第十一話 ゼーレの鏡(後編)
<数日後
ネルフ本部内第一実験ホール>
“これからの計画”の為、初号機(シンジ)と零号機(レイ)の機体相互互換テストを行っている
ちなみに、アスカと弐号機は二人とはパーソナルパターンがまるで違う為今回のテストには参加していない
まずは、レイが初号機に乗り実験が開始された
その様子を隣のモニター室で見ているリツコ達。実験は何の支障もなく進行していく
「どうレイ?初号機に乗った感想は?」とリツコが初号機のレイに言う
レイはそれまで目を瞑り何か思考の底に入り込んでいた。だが、そのリツコの言葉で戻ってくるとそれに答えた
『問題ありません…………ただ、何か異質なものを感じます』と淡々と語るレイ
「異質なもの?!………マヤ、零号機とレイの状態はどう?」
リツコはレイから意外な答えが返ってくると、その原因を調べる為に横でレイのシンクロ状態をチェックしているマヤに様子を尋ねる
「何の異常も確認できません」と簡潔に答えるマヤ
「そう……?」
「それにしても、なかなかのシンクロ率ね。これなら、もしもの場合対処できそうね」とただ後のほうで実験を見ているだけのミサトが言う
「そうね。零号機とのシンクロ率にここまで匹敵するとは思わなかったわ」
その後、動作実験まで終わった。結果は予想以上に良好だった
「実験終了。レイ、上がって良いわよ」とその場にいる全員に命じるリツコ
これでレイと初号機のテストは終了し、引き続きシンジと零号機のテストに入る
モニター室のガラス越しに零号機が固定されていた。その中にはシンジが載っていた
「マヤ、第一次神経接続開始。順次実験を進行していって」とリツコが指示を出す
その指示通りに動く所員たち
そして、シンクロ過程がフェイズ2へ移行した。A−10神経を零号機とコネクトしシンクロの最終段階である。そのシンクロ率は、初号機と変わらず良好だった。その様子に、リツコは満足げだった
「これなら、あの計画も次の段階に移行できそうね」
そのリツコの発言を困惑の表情で聞くマヤは
「先輩………私……あの計画は……」という
「分かっているわ。でもね、今は方法を選んでいられるような段階ではないのよ。使えそうな手段があるなら、なんでもやるしかないのよ」
「はい………でも………」
「マヤ、自分をきれいな状態に保ちたいと思う気持ちはわかるわ。でもね、自分が穢れたと思ったとき、きついわよ」と発言するリツコ。その表情を見ているマヤ
そこに突然異変が起こった。シンジの載る零号機が制御不能に陥ったのである。零号機は、固定されている拘束具から逃れようと暴れだした。
「どうしたの?」と突然のことに戸惑いながらリツコが聞く
「……精神汚染が進行中です」とマヤは受け取られる情報を見て、そう報告する
「そんな……このプラグ深度では、精神汚染なんて起こりえないわ」と目の前で展開している事実が信じられないリツコ
「プラグからではありません。零号機から直接です」
「零号機が…………シンジ君を拒絶している…?!……ありえないわ!……シンクロを緊急カット!電源を切って。ベークライトを実験ホール内に注入、零号機の動きを止めて!」と困惑をしながらも指示を出すリツコ
「零号機の電源をカット!内部電源に移行。機動完全停止まで15秒!」
零号機は一直線に皆が見ているモニター室のガラス前まで来ると、それを割ろうと殴り始めた。ちょうどそこには先程実験を終えて、シンジの様子を見ていたレイがいた
「危ないわよ。レイ!退きなさい」とミサトは大声でただ呆然と立っているレイに言う。それに対して、レイはただじっとガラスを殴りつづける零号機を見つづけた。ガラスは強化ガラスの為ひびが入るだけで15秒が経ち停止した
「零号機の完全停止を確認!」とマヤ
「パイロットの保護を最優先。後に速やかに、零号機の状況のチェック。今回の失敗原因を調べて!」とリツコは言うとモニター室を出ていった
(零号機が殴りたかったのは、多分私ね)と思うリツコ
(何故、零号機はレイを狙ったの?…………何かあるの?………そうね、何かあるのね)と考えるミサト
<数時間後
同本部内総司令室>
実験の失敗を受け、リツコがゲンドウにその報告に来た
「………それで、シンジと零号機の現在の状況は?」とリツコから報告を受けいつもの姿勢でゲンドウが言う
「シンジ君はICUにて様子を見ていますが、数時間中には意識を回復するでしょう。現在の段階で精神汚染の影響はないものと考えられます。零号機は、パーソナルパターンをレイに変え再起動実験を行いまして、以前と変わらぬ結果を得られました」
「そうか………分かった」とゲンドウが言うと、リツコは一礼をしてその場から退出した
「零号機がシンジ君を拒絶するとは、私のシナリオにはないぞ」とリツコとゲンドウの会話を将棋をしながら聞いていた冬月が言う
「ああ、予想外だな。だが、修正可能範囲内だ。特に問題はない」
「そうだったらいいがな。老人達が聞いたら、また騒ぎ出すぞ。ただでさえ、計画の進行は遅れ気味なんだからな」
「もうなれている。彼らは文句を言うだけで何の行動も示さない。支障はないだろう」
「何時までもそうは言ってられんぞ。アダム計画はどうなっているんだ?」
「予定通りだよ。2%も遅れていない」
「ロンギヌスの槍は?」
「それも、問題ない。作業はレイが行っている」
「…………委員会は欺けても、いつまでもシンジ君を欺く事はできんぞ」
「……時が来たら対処する」と一人ニヤリ笑いしながら言うゲンドウ
同時刻、セントラルドグマ内で活動している零号機の姿が確認されている。それに載るレイの様子はまったく感情がこもっていなかった
<同本部付属病院チルドレン特別病棟集中治療室内>
シンジは、真中にある真っ白なベッドに横たわっていた。そして、突然気がつき目を開けた。周りを覗うと、現在の自分の状況を理解した。そして、あの実験中のことを思慮した
(あの感覚はなんだったんだ…………綾波レイ?…………いや、違う!あれは、もしかして………だったとしたら、ダミー計画は変更するしかないな…………まさか、僕が“零号機”に嫌われるとは思わなかったな………)と突然起こった事にも冷静に判断するシンジ
シンジは、まだボーとするのか頭を数回振ると、立ち上がり、その場から立ち去った。
<同本部内第一発令所>
今回の実験とは直接関係ない作戦部の二人が待機していた。そこに病棟から連絡が入る
「シンジ君が意識を回復して、勝手に病室を出たそうです」とマコト
「そう………それで、精神汚染の影響は?」
「特にないようです」
「…………そう」とそっけないミサト
(何故、初号機とレイは問題ないのに零号機とシンジ君はこんな事になるの。二つは違うの?同じエヴァなのに………エヴァって何なの?!………分からないわ………)と考え込むミサト