第十話 マギ封鎖(前編)


 

 

 

 

<ネルフ本部内総司令室>

南極から戻ったゲンドウにシンジは呼ばれてやってきた

ゲンドウはいつものように、机にひじを置いた体勢で座っている。その前にシンジがやって来た

「何か用?父さん」とシンジは声をかける

「ああ、シンジ、ダミープラグの件はどうなっているんだ!計画の方が進んでいないようだな」と唐突に言うゲンドウ

「それは………そう、一応、技術部は最優先課題として取り組んではいるけど、使徒の来襲が予想以上に早いペースでエヴァの修理やその安定的運用を目指しての実験とかが忙しくてどうしても後回しになってしまうんだよ」と少し焦りながら言うシンジ

「……言い訳だな!もう良い!この件は赤木博士に任せた。お前は、この計画からは外れてもらう。以上だ。出て行け」

「…………」シンジは、こういわれ何もいわずに部屋から出て行った

中にはゲンドウ一人が体勢を崩さずに一人座っていた。そこに別に入り口から一部始終を見ていた冬月が入ってきた

「碇、もう少し、シンジ君の気持ちを理解してやったらどうなんだ。彼にとって、ユイ君がそしてレイがどれほど重要だか分かっているだろう」と冬月はいつもの口調でゲンドウに言う

「………分かっているから、赤木君に任せたのだよ」ニヤリと笑いながら言うゲンドウ

「だったら、もう少しやさしく言ってやったらどうなんだ」

「………問題ない」

かみ合わない会話がこの後も少しの間続いたという

 

 

 

<同本部内第一副発令所>

マギの一週間に一度の定期検診の日。マヤと他の技術部職員が作業に追われている

マヤは華麗なタイピングでキーボードを打っていた。そこに今日は休暇のはずのリツコが働いている職員の為にコーヒーを持ってやって来た

「マヤ、様子はどう?」とマヤの後ろまでやってくるとそう聞くリツコ

「特に問題はありませんよ。先輩」と作業しながら答えるマヤ

「そう、なら良いわ。一息ついたらコーヒー持ってきたから飲みましょう」とプログラムの映るディスプレイを見ながら言うリツコ

「はい。ところで、今日は休暇じゃなかったんですか?」

「ええ、そうよ。でも、うちにいてもやる事がないんでここに来ちゃったわ。ここなら、いれば仕事にぶつかるからね」

「そうですか……」

「本当に嫌になっちゃうわよ。こんな生活………マヤそこ違うわよ。A−8の方が早くなってるわ。ちょっと、貸して」とディスプレイを見ながら話していたリツコがそこにミスがあるのを気づき、手近にあったキーボードにマヤを遥かに上回るスピードで修正プログラムを打ち込む

その様子を、呆然と見ているマヤが

「さすが、ですね。先輩」と尊敬のまなざしをこめて言う

リツコは作業が終わると周りを見渡した

「マヤ、シンジ君はどうした?」とそこにいるはずのシンジが見当たらないので聞く

「シンジ君なら、先程、司令に呼ばれて司令室に行ってますけど」

「そう………」

今日、マギの検診があるにもかかわらずリツコが休みなのは、リツコの代わりをシンジがする予定だったからである。シンジがいれば先程のようなミスは起きないはずである。

 

<<マギ=システム、三基とも自己診断モードに入ります………異常なし、異常なし、通常モードに復帰します>>

これで、マギの定期検診は終わった

「はあ〜、今日も異常なしか……母さんは今日も元気なのに、私はただ歳を取るだけなのかしらね……」とその検診の結果を聞き一人呟くリツコ

「母さんですか?リツコさん」と突然真後ろに現れたシンジは言う

「シンジ君!聞いてたの?!」と誰にも聞かれていないと思っていたリツコは驚いた

「ええ。でも、リツコさん、そんなに歳を感じるほどの歳ではないですよ。まだ、若いじゃないですか」

「そう言ってもらえると、お世辞でもうれしいわね」

「お世辞ではないですよ」と大きなリアクションで否定するシンジ

「ところでリツコさん。今日、父に呼ばれました。何のことだかお分かりですよね」と急にまじめな表情に変え言うシンジ

「ええ、ダミーの事でしょう」

「そうです」

「昨日、突然私も呼ばれて、計画を担当するように言われたわ。でも、それがどうしたの?」

「リツコさん。あなたもお母さんを気にしているように、僕も母さんが気になるのです。この意味わかりますね」

「ええ、だから、ダミーは作りたくないんでしょう、あなたは」

「まあ、そうなるんですかね」

「………私たちは、同じね。今も、亡き母親に影響を受けているんだから……」

「そうですね………」

二人がこんな会話をしているうちに周りには誰もいなくなっていた

 

 

 

<数日後

同本部内セントラルドグマ大深度施設>

今日はここで、アスカとレイだけの実験が行われる。これは、服を脱いで裸になって行う実験の為男女が同時に行うのは好ましくないとの意見からシンジとアスカ・レイは別の日に実験が行われる事になった(シンジはこの意見に大賛成したが、アスカ・レイは不満いっぱいだったと言う情報もある)

「十七回も垢を落とされてやったわよ」と仁王立ちで不満ありげに言うアスカ。その横にはレイもいた

『じゃあ、そのままの姿でエントリープラグに入って頂戴』と別のモニター室から指示を出すリツコ

「えええええ〜嫌よ!そこに、シンジいるんでしょう?!」とアスカは抗議もこめて言う

『うん、いるけど。何か問題あるかな?』とシンジは答える

「大有りよ!!!」

『大丈夫よ。映像モニターは切ってあるわ。プライバシーの保護はしっかりとしてあるから』とリツコ

「そう言う問題じゃないのよ。心の問題よ!」

『今回の実験は、プラグスーツの補助なしでシンクロにどんな影響が出るか測るための重要な実験なのよ。ひいてはあなたたちの為でもあるの、わかって』とリツコはこの実験の意義を説明する

「でも………」

『アスカ!これは命令よ。入りなさい!』とモニター室にいるミサトに言われる

直属の上司であるミサトに命令と言われては仕方なく、やっとエントリープラグに向かうアスカとレイ

 

二人は、プラグスーツを着ないで裸でエントリープラグに入った。そして、実験の準備は整った

<<シミュレーションプラグ挿入>>

<<システム、模擬体と接続>>

実験の進行を何をするでもなしに見ているミサト。そのガラスの向こうには、溶液に漬かったコードが無数に伸びた模擬体がある

「シミュレーションプラグ、マギの管制下に入りました」とマヤが報告する

「お〜早い早い!マギさまさまね。初実験の時、1ヶ月もかかったのが嘘みたいね」とミサトは感心したように言う

リツコはミサトの隣で同様に実験を見ていた。ただ、ミサトとは違いリツコはこの実験の責任者である為することはたくさんあるが…

「気分はどう?」とシュミレーションプラグ内のアスカとレイに聞くリツコ

『何か違う…』とレイ

『感覚がおかしいのよ。右腕だけははっきりして、あとはボヤケた感じ…』とアスカ

「レイ、右腕を動かすイメージをして!」とアスカの意見を踏まえて指示を出すリツコ

レイは言われた通りに右腕を動かそうとする、それに連動して模擬体の右腕も少しずつ動き始める

<<マギシステム、通常モードに移行します>>と言うアナウンスが流れる。それと同時にマギは三基の対立モードに入ってしまった

「………ジレンマか……作った人の性格がうかがえるわね」とリツコはそのマギの様子を見て呟く

「何言ってるの?マギ作ったの、あんたでしょう!?」とミサトは言う

「………私は、システムアップしただけ。基礎理論と本体を作ったのは母さんよ」と淡々と答えるリツコ

その二人の様子を後ろでじっと見ているシンジ

 

 

<同じ頃

第一発令所>

冬月とシゲルが所内の異変のチェックをしていた

「3日前に搬入されたパーツのようです。ここですね、変質を確認したのは」とディスプレイを見ながら言うシゲル

「第87タンパク壁か…」と冬月は答える

「B塔の工事はずさんですよ。これまでに同じような変質が他に8件確認されています」とシゲル

「仕方ないだろう。そこは、使徒の出現の後に着工したところだからな。みんな疲れてるんだよ」とマコトが後ろからシゲルにそう言う

「まあ、とにかく、すぐに処理しておいてくれ。碇に知れると面倒だからな。それと、一応、赤木博士とシンジ君には伝えておいてくれ」と命じる冬月

 

 

<再び

セントラルドグマ大深度実験施設コントロールルーム=プリブノーボックス>

タンパク壁の変質の報はここにも伝えられていた

「マヤ、どうしたの?」とリツコ

「はい、この上の第87タンパク壁で変質が見つかったそうです」とマヤは発令所からの情報を報告する

「それは、この実験に影響を与えそうなの?」

「いいえ、水漏れ程度のようです。実験の進行に問題はありません」

「そうなら、実験は続行よ。この実験はおいそれと止められる実験じゃないからね。司令にも昨日早くするように言われたわ」

「はい、わかりました」

<<シミュレーションプラグ、模擬体経由で零号機に接続。ATフィールド5ノットで発生>>

この零号機のATフィールドに反応するように、第87タンパク壁の変質個所から光点が発生し急激に発熱し始めた。そして、所内にそのことを告げる警報が鳴り響く

「どうした??!」と突然の事に驚きながら聞くリツコ

「シグマユニットAフロアーに汚染警報発令!第87タンパク壁が急激に劣化、発熱しています」と状況を報告するマヤ

「第6パイプにも異常発生!タンパク壁の侵食部が増殖しています!爆発的なスピードです」次々に飛び込んでくる情報をマヤは報告していく

急激な事態の変化に戸惑ってしまうリツコ

そこに後ろのほうで見ていたシンジがやってきて

「実験を緊急停止!第六パイプを切断、物理的に隔離してください!」と指示を出す

その指示通りに作業をする職員たち。パイプは隔壁により外とは隔離された。しかし、それでも侵攻は止まらなかった

「ダメです。侵食が壁伝えに侵攻しています。侵食、後30秒で来ます!」とマヤ

「ポリソーム展開!侵食部到達と同時にレーザー最大出力で食い止めてください」とシンジ

そして、侵食部が溶液に漬かった実験施設へと侵入してきた。その部分にレーザーが射出される。だが、それは、ATフィールドによって無効化されてしまう

「レーザー射出!………ダメです。ATフィールド発生!レーザー全て反射されました」

「ATフィールド?!……」とミサトはその事態に驚嘆している

「パターン解析、急いでください」とシンジ

「パターン照合。青です。使徒と確認されました」

「「「……………」」」何も言う事のできないメンバーたち

『きゃっ!!』突然レイの声が聞こえた

使徒は、模擬体にまで侵食していたのだ。それにシンクロしていたレイはその不快感に悲鳴を上げてしまった。模擬体の右腕はレイの意思に関係なく動き出した

「アスカとレイを緊急射出!危険を回避してください」とシンジ

アスカとレイの乗るプラグは地底湖へと射出されていった

そして、シンジは発令所へ連絡を入れた

『使徒の侵入を許したのか??!』と冬月の驚いた声が聞こえる

「すいません。僕がついていながら」とシンジが言う

『そんな事はかまわない。セントラルドグマを物理封鎖!シグマユニットと隔離しろ』

「はい、分かりました」

そして、シンジは呆然と見ているだけのリツコとミサトの手をつかむと

「リツコさん、ミサトさん。ここは放棄されました。急いで逃げますよ」とそのまま、出口を出て走り出した

それと同時に模擬体の攻撃によりガラスが破壊されそこに溶液が流れ始めていた

 

 

<再び

同本部内第一発令所>

突然の使徒侵入の報に困惑している職員たち。それに対して適切な命令を出している冬月

「シグマユニットの様子はどうなっている?」と冬月

「現在、全職員の退避及び隔壁の閉鎖を完了しました。セントラルドグマ・シグマユニットは完全に外部と隔離されています」とシゲルが答える

「そうか……使徒はどうだ?」

「今のところ、目立った動きは観測されていません」

と、そこに発令所後部の司令席がせり上がってきて、そこからゲンドウがやって来た

「警報を止めろ!今回の警報は誤報だと、日本政府及び委員会に伝えろ!」と指示を出すゲンドウ

「「はい」」その威圧感のある言葉に返事をする事しかできなかったシゲルとマコト

「赤木博士とシンジは、今どこにいる?」

「現在、セントラルドグマ=プリブノーボックスを脱出し、こちらに向かっていると思われます」とマコト

そのゲンドウの元に冬月が近づいていき声を潜めて言う

「場所がまずいぞ」と冬月

「ああ、アダムに近すぎる…それに、エヴァも汚染される危険性がある」とゲンドウ

「どうするのだ?」

「……問題ない」とゲンドウは言うとひそめていた声を上げて

「エヴァを地上に射出しろ!」と命令を出す

「しかし、パイロットがまだ到着していません」とシゲル

「パイロットを待つ必要はない!初号機を最優先だ!そのためには、他の二機を犠牲にしても構わん」

「…ですが……エヴァなしに使徒を物理的に殲滅する事は不可能です」

「その前に、エヴァが使徒によって汚染されて使い物にならなくなってはどうしようもがないだろう」

ゲンドウはしっかりとした考えを聞いたシゲルはこれ以上自分の意見を言っても仕方がないと思い

「はい」と返事をすると、初号機をはじめとしたエヴァ各機がジオフロントへと射出されていった

 

 

 

<同じ頃

同本部内セントラルドグマ機密ブロック>

加持が何かを調べる為に、動き回っていた。その頭上には赤い使徒の存在が確認できた

「あれが、今回の使徒か……」と頭上で赤く光っている物体を見て加持は言う

「これじゃ、仕事どころではなくなったな……まあ、調べそこなった事は後でシンジ君に聞くとするか…」加持はニヤリと笑いながら言うと、その場から逃げる為に搬出路に飛び移りそこから走り去った

 

 

こうして、ネルフ本部は初の使徒侵入を許したのである





後編へつづく


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