第十話 マギ封鎖(後編)


 

 

 

 

<第一発令所>

セントラルドグマ=プリブノーボックスから来たシンジ・リツコを交えて使徒侵入に対する対応策を考えている

今回侵入を許した使徒は細菌サイズの微小なものだった。その一つ一つの個体が集まって知能回路を形成し、増殖しつづけていた

「使徒の様子はどうなってるの?」と発令所に来て冷静さを取り戻したリツコが聞く

「これを見てください」とシゲルは言うと今の使徒の状態がディスプレイに映し出された

それは、コンピューターのような回路を構成していた

「まるでコンピューターね」とそれを見てリツコが感想を言う

「はい、使徒全体が回路を形成しています」とマヤが言う

みんなそれに注目していた。だが、シンジは一人違う情報の映っているディスプレイを睨んでいた

「これ、おかしくありませんか?」とシンジは言う

シンジに言われるとその場にいる全員がシンジの指した情報を見る

「どうやら、クリーン維持のために注入されている液体オゾンに満たされている部分には使徒が侵入していません」とマコトが答える

「そのようですね」とシンジ

「……ということは…」とリツコ

「はい、現段階で使徒は酸素に弱いと考えられます」とシンジ

「そう、なら、使徒のいる部分にオゾンを注入して殲滅しちゃいましょう」とミサトが簡単そうに言う

「そうですね。やってみる価値はありますね」とシンジもその意見に賛成した

そして、オゾン注入が始まった

 

<数分後>

オゾン注入により使徒に変化が生じ始めてきた

「効果あった?」とミサトがまず言う

「はい、効いています」とシゲル

「使徒、B層まで後退しています」とマヤ

「でも、中心部は強いですね。なかなか発熱を抑える事ができません」とマコト

それを慎重に考えながら見ているシンジ。そして、何かの異変に気がついた

「ちょっと、様子が変ですね」

「あれ?おかしい!発熱が高まっているぞ」とシゲルが言う

「使徒!範囲を拡大。侵攻を再開しました」とマコト

「使徒、今度はオゾンを吸収しそれをエネルギーに変換しながら行動を再開したようです」とマヤ

「まずいな………オゾンの注入を止めてください。すこし、様子を見ましょう」とシンジは指示を出す

その時、急に警報が鳴り響いた。それは、保安部のサブバンクに対する不正アクセスが発生した為である

「どうしたんだ?」とゲンドウが感情を抑えた冷静な声で言う

「保安部のサブバンクにハッキングを受けています」とシゲルは

「ちっ!こんな時になんで……」とマコトは文句を言いながら対処している

そのアクセススピードは人間の行える処理能力を遥かに超えるものだった

「すごい……これは人間業じゃないわ…」とマヤは驚きながらも手を動かしている

「逆探知に成功!侵入元はこの本部内です……そんな……侵入元はプリブノーボックスです!」とシゲルは報告する

「しかし、あそこにはもう人はいないぞ。どういうことだ?!」と冬月が答える

「考えられるのは、使徒が行っているという可能性です」とシンジも冷静にその事に答える

「侵入者!サブバンク突破!メインバンクに侵入しました………メインバスを検索しています…10桁・15桁・17桁……まずい、このアクセスコードは………目標はマギに侵入するつもりです!」とシゲル

その現状を見てゲンドウは

「マギのI/Oシステムをカットしろ」と命じる

シゲルとマコトは言われた通りに行動を起こすが無駄だった

「ダメです。カットできません!」とマコト

「どういうことだ?」とゲンドウは静かにその様子を見ていたシンジの方を見て言う

「I/Oコントロールシステムが既に使徒の支配下にあるんじゃないかな。だから、こっちから何をやっても電源は切れないんだよ」と説明するシンジ

 

そして、ついに使徒がマギ本体への侵入を開始した

「使徒、マギに侵入しました。メルキオールに接触!」

「ダメです。解除できません。メルキオール、使徒の支配下に入ります」

「使徒、メルキオールをリプログラムしました」

と同時に機械合成音が鳴り響く

<<人工知能メルキオール、本部施設の自律自爆を提起……否決否決、バルタザール・カスパーにより否決されました>>

「「「「ふう」」」」自爆提起と共に高まっていた緊張感から一瞬解放されるメンバー

すると、すぐに警報が再び鳴り響いた

「メルキオール、バルタザールに接触。ハッキングを開始しました」

「防壁展開……無効化されました」

「ダミーへの誘導も失敗です」

「かなり、押されていますね」とシンジはこの状況でも冷静に判断して言う

「くそ!早い!ダメです。侵攻を食い止める事ができません」

この様子を見てリツコは判断すると

「ロジックモードを変更!シンクロコードを15秒単位にして」と命じる

マギの処理速度を意図的に遅くする事により使徒の侵入速度を遅くする事に成功した

「どれくらいの時間が稼げそうだ?」と隣にいるシンジに聞くゲンドウ

「今までの、使徒の侵入速度から判断して2時間程度じゃないかな」とシンジ

 

 

<数分後

第三会議室>

使徒の侵入の速度が遅くなり、一息つけたのでこれからのことへの対策会議が開かれていた

ディスプレイには使徒の様子が映し出されていた

「まるで、コンピューター回路そのものだな」とシゲルが呟く

「今回の使徒は細菌サイズのマイクロマシンであると考えられます。そのため、個体が集まり知能回路を形成し、進化が促進されているものと推定されます」とリツコが言う

「使徒の目的は?」と冬月

「マギの占拠による、本部施設の間接的支配が目的と考えられますね」とシンジ

「と言う事は、マギがなくなれば目標を失う事になるわね」とミサトが言う

「まあ、そうなるでしょうね………」

「なら、まずマギを物理的に消去し、その後、使徒の殲滅をすべきです」とゲンドウに進言するミサト

「それはできないわ。マギの破壊は本部施設のそれと同一のものよ。いかなることがあっても、マギの保護がネルフ運営目的の最上位にあるのよ」とリツコ

「わかってるわよ。でも、他に方法があるの?………」

「ええ、使徒が進化をしつづけるというなら、それをこちらから促進するのよ」

「進化の終着点は自滅……『死』ということですね」とシンジが言う

「ええ」

「でも、方法は?」とミサト

「カスパーから逆ハックで進化促進プログラムを送り込む。それだけよ……ただ、その時同時に今展開している防壁を開放してしまうことにはなるけど…」

「つまり、バルタザールを捨てて、さらに、カスパーまで危険にさらすと言う事ね」

「だけど、これが最善の方法なのよ」

ミサトとリツコの二人の会話にゲンドウが入ってきた

「赤木博士!その作戦の成功確率は、どの程度だ?」

「マギ及び本部施設の保護を最重要要素として考えた場合、最も高い数値だと推定しています」

「そうか…………分かった。やりたまえ。その計画を許可する。それと、シンジ、お前は赤木博士のサポートをしろ。以上だ」と言うとゲンドウは会議を終結させて出て行った

 

 

 

<第一副発令所>

マギの本体は発令所の下にあるここに置かれている。今回は、マギへの直接的な作業の為、シンジ・リツコ・マヤ、そしてミサトは来ていた

マギ=カスパーへ入るためにここ何年もの間開いたことのない扉が開かれた。その内部にはかなりの数のメモが一面に張られていた

それを見た、マヤとシンジは驚いた。その内容はマギの特別プログラムであったからだ。リツコはそんな事を気にもせずに作業を始める為、中に入っていた。ミサトはその価値が分からない為。リツコの後を追うように中に入った

作業分担は、リツコが使徒への進化促進プログラムを作成しカスパー内部に送る事。マヤはそのサポート。シンジはカスパー内部から使徒への逆ハックを仕掛けリツコの作ったプログラムを流し込むことである。これが最も効率の良い分担方法だった。そのため、リツコだけがカスパー内部に入り、シンジとマヤはその外で仕事をする事になっている

ミサトが何故ここにいるかというと、自分は今回何もすることがないので、リツコの手伝いをしたいと言い出したためである

外では、無言でシンジとマヤがキーボードを叩いていた

中でもリツコが作業をしていた。その隣にいるミサトは、特に何もする事がないのでリツコに話し掛けた

「ねえ、リツコ、マギって何なの?」

「突然、変な事を聞くわね」

「まあね、さっきの会議の時、私がこれの破壊を提案した時のあんたの反対の様子があまりにもいつもと違ってたもんだから…」

「………長い割に面白くない話になるけどそれでも聞く?」

「もちろん」

「……ミサト、あなた、人格移植OSって知ってる?」

「ええ、これでも一応ネルフのメンバーだからね。エヴァの操縦のサポートをするものでしょう」

「そのOSは、母さんが開発した技術なの……そして、マギにはその母さんの人格を移植してあるの」

「……………そう……それで、マギを守りたかったのね」

「……違うと思うわ。母さんの事、尊敬はしていたけど好きではなかったわ。科学者の判断としてマギを守る義務があると思ったからよ」

「………そう?………」とリツコの表情をじっと見ているミサト

「何よ?!!」とそのミサトの行動を迷惑がるリツコ

その時

『マギ=バルタザール、メルキオールにのっとられました』と発令所にいるマコトから報告が入る

それと同時に

<<自律知能メルキオール・バルタザール、本部施設の自爆を共同提起>>

<<可決・可決。2対1で同提起は承認されました。自爆は3者一致02秒後に、範囲はジオイド深度マイナス280・マイナス140ゼロフロアーです。特例により、人工知能以外のキャンセルは無効になります>>と機械音が鳴り響いた

『バルタザール、更にカスパーに侵入を開始』

これによって、使徒とカスパーが直結された

「待ってました。リツコさん、マヤさん準備はいいですか?」とシンジが叫ぶ

「後もう少し…」とリツコ

「OKよ」とマヤ

『自律自爆まで後10秒』

「リツコ!急いで!」せかすミサト

「大丈夫よ。1秒近く余裕があるわ」とまったく動じないリツコ

「1秒って……」

その時、リツコが作成していたプログラムが組み終わった

「シンジ君、できたわ。準備いいわよ」とリツコは叫ぶ

「じゃあ、押して下さい」とリツコ・マヤに言うシンジ

3人は同時に自分のキーボードのリターンキーを押すと、リツコの作ったプログラムがシンジの作ったセキュリティーホールを通って使徒に注入された。そして、自律自爆は寸でのところで防がれた

<<自律自爆は、人工知能3者一致により解除されました。マギシステム通常に戻ります>>

これを聞くとそれまで張り詰められていた空気が一瞬で抜けた

「ふう〜疲れたわ」とリツコが言う

「ご苦労様。本当に良かったわ」と労うミサト

「この程度の事で疲れを感じるなんてもう歳かしらね?」

「そうね。もう30だものね」

「お互い様にね……母さんが言ってたわ、マギは3人の私なんだって……科学者としての自分、母としての自分、女としての自分。その3人がせめぎあってるのがマギなのよ。人の持つジレンマをわざと残したのもそのため……」

「今日は良くしゃべるわね」

「何となくね……」

女二人の会話はこの後長く続いたという

シンジは何事もないようにその後、そこから足早に去っていった

 

 

 

<同本部内総司令室>

シンジはことが片付くと予定通りにここにやって来た。中ではゲンドウと冬月が待っていた

「ご苦労だったな、シンジ」と労うゲンドウ

「本当だよ!いくら、今回の件を委員会に洩らしたくないからって、マギのレコーダーを操作しろなんて、リツコさんに知られたら大変なことになるよ!」とシンジは愚痴をこぼす

シンジは、今回の使徒の本部侵入をゼーレに知られたくないゲンドウに言われ、定期的にゼーレへの提出を義務付けられているマギの記憶装置を操作したのだ

「分かっている。だからこそ、お前に任せたのだ」

「こんな事してると、その内ひどい目にあうからね。必ず!」

「ふっ、問題ない!それよりも良いのか?アスカ君とレイをあのままにしておいて」

「まだ、救出してないの?」

「ああ、あの二人は状況が状況だからな。お前が適任と思って保安部にはストップをかけてある」とニヤリ笑いで言うゲンドウ

「父さん!!!」

「何、今回の件の謝礼と思ってもらってかまわん。それよりも早くいかなくて良いのか?」

「くっ!……この続きは後でするからね」と言うと走って去っていった

 

後に、シンジの顔には何故か引っかき傷やあざなどが多数見受けられたという未確認情報もある

 

 

 

<同本部内シンジ専用執務室兼研究室>

そこには、シンジ以外誰もいない。そのシンジは何故か顔中けがをしていた

シンジは、ゲンドウにはゼーレにばれないように工作を頼まれ実行したが、それとは別に、ゼーレに提出する報告書を作成していた。そこには、当然今回の使徒侵入の件もしっかりと記載されていた

「父さん、悪いけど、ゼーレに僕まで目をつけられるわけにはいかないんでね。僕がやらなくても情報は漏洩してしまう……僕がやらないと、今度は僕も委員会に目をつけられて、行動しにくくなる……それは、今の段階では困るんだよ…………」

ニヤリと笑いを浮かべながら仕事をこなしているシンジだった





第十一話(前編)へつづく


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