佐倉市立美術館 体感する美術2002  耳をひらいて Open your earss

野村誠 「しょうぎ作曲」展 ワークショップ


♪野村誠「しょうぎ作曲」体験記♪     文:村井 礼子


「しょうぎ」と「作曲」の素敵な関係
7/28のワークショップは、作曲家野村誠さんと一緒に「作曲&演奏」をしよう!というものだ。
一風変わった彼の作曲方法はワークショップタイトルでもある「しょうぎ作曲」というもの。
「しょうぎ」と「作曲」という全くかけ離れた行為を示すふたつの言葉。
「しょうぎしている様子を曲にする?」
「しょうぎを指しながら曲を考える?→なんてハイレベル!」
…いえいえ「しょうぎを指すように作曲をする」ということなのです。
「sting like a bee ! Float like a butterfly ! Compose like play shogi !」(チョットチガウカ…)

具体的にどういうことかというと、
まず数人でグループを作り、
始めの人の演奏に順々にフレーズを加えていくのだ。
輪になり、
一巡して再び自分の番になったらまた違う楽器やフレーズにして音楽に重ねていく…
ぐるぐるとスパイラル状に音の世界は広がって…
アラ!いつの間にか素敵な音楽の出来上がり!というわけである。
この様子が「Oh! Like play shogi ! 」であります。

「作曲だなんてそんな大層な!」とお考えの方もお在りでしょう!
デモネ、何の気負いもいりません 
と、そんな気持ちを吹き飛ばすかのように始まった
野村さんたちファシリテーターの方のデモンストレーション。
ファシリテーターのひとり、林加奈さんが、
楽器のたくさん詰まったご自身のトランクの中をぐちゃぐちゃかき回し始めると
楽器たちはぶつかり合い擦れ合い、
ガチャゴチャピプーッガチャゴチャチャッッ、騒々しくも楽しげな音をたて始める。
そこへおもむろに
もう一人のファシリテーター片岡祐介さんが太鼓でリズムを叩き出し、
野村さんは鍵盤ハーモニカで和音をフィーッ!!
音楽はもう始まっているのだ。

それぞれがお互いの様子を伺いながら様々に変化していく音色。
テンポの良い太鼓のリズムでアッパーなノリもあれば、
シンプルに鍵盤ハーモニカとビブラフォンでスウィートになったり…。
楽器と名の付くものだけでなく、
ボウルや風鈴、声やパフォーマンスまで、
音楽は誰にでもオープンで、何でもありで、自由で、楽しい!
ということを毛穴から感じる演奏であった。

「しょうぎ作曲」始まり!
私のグループはリーダーに片岡さんを迎え大人4(男性1、女性3)名、
女子中学生2名の計7名。
日常じゃ決して出会うことの無い、
職業も年齢も性別も生活環境も全く違う7名、
一体どんな音楽が生まれるのだろう!ワクワクドキドキ…!

作曲場所はハイビジョンホールという、
音響設備も空調もしっかり整った素敵な場所である。
薄暗いホールの中で唯一照明の当たる舞台上に上がり、
民族的な打楽器やら木琴やらザルやら笛やら(もう混沌!)を囲んで丸くなるのは
何だか奇妙な儀式めいていて異様な光景であろう。
そんな中で「好きな食べ物はぁ〜」なんて言いながら自己紹介で和みつつ、
じゃんけんで作曲順を決め、いよいよ作曲が始まる。
「一番の人は何をやってもいいからラクだよ」との片岡さんの言葉は、
たしかにその通りだと思うのだけど、
こう初対面の人たちの間でいきなり思い切ったことができるというのは
相当の芸達者か場慣れした人でない限り難しい。

トップバッターの女子中学生は色々悩んだ末、
少し照れくさそうにトライアングルを静かに打ち鳴らした。
涼やかで綺麗な音だ。
それに続けて片岡さんは鍵ハモ(=鍵盤ハーモニカ)で和音とリズムを奏で出す。
みんな順番が来る前にすでに決めていたので一周目はスムーズに進んで行った。
まだお互いの様子見という感のある、控えめで静かな音楽だ。
だけどこのメンバーの秘めたるパワーは既に匂い始めている。

二週目からは皆本格的に色々と考え始めた。
少しずつ曲の中に惹きこまれ、曲のテンポも上がり、面白くなってきた。
ただフレーズを生み出すのが長考になると、
その間に演奏を続けて待っている他の人たちは退屈になってしまう。
そうだったのであろう中学生の二人は、途中、ただ自動演奏マシンと化して、
おしゃべりの方に夢中になることがしばしばあった。
が、私にとってそれはそれで面白かった。
演奏中に違うことに頭を使うなんて他では考えられないことだし、
上の空の中で淡々と繰り返される無機的
(でも決して無機ではないところがまたミソ!)リズムが生む、
他の音とのズレが何とも微妙なニュアンスを醸し出していた。
この意外性がしょうぎ作曲の魅力だ。

何が起こるか全くわからない。本当にわからないのだ。
フレーズや楽器の意外性というよりも、
場の空気などの影響によって生まれてくる意表をつく音楽が魅力だ。
以前しょうぎ作曲を経験した時に、メンバー内でアイデアがなかなか出ず、
音がだんだんと小さくなっていき、
途方もないミニマルミュージックになったことがある。
あれは狙って創れるような代物ではない。
音楽とも何とも言いようの無い音の流れに、ただただ感動した。

今日はどんなことが起こるのか!
ワクワク…と、高鳴る胸とは裏腹に、
演奏に使っている右腕が痛くなってきてそれどころではなくなった。
50cm程の細い掃除機のホースのようなものをぐるぐる回して音をだしていたのだが、
握っている手がホースと擦れてなんと既にマメが出来始めているらしい。
見栄えも気にしてホースを頭上で振り回してしまったので
日常あまり使われることの無い右腕の筋肉がヒイヒイ、肩もプルプルしてきた。
片岡さんは思いのほか長考である。
この時ばかりは音を楽しむというより
ひたすら早く片岡さんのフレーズが決まることしか考えられなかった。

そんな各人の汗と涙もあり、
私たちの音楽は三順目、ノリノリなカウベルの音が加わった頃から
徐々に皆のテンションが上がり始め、
一体感も現れだし、いい感じになってきた。
さっきはおしゃべりに夢中だった中学生らも一心に楽器を打ち鳴らし、
片岡さんは太鼓と銅鑼でカウベルのリズムに絶妙に掛け合い、
それに合わせて私は木琴で軽いメロディーを乗せた。
全体的に打楽器系の音が多い私たちの曲はファンキー(?)な縦ノリで、
今思うと曲名の「宇宙のたんこぶ」というイメージも決して突飛ではなかったなと思う。

「しょうぎ作曲」それは未知との遭遇
この「宇宙のたんこぶ」という名は、
先程のアッパーなカウベルのリズムを言葉に置き換えたものだ。
曲が出来あがって、じゃあ始めから通してみようとなった時、
楽譜にしたはいいけどその通りに再現できず、
「リズムにあった言葉で覚えるとやり易いよ」
という片岡さんのアドバイスにより皆で一緒に考えたのだ。
そしてそれが題名にもなってしまった。

こんな言葉も、一人で作っていたんじゃ絶対に出てこない発想だと思う。
日常では出会うことのない、
ましてや一緒に音楽するなんてことは絶対ありえないであろう
未知の人々との出会いが織り成すWonderful World!
気心の知れた仲間うちでやる即興は、
お互いの反応や要求が回を重ねるごとに読めてきて、
そこで生まれる音楽を介したコミュニケーションや親密度のアップが楽しかったりする。
今回のこういう初対面の人同士で、
しかも短時間の場合の味わいどころはコミュニケーションする、
曲をつくりこんでいくというよりもむしろ先述のような意表をつく展開などの、
未知との遭遇のほうだと私は感じる。

私の中の音楽概念への、
いつ飛んでくるか分からないカウンターパンチが気持ちよい。
私の想像の遥か上空で、
音楽はもっと自由闊達で楽しくて無限大なのであった。
開放感と高揚で、
演奏後は何だか青空の下でいい汗を流したような爽快感に満ちていた。

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