なぜ日本は破綻寸前なのに円高なのか              藤巻健史著

 実態経済が悪いのになぜ今、円が強いのか。実体経済以上に、市場価格が異常に高い状態をバブルと言います。今の円と国債はバブルです。円バブルも国債バブルも、日本が社会主義的国家なのが原因です。日本では市場原理が働いていないため、円は変動相場制を採用しているようにみせかけて、実は固定相場制だと思える。「規制ばかり、大きな政府、結果平等主義の税制」の国が社会主義国家であり、「規制が少なく、小さな政府、機会平等の税制」の国を資本主義国家と言いますが、日本はどう考えても前者になります。

 円高が続いているもう一つの理由は、日本人があまりに海外投資をしないからです。日本人は世界中の高い利回りの金融商品には目を向けず、ひたすら国内の急落した株式や低金利の日本国債に投資をし続けているのです。それが円と日本国債のバブルの理由です。市場原理が働いていれば、水が高いところから低いところに流れるごとく、お金は日本から海外に流れていったはずです。海外の方がリターンが高いからです。日本には海外に還流していくべきお金はたくさんあったのに、市場原理が働いていなかった。その結果、お金が、一番非能率で、一番リターンの低い日本に留まってしまい、円高バブルが生じてしまっている。資金を海外に還流するシステムが日本では機能していないから、経常黒字を円に転換する力(ドル売り円買い)が圧倒的に優勢で、円高になっている。

 日本は社会主義的な国家だったがゆえに、市場原理が働きませんでした。経済がどんどん弱くなったのに、通貨は強くなってしまった。実体経済よりも、円がこれほどまでに強くなれば、最終的には大きな揺り戻しがあると言わざるを得ません。市場が実体経済を反映するには、時間がかかります。とくに社会主義的だと、バブルが極限までに大きくなり、その調整が起きるまでに時間がかかります。市場原理で微調整ができていない上に、人間の力でコントロールできると誤解して、無理に無理を重ねているからです。今の国債市場も同じです。政府や日銀が人為的に介入したから、国債バブルは極限まで大きくなっているのです。現在国債価格が高すぎるのです。今の日本の状態は円バブル、ならびに国債バブルです。

 財政破綻が2012年に起きても、全くおかしくない。もし2012年に起きなくても、数年以内には起きると思っている。だから、円の暴落は近いと言っている。国債の未達が起きると、政府に必要なお金が不足しますから、政府機能がマヒします。しかし、さすがに政府や日銀は、その事態を避けるため、今は禁じ手の日銀の国債引き受け行うと思う。民間金融機関が国債を買い切れなくなれば、余りを日本銀行が買い取るしか方法がないのです。その場合、日銀が輪転機をフル稼働させて紙幣を刷り、その紙幣で国債を買うことになります。問題は、日本中に、日銀が輪転機を回して刷ったお金をばら撒くことです。これにより、日本は間違いなく、ハイパーインフレになります。強烈な円安/ドル高になります。

 日本の財政が危機的な状態になったら、IMF(国際通貨基金)が入ってくる。IMFが入ってくれば、「日本は48兆円の歳入しかないのだから、48兆円しか使ってはいけない」というのが最初の指導だと思います。収入に見合った、身の丈に合った生活しかできないのは、家庭では当たり前のことです。年金や健康保険などの社会保障費は、全部カットされてしまうかもしれません。そうなると国民は苦しい生活を強いられます。そこで日本人は社会主義的国家では駄目だと気がつくと思います。格差是正を旗印にする分配システムが成り立っていたのは、48兆円の歳入に対して92兆円も使っていたからです。年金や国家公務員の給料、子ども手当や健康保険、介護保険等々、手厚く政府が金をばら撒いていたからできたことなのです。年金や健康保険等がすべてなくなった時、きっと国民全体が「平等に貧乏になった」ことには耐えられないと気づくのだと思う。ここで初めて資本主義的国家の重要性に気づくと思う。IMFの手助けがあって、初めて日本は「規制がなく、小さな政府、機会平等の税制」の資本主義国家に変わると思う。その結果、競争も激しくなるでしょうし、終身雇用制も崩壊するでしょう。しかしながら、市場原理が働くようになり、日本は実体経済に合った為替レベルになる。しばらくの間、円は相当弱いということです。こうなると、企業は欧米並みの純利益をあげることができ、法人税収も増える。日本は財政破綻した結果、創造的破壊を経て、回復する。

 変動相場制を採用し、きちんと市場原理が働く国であるならば、国の力が弱くなると、通貨が弱くなります。国内に魅力的な投資先がなくなり、自国通貨売り・外国通貨買いが起きるからです。しかし自国通貨が安くなると、自国のモノ、サービス、労働力が安価となり、国際競争力が回復し始めます。通貨安で輸入インフレが起こり、デフレ状態から脱出し景気が回復するのです。景気がよくなれば、魅力的な投資先が国内にできて、資金の還流により、今度は自国通貨買い・外国通貨売りが起こり、自国通貨高となります。そうすると、過熱していた国内景気は鎮静化しますし、強い自国通貨で買える安い外国商品が、国内のインフレ傾向を抑えます。このように、為替の変動相場制は、最高の景気自動安定装置なのです。日本は変動相場制をとっていると言っても、景気が良くても悪くても円が強くなる状況で、実質的に変動相場制をとっている国とは言えません。固定相場制のせいで、きびしい目にあった国はたくさんあります。日本もそうなるのは時間の問題だと思う。