第七話 火口
<ミサト宅>
シンジは雑誌を見ながらくつろいでいた。そこに、アスカがやって来た
「シンジ?」と声をかけるアスカ
「何?」と雑誌からは目を離さずに答えるシンジ
「明日なんだけど、何か用事ある?」
「明日…………特に何もないと思うけど、何で?」
「買い物に付き合ってほしいんだけど」
「買い物?……良いけど」
「本当?」
「ああ」
「やった〜!!」と大げさに喜ぶアスカ
「ところで、何を買いに行くの?」
「それは、行ってのお楽しみ」とアスカは楽しそうに言うと出て行った
<翌日
第三新東京市内とあるデパート>
アスカは自分の腕をシンジの腕に絡ませて、楽しそうに歩いてる
「やった〜、シンジとお買い物」とアスカ
「でっ、なに買うの?」とシンジは聞く
「こっちよ」とシンジを引っ張って目的地に向かった。そこは、水着売り場だった
「えっ、ここ?」と戸惑うシンジ
「シンジはここで待ってて」と言うと絡ませていた腕を解いて水着を探し始めた
シンジは顔を赤くしながらその様子を見ていた
その後、気に入ったのがあったのか、アスカは試着室に入ると着替えてでてきた。そして、シンジにその姿を見せる為近づくと
「どう?似合う?」とシンジに聞く
シンジは赤くしていた顔を一層赤くすると
「う、うん」と一言言った
「そう、じゃあ、これにするわ」とまた試着室に入るアスカ
その後、自分が水着の代金を出すと言うアスカを制してシンジが代金を支払った
<同所屋上>
水着の後色々なところを回り、疲れたので、ここで休んでいた
シンジはクリームソーダをアスカはチョコレートパフェを食べていた
「でも、どうして急に水着なんて買いに来たの?」とシンジ
「何いってんのよ、あんた。今度、修学旅行じゃないの!」
「あっ、そうだっけ」と言うとシンジは納得するが何故か暗い顔をする
「そうよ。まあ、あんた、忙しいから、忘れてると思ったわ」
「楽しみ?」
「ええ、もちろんよ。私、こんな事経験した事ないからね」と本当に嬉しそうに言う
そのアスカの様子を見て、さらに顔を暗くするシンジ
そのシンジの変化に気がついたのか、アスカがシンジに聞く
「どうしたの?」
「なっ、なんでもないよ。さあ、もう帰ろう」とシンジは荷物を持ち、アスカの手をつかむとそのまま歩いて帰っていった
<その日の晩
ミサト宅>
ミサトは本部から帰ってくると、アスカをからかい半分に呼んだ
「アスカ。今日、シンジ君とデートしたんだって?」とからかうミサト
「残念ながら、そんなんじゃないわ。ただ、水着の買い物に付き合ってもらっただけよ」と少し顔を赤くして言うアスカ
「水着?何でそんなもの?」
「何言ってんのよ、ミサト。今度、修学旅行があるじゃない。それで、沖縄行くから、新しいの買っとこうと思って」
「…………修学旅行?……………ごめん、それ行けないわ」とミサトはすまなそうに言う
「………どうして…?」と今までの楽しそうな顔が一変した
「それは……ほら、作戦があるじゃない。あんたたちがいない時に、使徒が来たら困るでしょう」
「…………」確かにミサトの言っている事が正論だとアスカにも分かった為何もいえなかった
そのアスカの様子を見ていたシンジがアスカに近づいて言う。シンジは、あの屋上での会話でこうなるであろうと予想していた
「アスカ。そんなに気を落とさないでよ。また、チャンスがあるからね」
「…………そうね!でも、せっかく買った水着、無駄にはできないわね。ミサト、ネルフのプール今度開けといて」と急になぜかを分からないが元気付くアスカ
それを見て安心するシンジとミサト
数日後、ネルフのプールで一生懸命に遊ぶアスカ・レイ・シンジの姿が確認されたと言う
<ネルフ本部内第二会議室>
浅間山の火口内を調査している地震観測所より、正体不明の影を確認したとの報告を受け、その事への対応を協議する為にシンジ・リツコ・マヤ・冬月・シゲルの五人が集まった
「(これは使徒かそれとも違うものか)どう思う?」と切り出す冬月
シンジは渡された資料に目を通しながら
「確かに無視できる状態ではありませんね。マギは何て言ってます?」とシンジ
「情報不足の為、判断不能を提示されました」とマヤはマギの判断を伝える
「まあ、そんなとこでしょうね。リツコさんは、どう考えます?」
「そうね。私もマギと同じね。これだけでは情報が足りないわ」とリツコは自分の意見を言う
「現地には誰が行ってるんですか?」
「葛城一尉と日向二尉が向かっています」とシゲル
「そうですか、それでは、向こうから詳細な情報が入るまで判断は保留にしましょう。それと、一応、エヴァの準備をしておいてください。最悪の事態を考えておかなければなりませんから」とシンジが今できうる最良の判断を下した
<浅間山地震観測所>
ネルフ本部より、火口の状況を調査する為に、ミサトとマコトがここにやって来た。現在、無人探査機(バチスカーフ)により、火口内部の詳細な調査が行われている
「どう、日向君?」とバチスカーフを操作し情報を収集しているマコトに状況を聞くミサト
「…反応ありませんね。(不審物存在地点まで)まだだと思われます」
「そう、では、沈降続けて!」
〔深度1200、耐圧隔壁に亀裂発生〕と地震観測所のオペレーターが言う
「葛城さん!!」と同所所長がバチスカーフの損壊を心配して不平をミサトにもらす
「壊れたら、うちで弁償します」とミサトが返した
その直後、バチスカーフのセンサーに反応があった
「センサーに反応を確認。解析開始」とマコト
その様子を真剣に見ているミサト
「………パターン青!使徒と確認!」とマコトが宣言した
それと同時に
〔観測機圧壊!爆発しました〕との報告も入った
火口の不審物が使徒と判別されると、ミサトはすぐに自分の携帯を取り出し、ネルフ本部へ連絡を入れた
<ネルフ本部内リツコ専用研究室>
作業をしていたリツコに直通の守秘回線でミサトから連絡が入ってきた
『………と言うことだから、司令にA−17の発令を要請して』とミサト
「A−17!?本気なの、ミサト?」とリツコ
『そうよ!じゃあ、頼んだわよ』と一方的に言うと切ってしまうミサト
この部屋には、リツコだけではなく、シンジもこの件の対策の為ここにいた
「A−17ですか。さすがですね、ミサトさんは。僕と同じ考えですよ」とシンジは言う
「でも、司令や委員会がすんなり了承するとは考えられないわ」
「そうですね。確かに危険ですからね。でも、これは僕たちにとってはチャンスですよ」
「チャンス?」
「ええ、今、アダムが父さんの、槍がゼーレの手の中にあります。ここで、使徒の幼生体を手に入れることは、これからの展開を考えれば、僕たちにとって有利に働くでしょう」と少し声を下げて言うシンジ
「それは、そうだけど………」とシンジと同じように話すリツコ
「大丈夫です。父さんと委員会の方は僕が説得します。リツコさんはエヴァの準備をすすめておいてください」
「……………分かったわ」
とリツコが言うとシンジは部屋を出て行った
<同本部内総司令室>
シンジはここに来ると事の次第を説明し、A−17(使徒の捕獲を最優先とした作戦計画)の発令をゲンドウに助言した
「ダメだ!危険すぎる」とゲンドウは言った。それは、シンジが予想していた答えだった
「だけど、使徒の幼生体サンプルの重要性は分かりきってるはずだ」とシンジは説得する
「だが………失敗したら………」
「それは、任せてよ。完璧な計画で失敗なんて絶対に起こさないから!」とシンジはいつになく真剣に言う
「…………分かった。おまえを信じよう」と少し考えた後しぶしぶシンジの案に了承した
「ありがとう。父さん」というと部屋を出て行った
そのシンジの後ろ姿を見ながらゲンドウは何かを思っていた
<同本部内第二会議室>
A−17の発令が正式なものとなり、それについての事が説明されていた
「今回の作戦の概略を説明します。エヴァ耐熱・耐圧・耐核防護専用のD型装備を着用し、使徒のいると想定される深度まで潜りそれを発見しだい電磁キャッチャーで捕獲します」とマヤが手に資料を持ちながら言う
「で、誰が担当するの?」とアスカは聞く
「アスカ、あなたにやってもらうわ?」とリツコが答える
「えっ?私?」本当はシンジがやるものだと思っていたアスカは驚きを隠せなかった
「そうよ。今回の作戦で用いるD型装備は弐号機専用なのよ」
「そう、分かったわ。じゃあ、シンジとレイは本部で待機?」
「いや、僕は地上で弐号機のサポートする事になってるよ」と隣にいるシンジが答える
そのことを聞くとアスカは多少安心したようだ(レイは少し不機嫌そうな顔をしたが……)
「アスカ、今回の作戦は使徒の捕獲が最優先だけど、自分の身が危険だと思ったら何しても良いからね」
「大丈夫よ。任せなさい、シンジ」
「さあ、A−17が発令されたら、すぐに出るわ。準備して!」とリツコが最後をしめた
それを聞くと、そこにいたシンジとリツコ以外の人物は出て行った
他に誰もいなくなるのを確認すると、リツコが言う
「よく、司令をこの短時間で説得できたわね」と小声で話すリツコ
「あの人は、自分では独自の考えを持っていると思ってるけど、結局は僕かあなたの意見を鵜呑みにしているだけなんですよ。だから、僕が“大丈夫だ”と言えば納得するのさ」とシンジ
「でも、委員会の方はどうするの?」
「時間もありませんし、事後承諾と言う形にしましょう」
「それは、問題あるんじゃないの?」
「大丈夫ですよ。あの老人たちが何を言っても、この状況で僕たちに何かできるわけもないんですから」と余裕風に言うシンジ
そのシンジの様子を何を言うでもなくじっと見るリツコ
<弐号機専用特殊ゲージ>
弐号機の準備が進む中、アスカの準備も同様に進んでいた
「アスカ、このプラグスーツを着て!」と赤いプラグスーツを手渡しながら言うリツコ
アスカは、言われたままにそれを着た。それは外見的にはいつも着ているものと変わらなかった
「なんだ、耐熱用の特別仕上げといっても変わらないじゃない」とアスカはそれを着た感想をもらす
「右のボタンを押して」と更に指示をするリツコ
そして、また同じようにリツコの指示に従いその右のボタンを押すとスーツが“ぶくぶく”と膨れてきた。その姿はまるでダルマのようだった
「いや〜、こんなの着たくない」と当然拒否の反応を取るアスカ
「弐号機の準備もできてるわよ」ととどめを刺すようなことを言うリツコ。その弐号機の姿はぬいぐるみの熊のようなものだった
「なによこれ〜!いや〜、絶対に嫌」当然の反応である
「困りましたね〜」とアスカの反応を見てマヤが言う
「そんな事言うなよ。これは全部アスカの命を守るためのものなんだから。頼むよアスカ」とシンジが諭すように言う
そのシンジの言葉にアスカはしぶしぶ承諾する
「………分かったわよ」
<数時間後
浅間山火口>
ネルフ本部より空輸で初・弐号機が到着し、その周りでは作戦の準備が進んでいた
<同火口臨時発令所>
ここでは、マコトやマヤがこれからの作戦の準備の為に仕事を進めていた
「レーダー打ち込み終了」とマコト
「そう、作戦開始まであとどれくらいかかりそう?」と後ろでコーヒーを飲んでいるだけのミサトが言う
「30分以内には火口に沈降を開始できそうです」とマコトはこたえる
その時上空に爆撃機の飛行音が聞こえた
それに気づいたのか、弐号機内にいるアスカが言う
『ミサト、あれ何?』と爆撃機をさして言う
「UNの空軍よ」とそっけなく答えるミサト
『何?私たちのこと手伝ってくれるの?』
「違うわ、後始末よ」と今度はミサトではなくリツコが資料に目を通しながら言った
『どういうこと?』
「計画が失敗したら、私たちごとご自慢のN2爆雷で熱処理するのよ」
『えっ……誰がそんな命令出すの?』
「碇司令よ(司令は私たちのことを全く信頼していないのよ)」
『……………ところでシンジは?』と嫌な事を忘れるようにシンジの事を聞く
「シンジ君?そういわれれば、連絡がないわね。日向君、シンジ君の状況はどうなってるの?」とアスカに聞かれミサトがマコトに言う
「はい、それが…初号機は特別守秘回線でどこかと連絡を取っているようです」
『「特別守秘回線??」』
「はい」
「こんな時に、どこと?」とミサト
「検索不能です」
「今は作戦行動中なのよ、すぐに回線に割り込みなさい」
「無理よ。この回線はマギの管理下なの。特別なパスコードがなければ割り込むなんてことできないわ」とリツコが言う
その時、回線が切れ初号機と臨時発令所が繋がった
「シンジ君、何をやっているの?!」とシンジにミサトが言う
「すみませんでした。すこし、私用がありまして」とシンジは軽く受け流した
そして作戦の準備が終了した
「葛城一尉!準備終了しました」とマコトが報告する
「分かったわ。アスカ、準備は良い?」とミサトが聞く
『ええ、いつでもバッチリよ』
「では、A−17に基づく使徒捕獲計画開始。弐号機を沈降させて!」
こうして作戦が始まった
<同火口内>
灼熱のマグマの中を弐号機一体がケーブルにつなげられ沈降している
『アスカ、どう?』と発令所内にいるミサトが言う
「視界はゼロ。何も見えないわ。CTモニターに切り替えます」と言うとアスカは弐号機のセンサーを調整した
その状況を火口で静かに見ているシンジ
『深度1200、安全保障深度オーバー』とマヤが報告する
『そう、アスカ、状態は?』とミサト
「まだ、大丈夫よ」とその熱に多少無理をしながら言う
弐号機は更に使徒に近づく為に深度を下げていった
『深度1380、目標想定地点です』とマコト
『アスカ、準備して、そろそろよ』
「分かってるわ………」
アスカは使徒を捕獲する態勢を整えるが、センサーにはその反応がなかなか現れない
『どうしたの?』その緊張感に耐え切れずにミサトが切り出す
「いないみたい……」
『日向君?どういうこと?』
『どうやら、目標の速度に誤差が生じたようです』
『じゃあ、再計算急いで!再度沈降開始』とミサトは的確に指示を出す
『深度1420、安全深度プラス220』
その時、“バチッ”と言う音ともに弐号機は脚部に付けていたプログナイフを落としてしまった
『弐号機、プログナイフ喪失!』
「ちょっと、どういうことよ!!」とアスカが文句をいう
『設計ミスね』とミサトはリツコに向かって言う
『ええ、そのようね』と他人事のように答えるリツコ
『深度1780、目標再想定地点です』
『アスカ!』とミサトは一言言う
「………いた」
弐号機のセンサーに反応があった
『いい、アスカ。こっちも目標も対流に流されているわ。よって、チャンスは一度しかないわよ』とリツコが言う
「ええ」
『アスカ落ち着いて、しっかりとね』と初めて火口にいるシンジから連絡が入る
弐号機はその手に持っている使徒捕獲用電磁キャッチャーを開くと目標に一直線で向かった
そして、無事その中に使徒を捕獲した
『ナイス!アスカ!』とミサトは喜ぶ
そのミサトの姿を見て
『緊張した?』とその横にいるリツコが聞く
『当たり前よ。一つ間違えればあれの二の舞だもの』
『ええ、そうね。二度とごめんだわ、セカンドインパクトは………』
作戦が無事終了したとあって発令所内は先の緊張感もかなりなくなっていた
だが、それも長くは続かなかった
「きゃあ」弐号機から突然悲鳴が聞こえた
それに気がつくとミサトが
『どうしたのアスカ?!』と叫んだ
リツコは冷静に送られてくるデータを見て判断した
『羽化をはじめたんだわ』使徒はキャッチャー内でそれから出ようと中から圧力を加えていった
ミサトはどうにか対応しようとする
『キャッチャーはもちそう?』
『とてもじゃないですが、もちません』とマコトが否定する
マコトの言葉を聞くとミサトはすぐに次の指示を下した
『分かったわ。キャッチャーを破棄し捕獲作業を中止!撤収作業をしながら戦闘準備』
アスカは“待ってました”とばかりにミサトの指示通りに行動した
そして弐号機はプログナイフを取ろうと手を脚部に伸ばした。しかし、ナイフは先程消失した為、そこには無かった
「しまった!ナイフが無い。さっき落としたんだわ!」とアスカは言う
そのアスカの言葉にシンジは反応し
『アスカ!今、初号機のナイフを上げるよ』と言うと火口から弐号機のいる底へとプログナイフを投げた
『ナイス、シンジ君』とミサトはシンジの行動に対して言う
だが、火口から現在の弐号機のいる地点まではかなりの距離があるため、すぐにはナイフは到達しなかった
その隙に、羽化した使徒は、完全体に移行し弐号機へと攻撃を開始しようとした
アスカはそれに対して、弐号機につけている重りをはずす事によって、タイミングをずらすなど、ぎりぎりのところで避けていた。しかし、それも限界になり、とうとう、使徒に捕まってしまった
そして、同時に火口から初号機が投げたナイフも到着した
弐号機はナイフを装備すると、使徒に突き立てた。だが、全く効果が見られない
『ダメだわ。この環境に耐えられるのよ。プログナイフ程度の攻撃では歯が立たないわ』とリツコはそれを見て言う
使徒は更に弐号機への攻撃を強めた。そして、その弾みに、弐号機をつるしていたケーブルの一部が切れ、その中を循環していた冷却液が外に漏れた。
使徒は偶然にその冷却液に触れた。その途端、使徒は少しの間苦しもがいた
初号機内からその使徒の反応を見ていたシンジはあることに気がつくと、アスカに叫んだ
『アスカ!熱膨張だ!』と。
アスカはその一言でシンジの言いたい事に気がつくと
「なるほど」と言い、自分で弐号機のケーブルを半分切り裂いた
発令所にいたリツコもこの二人の行動だけで、何をしようとしているかを理解し
『冷却液を全部3番にまわして!』と指示を出した
この結果、冷却液は3番ケーブルから集中して出され、それが使徒に直撃した。使徒は苦しみながら少しずつその姿を維持できないようになっていった。弐号機はその使徒にとどめをさすように、ナイフをコアへと突き刺し、消滅していった
こうして、使徒は殲滅されていった
そして、アスカ・ミサト・オペレーターたちは安堵の表情を浮かべた。しかし、リツコは面白くなさそうに引き上げられてくる弐号機の映像を見、シンジは初号機内で考え事をしていた
<数時間後
浅間山近くの某温泉旅館>
今回の作戦成功のご褒美と修学旅行に行けなかった代わりということでここで温泉につかって疲れを取る事になった
<女湯>
中にはアスカとミサトが二人だけで露天風呂につかっていた
「なんで、シンジは帰っちゃったのよ!」と文句を言うアスカ
シンジは、作戦終了後すぐに本部へと召還されてしまったのである
「そんな事、知らないわよ!」とこちらも少し怒っているように思われるミサト
今作戦のシンジの不審な行動に自分には知らないことがあると思い、その事に対して怒っているのであろう
その後、二人は怒りがおさまると、きれいに出ている夕日を見ながら、お風呂に入っている
その時、アスカは、ミサトの胸にある、傷をチラチラと見ていた。ミサトはその視線に気がつくと
「この傷が気になるの?」とアスカに尋ねる
「そ、そんな事は無いわよ」と嘘とすぐにばれる嘘をつくアスカ
「良いのよ。この傷はね。セカンドインパクトの時少しあってね。別に隠すことでもないんだけど………」とまで言うと言葉に詰まるミサト
「そんな事、私には関係ないわ」とミサトを気にしてそれ以上話させないようにするアスカ
アスカはそう言うと、視線を夕日に移した。そして、ミサトに言う
「私の過去、知ってるんでしょう?」
「ええ、シンジ君から聞いたわ」
「そう………」
「お互い大変ね」とミサトは誰に言うでもなく空に向かって語った
<ネルフ本部内
サテライトミーティングルーム>
ゼーレ=委員会の承諾なしにA−17を発令しそれを行動に移したことへの喚問がシンジに行われていた。暗い部屋の中に委員たちは円を作るように座りその真中にはシンジが立っていた
『どうして、我々の承認なしに勝手に行動に移した。今回の件の危険性は君も充分に把握しているのではないか??!!』
「今回は、作戦の緊急性と重要性をこちらで独自に判断し動きました。危険は分かっておりましたが、それ以上の利益を優先しました。あなたがたも、使徒の幼生体サンプルが手に入ればどれだけ有用か、お分かりのはずです」とシンジは説明した
『しかし、君たちネルフは、我々の下部組織だ。重要案件を我々の許可なしに行うなど、あって良いわけが無い!君たちは我々を裏切るつもりかね?!』
「それに関しては、確かにその通りではありますが、使徒の総合的な処理に関しては我々に一任されているはずです。今回は、その権利を流用したに過ぎないのです。我々はあなた方の作ったシナリオ内でのみ行動をおこしているつもりです」とシンジはまた受け流すように言う
『君たちネルフの言い分は良く分かった。どうやら、今回の件において、手順は間違えていたが、判断は間違っていないようだ。使徒を殲滅したのだからな!よって、今回は事後承諾と言う形ではあるが、A−17の発令を承認しよう。以上だ』とバイザーをつけたキール議長がまとめた
「ありがとうございます。キール議長」と頭を下げて言うシンジ。しかし、その表情はニヤリと笑っていた
そして、他の委員たちはまだ言い足りないようだが、キールにこういわれては仕方が無く、一人一人消えていった。
そして、最後にキールがシンジを“ジロッ”と睨むと消えていった
この喚問会は予想以上に簡単に終わってしまった。それには、理由があったのである
実は、作戦が行われる前、初号機内における特別守秘回線でシンジがキールに今回の件についての話をつけてあったのである。つまりこの会議は形式的なものに過ぎなかったのである