第八話 静寂なる闇の底で(後編)
<第三新東京市内某所>
本日休みである、日向マコト二尉は、何故か理由はわからない(実際は、昨日頭を下げて頼まれたからであり、マコトが人がいいからであるが…)がその直属の上司である葛城ミサト一尉の為にその洗濯物をクリーニングセンターに取りに行っていた
そして、その時、この街で起きている異変に気づき始めていた
「まったく〜ズボラだよな。葛城さんも…自分の事ぐらい自分でやってほしいよ。せっかくの休みなのに……」と文句はいっているが表情は嬉しそうなマコト
「でも、どうしたんだ?!急に停電なんて、この街じゃありえない事だろう………何かあったんだろうな!」と周りの様子を見て言うマコト
この街=第三新東京市は、ネルフ(=マギ)が管理している街である為、こんな事はありえないはずなのである。マコトは一応ネルフに関わっているのでそれくらいの知識はあった
「とりあえず、本部へ行ってみるか………」
マコトは現在ジオフロントへとつづくモノレールの線路の上を歩いてネルフ本部へ向かっている
その時、上空にJSSDF(戦略自衛隊)とかかれたセスナ機が飛んできた
〔現在、第三新東京市に向かい正体不明の物体が急速で接近してきております。一般市民の方は万が一を考えて避難所へ避難してください〕とそのセスナ機から放送される
マコトはこの放送を聞くと、その正体不明物体が使徒であると推測し急いでこのことを本部に伝えなければならないと言う義務感をもつ。だが、電力は完全にストップしている為、街の主力交通機関であるリニアモノレールは動いていない。その為、急ぐに急げない状況だった
その困っているマコトの横を場違いの選挙宣伝カーが走っていた。この車は珍しくガソリン車だったため電力がなくなっても動いていた。この時代、いろいろな面(税制・性能など)でガソリン車より電気自動車のほうが良い為圧倒的にガソリン車は少なくなっていた
〔高橋覗をどうぞ、どうぞ、よろしくお願い申し上げます!〕とウグイス女が言っている
マコトはそれを見ると飛び乗って、ジャックした。
「緊急事態です。この車はネルフが接収します!これは、ネルフ特例第178条適用によるもので、拒否は許されません」と捲し上げるマコト
その姿は、いつものオペレーターの時には見せない凛々しいものだった
中に乗っているウグイス女と運転手は、マコトの言っている事の内容を理解していないようだが、マコトの言う事を聞く事にしたようだ
車はマコトの指し示すジオフロントへの地上口へと向かっていた
<国連軍府中特別総合警戒管制センター>
3人のうち1人が席を離れて政府と連絡を取っていた。それが終わり、再び席に戻ってきた
「統幕会議の連中め!厄介事は全てこっちにおしつけおって!」と席に座るなり叫ぶ
「政府は何て言ってきたんだ?」と一人が聞く
「第二東京の連中か?逃げ支度で忙しいそうだ!“この件の対処はそちらに一任する”だとよ」
「そうか………第三東京のほうはどうなった?」
「すでに現地にセスナを飛ばした。ネルフに伝わっているかはわからんがな……」
「そうか…………あとは結果待ちだな……」
結局は何もできない国連軍及び日本政府であった
<ネルフ本部内第一発令所>
ろうそくの明かりで照明を取っていた。空調も効かずにその温度は上がり気味だった
その発令所にどこからともなくマコトの接収した選挙カーがやってきた
『現在、第三新東京市へ使徒接近中!エヴァ発進の用有りと考えます』と選挙カーのマイクを使って報告するマコト
それを聞くと、発令所上部の司令席に座っていたゲンドウが“ふっと”立つとどこかへ歩き出した
「どうしたんだ?碇」とその横に立っていた冬月がそのゲンドウの行動に気がつきゲンドウに言う
「エヴァの準備をしてくる」
「エヴァの?何も動かんぞ!」
「問題ない!緊急用のディーゼルがある」
と言うとゲンドウはタラップを降りてエヴァのケージに向かった
(昔のお前はそうだったな、いつも、自分で行動していた………)とその姿を見て冬月は回想していた
<同本部内チルドレン待機室>
実験中、急な事態にここで待機することになった、レイとアスカ。二人の表情は回りの事態が分からないと言う不安と空調が効かない為の温度上昇による不快を表していた
「まったく!どうなってるのよ!」と手近にあったいすを蹴り上げながら言うアスカ
レイは座って何も言わない。しかし、表情から判断してアスカと同様のことを考えていると思われる
「シンジはどこ行ったのよ?!!」
このアスカの言葉にレイは“ピクッ”と反応を見せる。シンジの事が気になっているようだ
そこにチルドレンをよびに職員がやってきた
二人はその職員を“ギロ”と睨む。よほど虫の居所が悪いようだ
職員はそれにより今までの温度上昇による汗とは別の汗をかくが、何とか理性を保ち、二人にエヴァゲージへと来るように言った
二人はそれに無言で従った
その頃、ケージではゲンドウを筆頭に男の職員が総出で何もシステムが動かない中エヴァ出撃の準備をしていた
<再び発令所>
リツコを初めてする所員は皆、その暑さのため苛立っていた
「ミサトはどこに行ったの?まったく、こんな時に何やってるのよ!!」とリツコは現在そこにいない作戦部責任者=葛城ミサト一尉にその無駄な苛立ちを向けている
「マヤ!シンジ君の所在はまだ?!」
「は、はい。どうやら、所内及び第三新東京市市内にはいないようです」とリツコの苛立ちに対して怖がりながら言う
「それで、どこにいるの?!」
「げ、現在、調査中です」
「急いで頂戴!」
同じ頃、シンジは本部内のセントラルドグマで電力復旧の時を待っていた
そして、ミサトはエレベーター内で加持と一緒にいた。何かを我慢しながら………
よって、この二人が使徒殲滅の作戦に参加する事は不可能に近かった
<エヴァ専用ケージ>
レイとアスカはここに連れてこられたときには、エヴァの準備はほぼ完了していた
二人はその作業の様子を見ながらシンジが来るのを待っていた。二人にとってシンジはいて当たり前の存在でこのような使徒との戦闘時にいないというのはそれだけで充分にストレスであった
エヴァの横では先程来たリツコとゲンドウが話し合っている
「サードの所在は確認できたか?」とゲンドウはエヴァの準備をしたことによりかいた汗を拭きながらリツコに聞く
「いえ………ID使用の形跡より、第二東京に向かったと言う事までは分かったのですが……」と答えるリツコ
「そうか………仕方ない、今回はサード抜きでいくしかないな!赤木博士、ファーストとセカンドは?」
「すでにそこに待機しています」と指で方向をさして言う
「二人をエヴァに乗せて、地上に向かわせろ」
「はい」と言うとリツコはアスカたちの元へ向かった
二人はエントリープラグに入りエヴァに乗ると、その手と足を使って自力で射出口を上り地上に出た
相手の使徒は蜘蛛型で体の中央部から下に向かって溶解液をたらしていた。その溶解液で第三新東京市の各所に設置されているエヴァの射出口を溶かし、そこからジオフロントへと侵入しようとするのがこの使徒の考えた作戦であるようだ
零・弐号機は使徒を確認するとATフィールドを中和しつつパレットライフルで射撃した。それによって使徒はいとも簡単に倒してしまった
数時間後、ネルフ本部及び第三新東京市全域を襲った原因不明(公式発表)の停電は復旧した
セントラルドグマにいたシンジはいまだ残る混乱に乗じて、外へ出るとアリバイ工作の為、第三東京と第二東京を結ぶ列車が発着する中央駅に向かった
ちょうどその時間は第二東京からの政府専用特急が到着し、シンジはそれに乗っていることになっていた
シンジは駅のあたりをうろうろしていると黒服の男たちに囲まれた
「何かあったんですか?」とシンジは何も知らないと装って言う
「はい、総司令がお呼びです。至急、本部に来てください」とその黒服の中で最も階級の高い人物がシンジに向かって言う
「分かりました」と言いシンジは男たちについていった
<ネルフ本部内総司令室>
すでに内部は復旧され、エレベーター・照明など普段どおりに使われていた
シンジは案内されるまま、総司令室に入った。そこには、ゲンドウとリツコが待っていた
いつもいるはずの冬月は、細かい部分(実験設備など)の復旧の陣頭指揮をとっていた
「聞いたよ。大変だったんだってね」とシンジはさも今知ったかのように言う
「ああ」とゲンドウはそれに答える
「それで、僕に何か用?」
「ああ、第二に行ったそうだな」
「うん、大学時代の友人を訪ねにね。何か問題あったかな?一応、休暇願いは出しておいたけど………?」
「いや、それに関しては問題ない。ただ、今回の件、お前はどう思う?意見を聞きたい」
「どうって………それは、委員会か日本政府の差し金がネルフ及び本部内の機密情報を目的に行った事なんじゃないの。それくらい、僕に聞かなくても見当ついているんじゃないの?」
「ああ、我々もそう考えている…………分かった、ご苦労だったな。下がって良い」
ゲンドウにそう言われ、シンジは部屋を出て行った
そのシンジの後ろ姿を“ジッ”と見ているゲンドウ
そして、その部屋にはゲンドウとリツコの二人だけになった
ゲンドウの表情は苦渋に満ちていた
<同本部内シンジ専用研究室>
シンジは今回の事件の詳細な報告書に目を通していた。そこには、今回の停電騒ぎにおけるネルフ内部の協力者と目される人物を監禁し事情を聴取しているとの記載があった(本人は日本政府とのつながりは認めているが、今回のマギの操作などの件は否認している)
それは、加持からの情報をもとにシンジが作ったスケープゴートであった
シンジはそれを見てニヤリと笑った
(今回の件は例の物は見つけることができなかったけど、それ以上の収穫があったな………ねっ、リツコさん……)とリツコの事を思い浮かべながらシンジは思う
(委員会には、一応報告しておくか。あまり連絡しないと不信がられるからな……)
シンジの笑みは止むことがなかった