日本大沈没 明るい未来を迎えるための資産防衛術             藤巻健史著

 日本とギリシャ、どちらが危機的な状況かというと、明らかに日本の方だと思っている。ただギリシャの方が世界中の新聞やテレビで騒がれているから危機的に見える。債務残高の対GDP比率は、日本が2012年の数字だと219%、ギリシャは181.2%、イタリアは128.1%、スペインは77.2%です。日本の単年度の赤字は44兆円です。ギリシャ国債の60%から70%は、ドイツやフランスの銀行が購入しています。したがってギリシャがこけると、フランスやドイツの銀行が大損します。ひょっとすると倒産する銀行が出てくるかもしれません。それで世界がギリシャに注目して大騒ぎしているのです。一方、日本の場合は日本国債の91.7%(2011年度末)を日本人が持っています。日本がこけたところで、直接的な損をするのは日本人だけです。ですから世界は騒いでいないのです。しかし、それにもかかわらず、長期金利が史上最低レベルの0.8%と低位安定してしまっています。日本では、いくら政治家がばらまきを行っても、長期金利は上昇しません。警戒警報のスイッチを切ってしまっているためです。ばらまきをしても警報が鳴りませんから、政治家はばらまき放題です。その結果、とんでもない累積赤字がたまり、財政破綻というつけが回ってくることになるのです。チェック機能が効かないところでは、バブルは想像を絶するほど大きくなってから破綻します。以上の理由から、日本の方が南欧諸国よりよほど憂慮すべき状況だと言っている。

 2011年に騒いでいた米国の財政破綻懸念とは、「政府債務の上限は14.3兆ドル(約1130兆円)を引き上げない限り、国債は発行できない。それなのに与野党間が紛糾して、なかなか上限引き上げの合意ができなかった」という騒動に過ぎない。米国では「無尽蔵に国債を発行していたら将来大変なことになるから、そうならないように事前に法律で国債発行額を制限していた」のです。GDPが1500兆円に対して、1130兆円の国債発行枠だったのです。一方、日本はGDPが468兆円に対して、960兆円のもの巨額借金を抱えています。

 現在、ほとんどの日本人は、間接的にですが、大量に日本国債を保有しています。したがって、国が破綻をすれば、我々自身が、いままで築き上げてきた個人財産をすべて失いかねません。将来もらうべき年金も、パーになってしまうかもしれません。というのも、金融機関が預かった預金で大量の日本国債を買っているからです。たとえばゆうちょ銀行は、預かった預金の約8割を国債で運用されていますし、年金も多く国債で運用されていますし、生命保険会社は集めた保険料を大量に国債で運用しているのです。なぜ国内の金融機関がこぞって資金を国債で運用したかというと、バブル崩壊以降、景気が悪く融資が伸びず、運用先に困り続けていたからです。ということは、もし財政破綻で国債の価値がなくなれば預金は戻ってこず、年金も支払われず、生命保険も払われないことになるのです。

 日本で、なぜ「長期金利上昇」というかたちの警戒警報が鳴らなかったのか。個人金融資産の17%を預かる世界最大の銀行であるゆうちょ銀行は、その成立の経緯からして、国債への投資が義務づけられているようなものです。いまでも預かった預金の80%を国債で運用しています。一時は88%を占めていました。市場原理の働く金融機関ならば、まずリターンの高い民間投資に資金を回し、民間からの資金需要が十分でなければ、海外にお金を回すのが常識です。政治家がばらまきを行い、その結果、国債の増発につながっても、ゆうちょ銀行が買ってくれるのです。市場原理にのっとれば向かうはずの「もっと儲かる市場」、すなわち民間企業にも海外にも資金はいかず、国債のみに資金は向かっていたのです。その結果、「長期金利上昇」という警戒警報は鳴らず、国債発行に歯止めがかからず、累積赤字は極限まで膨れ上がってしまったのです。そのせいで現在、「国債バブル」と「円バブル」が同時進行しているのです。日本経済低迷の元凶の「円高」と、日本の大問題である「財政破綻の危機」の根っこは1つなのです。市場原理が働かない社会主義体制の結果なのです。

 日銀が市場を通さずに直接、国から国債を買うことを「国債引き受け」と言います。いまは財政法第5条で禁止されています。日銀は現在、市場から国債を購入しています。「国債買い入れ」と言います。国債の入札等で国債を手に入れた金融機関から買い入れて、替わり金をその金融機関に供給しているのです。量的緩和の重要な手段です。「国債引き受け」と「国債買い入れ」の違いは、市場を通すか否かだけです。市場を通せば、それなりに市場のチェック機能が働き、国が無尽蔵に国債を増発することはないだろう、との発想です。いま日銀は、量的緩和の手段として、国債買い入れ額を急増させています。政府は日銀に、「デフレから脱却するために、もっと量的緩和を進めろ」と圧力をかけています。政治家や識者の中には「財政破綻を防ぐために、日銀は国債引き受けすべきだ」と主張する人もいます。日銀は金融緩和を極限まで行い、さらに政府や世論の圧力に屈して無意味に近い過剰な量的緩和を行っているので、日銀のバランスシートはかなり問題が出てきています。日銀のバランスシートの総資産は1991年の49.6兆円から、2011年末には143兆円と3倍に膨れ上がっています。大きくなったバランスシートの資産の中身ですが、現在の日銀の資産の6割が日本国債です。1991年の国債保有額は24.2兆円で、2011年末は90.2兆円です。その結果、1991年には日銀の資産の中で国債の占める割合が48.7%だったのが、2011年末には63%まで跳ね上がったのです。いまや日銀は、80.8兆円(2012年3月末)の日銀券を発行しており、その全部が日銀が保有している国債(90.2兆円)を担保にしているともいえるのです。財政破綻で国債がデフォルトになれば、日銀券の価値も暴落してしまうのです。つまり、円の大暴落ということです。

 2012年度の予算において歳出は90兆円ですから、その4割、約36兆円が社会保障費ということになります。その他の歳出の合計が54兆円ということです。歳入は46兆円ですから、それでその他の歳出54兆円をまかないます。すると社会保障費の36兆円は、借金でまかなっていることになります。つまり我々の社会保障費は、すべてを子ども、孫、ひ孫からの借金に頼っているということです。経済を拡大して歳入を増やせないのなら、社会保障費をカットしなければならないのです。

 2012年度の赤字は予算段階で44兆円ですから、それを黒字化するためには44兆円÷2兆円で22%の消費増税が必要になります。また現在、960兆円という借金があるわけですから、仮にそれを毎年10兆円ずつ96年間で完済しようとすると、この10兆円を捻出するためには、さらに5%の消費税が必要になります。ここまでで27%の増税、すなわち消費税は32%です。このような計算から、消費税を10%にしても、960兆円の累積赤字はさらに増え続けていくでしょう。

 現金、預金はいまでこそ一番の安全資産だと言われていますが、それは現金に価値があるデフレだからで、ハイパーインフレになると一番危ない資産になるわけです。一方で、万が一、財政破綻、またはハイパーインフレになったら、仕事から財産から将来の年金まですべて失う。国は助けてくれない。1ドル80円から300円、いや400円になれば、外貨建て資産は急騰しますから、保険としては極めて有効です。いまは資産を防衛する時期であって、増やすことを考える時期ではないのですが、そうはいっても資産運用の大原則は、「強い国のリスク資産を買う」ことです。日本が強かった1980年代には日本の不動産と株に投資し、1990年代から2000年代には米国の株や不動産に投資するのが原則で、それを実行したした人が大金持ちになれたのです。世界で一番強い国は、いまも米国だと思います。米国は市場原理が発達しているので、膿が大きくたまることはない。これは大きな強みです。分散投資に値するのは、まず米国で、その次はオーストラリア、スイス、英国、カナダ、ニュージーランド等の先進国、最後にBRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)なのだと言っています。

 現在日本で閉塞感を生み出している円高や巨額の財政赤字は、市場機能が働かず、市場が微調整できなかったゆえに、おできが大きくなった結果です。政治が何も決められないのも、市場がチェック機能を発揮できなかったからです。とはいえ日本人には残念ながら、自分で自分を変えられないでしょう。明治維新も、第2次世界大戦後の大変貌もすべて外圧に頼っています。今回も財政破綻時にIMFが日本経済の立て直しのために日本に介入してくるでしょう。IMFの力により、日本は本当の意味での資本主義国家になると思います。彼らによって過去のしがらみや利権は全部捨てさられるでしょう。まずは国家予算の歳入と歳出のバランスが図られますから、社会保障費はかなりカットされるでしょう。

 日本は今までに経験したことのないような 「債権安・株安・円安」がおき ガラガラポン(今までのことを一旦全て水に流して、最初からやり直す)は不可避です。ガラガラポンを経ると、 身の丈にあった支出をする小さな政府が生まれ、大幅円安により日本は大回復する。 97年アジア通貨危機で地獄をみた韓国が10数年後不死鳥のようによみがえったのと 同じ道のりを日本は歩むでしょう。


参考  「なぜ日本は破綻寸前なのに円高なのか」  藤巻健史著