“濡れ髪”シリーズ


市川雷蔵といえば、ニヒルな貴公子のイメージが定着していますが、初期の頃はとぼけた役も多かったですね。

この“濡れ髪”シリーズもその代表といえるでしょう。すました表情と、すがすがしい視線は雷蔵独特のもので、ヘタをすると嫌味になるおトボケが、それによって逆に品の良さとなっています。

 

濡れ髪剣法(1958年・大映/監督:加戸敏)

許婚者の近習との試合で敗れて、城を抜け出した世間知らずの若君が、真の剣の達人となって、ひょんなことから知った江戸家老の陰謀をくだく物語。

雷蔵は、明るく、とぼけた若君役を好演。それに、八千草薫の姫君も品があって、綺麗でしたね。清楚な感じって、最近の女優さんには見当たらないタイプ。中村玉緒も出演していましたが、この頃はガラガラ声でなく、清純そのものでした。

 

濡れ髪三度笠(1959年・大映/監督:田中徳三)

さる大名家を継ぐことになった将軍の若君を助けて、雷蔵の旅がらすが一緒に道中する物語。

本郷功次郎が、前作『濡れ髪剣法』で雷蔵が演ったキャラクターと同じような若君を演っているのですが、ヘタクソで見ていられません。表情は坊ちゃん坊ちゃんしていて好いのですが、セリフがひどい。あれじゃあ学芸会です。雷蔵の義侠心あついヤクザという役も、今イチぱっとしなかったなァ。だけど、この作品はヒットして、功次郎・雷蔵コンビで『浮かれ三度笠』という続編みたいな映画ができていま〜す。

 

濡れ髪喧嘩旅(1960年・大映/森一生)

金にうるさい雷蔵の旅がらすが、公金横領の代官を調べることになった勘定奉行配下のヘッポコ役人を助けて道中する物語。

最初は諷刺のきいたコメディタッチで快調そのものでしたが、後半になってお涙頂戴が出てきて、全体のバランスを崩しています。この手の映画に哀愁は不要で〜す。

当時「黄色いサクランボ」で人気のあった女性トリオのスリー・キャッツが出演しています。

“♪若い娘は、ウッフン……”と色っぽい声で歌うのですが、顔はお世辞にも美人とはいえなかったなァ。

 

濡れ髪牡丹(1961年・大映/田中徳三)

 京マチ子の女親分が弟を堅気にするため、婿取りをする物語。

 自分より優れた男というのが婿取りの条件で試験をするのですが、色と欲とで押しかけた志願者はみんな褌ひとつの無様な格好で追い出される仕末。

 そこへやって来たのが雷蔵の旅がらす。柔術、剣術、忍術に加えて算術まで得意のスーパーヒーロー。試験官を手もなく捻じ伏せるのですが、女親分との剣術の試合で、双肌ぬいだ色香の前に力が出せず無念の敗北。

京マチ子と雷蔵のやりとりが抜群に可笑しいのです。田中徳三にしては、ユーモアと風刺のきいた上出来の作品で〜す。

 

 

トップへ      目次へ    次ページ