おもいつくまま

   

・おとうさん(−15年目のラブレターpart 2−) (00/10/某)

・ブラックペッパーのたっぷり効いた わたしの作ったオニオンスライス(00/3/某)

・こんな親父やねんけどなぁ(00/2/某)

・もってる物には理由がある。(00/1/某)

・星のかけらを探しに行こう(00/1/某)

・こたつと俺と何年目(99/12/某)

・酒とわたくし(99/秋)

・ある男の職歴(99/夏)


おとうさん(−15年目のラブレター Part 2−)

 うちの会社のオヤジが、15年ぶりに娘に会うという。

 その娘は今オーストラリアに住んでいて、今回シェアハウスに一緒に住んでる友人と一緒に日本に帰ってくるというのだ。

 その15年ぶりの再会のパーティの場にお誘いを頂いた。彼の娘さんに逢いたいのは勿論なのだが、実はちょっと怖かった。もしかして橋田寿賀子張りの感動的な再会の場面になったらどうしよう。耐えられないかもしれない。
 彼女が連れてくる友人というのはシェアハウスに一緒に住んでいる男性で、じゃあどう考えても彼氏だろう。いや、シェアハウスに棲んでいるのが彼氏だとは限らないのだが、男を連れてくるというのはどうも面白くない。いや、そんなことは俺がどうこういう事じゃないんだが。

 それはともかく、俺は約束の時間より少し遅れて彼の家へ向かった。初めて会う彼女は初対面でそれと判る、きちんと育てられた子だった。いや、一目みてそんなことが判るわけもないのだが、ちゃんと育てられてきて、ちゃんと育ってきた、という印象を持った。なんか感じのいいご挨拶だった。媚びることもなく、物怖じすることもなく、距離を置くこともないとてもいい子という感じだった。
 連れてきた男の子はベルギーだかノルウェーの北欧の方の子で、ちょっとウッディーアレン似ののんびりした感じの子だった。

 ほんのちょっとしか出ることはなかったが彼女の喋る日本語は多分ネイティブの博多弁で、とても可愛らしい喋りかたをする女の子だった。

 で、彼女がなんかの拍子に「おとうさん」と呼ぶのだ。それがなんだかとても素敵で、ちょっと泣きそうだった。もちろん彼も娘の名前を呼び捨てにするのだが、15年間会わなかった自分の親を素直におとうさんって呼べるんだろうか。いや俺がそう思うからこそ、彼女の「おとうさん」が、とても嬉しい。多分彼も俺が思ってるより嬉しいはずだ。そして彼女のほんの少しの博多弁訛りが、とても可愛らしい。ふとした拍子に出る彼の博多弁そっくりだし、タッパもあって、彼女は実は父親似だ。そのことが彼もとても嬉しいようだ。

 そんな感動的な15年目の再会に立ち会っていいものかどうか心配していたのだが、酒の席でもあるし、彼らは一日大阪観光をしたらしく、その場はこれっぽっちもおセンチになることはなかった。感動のご対面は午前中にすんでいたのかな。

 ちなみにノルウェーで有名な酒は「うにくん」という酒らしい。薬草が入っているというのでベルモットのようなものかと思ったらちょっと違うらしい。朝から飲む事もあり、健康の為にも良いんだと言う。結局「うにくん」はどうやら養命酒のようなものであると我々の中で結論付けられた。


ブラックペッパーのたっぷり効いた
わたしの作ったオニオンスライス

「得意料理は水炊き、焼肉、サラダです」というネタは結構好きなのだが、 今夜は初めて水炊きを失敗してしまった。

 まずい水炊きってどうやって作ればいいのかよく解らないでしょ。そんなあなたにお教えしましょう。 まずい水炊きの作り方。

 まず、お豆腐はスーパーで一番安い奴を買う。「50円引き」などのシールが貼ってあればなお可。 湯豆腐だけでは淋しいので、肉もいれます。
 いつもはしゃぶしゃぶ用の肉を買うのだが、 生憎この日は金曜日。大きめのパックしかなくてしゃぶしゃぶ用の肉は780円もします。 しょうがないので「カンザスビーフ薄切り」にしました。それでも580円もします。 薄切りだから同じことだろうと思ったのが第一の間違い。

 次はおさかなもちょっと食べたくなり、いつものように鱈を買うことにしましたが、 生憎この日は金曜日。三切れ入って500円もします。 しょうがないのでしゃけにしました。298円です。 塩鮭にしたのが第二の間違い。

 たまには変わったものも入れてみようとおもってつくねを買う。 ちょっと前ちゃんこで食べたつくねがおいしかったから。 これが第三の失敗。

 作り方は簡単、お湯を沸かして豆腐と肉と鮭を鍋にほりこむだけ。 ぐつぐつと煮えてくるとなんだかちょっとやな予感。 いつもと違って鮭のなまぐさい匂いがかなり強い。おまけに肉もなんだか獣くさい感じ。 つくねは水を吸ってどんどん大きくなる。 まあ、そんなに変なものにはならないだろうとたかを括ったのが第四の間違い。

 いざ食べてみると肉は薄切りとはいうものの結構厚い。おまけに安いところのせいか 硬くて、ゆでただけで食べるには結構つらい。 鮭はしょっぱすぎて魚くさい。これは我慢して食べた。 つくねはソーセージみたいな固さで、なんだかパサパサ。おでん用なのが不味かったのかな。 もしかして俺はつみれとつくねを間違えているのかな。 とうふがまた鮭の生臭さと肉の臭みを吸いこんでただの豆腐よりより一層不味くなっている。

 半分も食べられなかった。もったいないのでほんだしとお砂糖と醤油と酒で煮込んでみることにする。 結果はやはり失敗。不味いものはどう工夫しても駄目。 水炊きもやはり料理だし、料理は諦めが肝心だと悟ったある冬の夜のこと。(2/10)

 


こんな親父やねんけどなぁ(−15年目のラブレター−)

 うちの会社には47歳のオヤジがいる。奇しくも俺と同じ誕生日のそのオヤジは、俺と11違い。 タッパもあるし、腹も出ていない。おまけにちょっと甘めの二枚目だ。愛想もいいし気も若い。 髪は薄くなっちゃいるが禿げてはいない。可愛がってもらってる。

 にくめないタイプっていうのがぴったりの感じの、 強いて悪いところをあげれば、大雑把、物を探さない、何でも人に聞けばいいと思ってる、 空気を読まない、などというところか。

 彼は長い事バツイチで、悠々と2度目の独身貴族を堪能していた。
別れた理由を詳しく聞いたことはないが、 1千万近い嫁の持参金を博打で使い果たしたとか、200万近く出てたボーナスを 家に持って帰らず1日でポーカーゲームで叩いたとか、給料日の帰りにパチンコに寄ったら 給料を家に持って帰れなかったなどの蛮勇加減は聞いたことがあるが、 それが本当の話なのか、笑い話のネタなのか、ほんとに離婚の理由なのかは、定かではない。
彼は自分の事を隠しもしないが、自分の蛮行を自慢げに話すタイプでもないので 一度聞いたきりで、俺も何度も聴くことはなかった。

 彼は、3年ほど前いきなり結婚した。
会社のねえさんに紹介してもらった女の子と出会ったその日から一緒に暮らし始めた。
「今日出逢いがあるかもしれんな」
といった次の日から彼は自分の家に帰ることはなく、 三日後には連絡のために携帯を買い、1ヶ月後には彼女の家に転がり込み、 3ヶ月後には籍を入れていた。

人との出逢いってのはこんなものなのかなーと思っていたら、まもなく彼は家を買った。 今は田舎で悠々自適の生活をしているようである。

 さて、そんな彼は実は二人の娘がいる。前の嫁も二人の娘も、もはやどこにいるか判らないという。
そんな事を微塵も感じさせずにバツイチ生活を謳歌している頃の彼の口癖は、 「娘が俺を探しに来てくれないかなー」である。もちろん口癖というほどではない。

 今日、彼のもとにオーストラリアから15年ぶりに娘から手紙がきた。
写真を見せてもらったが、かなりの美人だ。
「可愛いですね。親父似じゃなくてよかった」
飲みこんだその台詞は、洒落で言ってあげた方がよかったかもしれない。
娘は170近いタッパがあって、端正な顔立ち。明らかに彼の血を引いている。

 行方不明だと思っていた娘は、実はおじいちゃん宛にお手紙をしたためていたらしい。 彼は離婚後、実家とも絶縁状態だったのだが、 それを最近おじいちゃんが転送してくれるようになって、娘が元気だという事が解った様だ。そして 今まで娘は自分の居場所を明かすことはなかったが、最近知らせてくれるになったという。
今日彼が受け取ったエアメールは、15年ぶりの、そしておそらく初めての娘からの手紙だ。

「連絡取ってもいいって事かな」その時彼は悲しげに、しかしうれしそうにつぶやいた。

 

 のほほんとしている彼ではあるが、実はバツイチ二人の娘のオヤジである。
俺は改めてこの人ものんびりしてそうに見えるが、 いろんな過去があったんだな、15年ぶりに娘から手紙もらって嬉しいんだろうなー、 逢いたいんだろうなー、と思った。
(見せてもらった手紙には、お父さんに連絡が取れて嬉しい、恨んでなんかいません、お父さんがいたから今幸せなあたしがいるとか 産んでくれてありがとうみたいな事が書いてあった。)
ああこの人今幸せそうで嫁貰って、文句言いながらも幸せそうだけど、 娘の事を考えて寝れない夜もあっただろうなとか、ほんとは二児の父だったんだなとか、 いろんな事考えて、感銘にふけってしまった。

よほど嬉しかったんであろう。別の女の子にも彼はこの話をしていた。
「こんなオヤジでもいてくれてよかったって言って貰えてありがたいよな」
その話を聞き終わった彼女の捨て台詞。
「なぁ、こんな親父やねんけどなぁ。」
だいなしだ。(笑)その落とし方がすごいな。


もってる物には理由がある。

最近物欲はなくなってきた方だが、高い物が欲しくて困っている。じゃああるじゃねえか。
いいものを買って自分のレベルを上げて行きたいのだ。
ブランドものが欲しいって言う気持ちはとてもよく解る。 自動的に自分の価値が上がるんだよね。 「シャネルを持ってる奴」とか、「アルマーニ着てる奴」とかね。 (ただしここで言う高い物とは普通の人にはたやすく手が届くものかもしれないので 金持ちは馬鹿にしないように。)

いやまてまて、物なんかで人間のレベルは変わらないよ。 人間は中身だよとおっしゃる御仁も多いでしょうが、人間は確実に外見によって判断されます。 外見がしょぼいとなんだかしょぼく見えてしまいませんか。
たとえそれがどんなにいい人でも。

例えば腕時計。
わたしは今ロレックスが欲しくてしょうがないのですが、生まれついての貧乏人のため、買ったとしても 30万もする時計をデイリーユースに出来るか どうかかなり疑問です。

ここから導かれる最も重要な結論は、
「ローレックスをしている奴は30万以上の時計にびびらないくらい稼いでいる。」 ということです。
また、イメージとして
たんに稼いでいる。
時計好き
もしかしたら機械時計好き
ひょっとすると時計オタク
などが思い浮かびます。

であるのでロレックスを買うと私の中では「そこそこ稼いでいて時計に関心がある人」 という人になれます。
物で簡単にイメージを作ることが出来るのです。
当然
「分不相応」
「典型的」
「趣味が悪い」
「ロレックスは機械時計としては評価が高くない」
という評価もあります。

これがオメガだったらどうでしょう。
「ロレックスは買えないけどオメガで我慢している程度の稼ぎなのか ロレックスは嫌いで趣味でオメガしているの変わり者」

これがIWCだったらどうでしょう。
「時計オタク」

まあこういう事になります。

靴でも同じことです。
おいらはリーガル系の名前のついている靴しか認めていないのですが、 スクエアトゥのビットローファーかなんか履いてると、 「むう、今風の小僧だな」と思うし、
ピカピカのストレートチップなんか見ると 「やるなこいつ」
どう説明していいのか解らない、なんていう靴なのそれはというような靴をはいている人を見ると 「靴になんの興味もないおっさん」ということになります。 「お洒落じゃない」「衣に興味がない」とも思います。
昔からファッションの要は靴だみたいなことを言われてますが、最近やっと意味がわかりました。
靴に金掛けられるってのは最後なんですね。スーツやらタイやら上物が一通り揃ってからじゃないと 靴にまで手が回らなくて、靴にまで手を掛けられる人がおしゃれさんってことなんじゃないかな。 またちゃんと磨いてないと結構貧相だしね。
足元を見るってのはそんな意味かもしれない。

レッドウイングなら 「がんばってるな」
ちなみにおいらはレッドウイングのパチもんを持っていますが、「ホーキンス」 と言われると「その程度のセンスしかないんだろうな」と、余裕です。
ナイキなら 「いつまで履いてんだ。そんなにすきなのか」
ウエスタンブーツなら 「かっこいいと思ってるのはお前だけ」 「ウエスタンブーツをかっこいいと思っている勘違い野郎」 と、自虐の意味を込めてそう思います。
自分で履いている日は「お前らにこのセンスわかんねえだろうな」と威張っています。

ジーンズならどうでしょう
トップスが洒落てて、バッグが吉田で、靴がレッドウイングの今風の子のジーンズが エドウィンだったりすると 「ダサ坊」と急に思ってがっかりしちゃいます。リーバイスでいいのに。
これがドゥニームやエヴィスだと、ふーんがんばってるなになります。

コートはどうでしょう。
わりと重衣料なので値段が張ったりしますが、 普通のステンカラーのおっさんでもバーバリーだと「そうだ、年寄はせめてそのくらいのもの着なきゃ」 と思いますがアオキのコートだったりするともうがっかりです。
まだ身内に革のトレンチやアクアスキュータムのトレンチを着ている人はいないのでなんとも言えません。

このように何を持っている何を着ているかによって本人のイメージはたやすく変わってしまいます。 もちろん着る物や身に付けるものになんの興味もない人もいますがそういう人はそういう人で 論外です。
それはそれで興味がなくてもいいんです。 バッグや時計は自分でちょっと気の効いたものを持ってみないと他の人のことって気がつきませんからね。 「家が趣味の人」や「車に命や金をかけている人」はそんなにいろんなとこまで手が回りません。

例えば使える金が10万ある。この10万をまず何に使うかが人生の分かれ目です。 10万あればスーツだってコートだって革ジャンだって買えるし、 Gショックのイルクジだって買える。CD-Rも買えるし、デジカメも買える。 ヴィトンのバッグだってモノグラムなら思いのまま。 ただ全部は買えない。いつだってそれが問題なんだよね。

ほんとは高い物が欲しいんじゃなくて、いいものが欲しいだけ。 でも世間的に解りやすくて評価が高いものってのはだいたい高いんだよね。

まあ一種の記号論に惑わされているだけですな、私の場合。
持っているものが無言の自己表現のひとつになる。 それで本人の趣味が判断されるので、なるべく趣味のいい物を身につけたい。 というようなことが言いたいんだと思います。

持っているもので本人の価値が変わるっていうことについて一番気に入ってる科白。

「50万の指輪を自分で買ってつけるのよ。
そうすればそれ以下の男は寄ってこなくなるわ。」


星のかけらを探しに行こう

といっても都会の子には夢みたいな話なんじゃないのかな。 「降るような星空」は俺にとって憧れではなくて、懐かしさだ。 久し振りに降るような星空を見たのは、今年のお正月。 父が氏子総代を務める神社の境内で。

1999年の大晦日、俺はいつものように実家で新年を迎えた。 自慢じゃないが30数年間、俺は実家以外で正月を過ごしたことがない。 今年はミレニアムとかY2K問題とかいって、世間は騒がしいが、 そのおかげもあってか我が家にも来客はなく、父も何故だか1999年12月31日の22時から 2000年1月1日の10時まで 神社でお努めをしなきゃいけない羽目になった。

2000年の年明けを何事もなく拍子抜けして迎えた後、神社へ向う。 俺は事情があって金輪際神頼みはしないことにしているのだが、まあしょうがない。 ダディが徹夜をせねばならんというのに、倅が挨拶もせず愛想なしで寝ているわけにもいくまい。

田舎の冬は寒い。まして真夜中。大阪とは比べ物にならない寒さだ。
寒い中、20分ほど歩いて神社まで。思いの外、人通りが多い。さすが初詣だ。

やっと辿りついた神社で松明にあたりながらふと空を見上げる。 かけらを探すまでもなく、たくさん星はある。松明の火の粉と見紛うほど。
夏の星座も綺麗だが、寒ければ寒いほど星は綺麗だ。 夜の星を見上げるなんて、坂本九が死んだ時以来かもしれない。(このボケは失敗)

かくして、わたしは星空に困っていない。
したがって、かけらなぞ拾いに行く必要もない。

が、まだ金星のかけらすら手にしていない。


こたつと俺と何年目

 この春こたつが壊れたので、今年はこたつを買わねばならん。

 いやこたつ自体は今そんなに高いものではないので、お金のことはたいした問題ではないのだが、 俺は事情があってこのこたつと一生生きていくと決めていたので、新しいコタツは買いたくなかった。 が、ここのとこ寒いのでもうがまんできない。ちょっと電器屋をのぞいてみた。 こたつは6000円からある。しかもなんか家具調なので春夏も便利だろう。 何しろ今のこたつは赤外線の網が張ってあるこたつこたつしたこたつだからな。 机として使っているが、なんだか貧乏くさいもんな

 こたつ売り場をプラプラしていると、赤外線のヒーターの部分だけが置いてある。 なるほどこれがヒーターか。ヒーターだけ売っているとは聞いていたのだが、 近所のダイエーで見た奴は温風ヒーターだったので、6980円もした。ならこたつごと買ったほうが 安いじゃねえかと思っていたが、赤外線ヒーターは安い。 これがつけば今のこたつでいいんだな。 しかしヒーターは3980円。こたつは6000円。2000円違うだけなら新しいこたつの方が いいんじゃないのか。いや、そうじゃない。俺はこのこたつと一生生きていくと約束したんだからな。 思いなおしてレジに持っていくと、2380円だった。なんだ安いじゃねえか。 今のこたつがなおることと値段にも満足して店を出る。

 さてヒーターを取り換えようとひっくり返してヒーターを外す。サイズは合うがネジの位置が合ってない。 まあしょうがないのでねじの場所が合わない時用の部品を使って木ねじでぐいぐいねじ込む。 ところがもう古いこたつなので木枠も大分くたびれているようだ。めきめきいいながらヒビが入る。 しかしここまで来たらしょうがない。可哀想だがとりあえずさらにねじ込む。 まあなんとかくっついたし、あったかい。こんなに無理していつまでもつかは疑問だが、 俺はまたしばらくはこのこたつと生きていけることになった。約束を果たした感じでちょっとうれしい。


酒とわたくし

 どう考えても、しあわせってのは毎日うまい酒が飲めることに他ならない。 もしくは、毎日うまく酒が飲めることとしか考えられない。 毎晩酒が飲めて、酒がうまい。旨い酒ならなおいいし、安酒でも旨く飲めれば充分だ。

 例えばそれは真夏に肉体労働をした後のビール。 顔をしかめながら、「かーーーーっ」て言いながら飲む奴。
 例えばそれは真冬にあつあつのお鍋を目の前にして、出来あがりまで後一息の時に飲む奴。 熱燗でも、冷たいビールでも好きなほうね。

 でも、毎日うまい酒が飲めるのは幸せだ。
それは風邪もひいてなくて、健康なんだし、酒がうまいと思える余裕があることなんだよね。 酔うために飲む酒ってのはあまり旨いもんじゃない。自棄酒ならなおさらだ。 心配事もないし、時間にも余裕がある。そんなことが楽しい。 今日は一人でうちで飲んでるけど、旨いし楽しい。 肴は自作のおでん。 1日仕事をして、家に帰って、もうどこへも出かけなくていいし、明日も遠くまで 行く必要もない。 健康で毎日ゆっくり飲める。これだな。

 まあ酒飲みになって良かった事は、 夜飯食いに行って、「お飲み物は?」って聞かれて、「いらねえよ」 って言わなくてすむことが一番だな。 小心者の俺は、昔は別に毎晩酒飲むわけじゃなかったので、 ラーメン屋行ったときとか「お飲み物は?」って聞かれるのがとても苦痛だった。

 後いいのは新潟に親戚のいる伯父さんに越の寒梅もらった時に、 心から狂喜乱舞できることかな。だってほんとにうれしいんだもん。 下戸じゃこうはいくまい。寒梅や雪中梅のありがたみもわかるし、 味もまあわかる。 2800円で買ったのか12000円で買ったのかはともかく、どんなに安くたって 居酒屋価格は1合1200円をくだらない。 日常愛飲中の白鶴くんなら8合は飲める値段なんだもん。 まあ値段じゃないんだが、その価値がわかるのは酒飲みじゃないとね。 久保田だって百寿千寿万寿の区別はつくし、何よりうまいか不味いかは自分で決められる。 まあそんなことが楽しい。

 あとはバーに行ってもオーダーに困らないことかな。 ちなみにおいらの良いバーの基準はギブソンエヴァンウィリアムスだ。 ってたいした基準じゃねえな。 が、私の中ではこれがないとこは、どんな気取ってても「バー」として失格なので こけおどしのインテリアのとこへ入ったら必ずこれで試すことにしている。
 ギブソンの場合、だいたいパールオニオンがないんですよ、とバーテンさんが言うので じゃあマティーニでということにしている。マティーニを頼むのは コーヒー専門店でブルーマウンテンを頼むくらい恥ずかしいが、その店の カクテルの腕を知るには最良だと思っている。
 ウィスキー系はおいらは今バーボンなので、エヴァンだ。なきゃないで良いんだが、 レッドしかありません といわれるとちょっとやだ。 ブルーが置いてあるとこは「なかなかやるな」と思う。飲んだことはないけど。 もちろんロイヤルハウスホールドがあったって、俺にはなんの意味もない。(・_・、)
 そういう意味では酒飲みのいいとこは、こけおどしのバーに負けないってこともあるな。 俺の好きな酒がないだけで、「2流」の烙印を押せちゃうもんね。


ある男の職歴

87:京都へ書生に出た後、「百円工女」よりももうちょっと稼ぎたいと思って、
「ああ野麦峠」を越えて東京へ出稼ぎに。
この頃は、横浜の片田舎に住んでいたが、浅草橋や西船橋の取引先に通っていた。遠かった。

90:東京で上岡龍太郎のまねをして、「箱根の山から東は人間の住むとこじゃねえ」 と悪口を言ってたら、
「なら、望み通り箱根の向こうへ行け」と言われて、
「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」を越しまくって静岡へ飛ばされた。
俺が仕事しないせいではないと思うが、この頃1回会社は潰れる。
厚木から豊橋までとにかく東名を走りまくっていた。
リストラがあって人が減ったので、大船、川崎、平塚、横須賀など、神奈川県も走り倒す羽目になった。

91/3/16 旧会社潰れる。ので一旦退職。すぐ後旧会社の業務を引き継ぐ新会社へ勤める。

94:静岡に行くのが嫌で東京(といっても大船とか平塚)の仕事ばかりしていたら、
今度は大井川どころか「天下分け目の関が原」「天王山」をいっぺんに飛び越えて 大阪へ行く羽目になった。
「お前以外に飛ばせる奴いねえだろ」と言って 俺を飛ばした部長は、俺を大阪に飛ばしたままてめえは転職した。

 大阪に行ったら事業部が合併になり、今までと違う仕事もすることになった。 住むところが変わり、会社のメンバーが変わり、仕事の内容が変わり、取引先が変わる。
こんなことなら東京で転職した方がまだましだと思ったが、気がついたときには後の祭だった。

95:大阪へ行ったら今度は京都担当になり、 まもなく岡山へ飛ばされた。 この頃俺が仕事をしないせいではないが、また会社が潰れ、本社へ事業部として移籍する。

97/3/16 本社へ移籍。

98:岡山の取引先を潰したので今度こそ安心して大阪にいられると思ったら、今度は名古屋へ飛ばされた。
もう俺に越えられないのは「玄海灘」と、「津軽海峡」くらいだ。

99:しつこいようだが、俺が仕事をしないせいではなく、今度は事業部が閉鎖される。
こう見えても、2回の会社移籍と、4.5回のリストラをくぐり抜けてきた筋金入りの役立たずです。


隠しページのため、ここからは何処へも行けません。
お付き合いありがとうございました。.