昭和36年1月22日  朝日新聞朝刊

二囚人、看守を殺して脱獄
 便所へ誘って凶行 全都に大捜査陣 
中野刑務所

 21日白昼、東京都中野区新井町336、中野刑務所(仲里達雄所長、受刑者936人)で受刑者2人が看守を殺して逃げるという事件が起こった。脱獄した2人は窃盗犯として入所中の武藤照雄(28)と清水義平(27)で、殺されたのは、2人の作業を担当している梁瀬三喜雄看守(38)=中野区新井町3−22、公務員アパート=である。

 梁瀬看守の死体は同刑務所裏にある法務省職員の子弟がはいっている共済組合二階の大便所の中で発見された。警視庁では、殺人脱走事件として全都に緊急警戒を指令、野方署に特別捜査本部を置き、殺人、脱走罪の逮捕状をとり、同刑務所付近、中野、杉並区内を中心に逃走後の足取りの発見に全力をあげるとともに、肉親など立ち回り先の捜査を開始した。一方、同刑務所でも看守、職員360人の捜査班を設けるなど大捜査陣を張り、徹夜で懸命の追及を行っている。

昭和36年1月22日  朝日新聞夕刊

脱獄囚二人ともつかまる
武藤は王子駅前で 中学生、機転の通報

 昨21日白昼、東京・中野刑務所で看守を殺して脱走した2人の囚人は、22日、民間人の協力で相次いでつかまった。脱獄してからたった1日のはかない逃走だった。まず、武藤照雄(28)が中学三年生の機転がきっかけで同日朝国電王子駅近くの映画街で王子署員に逮捕された。直ちに取調べたところ、武藤は「いしょに逃げた清水義平(27)は逃走後も国電王子駅近くまでいっしょに行動し、同駅近くにいる」と自供した。このため捜査本部は北区一帯にパトカー30台を中心にした捜査隊を設け、一斉包囲捜査を続けていたが、午後0時40分、清水は北区豊島8−17煙草 雑貨商下川ふささん方に「自首したい」と姿を現わし、パトカーに逮捕された。武藤、清水はそれぞれ身柄を野方捜査本部、警視庁に移され、本格的な取り調べがはじめられた。