鉛筆とクマ 南暑寒岳〜暑寒別岳 雨竜沼コース (1995年7月9日・晴れ)


その2. まずは雨竜沼湿原を通り、南暑寒岳へ!

 今日は朝からドキドキしています。何たって今日の山はとてつもなく長くて遠いのですから! 実は今日の暑寒別岳は、父の強いリクエストでした。ガイドブックを見ると、登り 6時間10分・下り 4時間40分の合計 約11時間とあります。(もちろん休憩は含んでいません)

 「11時間ーー!? そんなの登れる訳ないじゃん!!」と、妹は全く乗り気ではありませんでした。 しかし最近、見違えるように体力のついてきた姉は 「恐いもの見たさのチャレンジャー」でもあり、自分は 「行ってもいい」 と言い出し(やがり)ました。(コノヤロ!)
 こうなったら妹は2人について行くしかありません。今日のコースは、かなり辛いものになると覚悟の上の事ですが、睡眠1時間はもちろん全くの予定外の事でした。
 しかし、ここまで来たら開き直って登るしかありません。私達はテントをそそくさとしまい込み、まずは南暑寒岳へと向けて、キャンプ場を後にしたのでした。


 登山口から1つ目の釣り橋、そして2つ目の釣り橋を渡り、どんどん登っていきます。早朝という事もあって、周りはガスって何も見えません。空も雲で覆われています。湿気で髪の毛には露がつき、外気は湿って冷たいのですが体は生暖かく、なんともすっきりしない感じで、さらに登って行きます。

 急登を登り切ると傾斜は急に緩やかになり、それは湿原へとつながって行きます。途中に湧き水場もありました。先に登っていた人達は 「飲めますよ」 と言ってくれましたが、最近の私達は湧き水をなるべく慎むようにしているので、ここでは飲まず、湿原へとさらに進んで行きました。

南暑寒岳までのルート図  湿原に出ても相変わらずガスっていて、広大な広さはあまり感じられませんでしたが、それがかえって神秘的に見えたりもします。
 オレンジ色のエゾカンゾウが可憐に咲いていましたが、「帰りに晴れたら、ゆっくり見よう」と、2・3枚写真を撮っただけで、さらに先へと進んで行きました。

 湿原の展望台を過ぎると、おめでとうございます! そこは第一の山、南暑寒岳の山頂です!

 「ええっ!? もう着いたの!?」
と思われるかもしれませんが、実際に感じた感覚はそうだったのです。と言うより、展望台から南暑寒岳 (ガイドブックでは1時間50分)までの記憶が、すっぽりと抜け落ちた感じです。

 手元のメモでも、登山口から南暑寒岳へは4時間ですから、すぐ着く筈はないのですが、でも本当に 「あら、もう着いちゃった。」と思ってしまったのです。これは姉も同じ意見でした。きっと湿原が良い休憩になってくれて、他が短く感じたのかも知れませんね。

 山頂ではAM8:30でした。ここでちょっと早いのですが、お昼用のおにぎりを一個だけ食べる事にしました。(後で考えるとここで食事をとっておいて大正解でした)
 おにぎりを食べ終わる頃には、雲で見えなかった暑寒別岳も姿を表し、どうやら天気も良くなりそうです。
 「よし! 暑寒別岳まで2時間半。これなら何とか行けそうだ!」 と気合を入れ直してみましたが、山頂で男の人に 「暑寒別岳まで行くの? ここの登りは大変だョ」 と言われ、またちょっとブルーになちゃった・・・。



その3. 南暑寒岳を下り、暑寒別岳へ!

南暑寒岳の下り  山頂の男性が言う「ここの登り」とは、これを指します。(右図参照)
ガイドブックによると「標高差約180mをジグを切らずに一気に下る、帰路一番の難所となるだろう」と言うほどの下りです。
 「これはヒザにくるぞー」

この長丁場で、膝がおバカになるのは致命的ですから、妹は膝をかばいながら下りて行きました。特に、足のつま先に体重を掛けるようにして下りて行ったのです。 これは力みすぎてかえって疲れてしまい、大大大失敗でした。
 膝がおバカになる前にすでに頭がおバカだったのです・・・。

 これを下り切ると、暫くはなだらかな歩きとなり、奥に1人用のテントが一つ張ってありました。そしてこれからが、暑寒別岳への苦しい苦しい登りの始まりです。しかし苦痛なのは登りだけではありません。それは日が高くなるにつれ、元気に活動を始めた 「ブヨくん」 です。休憩しようにもブヨが群がってきて、休めたもんじゃありません。このブヨには最後まで苦しめられました。おかげで、疲れが一気に吹き出た感じです。
暑寒別岳への登りで ブヨ パート1
 尾根に出てツルンとした崩壊地を慎重に通り過ぎ、更に進んで行くと、遂にやりました!!それは念願の暑寒別岳山頂です!

 「はぁー、ようやっと着いてくれたよぉー・・・」

 南暑寒岳から2時間45分、登山口からは6時間45分です。やはり長かったです。さすがに身も心も疲れ果てました。いつもなら山頂で喜びを感じるのですが、今まで歩いてきた道をまた戻らなければならないのかと思うと、滅入ってきて元気など出ません。

 AM11:15、山頂では丁度お昼時です。ビールで乾杯している人達もいました。(元気だなー) 父や姉も残りのおにぎりをバクバク食べ始めましたが、妹は疲れ過ぎて何も食べたくありません。それでも、少しでもエネルギーを補給しておかなければいけないと、持ってきたソーセージを一口、口に入れました。 ところが・・・

 「うっ・・・!」

ソーセージを口に入れたとたん、ものすごい吐き気がしてきたのです。 実際には何も吐かなかったのですが、何て言うか胃の中から空気が逆流してくるような感じで、とても食べれたもんじゃありません。結局ここで妹が食べたのは、この口に入れたソーセージ一口だけでした。



その4. 長かった登山口

 いよいよ下りです。山頂で写真を撮り、私達は暑寒別岳を後にしました。ここの下りもジグを切らない真直ぐな下りで、なかなかのものです。妹はまた、つま先に体重をかけ膝をかばいながら下りて行きました。(おバカ第2弾です)

暑寒別岳へのルート図

南暑寒岳の登り  そして今度は、南暑寒岳への「大変だョ」 の登りがやって来ました。もうここでは気合を入れ直す元気すら残っていません。ちょっと登っただけでもゼェゼェ状態です。

 「ダメだ・・・。 もう登れない、限界だ・・・。」
と思いながらも、1.2.3歩登っては一息つき、1.2.3歩登っては一息つく、これを何回も繰り返した所で、ふと後ろを振り返って見ると、思っていた以上に自分が高い所にいるのに気が付きました。
 私はこの瞬間がとても好きです。カメのような一歩でも歩き続ければ、確実に上に登れるのです。これはちょっとした快感でもあります。

 南暑寒岳で休憩をとり、次の目標は湿原の展望台です。しかし、そこまでがとてつもなく長かった!登りではあっと言う間に感じたのに、下りでは一番長く感じた所でした。(不思議です・・・)
 「きっと、あそこの角が展望台だ!」 を何度繰り返した事でしょう。よーうやっと辿り着いた展望台には一般の観光客で一杯で、朝とは違う場所のようでした。

雨竜沼展望台で ブヨ パート2


 「帰りに晴れたらゆっくり見よう」と、言葉通りに晴れ渡った湿原も、その広さがいまいましく感じ、更にここに来て、膝をかばって体重をかけていた妹の足のつま先が痛み出し、歩くごとに電気が通ったような激痛を伴い始めました。
 痛い足を引きずりながら、湿原をろくに見もせずに、登りで飲まなかった湧き水も結局ガブ飲みし、暑寒別岳の下りですれ違った人達にも全員に抜かされてしまいました。(もちろん父は、すでに先に下りております)

 「あと30分で登山口?」と妹は何度口にしたでしょう。 「あと30分で登山口だよ」 と姉の言葉が返ってきた時は、最高に嬉しかったです。

 無事登山口まで戻って来れましたが、今回の登山は今までで一番辛い登山となりました。(これは今現在も変わっておりません) 登山時間もコースも自分の体力に合わず、楽しい思い出など一つも残っておりません。(残っているのはグチだけです)

 一番悲しいのは、せっかく苦労して登った暑寒別岳の周りの景色も、山頂の様子も疲れすぎて何一つ憶えていない事です。これはかなり悔しいので、またいつか挑戦してやろうと、懲りずに思っています。
 ・・えっ? 同じコースをかって? そんなの決まってるじゃないですか! 反対側の増毛コースから暑寒別岳の一山だけですよっ。


大変お疲れ様でした
妹よ、姉だってとっても疲れているんだよ


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