トップページに戻る

最初の頁へ

 2011年最新版に急いで更新する予定です。


 

 

美術選修

金子指導担当分

 

平成21年度版('09.4.13改訂)

 

 

金 子 一 夫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目  次

 

             1.美術選修における副研究論文の目的

             2.副論文の量的・質的目標

                          3.研究主題・問題・対象

                          4.研究論文の構成形式

                          5.調査・研究の方法

                          6.執筆作業

                          7.研究論文執筆に関する参考書

                          8.発表会と副論文の評価項目

                          付録1 鑑賞教育研究において参照すべき文献

             附録2 これまでの副研究題目例

                          付録3 研究対象候補群

                         

 

 

 

 

1.美術選修における副研究論文の目的

 

1-1.  美術教育講座における卒業主研究と副研究

 美術教育講座では平成8年度から、従来4年次の1月末に提出させていた,いわゆる卒業研究を「卒業主研究」とし,これとは別に「卒業副研究」を設けた。副研究は3年次の年度末に提出させ,主研究と合わせて卒業研究とする。評価は主研究70点満点,副研究30点満点で採点し,他の成績基準と同様に二つの合計得点が50点以上を合格とする。この主・副研究の配点及び提出時期等は今後の状況に応じて変更されることもある。

 卒業副研究は研究論文か制作かを選択する。それぞれ「卒業副論文」「卒業副制作」と称する(以下,関連用語は「卒業」を略して主研究,副論文のように書く)。副制作か副論文かの選択は主研究と交差する形とする。主研究を作品制作にした場合は副論文,主研究を論文にした場合は副制作となる。主研究を何にするかは,学年が進まないと決定できない一方,論文も継続的に指導しないと教育効果が薄い。それゆえ,早めに副論文の指導を始め,3年次になって主研究に制作を選択する場合は,その継続した学習をそのまま副論文作成につなげる。主研究に論文を選択する場合は,継続した学習を主論文に発展させても,新たに主論文を書いてもよい。小・中・高校の美術教員養成を目的とする学校教育教員養成課程美術選修の学生は,副論文のテーマを美術教育に関するものとする。表現文化選修の学生は,同選修の指導担当教官からの指示を受ける。

 

1-2. 卒業副論文の目的とそれを課す理由

 副論文を指導する目的は、研究論文能力及び論理的思考力を訓練することである。

 美術選修学生に副論文を課すのは,美術の教員にも研究論文能力と論理的思考能力が必要であるという理由からである。授業の目標設定,教材解釈や作成,授業過程構成,児童生徒への提示等の授業技術は,論理的に導かれなければ出てこない。論理的思考力は,具体的には論理的な言語使用能力として現れる。美術教員にも,この能力が必要である。そうでなければ自ら美術科教育の授業の目標・内容や方法を明確に構築できない。これらは教師の必須の能力の一つと言ってよい。

 善意と情熱さえあれば、教育はうまくいくわけではない。それらは必要条件ではあるが、授業を論理的に計画・実践できなければ,児童・生徒が知的にわかる授業ができない。説明がくどいうえに内容が曖昧な教師の指導言で、授業がうまくいくとは考えられない。自分の授業を論理的に説明できないのに、授業がうまくいく天才的な教師はまれにいるが、ほとんどの人は天才ではない。

 論理的思考能力は対象に設定して論理的に思考し言語を使う訓練,すなわち研究論文作成の訓練によって養成できる。普通,日本では論理的思考能力の教育は系統的になされていない。それゆえ意識的に訓練しないと身につかない。学校教育も児童・生徒に論理的思考能力を訓練していない。また教員になってからの研修も充分ではない。それゆえ,教員養成教育の一環としてする。教員にならなくても,論理的思考能力は実社会で活動するとき威力を発揮するであろう。

 副論文は同時に美術科教育に関する様々な知見の習得とその整理体系化も目的としている。教育,美術,美術教育に関する知識や思想,教育技術等を学習しても,自ら整理しないと身につかない。論文を書くことによって美術教育研究の知見と能力が身につくことも期待している。教材化研究で模擬授業をすれば、さらに実践的能力養成の一環になる。

 

2.副研究論文の量的・質的目標

 

2-1 副研究論文の量的目標

 まず,副論文の量的目標は400字詰め原稿用紙換算で40枚以上(後述のワープロ書式で約10頁)である。 ただ,これはあくまでも目安である。 実証的な内容であれば資料の提示のために,これよりずっと多くなってもよい。目安の多さを心配する必要はない。書く材料がきちんと準備できさえすれば,目安は容易に超える。 これに反して書く材料を十分に準備せずに頭だけで書こうすれば,目安に達するのは困難である。 その意味で量的目標に達しないのは,好ましくない。もちろん,目安に達すれば自動的に合格したり,目安を超えれば超えるほど評価が高くなるわけではない。評価は内容によって決まる。

 

2-2 研究論文一般の質的目標

  次に質的目標である。まず,研究論文一般の質的目標を述べ,次に副論文の目標を述べる。まず研究論文は単に自分のきもちを述べたり,小説のようにイメージを創作することではない。従来の研究成果をふまえてある問題を提起し,それに対する確実性独自性のある結論を示すことである。

  確実性には実証的確実性論理的確実性とがある。 実証的確実性とは判断や解釈に事実という根拠がある,あるいは証拠があることである。具体的には先行研究,実験結果,実物資料,文献資料などによって証明できることである。論理的確実性とは判断の積み重ね方が,つまり論理の展開の仕方が,明確かつ説得的であることである。

  研究論文における独自性とは,従来の研究では取り上げられなかった対象,対象の解釈,研究方法,研究視点,証明の論理などのうち,少なくともひとつを示すことである。それゆえ扱う問題に関する先行研究がどのようであったかを調べる必要がある。  独自性の発揮は,非常に難しいと思われるかもしれない。しかし,美術教育の分野は未開拓なので,ていねいに調べたり考えたりすれば,誰でも専門研究に寄与する論文が書ける。また,それを可能にする問題・研究対象を選ぶことが重要である。

 

2-3 副研究論文の質的目標

 以上は研究論文一般の目標である。副論文は学部学生に研究論文能力と論理的思考力をつける教育の一環として課すものなので,研究論文一般の質的水準は要求されない。ただ,研究論文能力と論理的思考力養成のために指定論文形式や論理的叙述は厳しく要求される。

 まず,第一は指定された論文の形式にあっていること,なおかつそれらの論文形式の意味の理解が著者にされていることが必要である。形式的に整えても,その形式が機能を発揮していなければ,理解したことにならない。

 次に内容的な明確さである。まず文,文章の明確さが要求される。次に研究論文として,何を問題にしてどのように調査研究して,何が結論として得られたかもはっきりと書くことが必要である。

 以上の二つが副論文に実現していれば,研究論文能力と論理的思考力はついたと判断する。

 

 

3.研究主題・問題・対象

 

 平成10年度入学生から研究対象に関する指導方針を変えた。平成9年度以前入学生に対する方針と平成10年度以降入学生への方針の二つに分けて説明する。なお,研究主題(テーマ)とはその論文で明らかにしたい目標(を表現した文)である。研究題目とは具体的なタイトル文言である。

 

3-1 平成9年度以前入学生(卒論・修論と共通)

  研究主題は美術科教育に関連するのであれば,どのようなものでもよい。金子及び向野教官の専門(近代日本美術教育史・鑑賞教育方法論,芸術教育思想史・中国美術教育論)に関係する研究主題の方が指導はしやすいとはいえ,無理にそれに合わせる必要はない。

  美術科教育学会誌のある号は,研究主題を以下のように分類した。すなわち,@美術教育の歴史,A美術教育の基礎理論と方法論,B美術教育の授業実践とその問題点,C子供の造形活動とその意味,D美術教育の拡がりと展望,である。このように美術教育研究の領域は広い。まず自分の性格や関心に合う領域を選択し,それから研究対象・問題・研究主題を決め,それが適当であるかを指導教官に相談する。考えつかない場合は,指導教官に研究主題候補を示してもらう。

 研究主題の決定に関して次のようなことが言える。

 (1) 身近であるがよく調べられていない研究主題・対象にする。

 先行研究があり,その追研究をしても似た結果しか出ないと思われる研究主題や,たくさんの先行研究がある対象は避ける。そして流行の,あるいは権威ある研究主題・対象も,自ら創造性のなさを証明するので避ける。それらは研究を権威・正答に従う受験勉強のようにさせる危険をもつ。それよりは,身近で一見つまらなく見え,よく調べられていない研究主題・対象を選ぶのがよい。世の中にはわかっていないこと,確認されていないことが無数にある。それらを明らかにする方がずっと世のためになる。

 (2) 限定された明確な研究主題・対象にする。

  研究主題は,明確に対象が特定できる,すなわち特定の人物,時期,概念といった明確な輪郭をもつものにする。抽象的で大雑把な研究主題では執筆途中で進路を見失い,論文を完成させることは無理であろう。ただ,最初に大枠を決めておき,調査研究を進めて行く過程で研究主題・対象を絞って行くことは可能である。しかし,それよりは非常に限定された研究主題・対象で出発し,資料と時間・能力の余裕に応じて対象範囲を拡大していく方が無難である。

 (3) 提出期限に間に合う研究主題にする。

 学生・院生には調査研究の蓄積と時間がないのに,論文には提出期限がある。明確に限定された研究主題であっても,資料があまり見つかりそうにもない,あるいは長期間にわたって資料を調査・収集・整理しなければならない研究主題も,時間のあまりない学生・院生は避けたほうがよい。卒論・修論・副論は,これから書くであろう多くの論文の出発点である。畢生の大作のような研究主題である必要はない。ただ,学年の最初の時点で提出しなくてはいけない研究題目は,執筆過程での予想外の事態に対応できるように抽象的・大雑把なものにしておく必要はある。

 

3-2 平成10年度以降入学生の副論文における研究対象候補の指定と調査方法

 研究論文が成功するかどうかの第一歩は,研究主題・問題・対象が十分に限定的・具体的で,ぶれないことである。これは強調して強調しすぎるということはない。これまでで最も限定的・具体的な研究主題の例は,94P小林政枝の「クレヨン・パスの基本色はどのようにして決まったのか」である。実際,小林の論文作成過程は問題を見失うことなく一直線に近い形で終了した。

 普通は研究主題がなかなか決まらず,決まったとしても包括的・抽象的すぎて,十分に限定的・具体的でない場合が多い。これでは作成途中で自分が何を書こうとしているのかわからなくなる。これを避けるため,平成10年度以降入学生から研究対象だけでも教官が候補群を示し,その中から選択させることにした。候補群は美術教育史上人物、あるいは鑑賞教材化研究する美術史上の作品である。特定の人物,作品という明確な輪郭をもつ対象であるため,見失う危険は少なくなる。金子担当の平成10年度以降入学生は巻末に示す候補群から,興味関心に応じて人物か作品を研究対象として選択する。自己の興味関心の対象がある場合は,相談に応ずる。

 

 

選択した人物・作品について以下のような方法で基礎的な調査をしてから,執筆する。

(1)テキスト『美術科教育の方法論と歴史』の該当部分,論文「美術の方法論の理解を目的   とする鑑賞教育(1-7)」「鑑賞授業細案事例」を読んで,おおよそのイメージを作る。

(2)金子研究室と本学図書館で基礎調査をする。詳細は「5-2文献資料の検索と収集」参照

  @人物・作者について各種人名辞典で略歴,先行研究があるかどうかを調べる。

  A以下のようなインターネット等の検索によって,その人物・作者の著書,先行研究及び   その所蔵図書館等を調べる。

   ・OPAC(Online public access catalogue)

   ・MAGAZINEPLUS (雑誌記事検索 学内検索のみ有効)

   ・NACSIS(全国大学図書館蔵書検索)

   ・NDL-OPAC  国会図書館の蔵書・登録済雑誌論文記事の検索

   ・CD-ROM版による著書・論文の検索   

   ・その人物名による各種情報の検索

  B国会図書館

   利用可能者は20歳以上。金曜日に金子教官が行くので希望者は同行する。

(3)人物研究は,調査結果をもとに指導教官と相談し,美術教育論あるいは美術教育史的観  点から,調査研究すべきその人物に関する研究主題(問題)を設定する。

   作品の鑑賞教材化研究は,@その作品の鑑賞教育でどのような「美術の方法論」を児童  生に理解・体験させるか(授業目標・教育内容)を抽出し,Aそれを理解・体験させるた  めには,どのような手だて(発問,指示)で授業構成をすべきかを参考事例にならって作  る。児童・生徒に授業目標を口頭で伝えるような,押しつけの授業にはしない。

(3)後述の論文構成形式にしたがって草稿を書き,教官の指導を受ける。

 

 

4.研究論文の構成形式

 

4-1.研究論文の一般的構成形式

 人文系の研究論文は,一般的に次のような要素と順序で構成する。美術科の卒業・修了論文も原則としてこれを踏襲する。副論文・小論文はそれを簡略化した構成か,次節で述べる形式にする。

 

 ○研究題目(タイトル)内容が推測できる文言にする。小説やエッセイではないので文学的            な題目にはしない。内容を正確に表現するために長くなる場合は,            主題目と副題目に分けて書く。

 ○目次……………………必ずつける。                

T序 論……………………一般的に序論は以下の4要素で構成する。

 1.本研究の目的…………研究主題 本研究は何を目的にしているかを端的に述べる。前置き            のような自分の気持ち等は述べない。

  2.先行研究・研究史……その研究主題・対象について既にされている研究の論評。

 3.問題の所在……………研究目標 先行研究では解決されていないので,本論で解決すべき            研究上の具体的問題とそれを解決することの意義。その問題に対し            て予測される答え(結論)「作業仮説」を述べる場合もある。

 4.対象範囲と研究方法…本研究はどの時間・地域・対象種類等を扱い,本研究の視点・方法            ・手段はどのようなものかを説明する。

U本 論……………………問題を解決するために事実とその解釈〈前提と推論〉を繰り返して            結論に導いていく。

  第1章……………………章の数は必要に応じて決める。

 第2章                    

 第3章 

V結 論……………………問題の所在に対応させて解明できたことを書く。序論・本論の要約            なので,新たな論述展開をしてはいけない。

 ○

 ○文献目録………………著者名のABC順かアイウエオ順に並べる。

 ○あとがき・謝辞………今後の課題や謝辞(資料・助言等で協力してくれた人へ)を書く。

 

 本論は大きな論理展開が,読者にわかるように構成する。まず大きな章立て,次に各章内の節立て,そして各節内の項立ての順にプランを立てる。調査を進めているうちに新資料が見つかったり,あるいは執筆中に考えが変わったりして構成を変更することはあり得る。臨機応変に対応することが必要である。

 序論,本論,結論,及び各章で改頁する。注,挿図,図版は一括する場合と,本文中または章末に入れていく場合とがある。本文中に入れる場合でも,文字と図が混在すると編集に不便なので本文と挿図は別葉にする。ちなみに印刷業者に発注する場合、文字原稿と図原稿は別ファイルにするのが原則である。

4-2 鑑賞教材研究の場合の副論文形式(12.4, 21.4 第7改訂)

 鑑賞教材化研究は,本来の研究では一つに限定すべき教材作成、授業計画、授業実践という三つの研究対象領域を含むので、以下の形式にする。

 

 

(表紙)       研究題目 (作者)(作品題名)」の鑑賞教材化の研究―

                                  年月日/学生番号/選修等/氏名/指導教員名

(図版頁)  当該作品図像(写真か電子複写)

目次

T 序 論

  1.対象作品と作者について:作者「作品題名」大きさ,制作年,所蔵館等。作者の略歴等。

  2.理解・体験目標(授業目標・内容):同作品の教材解釈を踏まえて児童・生徒に理解・体験 させる具体的内容(美術の方法論)

  3.教育対象:教育対象として想定、実践した校種・学年。上記教育内容に関する教育対象児 童・生徒における既習事項や知識・理解の有無。不明の場合は指導要領等を参照。

 4.授業方法(授業の展開構造) :授業方法と理解・体験させるかの段階的概略。

  5.先行研究・研究史:当該作品の先行教材研究への論評,そして自分の研究の必然性。

  6.問題の所在 (研究目標)

  (1) 教材解釈によって対象作品から既述の理解・体験目標を抽出できるか。

 (2)その目標の教育的・美術教育的意味は何か(上位の教育的文言への般化)

 (3)既述の目標は、どのような授業展開構造や発問の工夫で適切に理解・体験されるか。

 (4)具体的な授業実践において発生した問題点は何か。

U 本 論        

 第1章 教材分析・解釈:対象作品を美術の方法論の観点で分析・解釈し教育内容(理解・  体験目標)を抽出する。それによって対象作品は教材となる。

  第2章 上記教材の教育的意義:抽出した教育内容の細分化・構造化と、それをより上位  の教育内容文言へ一般化して教育的意義を示す。

 第3章 第1節 授業の展開構造:上記細分化・構造化された教育内容を理解・体験させる  授業展開構造と発問、特に児童・生徒を思考させる重要発問に触れ、指導案を示す。

     第2節 授 :上記授業展開構造案に沿った最終授業細案(理想案)。指導 案の過程部分をつけて指示・発問・予想される児童・生徒の発言も書く。

 第4章 実践的考察    :第1〜4章での考察結果の実践を踏まえた(正確に書く)自己評  価と、さらにそれ以外で発生した問題点(自分の授業技術的要素等)を検討する。

V 結 論 :問題の所在(研究目標)(1)(2)(3)(4)に対応させて書く。

               :一般的な表記形式に従う。長い論文では章末につけることもある。

      :一般的な表記形式に従う。註に出典を記した場合は必要ない。

あとがき・謝辞  :教示を受けた人や実践した学校(匿名でも)への謝辞は必ず書く。            ただ、論文内容の責任が彼らにあるような書き方はしない。

 

 

 

4-3. 研究論文形式と記述に関する補足 

 1. 研究論文では、問題の所在、本論、結論の内容を対応させる。4-2の鑑賞教材化研究の形式に即して言えば以下のようになる。

   問題の所在       本論              結論

  (1) 理解・体験目標 → 第1章:教材分析・解釈    → (1)の結論

    (2) 教育的意義   → 第2章:一般化        → (2)の結論

    (3) 授業の展開構造 → 第3章第1節:授業の展開構造 → (3)の結論

              第3章第2節:授業細案    → (3)の結論

    (4) 授業実践の問題 → 第4章:実践的考察      → (4)の結論

 2. 美術科教育の教科目的・教科目標・題材目標・授業目標の間には幾重にも階層がある。教科目的ら向かっては総合化・一般化・抽象化、授業目標に向かっては細分化・特殊化・具体化がなされる。第2章では取り上げた教材の目標階層を検討して設定する。

 実践的研究では、授業目標と研究目標(問題の所在)を混同しがちなので注意する。研究目標は普通、題材・授業目標を達成する方法に関する具体的課題の解明とする。

  例:教科目的:美術による計画的人間形成

    教科目標:美術の方法論の理解・実践による芸術知的能力の形成

美術の方法論の体験的理解と技能習得による感性的意味世界の拡大

    題材目標:絵画における線の意味と技能を体験的に理解し獲得できる。

    授業目標(理解・体験目標):クロッキーにおいて人体を明確な線で描ける。

研究目標(問題の所在):クロッキーにおいて人体を明確な線で描かせるためには、ゆっく      り線を引かせることが有効であることを明らかにする。

 3. 序論・本論・結論の分量バランスを考える。

  一般的には序論、結論を本論の1章以下の分量にするのがよいであろう。

 4. 執筆順序は論文形式の順序と同じとは限らない。

  読者は実際に執筆順に読んでいくいくわけではないので、執筆者は書ける部分から始めて、後 で総合し全体の整合性を調整することでよい。研究目標も結果が出てから調整することも可能で ある。

 5. 先行研究を踏まえるのは、独自性を確保する手段である。

  書籍や雑誌論文に書かれていることを切り貼りするだけで終わらせないで、自分の考えを書く ようにする。換言すれば、先行研究でいわれていることを自分の考えをのように書くことをしな いで、両者の区別が明確にわかるように書く。

 6. 文はできるだけ修飾語を少なくする。修飾後を多くすればするほど文意は曖昧になる。

 7. 授業の展開構造と指導細案で授業の原則が踏まえられているかどうか検討する。

  例えば、a. 教師ではなく児童生徒が活動するようになっているか。b. 指示・発問が意図を直  接伝えるような発問になっていないか。c. 鑑賞で作者の気持ちを考えさせていないか等。

 8. 実際の教育課程の中で児童生徒を対象とした比較実験的研究は避ける。

  例えば、ある授業方法を採用したクラスと採用しなかったクラスを設定して、どちらかが教育

 成果がよくないと明確に想定する実験研究には倫理的問題が発生する。

5.調査・研究の方法(卒論・修論と共通)

 

  研究論文を書くにあたっては,純粋な理論研究であっても考える材料や手がかりが必要である。それが先行研究であったり,種々の資料である。実証的研究にあっては,いかによい材料を多く準備できるかに論文の成否の大半がかかっていると言ってよい。論文の材料,手掛かりとなるものを資料と言う。 資料には文献資料(先行研究も含む),実物資料(作品,遺品,標本など),談話資料などがある。 それぞれに特定の調査収集の方法がある。

 

5-1.美術教育に関する文献資料の検索と収集

 (1) テキスト『美術科教育の方法論と歴史』『造形教育事典』等で自分の研究主題・問題・対象   に関係する部分を読み,現在の美術教育学研究での扱われ方,参考文献等についてのイメー   ジを作る。鑑賞教材化研究は、この雑誌末尾の参考文献及び副研究題目例を参照すること。

 (2) 美術教育関係の学会誌・雑誌から関係論文を収集する。とりあえず戦後発刊の学会誌・雑誌   を調査する。以下の文献は金子研究室にある。『教育美術』『美育文化』は講座図書室にも。

   ○『美術教育学』(美術科教育学会)第1−3019792009。インターネット上で既刊    掲載論文が見られる。また第1号から第 号までCDあり。

   ○『大学美術教育学会誌』(大学美術教育学会)第4−3919712008

   ○『日本美術教育研究紀要』(日本美術教育連合)21341988-2008。第136号ま     ではCDもあり。

   ○『アートエデュケーション』()第1−30号,19892000年。以後休刊。

      ○『美育文化』第1巻第4号−第57巻2号1950-200912月号に同年総目次あり。

          創刊号から50巻までの総目次検索CDあり。 

   ○『教育美術』第10巻第1号−第69巻4号1949-200812月号に同年総目次あり。

   ○『アルタミラ通信』第1号,2000年。以後休刊

   ○『DOME』第1〜84号,19922006年。以後休刊             

 (3) 本学図書館のインターネット等の検索で,関係文献,所蔵図書館及びその他情報を調査する。

      ・OPAC(Online public access catalogue) 茨城大学図書館

      ・NACSIS(全国大学図書館蔵書検索)  

      NDL-OPACによる国会図書館所蔵著書・論文の検索       

      ・その研究主題・問題・対象によるインターネット検索                            

      なお国会図書館の来館利用可能者は20歳以上。金曜日に金子教官に希望者は同行する。 

 (4) 本学図書館での手作業的な検索は次のようにする。

   @研究主題・問題・対象に関する先行研究を基本的図書・論文の註や参考文献目録で調べる。   A参考図書コーナーにある各種『雑誌記事索引』『日本人物文献目録』『主題別国立国会図    書館所蔵図書目録』『国立国会図書館明治期刊行図書目録』『国立国会図書館大正期刊行    図書目録』その他雑誌の総目次で,研究主題・問題・対象に関する文献を調べる。

      B本学図書館にない雑誌の所蔵先はNACSISNDL-OPAC、あるいは『学術雑誌目録』『国立国    会図書館所蔵雑誌目録』かで調べる。

 

 (5) 前記方法で知った文献の収集

   @購入するか,本学図書館で閲覧するか,コピーを取る。廉価で購入できる場合は,できる    だけ購入して読む。お金をかけない研究は真剣味が薄れる。

    A必要論文の掲載雑誌や図書が本学図書館にない場合,所蔵館に直接行って閲覧するか,雑    誌論文は図書館を通してコピーを取り寄せる。ただし,他大学図書館で閲覧するには,本    学図書館の紹介状が必要な場合がある。いずれの場合も本学図書館のカウンターで申し込    むと手続きしてくれる。

   B購入できず,かつ本学図書館も所蔵していない図書は,本学図書館のカウンターで図書館    間の借りだしを依頼する。

   C上記方法でも文献所在が不明のときは,その研究主題に詳しい専門研究者にたずねる。た    だし,礼を失しないように指導教官の紹介状か,ていねいな依頼の手紙を出す。教えても    らった場合,論文の謝辞等でその研究者に言及してよいかの確認をし,了承されたら論文    末尾の謝辞に記すこと。

      Dせっかくコピーを入手しても,研究主題とまったく関係なかったりすることがある。一回    や二回そういうことがあっても,当然と考えたい。

  (6) 文献に書かれてあることが,正しいとは限らない。参照や引用の過程で事実とずれたり,変   形していくことは普通である。それゆえ,できるだけ原資料,原典,あるいは先に刊行され   た文献を入手するように心がけること。 

 

5-2.文献以外資料の収集

  (1) 実物資料としては,児童作品等が考えられる。データ(作者名,性別,年齢,タイトル,製   作年月日,製作条件など)を必ず記録しておく。裏面に鉛筆で書くのが一番確実である。

  (2) 実物を収集できない場合は,写真撮影による収集をする。カメラは一眼レフを用い,平面的      資料の撮影はマクロレンズを着用してコピースタンド上でするとよい。そして,撮影物のデ      ータ(作者名,タイトル,大きさ,材質など)を書いた紙も一緒に写し込んでおくと,後の整   理に便利である。フィルムは用途に応じて選択する。

   最近のデジタルカメラやビデオで撮影すると,撮影時間の短縮,実際の感じの記録,後のコ   ンピュータ処理には便利である。ただし,作品の精密な記録では,35ミリフィルムカメラにも   遠く及ばないので注意する。

  (3) 談話資料は,談話者に直接会ってメモや録音の形で収集する。録音する場合は,必ず事前に   了解をとる。 了解を得ても録音すると談話者が慎重になったり,不快感をもつので注意する。   論文にどの程度まで談話者の名前と談話内容を明らかにしてよいかも確認しておく。また,   談話内容を正確に受け取れたかどうか論文草稿の該当部分を送り,確認してもらうくらいの   慎重さが望ましい。談話収集から帰った後に必ず礼状を出し,論文発表後は謝辞を添えてレ   ジュメ(要約)を送ること。

 

 

5-3.アンケート及び実験データの収集

 (1) アンケートによる調査は比較的簡単と思われがちである。しかし,厳密にやろうとすると統   計学の知識が必要で,かなり難しい。ただ,副論文では,そこまで要求しないが,簡単なア   ンケート調査に関する参考書は読んでおきたい。

   アンケート調査に当たっては,明確に区分された回答が得られるように項目を作成する。た   だ,回答者に本当の調査目的がさとられないようにする,例えば別の調査目的を知らせたり,   捨てアンケート項目をいくつか付けるのが厳密な方法である。

 (2) 実験も厳密なデータを要求されるが,研究内容に応じて実験方法の厳密さの度合いは考えた   い。単に教材研究上の実験であれば,厳密にすることによって逆に教材として現実的でなく   なってしまうことがある。実験によって何を明らかにしたいか,その結果で本当に証明でき   るのかをよく検討しておく。

 

5-4.資料の整理と執筆の準備

 (1) 雑誌論文はできるだけコピーして収集し,誌名,巻号,発行年月,発行所などのデータを書   き込んでファイルしておく。コピーは,見開きの中央部にあたるところでコピーを二つ折に   し,折った辺をそろえて綴じ,不揃いになっている残りの三辺をA4やB5の大きさに合わせ   て切りそろえると整理しやすいし,見やすい。 論文に必要な箇所はマーカーで傍線を引くか   付箋をつけ,あるいはカードに抜き書きして,すぐに分かるようにする。自分のコメントも   書いておく。コピー・ファイルは2冊以上できないと資料不足の可能性が大である。

  (2) 図書は自分の物である場合は,雑誌論文コピーと同じように印や付箋をつける。借りた図書   や図書館所蔵本の場合は,傍線やすぐにとれない付箋を絶対につけない。必要部分をノート   やカードに抜き書きするか,コピーをとる。貴重な図書は,破損を防ぐためにコピーではな   く,写真撮影にする。いずれの場合も,著者名,書名,発行所,発行年月などのデータを忘   れずに記録しておく。

 (3) 図像資料は裏にデータを書き込んでおく。ただ,資料数がおおくなる場合は,裏を見るのだ   けでも大変な手間になる。その場合は表からデータが判別できるような工夫をする。例えば   シールや付箋の利用,あるいは一回り大きい台紙に貼るか,余白ができるように縮小コピー   をして台紙・余白部分にデータを記入するとよい。

 (4) 一見あまり関係ないように見える資料でも,廃棄しないでファイルしておく。作業が進むに   つれて重大な資料であることが明らかになったりする。

  (5) 解決の論理や論文の構成を考えながら,作業をする。思いついたことや疑問点は,必ずメモ   しておく。そして,後述するような項目の関係表と目次案(論文の構成案)を図表にしてみ   る。 調査研究を進めながら,その表を改訂していく。 論文を書き始めるころまでには,その   図表が目次と内容の細案にまで発展していることが望ましい。

   人物研究や人物が重要な要素になっている論文の場合は,その人物の年譜も作っていく。調   査の過程で明らかになった事項を該当する年月の所に書き込んでいき,できるだけていねい   につくる。その事項の出典データも必ず書き込んでおく。

 

6.執筆作業(卒論・修論共通)

 

6-1.構想

 鑑賞教材化研究の場合は,理解・体験目標である美術の方法論が抽出できれば,授業の方法を考える作業に入るので,論文構想で悩むことはないであろう。人物研究副論文や卒論・修論では,論文の構想ができないと書きようがない。ここで構想の方法について述べる。

 資料収集と資料読解の実際は時期的に区分されるのではなく,一般的には資料収集をしつつ同時に読むこともしている。同じように,資料を読みつつ論文の構想も立てるのがよい。資料をある程度読んだら,研究主題・問題に対しておおよその答え(結論)の方向をつける。その方向で書く場合の,全体的な展開筋道を一枚の図表(チャート)にしてみる。結論の方向がまったく見当つかない場合は,先行研究内容や結論の様々な可能性を地図のように一枚の紙に書いてみる。場所は特定できなくても各章・各節・各項で言及したい項目をすべて書き込んでみる。資料収集・読解作業をしつつ,書き込みを増やし図表の改訂を続ける。そうしているうちに大体の筋道と結論ができてくる。そうしたら逆に筋道と結論から,不必要な部分を削除したり論述の順序を調整し,各部のバランスや分量の過不足も補正し,目次案を作る。細かい言及項目も目次案に書き込んでおくとよい。この目次案で一応構想が完成するのであるが,下書きや清書を進めながら,よりよい論文になるように目次案は修正を続ける。

 

6-2.下書き

 言及項目を書き込んだ目次案を見ながら,下書きを始める。編集や訂正が楽なので清書も下書きもパソコンのワープロソフトを使った方がよい。

 文章は自分と研究対象との距離を常に保つように心がけて書く。自分と対象が同一化したような気持ちにならないこと。論理性によって読者を納得させるようにし,レトリック,つまり文学的な表現や言葉の雰囲気によって読者を納得させようとしてはいけない。また世俗的な権威や流行を根拠に読者を納得させようとしてもいけない。一文一文は短めにしたほうがわかりやすい。また各文末が同一・単調であると,読みにくいので変化をつける。

 下書きは区切りのよいところでプリントアウトし,論理に矛盾がないか,意味不明や説明不足の部分がないか等を検討する。また,段落のつながりに於ける大きな論理展開,一文一文の論理的つながりがわかりやすいかどうかも検討する。記述が多すぎる部分は削減し,意味不明・不適当と思われる部分は修正する。逆に説明不足の部分は追加する。指導教官や友達に読んでもらうと,自分では気付かなかった誤りがわかる。慣れていない人の論文の一般的な欠点は,何のために入っているのかわからない論述が多いことである。事実判断と価値判断が区別されていないことも多い。そのような論文は論理がたどりにくく,凸凹や脇道があって疲れる道を歩いている気分にさせる。

 典拠等は欄外にメモをしておくと清書の時に便利である。細かく論じると繁雑になってしまう場合や,本論の筋とは直接関係ないが言及したいものがある場合は,注で言及するようにその部分を枠でくくるなどわかるようにしておく。

 

 

6-3.清書

 提出用清書は,原則としてパソコンのワープロソフトによるプリントアウトにする。情報化がさらに進むと予想される現在,これからの人である若手が手書きで論文を書くのは奨められない。書式は副論文・卒論・修論ともに以下のような『茨城大学教育学部紀要』のそれに合わせている。ただ,用紙の大きはA4版で,この『手引き』の書式もそれに従っている。

 横書き A4 44字×38行(1672字)

 縦書き A431字×26行×2段(1612字) 

 ○上下・左右の余白の取り方によって,文字面が間のびして見えたり,きゅうくつに見えたりす  るので調整する。ちなみに,この版面のアキ(余白)は,上下各25mm,左右各21mmである。

 ○感熱紙へのプリントアウトは,永続性がないので,そのコピーして提出する。

 ○写真や図表は,編集上の都合で,本文とは別の紙に貼る,あるいは描くようにする。

 

6-4.その他の書式上の注意

 ○表紙,目次,序論,本論,結論,各章毎に改頁(新たな頁)にする。

 ○文字サイズは原則としてワープロの全角(原稿用紙の場合,1マス1字)にし,数字やアルフ  ァベットは半角(1マス2字)にする。……は1マス3点。

 ○段落は必ずつける。その段落で意味がひとまとまりになるようにする。段落内で最も重要な意  味をもつ一文があるようにする。前後の段落とのつながりがわかるようにする。

 ○引用は地の文と見分けがつき易いように2字分下げて,視覚的に一つのブロックとして見える  ようにする。さらにブロック感を強めるためには,引用部分の前後を一行あける。

 ○註は本文中に番号をつけ,巻末か章末に番号順に示す。註番号の表記形式は様々あるが,以下  のような形式を勧める。出典を示す場合の表記形式も以下に示す。

  図書の場合 

  1)  著者名『図書名』(出版社,発行年)本文での言及に関連する頁.

    2)  ……………………

  雑誌論文の場合

    3)  著者名「論文名」『雑誌名』第○巻第○号,発行年,その論文が載っている頁.

 ○参考文献は,著者名のアルファベット順かアイウエオ順に並べて示す。あまりにも一般的で誰  もが読んでいるような文献は,参考文献として挙げない。

 ○図のタイトルは図の下に,表のタイトルは表の上に書く。

 ○その他の細かい書式は,次節で紹介する参考書を見ること。

 

 

 

 

 

 

 

7.研究論文執筆に関する参考書

  ◎は必読。○のついた本は特に参照をすすめる。

 発想・構想に関するもの

  ○佐藤 忠男『論文をどう書くか』(講談社現代新書,昭和55年)

  ・板坂 元 『考える技術・書く技術』(講談社現代新書,昭和48年)

  ・板坂 元 『続・考える技術・書く技術』(講談社現代新書,昭和52年)

  ・立花 隆 『知のソフトウェア』(講談社現代新書,昭和59年)

  ・野口悠紀雄『超整理法』(中公新書,平成 5年)

○鹿島 茂 『勝つための論文の描き方』(文春新書、平成15年)

 具体的な方法・書式

  ◎木下 是雄『理科系の作文技術』(中公新書,昭和56年)

  ◎木下 是雄『レポートの組み立て方』(筑摩書房,平成元年)

  ○斉藤 孝 『学術論文の技法』(日本エディタースクール出版部,昭和52年)

  ・中村 健一『論文執筆ルールブック』(日本エディタースクール出版部,昭和63)

  ・杉原ほか 『研究レポートのすすめ』(有斐閣新書,昭和54年)

  ・宇野ほか 『短文・小論文の書き方』(有斐閣新書,昭和53年)

  ・早稲田大学出版部『卒論・ゼミ論の書き方』(早稲田大学出版部,昭和49年)

 上級者・専門家向け

  ・エコ,ウンベルト 『論文作法』(而立書房,平成 2年)

  ・澤田 昭夫『論文の書き方』(講談社学術文庫,昭和52年)

 

8.発表会と副論文の評価基準

 (1) 発表会

 ・副研究発表会:4年次は5月に講座の正式行事である発表会で完成論文を発表する。

 ・いずれの発表会でも発表者はレジュメ(要旨)や資料を作成して配布する。

 (2) 副論文の評価項目

  @指定された論文形式に従い,かつその形式の機能が実際の論文で理解されているか。

  A論文に内容的明確さがあるか。研究目標,方法,結論等がはっきりと書かれているか。

  B客観的に意味がわかる文章になっているか。

  C事実判断(「・・・・である」)と価値判断(「・・・・すべき」)を区別しているか。

  D判断の根拠が明確に示されているかどうか。出典等が明記されているか。

  E確実性と独自性があるか。従来の研究を整理した以上の内容があるか。

   F口頭発表がうまくいったか。

  G指導を受ける権利を放棄せずに,きちんと指導を受けたか。

 

学生は上記評価項目に関して,できるようになる指導を受ける権利をもつ。教員は学生を指導して論文能力をつけて卒業させる義務がある。副論文が完成するまで指導を受けること。

 

付録1 鑑賞教育研究において参照すべき文献   著者名・発表年月順

 

有田洋子「美術作品の解釈を検討させる鑑賞教育」『美術教育学』第26,2005, 15-28頁。

有田洋子「美術作品の解釈を検討させる鑑賞教育(2)-葛飾北斎『富嶽三十六景 駿州江尻』の教材 研究を中心に」『美術教育学』第27,2006, 1-14頁。

有田洋子「光琳『紅白梅図屏風』の流水の解釈を軸とする鑑賞教材化研究」『美術教育学』第28号、 2007年、27-38頁。

有田洋子「美術作品の美的理念を比較抽出させる鑑賞教育方法―菱田春草『黒き猫』『柿に猫』を 教材例として」『美術教育学』第30,2009,53-64頁。

岩本康裕「『分析批評』による名画鑑賞の授業」(明治図書、1990)

小倉千絵「『余白』の理解を目的とした長谷川等伯『松林図屏風』の鑑賞教材化研究」『美術教育 学』第27号、2006年、107-119頁。

金子一夫「美術の方法論の理解を目的とする鑑賞教育‐及びその大学授業における実践(1)

 『茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学, 芸術)』第44号、1995, 59-76頁。

金子一夫「美術の方法論の理解を目的とする鑑賞教育‐及びその大学授業における実践(2)」   『茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学, 芸術)』第46号、1997, 45-56頁。

金子一夫「美術の方法論の理解を目的とする鑑賞教育‐及びその大学授業における実践(3)」   『茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学, 芸術)』第47号、1998, 49-62頁。

金子一夫「美術の方法論の理解を目的とする鑑賞教育‐及びその大学授業における実践(4)」   『茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学, 芸術)』第48号、1999, 47-64頁。

金子一夫「美術の方法論の理解を目的とする鑑賞教育‐及びその大学授業における実践(5)」   『茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学, 芸術)』第49号、2000, 55-70頁。

金子一夫「美術の方法論の理解を目的とする鑑賞教育‐及びその大学授業における実践(6)」   『茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学, 芸術)』第50号、2001, 31-46頁。

金子一夫「美術の方法論を内容とする美術科教育とその一環としての鑑賞教育」『アートエデュケ ーション』第30号、2001年、15-24頁。

金子一夫「近代日本にける美術鑑賞教育論の発生と展開‐戦前‐」堀典子編『鑑賞と表現の統合を 図る(一体化を目指す)鑑賞教育の方法論に関する研究』(平成13,14年度科学研究費補助金成果報 告書、2003)241-267頁。

金子一夫「美術の方法論の理解を目的とする鑑賞教育‐及びその大学授業における実践(7)」   『茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学, 芸術)』第53号,2004, 21-40頁。

西岡文彦『絵画の読み方』(宝島社,1992)

吉川登「行為としての鑑賞‐鑑賞学の序章としての鑑賞行為の分析」『大学美術教育学会誌』第25 号,1993年,41-49頁。

 

 

 

 

附録2 これまでの副研究論文題目例

 

 94P 小林正枝 「クレヨン・パスの基本色はどのようにしてきまったのか」

      岡亜紀子 「明治期の図画教育における人物画の変化について」

 

 95P 竹林一美 「日英美術教育の公的カリキュラムの研究」

   山内こず恵「小学校児童の絵画表現におけるつまづきを克服する指導法」

   七川優子 「図画教科書の題材の扱われ方とその変化」

   小久保順加「教育における遊び,及び造形遊びの重要性」

      菅井美佳 「オイリュトミー その発生と発展」

 

  96P 一関真弥 「想像力を育てるための造形遊びとその指導」

   牛久保友子「『アール・ブリュット』の芸術性にもとづいて精神薄弱養護学校の美術教育に         ついて考える」

   浦和 瞳 「日本と中国の美術教育の違い−歴史的(美術教育史)背景と文化的背景からの         考察」

      斉田真澄 「今までの鑑賞教育についての考察と新しい鑑賞への展望」

   角町佳子 「郷土美術教育の価値」

   中居寛子 「美術教育における技術指導」

   原 文子 「自然素材を使った教材研究」

   福崎克浩 「教育における個性−子供の個性を生かすための教育とは」

   古谷真由美「幼児向け雑誌の研究」

 

 97P 浅香伸子 「制作を取り入れた能動的な鑑賞を目指す教育」

   石坂恵子 「美術教育における絵画指導の『方法論』について−“キミ子方式”を対象に」

   小口あや 「美術科教育論における生徒児童中心主義

          −フランツ・チィゼックと久保貞次郎の比較を通して」

   佐川文香 「B.エドワーズ著『脳の右側で描け』についての一考察」

   砂押秀明 「美術に対する学習者の意識とその問題点についての考察」

   武田香織 「美術教育の再生−身体知覚(五感)への回帰とメディア教育の必要性」

   松下和子 「自信のつく描画法の実践」

   持丸由美子「坂本小九郎の生活版画による教育実践」

   八島怜子 「ワークショップとは何か」

   山崎理恵 「浅利篤の児童画研究について」

 

  98P 飯田初恵 「絵画に見るファッション−アール・ヌーボー様式を中心にして」

   飯田将志 「篆刻の鑑賞教育のための教材研究−中国における篆刻の歴史と美的価値」

   小沼彩奈 「川喜田煉七郎の構成教育と構作教育について」

   久米剛広 「高橋由一『花魁』の鑑賞教材化の研究

          −絵画表現におけるリアリズムを目標に」

   齋藤美智子「菱田春草『黒き猫』の鑑賞教材化研究」

   高橋 愛  「鑑賞教育教材研究のための基礎知識探求

          −玉の鑑賞を中心に/玉の造形とその文化について」

   平間朋恵 「久保貞次郎の軌跡を追う−創造美育運動とともに」

   渡辺麻子 「鑑賞教育教材研究のための基礎知識探求

          −玉の鑑賞を中心にして/玉の色彩」

以下から金子指導担当分のみ

 99P 荒木明日香「中村彝『エロシェンコ氏の像』の鑑賞教材化研究」

   近藤 紫 「クロード・モネ『睡蓮の池』の鑑賞教材化の研究」

   高橋里枝  「アントニオ・ガウディ『カサ・バトリョ』『カサ・ミラ』の鑑賞教材化研究」   萩野谷直子「モーリス・センダック『きみなんか だいきらいさ』の鑑賞教材化の研究           −イメージレトリックの理解・体験を目標に」

   渡部敦子 「青木繁『わだつみのいろこの宮』の鑑賞教材化研究−画面観察・分析から導か         れる絵画理解を目標に」

   

 00P 有田洋子*「鈴木春信『耳そばだてて』の鑑賞教材化の研究」 →*本研究に移行

   野上萌一虎「子どもの係わり合いと美術の可能性についての一考察」

   飛座邦男  「岸田劉生『道路と土手と塀(切通之写生)』の鑑賞教材化研究−写実的表現の理         解・体験を目標に」

   森井奈美子「日本の文様の鑑賞教材化研究」

   山村智子 「中西良男の想画教育における絵巻物の教材性について」

   吉川美樹 「フェルメール『天秤をもつ女』の鑑賞教材化の研究」

 

 01P 北見友里恵「素材から見る美術作品−布を使った作品の鑑賞教材化研究」

   高木智子 「佐伯祐三『立てる自画像』『パレットを持つ自画像』の鑑賞教材化研究」

   鐵 京子 「竹久夢二『立春大吉』『南枝早春』の鑑賞教材化研究」

   蜂谷理沙 「ミレーとゴッホの『種まく人』の鑑賞教材化の研究」

   鳩山裕子 「青木繁『黄泉比良坂』の鑑賞教材化研究」

   細野美嘉子「黒田清輝『昔語り』の鑑賞教材化の研究−実例から導きだされる鑑賞方法の理         解を目標に」

   谷津暁美 「曽我白『群仙図屏風』の鑑賞教材化研究」

 

 02P 海野直子 「小川芋銭『水魅戯』の鑑賞教材化の研究」

   大図直恵 「土田麦僊『清暑』の鑑賞教材化の研究」

      大森圭美 「菱田春草『落葉』の鑑賞教材化の研究」

    叶野有起 「上村松園『母子』『朝』の鑑賞教材化の研究」

   桑名幸夏代「バーン=ジョーンズ『海の深淵』の鑑賞教材化の研究」

   郷戸一行 「ハンス・ホルバイン『大使たち』の鑑賞教材化の研究‐アナモルフォーズの理         解・体験を目標に」

   猿田由貴 「パブロ・ピカソ『泣く女』の鑑賞教材化の研究」

   長塚千佳 「小川芋銭『江村六月 雲巒烟水』の鑑賞教材化の研究」

   吉野真唯 「今村紫紅『熱国の巻』の鑑賞教材化の研究」

 

 03P 鵜川由理 「アーノルド・ロベール『ふたりはいっしょ』の鑑賞教材化の研究」

   大滝 航 「ギュスターヴ・クールベ『出会い,こんにちわクールベさん』『オルナンの小         さな谷間で』の鑑賞教材化の研究」

   田中祥子 「複製と本物についての授業研究」

   中村博美 「スーラ『グランド・ジャット島の日曜日』の鑑賞教材化の研究」

   深谷泰弘 「古賀春江『海』の鑑賞教材化の研究」

   福元玲奈 「ドラローシュ『レディ・ジェイン・グレイの処刑』の鑑賞教材化の研究」

   高 媚 「歴史画の鑑賞教材化の研究‐下村観山『信嗣最期』」

 

 04P 浅野梨江 「下村観山『朧月』と『風』の比較による鑑賞教材化の研究」

   天野絵梨 「『厩図屏風』の鑑賞教材化の研究」

   飯塚ゆかり「ミロ『オランダの室内』の鑑賞教材化の研究」

   遠藤美絵  「長谷川沼田居『ひまわり』連作の鑑賞教材化の研究」

   川端ゆうこ「判じ絵の鑑賞教材化の研究」

   雁沢雅宏 「デイヴィッド・ホックニー『アーティストの肖像(プールに二つの影)』の鑑賞         教材化の研究」

   佐川裕香 「『FRAMY』の鑑賞教材化研究」

   白井麻理奈「マルク・シャガール『七本指の自画像』の教材化の研究」

   萩谷将司 「コレッジョ及びルクレールの『羊飼いの礼拝』の鑑賞教材化の研究」

   早坂満美子「イエラ・マリ『あかい ふうせん』の鑑賞教材化の研究―絵本の構造の理解・         体験を目標に」

   福島真理子「仮面の鑑賞と制作の教材化研究」

   町田絵里子「長谷川潔『オランジュと葡萄』・『時 静物画』の鑑賞教材化の研究」

   渡部 栞 「斉藤真一『おみかの悲しみ』の鑑賞教材化の研究」

   申 承  「カラヴァッジョとレンブラントの『イサクの犠牲』の鑑賞教材化研究」

   山田小夏 「ミケランジェロ『最後の審判』の鑑賞教材化の研究」

   

 05P  石井 郁 「狩野永徳『洛中洛外図屏風』の鑑賞教材化研究」

   栗田成美 「バルテュス『コメルス・サンタンドレ小路』の鑑賞教材化研究」

   島田 恵 「『赤い風船』の鑑賞教材化研究」

   鈴木満紀子「ジュリアーノ・ヴァンジ『壁をよじ登る男』の鑑賞教材化研究」

   武田侑子 「ジョルジュ・ド・ラ・トゥール『いかさま師』の鑑賞教材化の研究」

   塚田 巧 「マウリッツ・コルネリウス・エッシャー『昼と夜』の鑑賞教資材化の研究」

   藤田香織 「井上直之『多層海麗日』の鑑賞教材化の研究」

   本多理佐 「ジョセフ・ライト・オブ・ダービー「空気ポンプの実験」の鑑賞教材化の研究」

 

 06P 高橋ゆきの「アンリ・ルソー『蛇使いの女』のシルエットの効果の解釈を軸とする鑑賞教材化」

東郷 彩 「モンドリアン『樹』連作の鑑賞教材化の研究」

永井裕樹 「ロダン『三つの影』の鑑賞教材化の研究」

南條宏美 「マリソル『緑の魚』の鑑賞と教材研究」

原田奈緒 「虎塚古墳壁画の鑑賞教材化の研究」

益子浩人 「三つの『受胎告知』比較鑑賞教材化の研究」

金 日峰 「横山大観『生々流転』の鑑賞教材化の研究」

 

 付録3

  1. 近代日本美術教育史上人物 研究対象候補群

 白浜 徴  (1866-1928) 明治後期の教育的図画の理論家。国定教科書『新定画帖』の著者。

 阿部七五三吉(1874-1941)教育的図画の中心的実践家であった。

 岡山  秀吉(18  -19  ) 手工教育の中心的存在であった。

 山本 鼎  (1882-1946) 手本否定・芸術教育の図画教育を主張し,自由画運動を展開した。

 青木実三郎(1885-1969) 農村にあって生活画を指導した。

 岸田  劉生(1891-1938) 美による徳育としての図画教育を主張した。

 藤岡亀三郎(18  -19  )  山本鼎の自由画に近い図画教育を実践した。

 霜田  静志(1890-1973) 図画と手工の連絡を主張した。その後精神分析研究者に転じた。

 稲森縫之助(1892-1978) 成城小学校で様々な図画教育指導法を実践した。

 北川  民次(1894-1989) メキシコで児童への美術教育をし,帰国後は創造美育協会に参加した。

 石野 隆(1897-1967)  大正期に創作手工を主張し,実践した。

 武井  勝雄(1898-1979) 戦前昭和期の構成教育の実践者であった。

 中西 良男(1899-1988) 戦前は想画教育を実践し,戦後は児童画の研究をした。

 後藤福次郎(1901-1965) 美術教育実践者であったが,昭和初期に学校美術協会を起こした。

 川喜田煉七郎(1902-1975)ドイツのバウハウスの予備課程を参考にして構成教育運動を展開した。

 松原  郁二(1902-1977) 東京高等師範学校,東京教育大学で美術教育を指導実践した。

 太田  耕士(1909-1998) 日本の教育版画運動の中心人物であった。

 久保貞次郎(1909-1996) 創造美育協会の中心人物,解放主義・創造主義美術教育論の主唱者。

 上野  省策(1911-19  ) 新しい絵の会の主要会員。

 高橋  正人(1912-    ) 造形教育センターの中心で構成教育を実践した。

 井出  則雄(1916-1986) 造形主義から認識主義美術教育論に転向,新しい絵の会の主要会員。

 藤沢  典明(1916-1987) 造形教育センターの主要会員であった。

 箕田源二郎(1918-2000) 新しい絵の会の理論的中心であった。

  2. 近代日本美術史上の作品 鑑賞教材研究対象候補 * 先行研究等あり(学年番号、執筆者)

 五姓田義松(1855-1915)「十三歳の自画像」(慶応3=1867)

 高橋 由一(1828-1894)「花魁」(明5頃, *98P久米)「鮭」(10)

 フォンタネージ  (1818-1882)「不忍池」(10)

 山本 芳翠(1850-1906)「西洋婦人像」(15) 「浦島」(26)

 原田直次郎(1863-1599)「靴屋のおやじ」(19)「騎龍観音」(23)

 小山正太郎(1858-1906)「濁療渇黄葉村店」(22,*金子01)

 浅井    (1856-1907)「春畝」(22)「収穫」(23)

  原 撫松 (1866-1912)「影の自画像」(40)「横向き婦人」(40)

 狩野 芳崖(1828-1888)「仁王捉鬼図」(19)「悲母観音」(21)

 菱田 春草(1874-1911)「落葉」(42, *02P大森)「黒き猫」(43, *98P斎藤)

 下村 観山(1873-1930)「木の間の秋」(明治40)

 黒田 清輝(1866-1924)「読書」(23)「昔語り下絵」(28,*01P細野)「湖畔」(30)

 白滝幾之助(1873-1960)「稽古」(30)

 青木 繁 (1882-1911)「黄泉比良坂」(36, *01P鳩山)「海の幸」(37)

                       「わたつみいろこ宮」(40,*99P渡部)

 大下藤次郎(1870-1911)「穂高山の麓」(明治40)

 今村 紫紅(1880-1916)「近江八景」(45)「熱国の巻」(大3, *02P吉野)

 木村 武山(1876-1943)「小春」(大3)

 岸田 劉生(1891-1929)「切り通しの写生」(大4, *00P飛座)

 河野 通勢(1895-1950)「自画像」(大5)

  鉄五郎(1885-1927) 「もたれて立つ人」(大6)

 中村  (1887-1924) 「エロシェンコ氏の像」(大9, *金子04, 99P荒木)

            「カルピスの包み紙のある静物」(12)

 速水 御舟(1894-1935)「炎舞」(大4)「名樹散椿」(昭4)

 村上 華岳(1888-1939)「日高河」(大8)「山」(昭4頃)

 小出 楢重(1887-1931)「蔬菜静物」(14)

 横山 大観(1868-1958)「生々流転」(12)

 土田 麦(1887-1936) 「舞妓林泉」(13)

  小川 芋銭(1868-1938)「夕凪」(13)「水魅戯」(13,*02P海野)「江村六月」(*02P長塚)

 平福 百穂(1877-1933)「荒磯」(15)

 小林 古径(1883-1957) 「清姫」(昭5)

 佐伯 祐三(1898-1928)「ガス灯と広告」(昭2) 「自画像」(*01P高木)

 前田 寛治(1896-1930)「棟梁の家族」(昭3)

 古賀 春江(1895-1932) 「海」(昭4,*03P深谷)

 中西 利雄(1900-1948)「彫刻と女」(14,*金子00)

 藤田 嗣治(1886-1968)「猫」(15) 「アッツ島玉砕」(18)

 松本 俊介(1912-1948)「立てる像」(17)