元禄忠臣蔵

(前編:1941年・興亜)

(後編:1942年・松竹)


(スタッフ)

監 督……溝口健二

原 作……真山青果

脚 本……原健一郎、依田義賢

撮 影……杉山公平

美 術……水谷浩

音 楽……深井史郎

(キャスト)

大石内蔵助……河原崎長十郎

浅野内匠頭……嵐芳三郎

吉良上野介……三桝万豊

大石りく……  山岸しづ江

瑶泉院……三浦光子

富森助右衛門……中村翫右衛門

徳川綱豊……市川右太衛門

多門伝八郎……小杉勇

 

真山青果の戯曲を映画化した、史実に忠実な忠臣蔵として評判の高い作品です。江戸城松の廊下での刃傷から始まるのですが、江戸城の絵図面を基に松の廊下を原寸大のセットで再現しているんですからね。松の廊下に限らず、武家屋敷にしろ、山科の大石邸にしろ、元禄時代そのままの実物主義で建築されました。セット建築を担当した新藤兼人の話によると大道具係でなく建設会社に建築を頼んだそうで、一本の映画が7〜8万円で出来ていた時代にセット費用だけで30数万円かかったそうです。

溝口健二はセットに限らず、衣装・風俗に関しても厳格な時代考証をしています。大石内蔵助(河原崎長十郎)の髷は、髷が小さく月代を大きく剃った元禄髷と呼ばれるもので、他の映画では殆ど見られないものです。溝口健二の厳格性は演出面にも見られ、刃傷シーンはロングでのワンカットで撮られています。奥行きのある立体的な映像は確かに素晴しいのですが、内匠頭の感情は伝わってきません。刃傷の理由も史実通り不明のままとなっています。

大石が内匠頭の刃傷より勅旨に対して不届きがなかったかと気づかう勤皇思想は撮影当時の時代性によるものでしょが、浅野大学による御家再興を願い出たことを後悔(御家再興されたら仇討の大義名分がなくなる)したり、吉良の間者でなく三次家用人から討入りが漏れるのを恐れて瑶泉院に何も告げずに暇乞いするのは面白い解釈でした。それと、大石の仇討を秘かに期待する徳川綱豊(市川右太衛門)が、血気にはやって一人で吉良を討とうとする富森助右衛門(中村翫右衛門)をたしなめる挿話は他の忠臣蔵にはないものですね。

それにしても、「斬る真似なんか撮れない」といって、討入りシーンがないのは、やっぱり不満で〜す。

 

 

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