第五話 アスカ到着(前編)
<ネルフ本部内総司令室>
シンジはゲンドウに呼ばれてここにやってきた。中に入ると、そこにはいつもの体勢で座るゲンドウとその横に立つ冬月がいた
「何かよう?父さん」とシンジは入って来るなり言う
「シンジ、弐号機とセカンドが今日ドイツから届く」とゲンドウ
そのゲンドウの言葉が意外だったのかシンジは一瞬置いて話す
「そんな事聞いていないよ。それに、この前話し合ったじゃないか。アスカと弐号機は予備としてよほどの事態にならない限り呼ばないって…!」と語尾は怒りを込めて言うシンジ
「それはわかっている。しかし、委員会がエヴァの利用について文句を言ってきたのだ。今、委員会に反する事を行うわけにはいかない。分かっているだろう、シンジ」
「………………分かったよ。ところで、僕を呼んだ理由は何?まさか、それを告げるためってだけじゃないだろうね?」としぶしぶ納得するシンジ
「弐号機・セカンドとともに例のものも輸送されてくる。加持君に任せてはいるが何かあったら問題だ。迎えに行ってくれ」
三人の前にあるモニターには何かが映し出されているが、部屋が薄暗くてよく分からない
「分かったよ。でも僕一人で行くわけにはいかないんじゃないかな」とシンジは返事をする
それは、何かあったときにシンジが部外者の前で対処するわけにはいかないからである。シンジに関する事は極秘扱となっている
「それは、問題ない。葛城一尉をつける」
「そう。それなら大丈夫だね。じゃあ、僕は準備があるから行くよ」と言うと退室していった
その後ろ姿を見、出て行くのを確認するとそれまで一言も語らなかった冬月が言う
「碇、おまえももう少し、自分の気持ちを正直に話してはどうなんだ。今回のセカンドの件、シンジ君のためなんだろう!」
その冬月の発言をニヤリと薄笑いを浮かべながら聞くゲンドウ
<太平洋上空>
シンジとミサトはVTOLにて目的地である太平上に浮かぶオーバーザレインボーと呼ばれる旧世紀の空母へと向かっていた
ミサトは窓から下を眺めながら言う
「良くあんな老朽艦が浮いてられるわね。早く、ぶっ壊しちゃえば良いのよ」本当は他に予定が入っていたのに総司令命令でこんなところまでこなければならなくなったことに対する愚痴も含まれていた
「何を言ってるんですか、ミサトさん。あれはあれで充分趣があっていいじゃないですか」とシンジはミサトの発言を言葉どおりに受けとって答える
その後、シンジは何か思慮に入りながら外の風景を見ていた
<太平洋上オーバーザレインボー>
シンジたちの乗るVTOLはその看板へと無事着陸をした。最初に機から降りたのはミサトであった。その後ゆっくりとシンジが降りてきた
その甲板上は海特有の強風が吹いていた
ミサトはそのまま歩き出した。そして、その方向には一人の美少女と呼ぶにふさわしい人物が仁王立ちしていた。シンジは、その美少女からミサトの陰となるように歩いていたので、美少女からはシンジの事が確認できなかった。
「久しぶりね、アスカ。だいぶ女っぽくなったじゃない。好きな人でもできた?」とミサトはその美少女=アスカに話し掛ける
「あんたは、老けたんじゃないの。ミサト」とアスカは先からの仁王立ちを崩さずに言う
その時強風がアスカのスカートを捕まえると巻き上げていった。それとともに中身が一瞬ではあるが露出した。アスカは慌ててそれを元通りに戻すと、ミサトの後ろに隠れている(アスカにはそう見えた)男(シンジ)にスゴスゴと近づくと、その人物が誰であるかも確認せずに男(シンジ)に向けてビンタを飛ばした。下着を見られたのが恥ずかしかったのでそれを隠す為の行動に出たようだ
しかし、そのビンタは空を切った。そのことにアスカは驚いた。アスカのビンタをよけた男は今までこの世には二人しかいなかったからだ。一人は、今アスカのボディーガードをやっている加持リョウジ、もう一人はこの碇シンジである
シンジはそのアスカの行動を見ると
「どうやら、変わってないようだね。アスカ」と笑って言う
アスカはその言葉を聞くと“はっ”としその男の顔を確認した。そして、そのまま抱きついてしまった
シンジはアスカのその行動に少し困った顔をすると
「久しぶりだね、アスカ」と先と同じように言う
「………………」シンジに抱きついたまま何も言わないアスカ
そのアスカとシンジの様子を見ていたミサトは
「あなた達、知り合いだったの?………まあ、この状況を見れば聞くまでもないか……」と驚きつつも面白がりながら言うミサト
「はい、ちょっと前にドイツで………それよりも、アスカ離れてくれる?!」とシンジは言うと少し強引に引き離した
そのアスカの目には涙がたまっていた
「シンジ〜…………どうして、私のところからいなくなったのよ?!!」
そして、アスカはまたシンジに抱きついてきた。アスカの言葉にその場にいたミサトはあらぬ疑いをシンジへと向けた
その後、シンジは何とかアスカを落ち着かせて、ミサトにドイツでのアスカとのことを説明した(ある程度ミサトに明かせない事をうまくごまかしながら)
【その時、シンジはゲンドウに対して殺意を抱いたと言うソース不明の情報も入っている】
<オーバーザレインボー操舵室>
ネルフ代表の挨拶として、その艦の艦長に会う為にそこへと向かった
そこには、いかにも嫌そうに艦長と副艦長が立っていた
ミサトはズコズコとその中に入っていくと、自分のIDをその二人に見せつけた
「これはこれは、ただの引率のお姉さんだと思ったら、こちらの勘違いだったようですな」とそのIDを見ながら言う艦長
「それと、これが領収書と海上使用及び引渡し許可書です」と続けさまに見せつけるミサト
「何を言っている、あれをここで使うとは聞いていないぞ!それにここでのあれの所有権は我々にある!」と怒鳴る艦長
その言葉に少し怒りをおぼえながら
「では、何時引き渡してくれるのですか?」と我慢して言うミサト
「新横須賀陸揚げ後だ!」
「わかりました、それでいいでしょう。しかし、有事の際はネルフの権限が優先されるのをお忘れなく!」
とミサトがカッコよく決めると、後ろの扉から気の抜けた声が聞こえてきた
「凛々しいな、葛城」その男はそう言うとそのまま入ってきた
「加持さん!」とまずアスカがその男の名前を口にする
「なにっ、加持?」と驚き半分後悔半分の表情を浮かべながら言うミサト
シンジはその姿を確認すると
「加持さん、お久しぶりです」と一人しっかりと挨拶する
「よう、葛城にシンジ君、久しぶり」と男くさい笑いを浮かべたその人物=加持は言う
その後、活動停止をきたしたミサトを抱えてその操舵室を出て行く4人
<同艦内仕官食堂>
ミサトは加持を見てしばらくすると意識を取り戻した
食堂の席に向かい合って座ると、ミサトが加持に言う
「何でアンタがここにいるのよ!」険悪な雰囲気が漂ってくる
「アスカのボディーガードだからな。こないわけには行かないだろ。それにしても、久しぶりだな、シンジ君」と加持
「はい、お久しぶりです、加持さん」とシンジは横目でミサトをチラッと見ながら言う
その横ではミサトがブツブツと独り言を言って
「そうだわ。アスカが来るんだったら、こいつも来るなんて……どうして気が付かなかったの……」と自問自答を繰り返していた
アスカは何も言わずにシンジをじっと睨みつけている
そのアスカの様子を確認して加持が
「大変だな、シンジ君」と一言言う
「お互い様ですよ」とシンジ
「シンジ君、少し二人だけで話したいことがある。来てくれるかい?」
「ええ、それは良いですけど………」とチラッとアスカを見て言う
加持はそのシンジの様子で察するとアスカに言う
「アスカ、俺はこれからシンジ君と話したいことがあるんだ。悪いが、ここでミサトと一緒に待っていてくれないか?!」
アスカは加持の言葉に無言で頷くと、シンジの事をもう一度ジロッと見た。
シンジはこの時強烈な寒気を感じたと言う
<同艦内加持の私室>
二人は誰にも見つからないように部屋に入ると加持がドアにロックをかけた
シンジは部屋に入ると何かを気にするように部屋中を見渡した。その行動に気が付くと加持は
「大丈夫だ。この部屋には盗聴器の類はない。既に検査済みだ」と言う
「そうですか………ところで、例のものは?」とシンジ
加持はシンジのこの発言を聞くと部屋の奥の方から一つのトランクを出してきた
「ここに保管してある」
シンジはそのトランクを確認し手に取ると加持に聞く
「中身、見て良いですか?」
「良いけど…中身を見るには司令の指紋キーが必要だぞ」
シンジはトランクのロックのところに指をあわした。そうすると、ピッという音とともにトランクのロックが外れた。そして、開くと中身を確認した。そして加持に言う
「分かりました。間違いなく本物のようですね。すみませんがこれをもって、早くこの艦から逃げてください」とシンジは再びトランクをロックすると加持に渡して言う
「どういうことだ?」
「多分、これを狙って使徒が来るでしょう。そのとき何かあったら大変ですからね」
この例のものと使徒が接触する事は大変危険だと言う事をシンジと加持は認識していた
「分かった……ところで、シンジ君はどうする?」
「僕はここに残って、アスカのサポートをします。アスカ一人では心配ですし…」
「そうか…………」
「加持さん、今のことは他言無用ですよ。では、僕はアスカが何か言いたそうだったので、行ってきます」
今の事とは、シンジが勝手にトランクのロックをはずし中身を見てしまったことである
「ああ、分かってる………それと、アスカのことを頼む。あれでも妹みたいなものだからな」
「はい」と一言言うと部屋を出て行った
加持は一人誰もいなくなった部屋でタバコに火をつけていた
シンジはアスカに会う為に先にいた仕官食堂に戻ってみるがそこには既に誰もいなくなっていた。
<同艦甲板上>
アスカはここで一人風にあたりながら物思いに耽っていた
「シンジ…………」と呟くアスカ
シンジはそのアスカの姿を探してやっとここで発見した。後ろから近づくとアスカの名前を呼ぶ
「アスカ?」
アスカはそれによってシンジの存在に気がつくと、そちらを向いた。その顔は涙に濡れていた
「シンジ?………」
「アスカ、元気にしてた?」とわざと元気よく声をかける
「………“元気にしてた”じゃないわよ!今まで、どこに行ってたのよ」と泣いていたかと思うと急に怒り出すアスカ
「ああ、加持さんに艦内を案内してもらってたんだよ」とアスカの質問に勘違いした答えをするシンジ
「そうじゃないわよ。一年前、私に黙ってどうして行っちゃったのよ?!」
「ごめん、どうしてもアメリカに行く必要があって、でも、すぐに戻る予定だったんだよ。本当にごめん」
「言い訳はいいわ!謝るって事は反省はしてるのね?」
「もちろん!」
「だったら、償いなさい!」
「償い?」
「そう!もう二度とあんな事はしない!もう二度と私のそばから離れない!って約束して!」
「わっ…………分かったよ」とそのアスカの勢いに圧されて返事してしまうシンジ
「本当に?」
「ああ、もちろん」
そのシンジの答えを待たずにアスカはシンジへ抱きついた。シンジはその行動に最初は驚いたが、それを受け入れた