第十一話 ゼーレの鏡(前編)
<ネルフ本部内サテライトミーティングルーム>
人類補完委員会特別招集理事会。使徒侵攻のこれまでの経緯とこれからとりうる対策についての特別会が召集されゲンドウは一人その場にいた。またその目の前には、いつもの委員の面々が映し出されている。そして、その中央にある多方面ディスプレイには今までの使徒の様子が映し出されていた。最初に侵攻してきた第3使徒=サキエルからその襲来自体が隠蔽されているはずの第11使徒までである。その一つ一つの殲滅における方法などかなり詳細なものまでそこにはあった。そして、第11使徒の本部侵入という事実でその映像は止まった
『これはいかんな!』と委員の一人が言う
『ああ、時期がいくらなんでも早すぎる。このままでは、計画の進行に支障をきたす可能性すらある』
『そうだ、もし使徒との接触が起これば我々の今までの計画は水泡に化す事になるのだ!』
『君達ネルフはそれを未然に防ぐ為に設立された………』
『それが、どういうことなんだ!こんな簡単に使徒の侵入を許すとは!』
『碇君、今回の件どうするのかね?』
今回の件とは当然使徒がネルフ本部に侵入した件である
「前にも申し上げた通り、その件は警報の誤作動と確認されています」とゲンドウは表情一つ変えずに言う
『ということは、君は使徒のネルフ本部侵入の事実はなかったと言うのだな?!』
「ええ、その通りです」
『ここでの偽証は死に値する事、君は忘れてはいないな?!』
「当然です。そこまでお疑いになるのなら、マギのレコーダーを調べて頂いても構いませんが…」
このゲンドウの言葉を聞くとキールはニヤリと笑い言う
『本当に良いのだな?碇』
「ええ、問題ありません」
ゲンドウが言葉を言い終わると、キールは手元に置いてあるパネルを操作した。すると、多方面ディスプレイにはマギのレコーダー内の記録内容が映し出された。そこには、使徒の侵入の事実が詳細に記録されていた
これを見たゲンドウは表情は変えないが、明らかに動揺しているのが分かる
『碇、これはどういうことかね?』
「………………」答えることができないゲンドウ
『これを見る限り使徒侵入の事実はあったと考えたほうが妥当だと思うのだが、君はどう思う?碇!』キールの詰問は続く
「……………これをどこで?………」やっと言葉を口にするゲンドウ
『君がそれを知ってどうする!今は侵入の事実があったのか、君の口から直接聞きたいのだよ』
「…………………」やはり何もいえないゲンドウ
『その無言は肯定と受け取っていいのだな………まあ良い!碇、今回の事は接触も未然に防ぐことができた。よって、特例として不問に処す。だが、この次、我々への背信的態度が分かったならば、君には死を与えなければならない、分かったな?!』
「……………ありがとうございます。キール議長」
『では、以上だ』と言うと委員たちは消えていった。そして、キールはゲンドウをギロっと一瞬睨むと消えた
その光のない空間に残されたのはゲンドウ唯一人になった。そこに扉から冬月が入ってきた
「………どういうことだ!?何故、今回の件がゼーレにもれたのだ!情報操作は完璧だったはず……」と呟くゲンドウ
「内部に老人たちに繋がる者がいるのだろう。そして、その人物は………」と冬月は言う
ちなみに冬月の言おうとしている人とは、ネルフ・ゼーレ・日本政府三重スパイの加持リョウジの事である。この事はネルフ上層部では暗黙の了解だった
「しかし、奴らはマギのレコーダーを持っていた。しかも、処理する前のものをだ!奴にそんな事ができるわけがない!」
「………そうだな……という事は、つまり、加持君以外にネルフにはゼーレの鈴がいるということか?」
「ああ、しかも、そいつはマギにも簡単にアクセスすることができるほどの人間だ」
「それ程の人物はかなり限られてくるぞ………赤木君か?」
「いや、それはない。彼女は我々の計画に理解を記している」
「と言う事は………シンジ君か?……」
「…………わからん。しかし、シンジもゼーレが憎いはずだ。奴らに荷担するはずがない!」
「だが、この二人でないとなると他に当てはまる人物がいないぞ」
「…………問題ない。これから、じっくりと見ていけば分かる……」と言うとゲンドウも席を立って部屋を出て行った
<同本部内シンジ専用執務室兼研究室>
ゲンドウと話の終わった委員会は今度はシンジを直接招集し話し合いを始めた
「どうでしたか?碇ゲンドウは?」とシンジはニヤリ笑いで言う
『君の言った通りだったよ。これでゲンドウ君も目立った行動は取れなくなるだろう。ご苦労だったな』と委員の一人が言う
「いえ、当然の事をしたまでですよ。ただ、今回は少しかわいそうだったかもしれませんね。彼は彼の考えで良かれと思って委員会に隠したのでしょうから……決してゼーレを裏切ろうなどとは思っているはずはないですからね」とシンジはゲンドウの行動を弁護する
『いや、最近のゲンドウ君の行動には不審な点が多すぎる。今回の事で多少は我々への対応を改めることだろう。これは彼にとっては良い薬だよ』
『その通りだ。彼にネルフを与えたのは我々の計画の遂行を円滑に行う為だったのだ。ところが、今では彼の個人的な所有物になろうとしている。少しは刺激を与えなければ、何をするか分からん…!』
「まあ確かに最近の彼の行動には少し不審な点もある事は確かですね」
『そこで君にはもう少しネルフに残り碇ゲンドウの行動を監視してほしい』とキールが言う
「それは分かっています。ですが、ここには僕の他にも加持リョウジがいますから、そのようなことは不要だと思いますが…?」とシンジはキールにだけ向かって言う
『そうだが、今回の件加持君からはこちらに上がってこなかった。彼には碇ゲンドウ以上に不審な点が多い』
「そうですね。分かりました。加持リョウジの件も含めてこちらで処理しておきます」
『では、頼んだぞ。以上だ』
と言うと委員たちは消え去っていった
そのシンジ以外いなくなった空間に一人男が入ってきた
「ご苦労だな。シンジ君」といきなりシンジに労いの言葉をかける男=加持リョウジ
「ええ、あのご老体たちを納得させておくのは意外と面倒ですね」とシンジはニヤリ笑いからきれいな笑顔に表情を変え言う
「そうだな。しかし、これくらいやっておかないと、後でいろいろ面倒だからな」
「その通りです」
「おかげで、こっちはゼーレからにらまれそうだがな………」
「すみませんでした。今回はあなたにいろいろ動かれると困る事が多数ありましたからね。まあ、その代償というわけではないですが、これをどうぞ」とシンジは言うと一枚の茶封筒を渡した
加持は先のシンジのようにニヤリ笑いをするとそれを受け取った
「分かっているとは思いますが、これはここだけの話ですよ。外には洩らさないようにお願いします……もし、もれるような事態があれば、僕はあなたにとって特別な人を殺めなければなりませんからね」
「ああ……だが、シンジ君、君も分かっていると思うが、もし彼女にもしもの事があれば、俺は君を許す事はできない……」
「大丈夫ですよ、加持さんがこちらとの契約の範囲内で動いていれば、僕は彼女を可能な限り守りますから」
「ああ……」というと加持は部屋を出て行った
その加持の後ろ姿を少し疲れた表情で見ているシンジ