第四話 レイ
<使徒回収地点>
前回の使徒を殲滅後、その残された使徒の遺体(?)を回収・分析する為にその地域一帯をプレハブで囲んだのである。中では、使徒の構成要素などの科学的解析やいらなくなったものの回収を行っていた
その使徒はシンジによってプログナイフを刺されたコアと呼ばれる部分以外完璧に残されていたのである
その中へシンジがゲンドウとともに入ってきた。そして、真っ直ぐにコアと言う部分が開かれている場所へと向かった
そのコアを見ながらゲンドウがシンジに言う
「調査の様子はどうだ?」
シンジは、技術部の人間から受け取った使徒の解析結果に目を通しながら答える
「まだ、分析の途中だけど、ほとんどのところは、予想通りだね。でも、コアの部分以外は完璧に残ってるから、もっと面白い事が分かるかもね」
ゲンドウはシンジの言葉を聞くと視線をコアから使徒全体へと移して言う
「それにしても、見事だな、シンジ。これだけ完璧な素体はなかなか手に入らないぞ」
「そう?さっき、リツコさんに会ったときも同じ事言われたよ」とすこし笑いながら言う
「ところで、シンジ、明日零号機の起動実験を行うぞ」
「また急だね。どうしたの?まだ、準備も完全じゃないよ」
「委員会の老人たちがうるさいのでな。こちらの事情も考えずに、勝手な事を言う連中だ」
「まあ、仕方ないね。今、目立った事をするわけにはいかないからね。わかったよ、準備急いでやっておくよ」とシンジは言うとそこから出て行った
ゲンドウは、リツコのところへシンジよりも詳細な調査結果を聞きに行った
そのシンジとゲンドウの様子をじっと監視するように見ているミサトの姿があった。前回の一件後、ミサトはシンジに何かの疑念を抱いたのかもしれない
<翌日
ネルフ本部内第一実験ホール>
ここで、先日実験を失敗した零号機の再実験が行われていた
その横に設けられたコントロールルームでは主要メンバーがその実験を見るためにいた
「実験準備完了しました」とコンソールを叩きながらマヤが言う
「分かったわ………司令、よろしいですか?」とマヤに一言言うと後ろにいるゲンドウに実験開始の許可を問う
「ああ、構わん。はじめてくれ」とゲンドウは一言答える。そして、隣にいるシンジに
「シンジ、今度は成功すると思うか?」と小声で聞く
「多分、大丈夫だと思うよ。心理データも安定しているしね」とシンジは答えた
「そうか」
その後、実験は予定通りに進み、結果、起動指数をクリアーすることにより成功に終わった
その時緊急コールの呼び出し音が鳴った
「はい………。司令、硫黄島沖に使徒の存在を確認したそうです」とミサトが報告する
それを受けて
「総員第一種戦闘配置!」と全員に告げた
<数時間後
同本部内第一会議室>
使徒が現れたことにより、その対策を練るための話し合いが行われていた
「現在使徒は母島を通過したもようです。このままのスピードとコースを維持すると第三新東京市到着は九時間二十三分後と想定されます」とシゲルが報告する
「戦自・国連合同軍との戦闘においてある程度使徒の情報が手に入りました。それによると、使徒は長距離から過粒子砲で攻撃し、強力なATフィールドを用いて防御を行っています」とマコトも使徒の現状を報告する
「そこで、今回は今までの近距離戦闘をさけ、使徒のレンジ外からの超長距離射撃を行いたいと思います」とミサト
その作戦を聞くとゲンドウはシンジに聞いた
「どう思うシンジ?」
どうして、ゲンドウは今回の計画についてシンジに聞くかと言うと、決して、ミサトやリツコを信じていないわけでないが、シンジの考えが最も信用に足るものだからである。
すでに、シンジはゲンドウの頭脳役となっていた。そのシンジとゲンドウをじっと見ているミサト
「ん〜、そうだな〜………今の話を聞いているとフィールドの中和なしで使徒に攻撃をするって事ですよね。それに関してはどう考えているんですか?」とシンジ
「それは、日本中の電力を集めて、筑波の戦自研で開発中のポジトロンライフルを使えば理論上問題ないわ」とリツコが説明する
「スーパーコンピューター=マギの判断は?」
「賛成2、条件付賛成1です」とマヤ
「その提示された条件とは?」
「防御方法の構築です」
「それはSSTOの底部を利用した盾でどうにかなるわ」とリツコ
「だけど、それじゃ、今回の計画は初号機一機では成り立たないという事ですね」
「ええ、そうよ。今回は、初号機と零号機の協同が作戦の基本となっているわ」とミサト
「でも、零号機とファーストチルドレンは現時点で実戦に対応できると思ってるんですか?」
「それは、大丈夫よ。零号機とレイのシンクロも成功した。まだ、若干の誤差は確認されているけど、短時間なら問題ないと考えられるわ」とリツコ
とシンジの出す質問はすぐに答えられてしまった。シンジはその答えに納得すると
「ここまで、完璧なら特に反対する理由はないと思うよ。父さん」と言った
「そうか、分かった。やりたまえ葛城一尉。日本政府には私から言っておこう」とゲンドウ
「ありがとうございます」とミサトは言い一礼すると部屋を出て行った
「じゃあ、僕はレイのところに言ってくるよ」と言うとシンジも退室していった
30分後、この作戦はミサトにより『ヤシマ作戦』と呼称される事となった
<同本部内チルドレン待機室>
先の零号機とのシンクロ実験が成功に終わるとレイはここで待たされていた
そこへ、不意に扉が開くとそこからシンジが入ってきた
「レイ、気分はどう?」と実験後のレイの状態を心配して聞くシンジ
「問題ないわ」とそっけなく答えるが、表情は明らかにさっきより嬉しそうだ
「そう、それは良かった」
「ところで、何か用?」
シンジはレイのその質問にここに来た目的を思い出し、先の会議で決定した計画の詳細を話した
「そう、分かったわ」とシンジの説明に相槌を打つレイ
「………レイ、本当に大丈夫なの?」とシンジはレイを本当に心配していう
「…………シンジ君はどうしてエヴァに乗るの?」とレイはシンジの目を見ながら言う
「それは、レイ、君を守るため、いや僕の大事な人を守るためだよ」と力強く言う
「それなら、大丈夫よ。シンジ君が私の事守ってくれるんでしょう」
「…………うん、必ず守るよ」と言われるとレイは本当に安心したような表情になりシンジとともに部屋を出て準備に向かった
シンジもレイのその表情を見ると、レイの言っていることが本当だと確信して安心した
<8時間後
双子山作戦実施地点>
ここで、今回の作戦における役割分担などの説明が行われた
「役割担当を発表します。レイが砲手を、シンジ君が防御を担当。これは、レイの方が射撃の成績がいいからよ。分かったかしら?」とミサトが前にいるシンジ・レイに言う
このミサトの発言には一部嘘があった。それはレイが砲手を担当することとなった理由である。シンジがレイに射撃の腕が負けるという事はないのである。本当の理由は、事前にシンジがミサトに“自分が危険な防御を担当する”と言ったのである。ミサトはそのことを聞くと最初、自分の考えと違う為拒否したが、結局はシンジの権限で強引にこういう結果になったのである
「「はい」」とシンジ・レイは二人同時に返事をする
<45分後
チルドレン待機所>
シンジは壁に寄りかかって座っていた。レイはそのシンジ寄り添って同じように座っている。シンジは横にいるレイの方を向くと
「レイ、怖くないの?」と聞く
「ええ、全く!」とレイ
レイの顔からは全くといっていいほど恐怖・緊張と言う気持ちが感じられなかった
「どうして?」とシンジはレイに聞く
「シンジ君を信じているからよ。守ってくれるって言ってくれたわ」と嬉しそうに言うレイ
レイがそう言い終わると、エヴァへの搭乗を告げる連絡が入る。それを受け
「さあ、行こう(レイには絶対に危険な思いはさせないぞ!)」とシンジはレイを守るという意思をいっそう固めると二人同時に部屋を出てエヴァへと向かった
<5分後
双子山付設臨時発令所>
ミサト・リツコ・マヤ・シゲルなどの主要メンバーは各地から入る最新情報をチェックしていた
「ミサト、本当にレイが砲手でよかったの?成績・実績ともにシンジ君のほうが上でしょう」とミサトに言うリツコ
「………仕方がないのよ。私だって、普通ならシンジ君を使うところなんだけど、そのシンジ君の命令でね……司令にも進言したんだけど、シンジ君の意見に従えって……」
「そう、そう言うことだったの」とリツコ
こうは言っているが二人ともこうなるだろうことは予期していたようだ。シンジの気持ちを考えれば……
「ファースト・サードともにエヴァとのシンクロを完了したそうです」とマヤ
「そう………いいレイ、作戦開始よ。日本中の電力あなたに預けるわ。それとシンジ君、しっかりレイを守るのよ」と両エヴァに連絡を取るミサト
『『はい』』と同時に返ってくるシンジ・レイの言葉。発令所のモニターから見る二人の顔は真剣の中にも何か余裕を感じさせるものだった
「使徒が、迎撃ポイントに到着!」とシゲルが大声で告げる
「第1・2・3接続開始!全エネルギー充電でき次第ポジトロンライフルへ!」と指示を出すミサト
その指示通りにエネルギーが貯まりポジトロンライフルはもう少しで射撃できる体制になろうとしていた
「目標内部に高エネルギー反応!」とマヤ
「ちっ、気づかれたか。ポジトロンライフル発射!」
凄まじい閃光とともに光の筋が放たれるとそれは一直線に目標である使徒へと延びていったが、使徒もこちらの発射と同時に自分の過粒子砲を双子山に向けて放ってきた。その両方の光はちょうど中間点で干渉しあい軌道をずらしてしまい、使徒には命中しなかった
「すぐに、第二射、急いで!」とミサトが叫ぶ
「使徒、再び内部エネルギー増大。攻撃きます」とマヤ
使徒から先程と同じ光が放たれると真っ直ぐに零号機へ向かったが、それと接触しようとする瞬間何かに阻まれた。初号機である
初号機は、特別仕様の盾を構えて零号機を守っていった。たが、その盾は理論上17秒しかもたなくポジトロンライフルの再発射には間に合わないのである
そして、予想通りに使徒の放つ過粒子砲の威力に耐えることができなくなり、徐々に熔け始めてきた
その様子を間近で見るレイは焦っていた
あまり気持ちを表に出す事がないレイが
「シンジ君!早くまだ」とトリガーを押し続けた。ただ、まだ充電がまだであるので発射はされなかった
10秒後レイの願いはかない陽電子が発射されると今度はそのまま目標のコアを貫き使徒を沈黙させた
それと同時に初号機は使徒の放っていた光から開放され、活動を停止した
零号機は初号機に駆け寄ると、エントリープラグを強制射出しシンジをその中から救出した。その中は超高温でもう少しそこにいては命が危なかったであろう
レイは中に気を失ってシートにもたれかかっているシンジに泣きながら抱きつくと、シンジの名前を呪文のように繰り返し繰り返し言い続けた
シンジはそれに気がついたようで、ゆっくりと目を開けるとレイの顔を見た。それを見たら安心したように
「レイ?無事だったんだね。良かった」と無理に笑顔を見せて言う
こんな状態なのにシンジは自分のことを心配せずにレイの事を心配していた
「えっ?」そのシンジの反応に喜んだ。そして、自然と目から涙がこぼれてきた
シンジは、そのレイの突然の事に戸惑いながら
「レイ?どうしたんだい?」と言った
「うれしいのに………なんでだか分からないけど………」と泣きながら言う
「それなら、大丈夫だよ。人間は嬉しい時でも涙が出るんだよ」とやさしくレイの頭をなでながら言った
このシンジの言葉はレイの心に染み入っていった。