ロシアで発見された日本映画


ロシアのゴスフィルモフォンドで発見された日本映画の上映が、東京フィルムセンターで開催されたので会社帰りに観に行く。

満州国にあったフィルムを、終戦間際に侵攻したソ蓮軍が持ちかえり、ゴスフィルモフォンドに収蔵されていたもので、わが国には存在しないと思われる作品や、現存する国内版では欠落していた場面が残されているプリントを観ることができました。

昨年観に行ったホークス祭はフィルムを借りての上映だったため、入場料がロードショー並でしたが、今回はフィルムセンター所蔵となったフィルムなので410円と公共施設らしい入場料となっていました。(2001年3月)

 

『狼火は上海に揚る』(1944年大映・中華電影/監督:稲垣浩)

戦意高揚のための国策映画。戦時体制下に製作された大映と中華電影の合作映画で、8ヶ月にも渡る大規模な上海ロケを敢行した当時の話題作。一部には稲垣浩監督の幻の名作といわれていましたが、資料的価値はあっても映画的には見るべきところはありませんでした。

洋式船を買いつけに上海にやってきた高杉晋作(阪東妻三郎)は、阿片戦争の敗北でイギリスと屈辱的な条約を結んだ清国政府に対抗する太平天国の乱を目の当りにする。高杉は、この内乱を対岸の火事と見ず、やがて日本国も欧米人によって侵略をうけるだろう、と予見する。

高杉が太平天国の将校と問答するシーンがありますが、そこで高杉は将校に、「イギリスに屈辱を受けた清国政府を攻撃する太平天国が、なぜイギリスの援助を受けるのか、イギリスは信用にたる相手だろうか」と言う。結果は高杉の予言通り、太平天国はイギリスに裏切られるのですが、そこには“鬼畜米英”思想が反映していますね。

この映画が封切られた時は、日本も上海も空襲のさなかで、一体何人の人がリアルタイムでこの映画を観たのでしょうか。

 

『鍔鳴浪人』(1939年日活/監督:荒井良平)

『続・鍔鳴浪人』(1940年日活/監督:荒井良平)

阪東妻三郎主演のチャンバラ映画。幕末、蝦夷地を抵当に外国から資金を得ようとした幕府の約定書をめぐる争奪戦。原作は角田喜久雄の同名伝奇小説。

コマ落としの撮影を考慮しても、阪妻の立回りはスピードがあって、ピタっと決まっています。残像が綺麗なんですよね。

上田吉二郎の悪役ぶりがいいなァ。志村喬の不良外人役は少し無理があります。おもん役の川上朱實という女優さん、魅力があって気になる存在です。出演作が少ないんですよねェ。

 

 

『姿三四郎』(1943年東宝/監督:黒澤明)

国内版(NFC版)でカットされていた部分が、国内版にプラス上映されたゴス版で観ることができました。

ただフィルムの保存状態が悪かったせいか、映像・音声はひどいものでした。黒澤映画は普段の物でも音声が悪いのに、これではセリフがまるで聞き取れません。なにしろ音が断続的なんですから。

姿三四郎は、私の知る限りでは9本映画化されていますが、不完全版でも黒澤作品が最高ですね。この映画の素晴らしさは、黒澤の演出力よりも藤田進(姿三四郎)と月形龍之介(檜垣源之助)のキャラクターに負うところが大きいと私は考えています。素朴な田舎青年といった感じの藤田進、傲岸不遜な月形龍之介、この二人が出ているだけで決まりですよ。

今回、大スクリーンでこの作品を観て、黒澤監督の演出タッチがジョン・フォードのタッチに似ていることに気づきました。ラストの右京ヶ原の決闘シーンで、雲が流れていくんですが、フォードの映像と同じなんですね。黒澤監督自身がジョン・フォードに影響を受けたと語っているように、この作品が如実にしめしています。

 

 

 

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