第五話 アスカ到着(後編)


 

 

 

 

<弐号機格納輸送艦オスロー>

あの後、アスカが自分の弐号機を見せたいと言うので、ここにやってきた

白いカバーをはずすと中には水中に浮いた弐号機が横たわっていた

アスカはその弐号機の前まで走ると、先に甲板上で見せた仁王立ちという格好で自慢げに言う

「どう!?これが弐号機よ凄いでしょう!世界ではじめての戦闘を目的として開発されたエヴァ!零号機や初号機のように実験を目的としたものとは根本的に違うのよ!これこそ、最高のエヴァよ」

シンジはエヴァの開発も担当していたので、零・初・弐号機の違いを明確に把握し、アスカの言っていることの間違いを指摘する事もできたが、現時点での情報の流出を考えてアスカの意見にあわせた

「確かに凄いや。僕は、完成前にドイツを離れたからはじめて見たよ。でも、ボディーカラーが赤って言うのもアスカらしいね」

「そうでしょう!ドイツ支部のやつらはこの色、気に入らないらしくて、何度も変えろって言うのよ。でも、それなら“もうエヴァには乗らないわよ”って言ったら、やっとこの色にしてくれたの」とこれまた自慢げに言う

そのとき、下から“ドン”と言う音とともに艦が揺れた

「何?!」と慌てるアスカ

「どうやら、水中衝撃波のようだね」とシンジは冷静に事態を把握して言う

そして、二人は外に出た

二人は自分の目を疑った。直前で、巨大な艦が沈没していくのである

「これは、どういうこと?」アスカは隣にいるシンジに聞く

「多分、使徒だろうね」とシンジは何事もないように言う

そして、この時シンジは加持の事を考えていた

「使徒?」

「これだけの艦隊をこの短時間で沈めてるんだ。他には考えられないよ」

シンジが使徒だと断定した理由は他にもあるのだが、それを話すわけにはいかずにもっともらしい意見を言った

そして、その使徒と思われるものの動きはまるで何かを探すような動きをしていた

アスカはシンジの話を聞くと、少しシンジから離れて小声で

「チャ〜ンス」と一言語った

「えっ?」

「なんでもないわ。とにかく、私について来て!」とアスカは言うとシンジの手を引っ張り再び中へと入っていった

 

 

<同じ頃

オーバーザレインボー内加持私室>

加持は衛星携帯電話で、どこかと連絡を取っていた

「こんなシナリオは聞いていませんよ。碇司令」と加持

どうやら、相手は碇ゲンドウらしい

『シナリオには不意な変更もある。その為にそちらに、シンジを送ったのだ。ところで、例のものは無事か?!』とゲンドウ

「ええ、こちらでしっかりと確保してあります」

『そうか。では、そっちの事はシンジに任せて、君はそれの安全を確保してくれ』(つまり、加持だけ逃げて、使徒はシンジに殲滅させろと言う事)

「分かってます。それは、先程、シンジ君にも言われました」

『そうか、では頼んだ』と言うと通話は切れた

加持は電話を切ると、視線を先のトランクに移して

(あれでも、人の親なんだろうか?自分の息子を危険な目に合わせてまで、これを守ろうとするとは……これはそれ程重要なものなのか?)と思った

加持自身、このものについて使徒と接触させる事が危険だと言う事などある程度は聞かされていたが、その重要性には隠された部分もあった

加持はトランクを持つと、部屋を出た

 

 

<再び

オスロー内>

シンジとアスカの二人は再び弐号機へと向かっていた。途中、アスカがシンジに隠れてプラグスーツに着替えるなどして目的地に到着した

 

<弐号機格納庫>

アスカは手動で弐号機のエントリープラグを出した

「アスカ、頼んだよ。僕は、外でサポートするから」とアスカが一人で弐号機に乗るものだと思って言うシンジ

「何言ってんの!アンタも乗るのよ」とアスカはもう一着持っていたプラグスーツをシンジに投げ渡した

「えっ?!」困惑するシンジ

「アンタも乗るのよ」念を押すように言うアスカ

その言葉にやっとアスカの言っている事を理解した

「何言ってるんだよ。それは無理だよ」

「何で?!」

「だって、弐号機のパーソナルデータはアスカのだよ。僕が乗ってもシンクロの邪魔をするだけだろ」

シンジの言っている事は正論である。それを強引にねじ伏せようとするアスカ

「いいから、アンタは一緒に乗りなさい!……それともさっき約束した事は嘘なの……!?」

シンジは、先の約束した内容を思い出し

「(それとこれとは別だと思うけど………)……わかったよ」と返事をするのだった

そのシンジの言葉を聞くとアスカは嬉しそうな顔をした

シンジはアスカに渡されたものを着るが、それはアスカの女性用プラグスーツだった

 

 

<弐号機エントリープラグ内>

一人用のエントリープラグに二人が乗っている。その人口密度は相当なものであった

「ちょっと、狭いじゃない!」と不平をもらすアスカ

「仕方ないだろう。もともと一人乗りなのに二人も乗ってるんだから。それに、乗れって言ったのはアスカじゃないか!文句いうなよ」とアスカを宥めようとするシンジ

「うるさいわね〜!」と言い返すアスカ

そうすると、アスカの顔が急に真剣なものへとなった。アスカが弐号機とのシンクロを開始したのである

だが、シンクロエラーになってしまった

「あら、シンクロエラーだ」とシンジ

「ちょっと、あんた今日本語でもの考えてるでしょう。ドイツ語で考えなさいよ。それくらいできるでしょう」と怒るアスカ

「まあ、そのくらいの事はできるけど、ここはドイツじゃない、日本なんだよ。みんな日本語で行動してる。だから、アスカもそうした方が良いんじゃないかな」

シンジはこれからの作戦行動などを考えてアスカに言う

「分かったわよ。言語変更!日本語をベーシックに!」

この後、すぐ弐号機は起動した

そしてアスカは

「アスカ、行くわよ!」とシンジに聞こえないような独り言を言った

 

 

 

<その頃

オーバーザレインボー操舵室>

突然現れた正体不明の敵への対応に慌てている艦内

「各艦、任意に迎撃しろ!」と指示を出す艦長

そこへ、冗談と皮肉をこめてミサトが現れると言った

「正体不明の敵生体についての情報、いかがですか?」

「今は緊急作戦行動中だ!部外者の立ち入りは遠慮していただこう」と苛立ちを隠せない艦長

そう言われるが、勝手に入ってくるミサト

「はっきり言って、何をやっても無駄です。これはどう見ても使徒の攻撃です!使徒を倒せるエヴァでなければ意味がありません」とミサトは艦長を説得する

そこにオペレーターから連絡が入る

〔オスローより入電。弐号機が起動したそうです〕

そのことへの反応は様々だった

「何!?すぐに起動停止だ!」と艦長

「ナイスタイミング、アスカ!」とミサト

〔弐号機より通信はいります〕

『これより、そっちに行くわ。甲板に非常用電源出しといて』と操舵室内にアスカの声が響く

「ええ、分かったわ」と勝手に返事をするミサト

『でも、気をつけないと、B型装備のままだよ』とシンジの声もする

その声に反応してミサトは

「シンジ君も乗ってるの?」と聞く

『はい、一応』

「これで、何とかなるか…」

その時、艦載機の発射口が開き中から加持を乗せた“YAK38改”がでてきた

『葛城、悪い、後頼むな。俺、届け物があるんで先に行くわ』と加持は一言残すと“YAK38改”は飛び立った

「逃げる気?!加持!!」とミサトは言うが既に遅かった

 

 

<再び

弐号機内>

アスカは自分に気合をつけると弐号機は立ち上がった

「さあ、行くわよ」とアスカは言うと弐号機は闘牛士のように華麗にジャンプして次々と艦を踏み潰しながらオーバーザレインボーへ向かった。シンジはその激しい揺れに乗り物酔いになっていた

そして、目的としていたオーバーザレインボーの甲板へと到着すると、エヴァの背中にあるコネクターにアンビリカルケーブルをつけ45秒しかなかった内部電源を起動限界なしの外部電源へと変えた

「よし、これで時間の心配はなくなったわ」とアスカ

「でも、使徒を倒す武器がないよ」とシンジ

「プログナイフがあるじゃないの」とアスカは言うと弐号機に搭載されていたナイフを取り出して構えた

ちょうどその時、海中から使徒がその正体をあらわし、弐号機へ向かってきた

その使徒の姿を見て

「予想以上に大きいな」と素直な感想をもらすシンジ

「たいしたことないわよ。あの程度」と強がるアスカ

使徒はそのままオーバーザレインボーに乗りかかってくる。その力は相当なものだった。弐号機はそれを何とか受け止めた。しかし、そのはずみに手に握っていたナイフを離してしまい、ナイフは海に沈んでいった

使徒は力を徐々に強めていった。それは弐号機とアスカの力の限界を超えるものとなった。とうとう、耐え切れずに弐号機は海に落ちてしまった

「どうするのよ!海に落ちちゃったじゃない!」と言うアスカ

アスカは海中で何とか弐号機を動かそうとするがうまくいかない

「どうするって言われても…B型装備じゃね〜」とアスカに答えるシンジ

「何よ!だらしないわね!」と訳のわからない怒りをシンジに向けるアスカ

使徒は体制を立て直すと魚のように泳ぎながら弐号機へと向かってきた。そして、弐号機の直前まで来るとその大きな口をあけ、それを食べよう(?)とした

「口〜!!!!」と叫ぶアスカ

「一応、使徒だからね」冷静に答えるシンジ

その後、弐号機は使徒にかじりつかれた

 

 

<再び

オーバーザレインボー操舵室>

使徒と弐号機の様子を見ている

「海に落ちたぞ………」と呆れ気味に言う艦長

「あちゃ〜……」とうなだれるミサト

〔弐号機、使徒の体内に侵入〕と情報が入る

「要するに、食べられたと言うことですね」と副艦長がこれまた冷静に言う

「これじゃまるで、つりだな」とバカにする艦長

その艦長の発言に何かを見出すミサト

「釣り?…………そうだわ。艦長、ご協力をお願いします」

「協力?」

「そうです!」と言うと、ミサトは自分の考えた作戦を説明した

その作戦とは、弐号機を使徒に食いつかせたまま引き上げ、その場所に無人とした艦を送り、ゼロ距離射撃で撃破するということだ

その説明は弐号機にも伝わっていた

「分かったわね。二人とも」とシンジとアスカに向かって言うミサト

『また、無茶な事を言いますね』とシンジがもらす

「でも、無理ではないわよ」と返すミサト

『そのようですね。分かりました。やってみます』

とシンジとミサトが話していると、その事に不満を抱いたアスカが言う

『ちょっと、この弐号機は私のなのよ。私抜きで勝手に決めないでよ』

「じゃあ、アスカ頼んだわよ」

『素直にそう言えば良いのよ』と納得するアスカ

そして、行動に移された。弐号機の役目は使徒の口を無理やり開け、そこに無人艦を誘導する事である

 

 

その後、作戦はシンジとアスカの協力による驚異のシンクロ率で無事(?)成功した

 

 

 

<新横須賀国連専用ベース>

何とか、使徒を殲滅し目的地であるここへ帰港したのである。そこには、既にリツコが迎えにきていた

艦から最初に出てきたのはミサトだった

「よかったわね。大した被害が出なくて」とそのミサトに向かって人事のように言うリツコ

「何言ってるのよ!こんな事なら、海中戦の準備もしておくべきだったわ」と疲れた表情を出して言うミサト

「あら、反省?珍しいわね」と嬉しそうなリツコ

「うるさいわね!そりゃアンタは良いわよ!貴重なデータ取れたんだから!」

ミサトにそういわれると、今回の戦闘でとれたデータに目を通した

「あら、本当よ!これは貴重な資料だわ。アスカのシンクロ率の記録更新よ」

「ふん、どうせ、シンジ君のおかげでしょう!」と特に興味もないという感じで言うミサト

 

その後、この二人が弐号機から回収されたシンジがアスカの女性用プラグスーツを着て出て来るのを見て、混乱した事は別の話。また、その姿のシンジの写真が何故かネルフ内に出回ったのも別の話

 

 

 

<ネルフ本部内総司令室>

あの海上の事態から逃げてきた(?)加持がここに例の物を持って来た

加持は、ゲンドウの座る司令席の前までやって来た

ゲンドウはその存在を確認しているが特に何も言わない

それを見かねて冬月が言う

「ご苦労だったな。加持君」

「ええ、大変な船旅でしたよ。シンジ君が来てくれなかったら、どうなっていたか…」と加持は冗談半分に言う

「例のものは、どうした?」と初めて言葉を発するゲンドウ

「はい、無事、ここに」と加持は言うと先のトランクを司令席の上に置いた

ゲンドウは、それを見ると、先のシンジと同じようにロックに指を当てた。そして、ゲンドウの指紋を照合しロックが解除された

その中には脊椎動物の幼生体に似た物体が赤いものに包まれて入っていた

「硬化ベークライトで固めてありますが、確かに生きています」と加持は説明した

それを見てニヤリと笑うゲンドウ

「ああ、これがあのセカンドインパクトの原因となりし最初の使徒アダムだよ」

 

 

<シンジ専用研究室>

シンジは本部に戻ると、すぐにこの部屋へと向かった

そして、今はモニターを見ている。その映されているものは、総司令室内だった

シンジは総司令室をそしてゲンドウを監視していたのである

そのシンジの表情もゲンドウ同様ニヤリと笑っていた





第六話へつづく


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