし頃には、相馬大作の映画が結構作られています。

新東宝の時代劇は、戦前のチャンバラ映画ネタを題材としたものが多いですねェ。社長の大蔵貢が弁士だったからかなァ。

 

 

 

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