鉛筆とクマ 利尻山 鷲泊コース (1993年 7月 10日・快晴)


その1. 私達は何も知らないただの観光客だった

 2泊3日の利尻&礼文島観光の旅にて。 前日の礼文観光を無事に終え、今日はいよいよ利尻観光の日です。 旅行のガイドブックによると「観光客も登っている」とのことで、今日は初めての山登りに挑戦、利尻山に挑みます。

 昨日に引き続き天候にも恵まれ、まさに登山日和! 私達ははやる気持ちをおさえつつ、予定通りに民宿の朝食をしっかりといただき、さぁへなちょこリュックをしょって、AM8:00登山開始です!!

 ・・と、ここで私達のリュックの中身を紹介しておきましょう。

リュックの中身

 いかがですか?もうここで私達がとても重大なミスを犯しているのにお気づきでしょうか? その事に気が付いたのは、展望が開けてきた6合目あたりでした。
 この日は、現地の人でも 「めったにない」 と言うほどの本当に素晴らしいお天気。もうすでにいい汗をかいていた私達に 「これでもかっ!」と追い討ちを掛けて来たのは、直射日光の中のキツーイ登りです。一歩一歩登るごとに息は上がり、汗がふき出しました。 「ハァ ハァ ハァ・・・」 頭の中でとてつもなくイヤーな予感が漂います。

  「まずい・・・。このままじゃ、水が底をついてしまうぞ・・・」


 それからというもの、極力水を控え、水を飲む時でもほんの少しの量を犬のように舌でペロペロとなめていました。(姉はコップまでなめていたぞ!) それでもどうにか8合目の「長官山」に到着。ここで昼食をとったのですが、かわいそうに、一番ダメージを受けていたのは姉で、あれほど食べるの大好き人間 (←俗に卑しいとも言うが) の姉が、「おにぎりが全然美味しくない」 と嘆いておりました。これは普段では考えられない言葉、かなりの重症です。

 2番目にダメージの多い妹も、長官山で留守番していようと心に決めていたのですが、 父の「ここまで来たんだから、頑張って山頂まで行くぞ!」の言葉に、二人は重い腰を挙げ 「じゃあ・・行けるところまで行ってみようか」 と決心し、山頂に向けまた歩き始めたのです。

 水が飲めないと言うのは、歩いていても休んでいても辛いもので、途中の休憩でも周りの景色など目に入らず、目が行くのはもっぱら人の水筒ばかり。 特にキョーレツだったのは、中年のご婦人グループが小さなナイフとまな板を使ってスッパリと切っていた、みずみずしいあのグレープフルーツ!! あれには参りました。もうクギづけです。 私達のノドからは間違いなく手がぺローンと出ていたはずです。

 山頂手前の砂れきのロープ場では、テニスシューズの姉が登っては何度もズリ落ち、これにはかなり手こずりましたが、それでも 恐るべし!素人根性! 私達はとうとう諦めかけていた利尻山の山頂に立つ事ができたのでした。

 山頂は天候の変化も、風も少なく、上着すら持たない私達にとって、とてもラッキーな事でしたが、しかし、この時すでに水筒の水はカラになっておりました・・・。


とってもジューシー



その2. あぁ下りが、こんなに辛いものだなんて・・・

 正直に言います。私達は本当にアンポンタンのスットコドッコイでした。体力のない私達に (父を除く)、水筒1本の水で足りるわけがありません。下りでは、長官山(8合目)まで雪渓経由で下り (このルートは、危険ですので絶対に真似をしないで下さいね!) 残雪を食べまくりました。

 一時的ですが、これで一息つく事ができ、あとは今まで登って来たルートをひたすら下るだけです。 「下りは登りよりも楽だし、水もきっと我慢できるだろう」 と私達は長官山を後にしました。そう、これが新たなる試練の始まりだとも気づかずに・・・。


鴛泊コース 体力のある父は、他の登山者と一緒に勢いよく下って行きます。妹も遅れながらも後に続きます。しかし、姉はなかなか下りてきません。 妹は姉の事が気になりますが、妹にはもう一つ、先ほどから気になっている事がありました。

 それは長官山を少し過ぎてから靴の中に入ったままの「小石」でした。 いくら靴をひっくり返してもその小石は無くならず、足の指が針を刺したようにチクチク痛みます。 「これは靴下の中まで入ってきてるんだな」と思い、遅れた姉を待ちながら、その小石を完全に取ることにしました。

 しかし靴下を脱いでビックリ!小石などどこにも入ってなく、代わりにあったのは足の親指の裏にできた2cm程の水ぶくれだったのです。 人間知ってしまえば不思議と痛みが増すもので、妹はその痛みに我慢できなくなってしまいました。
 「い、いたいよォーー」

 一方姉の方も、すでに膝が大笑い状態で踏ん張りが利かず、何度も転びそうになりながらゆっくりとゆっくりと下りて行きました。 この頃の姉は、今よりも太っていたので膝にかかる負担は大きく、足を一歩前に出すのでさえとても重たく感じ、さらに根性の「こ」の字もないので、休憩に最適な石を見つけては 「休憩、休憩」 と座り込んでいました。 しかも、2人に置いてかれた思いも手伝って、(←追いつこうという気もさらさらなかったが・・) 「いいんだ、休みながらゆっくり一人で下るんだ」と少し自暴自棄になっておりました。
 と、そんな姉の目に飛び込んで来たのは、自分を待つ妹の姿ではありませんか!

   「おぉ!妹よ!」   「おぉ!姉よ!」

 ふたりはお互いの疲労度を確認しあい、お互いを慰め合いました。 これで、仲良しシスターズは、ボロボロシスターズです。 ボロボロシスターズは、手に手を取り合い、皆に抜かされながらも、ゆっくりと降りて行きました。

 下山口の目安となるのは、444mの「ポン山」なのですが、これがまた、下っても下ってもはるか下に見え、さらに下っても下っても、ポン山はまだまだ下です。時間も時間だけに明るいうちに着けるのか不安になってくるし、根性のない姉は、すぐ「休もう」と言い出すし、足は痛いし、膝は笑うし、のどは渇くし、もうこれでもか状態、最低の低です。
 それでもボロボロシスターズの妹は、一生懸命姉を励まし、疲れたボロボロシスターズの姉も、頑張って歩き続け、よーうやっとポン山が間近に見えてきた頃、下から登ってくる人影がひとつ・・・・

    「おーーーーっ!!   水だーーーっ!!」

えらいぞ親父  そうです父です。下でいくら待てども一向に下りてこない2人を心配して、甘露泉から水を汲んで登って来てくれたのです。私達は無我夢中で水を飲みつづけました。まさに、命の水です。サイコーにおいしかったです。 これで少し元気を取り戻した2人は、何とか無事に下山することが出来たわけです。

 ありがとう・・・おやじよ。

 以上で、私達の地獄の初登山は終わりですが、いかがだったでしょうか? 登山ガイドでは、登り4時間10分・下り2時間30分のところ、AM8:00に登り始めて、下に着いたのはPM6:00と合計10時間の大登山となってしまいました。

 これをきっかけに私達は登山を始めるようになったのですが、今振り返ってみると、なんて無謀な登山なんだ!とも思いますが、その色々と大変な思いをした事が、今でも笑い話のネタとなり、心の奥で鮮明に残り続ける、「楽しい山登り」 だったのだと思います。



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