大映時代劇


『暁の鼓笛隊』(1945年・大映/監督:木村恵吾)

市川右太衛門

勤皇の心が厚い御衛領の山国郷士たちは、洋式訓練に励み維新戦争に参加する日を待っていた。郷士のひとり秋山敬之助(市川右太衛門)は、村の少年を集めて鼓笛隊を組織する。鼓笛隊の演奏が隊士の心を鼓舞することがわかっていたからだ。戦争が始まり、鼓笛隊も戦場へ行くが……

映画の内容から見て、戦時中の作品ですね。精神主義が全面に出ていて、ラストの勝利に合理性がないんですよ。主人公の少年を死なせる必要はなかったと思うのですが、空襲などで多くの人が死んでいる現実がそうさせたのですかねェ。

死んで英雄になって、誰が嬉しいものか……

※児玉数夫さんの『やぶにらみ映画史』によると、終戦4ヶ月前の4月22日に封切られたそうです。完全な決戦体制下の戦意高揚映画で、8月23日から配給停止になるのですが、完全には行なわれず、地方では9月になっても上映されていたようですね。

 

猿飛佐助・千丈ヶ嶽の火祭』(1950年・大映/監督:安達伸生)

関ヶ原の合戦の折り、信州・大明神岳の山中で真田の忍者・猿飛佐助(藤田進)と戦って敗れた徳川忍者の東海伊賀守は、娘の玉垣(美奈川麗子)と弟子の室賀信賢(月形龍之介)に仇を討つように言って自害する。九度山に隠棲した真田幸村(香川良介)の動静を探るべく、玉垣は佐助に近づくが……

パッと消えたり、現れたりする初歩的特撮を駆使した忍術映画です。藤田進は猿飛佐助というより姿三四郎ですね。純朴な山男というキャラが同じです。同じといえば、原作は富田常雄でした。ライバルも月形龍之介だったし……

他に佐助の恋人役で相馬千恵子、室賀信賢の家来役で加東大介が出演していました。

 

『大江戸七変化』(1949年・大映/監督:木村恵吾)

金山の横領・放火犯として捕えられた半次郎(坂東好太郎)の姉・菊野(原駒子)は、弟の無実を証明してもらうために金山奉行の硲主水正(香川良介)を舟宿に訪ねるが、硲の用心棒・跡部大九郎(大友柳太朗)に飼い猫と一緒に斬り殺される。硲は、商人の駿河屋・茨木屋と結託して半次郎に罪を被せ金山を横領していたのだ。

半次郎は牢を破り、捕り手に追われるが、居酒屋のおしん(相馬千恵子)に助けられる。茨木屋の娘・お京(佐川悦子)と半次郎は許婚者で、罪をはらすために半次郎は茨木屋に近づくが、茨木屋は何者かに斬られ河に落ちる。それを目撃していたのが夜釣りをしていた大岡越前(市川右太衛門)であったことから……

幽霊や化け猫(着ぐるみで、まるで喜劇)が出て怪談風かと思うと、メロドラマ(バックに主題歌が流れる)が延々と続いたり、クライマックスの証拠の血判状争奪はコメディ仕立て。内容が七変化しています。

これは観客サービスというより、完全にシナリオが破綻していますね。大岡越前が何もしないで事件が解決するので、右太衛門の見せ場がありませ〜ん。

大友柳太朗はニヒルな殺し屋で、セリフが殆どありません。セリフがないのは構いませんが、柳太朗と右太衛門の対決がないのは許せませんねェ。柳太朗が抜き打ちに斬りつけ、右太衛門がかわして、それでオシマイ。

怒りの大放屁、チャブ台がえし!

 

『宵祭八百八町』(1947・大映/監督:松田定次)

駕籠かきの権三(市川右太衛門)と助十(斎藤達男)が、現場に残っていた手拭いから殺人犯人に間違われた同じ長屋に住む小間物屋の冤罪を晴らす物語。

サブストーリーとして助十の弟(南条新太郎)と奉公先のお嬢さん(喜多川千鶴)の駆落ち騒ぎが並行して描かれます。

時代劇には珍しく斎藤達雄が出演しているのですが、風貌からしてインテリ然の斎藤達雄に粗野な駕籠かき役は似合いませんよ。斎藤達雄といえば戦前の小津作品の中心的存在で小津作品を支えた俳優の一人でしたね。戦後は印象に残るような作品がないのですが、どうしちまったんだろォ……

左画像が斎藤達雄。

 

『田之助紅』(1947年・大映/監督:野淵昶)

女性に人気の高い中村由次郎は三代目・沢村田之助(嵐雛助)を襲名するにあたり師匠の市川海老蔵から芸一筋に励むように激励されるが、芸者・お喜和(高山廣子)の誘惑に負けてしまう。河竹新七(月形龍之介)は田之助のために新作を書いていたが、「女に買われたお前にこの役はできない」といって台本を持って帰る。お喜和に恋慕している南町奉行の黒川備中守(山本礼三郎)は、田之助を風紀紊乱の咎で江戸追放にするといってお喜和を脅すが、逆にお喜和に殺されてしまう。北町奉行の小笠原長門守(大友柳太朗)は、お喜和が田之助に頼まれて備中守を殺したと嫌疑をかけるが、お喜和は「田之助は芸に命を賭けている」と言って否定する。長門守に命じられた配下の剣客が、田之助の舞台を観に現れ……

才能があっても浮いた気持ちで舞台に立っていた役者が、真の女心を知って芸の道に目覚める芸道映画。

主演の嵐雛助を私は知らないのですが、嵐の名跡からすると関西歌舞伎役者なんでしょうね。主演するくらいだから、当時若手女形として人気があったのかな。

大友柳太朗は、凛として風格のある奉行を演じていました。内容はともかくとして、時代劇としてサマになっている出演者の身のこなしを観ているだけで満足なので〜す。

嵐雛助と大友柳太朗

 

 

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