第九話 人の決意(前編)


 

 

 

 

<西暦2000年9月15日

南極地下実験施設>

この日、人類は今までに味わった事のないほどの災害を受けた

それは突然起きた。この実験のスポンサー組織より送られてきた一本の槍、それを南極で発見された巨大生物の胸へと突き刺した時である。その生物に変化が起こった

〔非常事態、非常事態、総員、防護服着用。第2層までの作業員は、至急セントラルドグマ上部へ避難してください〕と異常を告げる放送が鳴り響く

多くの作業員が放送通りに非難をしている中、その変化に対処しようとしている人物が数名いた

「表面の発光を止めろ!予定の限界値を超えているぞ!」

「ダメです。アダムにダイブした遺伝子は、既に物理的融合を果たしています。ATフィールドが全て解放されます」

「……槍だ。ロンギヌスの槍を引き抜け!」

「無理です。磁場が保てません!」

「沈んでいくぞ!」

「………わずかでいい、被害を最小限に食い止めるんだ!」

「構成原子のクウォーク単位で分解するんだ、急げ!」

「ガフの扉が開くと同時に、熱滅却処理を開始!」

「……何てことだ………歩き始めた………」

「地上からも、歩行を確認!」

「ほんの少しの間でもいい、奴自身にANTI ATフィールドに干渉可能な、エネルギーを出させるんだ」

「すでに変換システムがセットされている。無理だ!」

「カウントダウン、進行中」

「S2機関と起爆装置がリンクされています。解除不能です!」

「何だと!………誰が、そんな事を………」

「奴が、“ハネ”を広げて、外に出るぞ!」

 

そして、南極は死の大地となった。これが、セカンドインパクトである

 

 

その様子を、南極付近で見ている少女がいた

「……お父さん……」その目には涙がたまっていた

そして、額と胸のあたりからの出血も確認できた

 

地上に出た、“ハネ”はその実状とは異なり、美しいものだった

少女もそれを見ていた。絶望とともに……

彼女の名は、“葛城ミサト”

この時、彼女の人生は決まった。復讐と言う……

 

 

<2015年

第三新東京市ミサト宅>

ミサトは自室の布団の中からゆっくりと起き上がった。何かの決意を感じられる表情とともに

全身は汗だくだった

 

 

 

<ネルフ本部内総司令室>

ゲンドウはいつものように座り、その横には、これまた冬月がいつものように立っていた。そして、ゲンドウの前にはシンジが呼ばれて立っていた

そのシンジに視線を移すとゲンドウが話し始める

「シンジ、我々は明日、南極に行く!」

「南極?!」とシンジは驚いたよう(?)に言う

実際は何故この時期にゲンドウたちが南極へ足を運ばなければならないか、シンジは既に知っていた

「ああ、槍の発掘に成功した。老人たちより早く手に入れなければならない……分かるな?シンジ」とゲンドウは視線を上げシンジの顔を見るように言う

「まあね……でも、司令・副司令ともに行っちゃって良いの?こっちで、何か起きたらどうするの?」

「ふっ、問題ない。お前がいるのだからな!」

「まあ、そうだけど……」

「それに、葛城三佐や赤木博士もいるのだ。心配ない」

「はいはい、分かりました。こっちの事は僕に任せて南極にでもなんでも行ってきてください」

シンジは、そういっている間も思慮に入っていた

(予定通りだな……ニヤリ)とシンジは表情一つ変えずに心の中で呟いた

 

 

<数日前

同本部内シンジ専用研究室>

部屋の中には、司令室のとなりにある会議室よりは小さいが、ゼーレと話すためのサテライトミーティングルームが備わっていた(シンジが勝手に作った)

シンジが席につくと暗闇だったところから突然人の姿が5人現れた。それは、いつもの委員会のメンバーだった

「どうしたんですか?皆さん。碇ゲンドウを通さず直接僕を委員会に召集するなんて………何かあったんですか?」シンジは全員の表情を確認したながら言う

『ああ、槍の発掘が可能になった』と委員の一人が言う

「槍?………ロンギヌスの槍ですか?」

『そうだ』と返事をする別の委員

『我々は今、困っているのだよ。槍の処遇に……我々が直接管理した方がいいのか、それとも、ネルフに渡すべきかをね』

『碇君!君なら最も中立的な立場からその事について考えられるのではないかと思って、君を招集したのだよ』と最後のキールが語る

「そうですか…………分かりました。結論から言えば、槍はネルフに渡すべきでしょう。理由は、ゼーレのシナリオどおりに事を運ぶのならば槍はここになければ、最後の儀式が行えないからです」

『しかし、我々は、ネルフいや碇ゲンドウを信じていない。リリス・アダムともにそちらに渡した。これで槍まで渡してしまっては、切り札のほとんどを碇ゲンドウが握られてしまう事になる。それは困るのだよ』

「なるほど……ですが、それでは、シナリオを進める事が難しくなってしまいます」

『分かっている………』

「でしたら、もう少しは彼の事を信じてみてはいかがですか?彼に、“我々”ゼーレを裏切る行動力などあるはずがありません。それにもし、そのような事態になろうとしても、ここには僕がいるんですから、対処は可能です」

『………分かった。君の言う通りだな。槍の件はネルフに一任する事にしよう。では、以上だ。ご苦労だった』とキールが言うと暗闇から人影が消えた

シンジは皆がいなくなったのを確認するとニヤリと笑った

(これで、行動しやすくなる)

シンジはそう思うと、自分の仕事をはじめた

 

 

 

<ゲンドウたちが南極に発って数日後

同本部内第八実験室>

シンジたちチルドレン三人のシンクロテストが行われている。それは、いつものものと何ら変わるものではなかった

横のモニター室にはリツコやマヤなどがそのテストに立ち会っていた。そこに、ミサトが入ってきた

「3人の様子はどう?」とミサトは入ってくるなり言う

「見ての通りよ」とリツコは3人のテスト情報が表示されているディスプレイを指差して言う

「調子良いようね。特にアスカとレイの成績は目をみはるものがあるわね」と満足げに言うミサト

「はい、シンクロ率・ハーモニクスともにシンジ君に迫る勢いがあります」とマヤが言う

「そうね」とリツコ

「でも、それに比べるとシンジ君は最初にここに来てからあまり変わり栄えがしないわね」

「……ミサト、それ本気で言ってるの?」とミサトの何気ない一言に反応してリツコが言う

ミサトはそんなに深い意味で言ったわけではないので、このリツコの真剣な反応に驚く

「………まあ……」と申し訳なさそうに言うミサト

「あなたは本当に何も知らないのね」とリツコはミサトを小ばかにするように言う

「どういう意味?」とリツコの態度に反応し怒気をこめて言う

「そう言う意味よ……良いわ、教えてあげる。マヤ!シンジ君と初号機のシンクロパターンをグラフにして出して」とマヤに指示を出すリツコ

マヤは指示通りに行動すると前のディスプレイにグラフが表示された

それは、2本の波線グラフ

「これがどうしたのよ?!!」

「この2本のグラフを見比べて何か気がつかない?」と呆れたように言うリツコ

リツコに言われると、集中して2つを見比べるミサト

「…………あっ!この2つ波線が同一のパターンじゃない!」とミサト

「そうよ。やっと分かった」

ここまでいえば、ミサトもある程度エヴァについての知識はあるので、このことが何を意味しているかを理解できる

「シンジ君は、出そうと思えば、理論上の限界である200%以上のシンクロ率も出すことができるのよ。ただ、そうなったらどうなるか分からない。シンジ君はそう考えて、意識的にシンクロ率を抑えているのよ。過剰シンクロにならないように」とリツコ

「………そんな事できるの?」

「理論上、シンクロ率を自分の意識でコントロールするのは不可能よ。でもシンジ君は実際にそれをやっている…それ以上の事はないわ」

「………そうね……分かったわ」

 

数時間後

テストを終え、シンジ達3人もミサトたちがいるモニター室にやって来た

「ご苦労様。三人とも」とミサトが労う

「アスカにレイ!良く頑張ってるわ。シンクロ率・ハーモニクスともに今までの最高を更新しているわ」とディスプレイに映るシンクロデータを見せながら誉めるリツコ

「まあ、私が本気でやればこんなものよ。何時までもシンジの時代ではないって事ね」とアスカは嬉しそうに言う

レイは何も言わずに表面上も感情を表してはいないが、実際は嬉しかった

二人が嬉しい理由は簡単である。少しでも、シンジのシンクロ率に近づけばそれだけシンジの役に立ち、負担を減らす事ができるからである

誰もがこの二人の気持ちを知ってる為、シンジがわざとシンクロ率を抑えていると言う事は誰も言わない。それは、数少ないチルドレンの楽しみ(?)を奪う事になるかもしれないからである

シンジはその二人の様子を楽しそうに見ている

その時、突然警報が鳴り出した

そこにいる全員がそれに気がつくと、状況がわかりやすい発令所へと急いだ

 

 

<同本部内第一発令所>

急いで実験室からやって来たシンジ達。ミサトが発令所内でデータ収集・解析にあたっているマコトに聞く

「何があったの?!」

「先程、オーストラリア上空衛星軌道上に正体不明の物体が突然現れたとの情報が入りました」と事実だけを述べるマコト

「それで、それの解析結果は?」と今度はリツコが問う

「はい、パターン青。マギが使徒と判断しました」

このマコトの言葉を聞くと、そこにいた面々の表情が更に硬くなる

「それで、南極にいる碇司令はなんていってるの?」とミサト

「使徒の発する強大なジャミングによって、南極との通信は途絶したままです」とシゲルが答える

「……シンジ君、どうするの?司令・副司令がいないなら、あなたがここの責任者よ」とリツコが遅れて入ってきたシンジに言う

「ええ、分かっています………第一種警戒体制を発令。B級以上の勤務者をすぐに呼び寄せてください。それとすぐに使徒の詳細なデータを集めてください。対策はそれからです」とシンジは落ち着いた雰囲気で答える

そのシンジの雰囲気がその場の焦りと緊張感を和らげていた





後編へつづく


書き物の部屋


感想よろしかったらこちら
もしくは掲示板まで