書籍や雑誌で断片的に語られる開発中の様子やゲーム内の事象から、開発中の「ポケットモンスター赤・緑」の姿を探る。
基本的に深読みで出来ている。
ポケットモンスターは、企画・開発から発売までに、6年という長期間を要したソフトである。
当然、その6年の間に大小の仕様変更を幾度と無く繰り返してきたことだろう。
このコンテンツでは、開発者や関係者が自ら語る開発中の様子や、
ゲーム内や関連メディアの中に残る痕跡から、開発途中のある時点におけるポケモンの姿を切り出していきたい。
なお、このコンテンツでは一作目である赤・緑に関することのみを扱う。
金銀も開発が伸びに伸びたことから色々なネタは多いのだがまたの機会に譲る。
「そらをとぶ」のカーソル選択において、なぜかヤマブキシティが最後になっている。
本来ならば最終決戦の場所であるセキエイ高原が最後であるべきなのに、
なぜシナリオ途中に訪れるヤマブキシティが最後なのか?
ヒントは開発資料にあった。
「ゲームフリーク 遊びの世界標準を塗り替えるクリエイティブ集団(メディアファクトリー刊)」の
63ページに地図の資料がある。1990年の表示があるので最初期の資料だろう。
具体的な地名はなく、数字や記号で表された地点を長方形で結んだだけのマップだが、構造は製品版とほぼ同じ。
タウンとシティの区別も、道路の順番も同じ(ハナダから北に延びる道の番号がなぜか一番大きいのも同じ)。
ここで目を引くのはヤマブキシティの場所。他の街が全て番号で表されているにも関わらず、
(ちなみにセキエイも番号。図を見る限り当初はタウン扱いだったようだ)
ヤマブキシティにあたる場所には「T」となっている。
文字の意味はわからないが、街とは性質の異なる地点であったとは想像できる。
ヤマブキジムはダンジョン扱いで、穴抜けのヒモなどが使える。
他にダンジョン扱いのジムはグレンだけで、他のジムでは穴抜けは使えない。
当初はダンジョンとして作られたマップを後からジムにした可能性がある。
(余談。リメイク版でもヤマブキジムはダンジョン扱いだが、グレンジムはダンジョンでは無い)
ヤマブキジムにはもう一つ、他のエリアと決定的に異なる特徴がある。
それは「ジムリーダーを含む全てのトレーナーに、勝っても負けても一度しか戦えない」ということ。
普通、トレーナー戦で負けた場合は、再び戦闘条件を満たすことで何度でも戦えるが、このジムでは戦えない。
ナツメに至っては、敗北後にジムに入った直後に会話イベントが始まってバッジと技マシンが受け渡される。
どうしてこんな事になっているのか。やはり開発中は何らかの特殊なバトルを行う施設だったことの名残か。
ここで最初に用いる資料はポケモンカードゲームである。
カードゲームは、ゲームボーイソフトと平行開発されていたので、
ゲームのほうでは製品版から姿を消した設定が生き残っている可能性がある。
わかりやすいところでは、自爆系を使うのがビリリダマではなくコイルになっている等がある。
ポケモンカードゲームの初期のシリーズでは、イシツブテやイワークが電気に抵抗力を持っていない。
一方で、同じタイプの組み合わせであるサイホーン・サイドンはしっかり抵抗力を持っている。
両者の違いは何か?それはタイプの並びが「いわ・じめん」であるか「じめん・いわ」であるか、だ。
ゲームの上ではタイプの並びは戦闘などに一切影響しないことは言うまでもないが、
カードのほうではイシツブテなどのタイプ2が無視されてしまっている。
これはなぜか。一つ考えられるのは、イシツブテなどは当初地面タイプを持っておらず、
その時点での仕様がカードに反映されてしまった可能性がある。
それどころか「タイプ2」自体が存在しなかったということも考えられる。
「ひこう」をタイプ1として持っているポケモンは存在しない。
ということは「タイプ2」が無かった段階では、飛行自体が無かったのか?
と思われるかも知れないが、答えはおそらくノーだ。
結論から言うと、タイプとは別の形で「空を飛んでいるポケモン」を定義していたと見られる。
その根拠を探るために攻略本を開いてみよう。
本作の攻略本は多数のデータミスがあることで有名。
攻略本に掲載されるデータリストの類は原則としてメーカー提供のはずなので、
ミスの多くは「開発途中のある時点での仕様」であった可能性が高い。
つまり、これらのミスは開発中のポケモンの姿を探る資料になりうるのだ。
今回話題にするのはミスではない。論理的に間違ってはいないが不自然な記述である。
どこの出版社のでもいいから、技リストの「じしん」「じわれ」を引いてみよう。
効果欄に「飛行タイプには無効」などと書いてはいないだろうか。ここから深読みを始める。
本来、地面タイプの技であれば飛行タイプに当たらないのは相性の基本で、効果として記述するまでもない。
実際、ノーマル技に「ゴーストタイプには無効」などと書いてはいないし、
同じ地面タイプの「ホネこんぼう」「ホネブーメラン」にすら書いていない。
僕はここに開発中の仕様の名残を感じる。
おそらく初期の段階では「ひこう」はタイプではない特殊なフラグとして存在し、
タイプ相性とは関係なく、特定の技の有効判定に作用するという処理だったのではないだろうか。
同じ地面タイプの技でも、ホネブーメランは飛んでいるポケモンに当たるが地震は当たらない、といった具合である。
開発の過程で飛行フラグは廃止されて、飛行はタイプの1種類となり、地震などの例外処理は意味を成さなくなった。
しかし技の効果リストの上では「飛行に無効」という説明文が残っていたのである。
この仮定を踏まえると「どう見ても飛んでるのに(飛行タイプが無ければ)地面技が当たる」
「飛び道具のはずのホネブーメランが飛行タイプに当たらない」といった仕様ゆえの不自然さが、
開発のある時期では起こらなかったのではなかろうかと予想できる。
タイプ1種+飛行フラグ → タイプ1種または2種+飛行フラグ → タイプ1種または2種のみ(製品版)
…という仕様の変遷が感じられる。