CV18 パラ GG アンプの製作

2010/10~2012/05 宇多 弘

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三極管ドリブン GG (カスコード) アンプ
 

1 CV18 GG アンプの試作経過

 1996年のことです。 三極管アンプを作ろうと気軽に入手したのが小型送信管 CV18 でした。 ゼロバイアスで動作でき、+側に振り込むと結構グリッド電流が流れました。 高周波 (RF) アンプ動作なら、抵抗=0 の同調回路やらリンク・コイルからの入力、グリッド電流は動作点に影響を及ぼさないのです。 ただし同調回路のQには影響したことでしょうけど。
 ところがオーディオ (AF) アンプでは、カソード・フォロワ、トランスまたはチョーク等のインピーダンス以外に抵抗分を持つ物を併用するので、抵抗=0 は実現困難です。 そこで+側半サイクルはグリッド電流にて生じたバイアス電圧にて歪みます。 +/−を跨ぐ動作点設定では、常時+の動作点に設定するハイμの送信管、それに direct coupled tube の 6AC5GT とその一族より難度が高いものでした。 
 歪みに関してはブッシュプル・アンプならある程度打ち消しが可能だけど、シングル・アンプではより厳しくなります。 実際に、この送信管のオーディオ・アンプ実用化試作に参加した人達の殆どはマイナス領域に逃げ込んだり、プラス側に少しだけ振り込むカソードフォロワ・ドライブ AB2 PP アンプにて解決したのですが、筆者は執拗にゼロバイアス動作を追いかけました。
 そして、一応の結論として超三結アンプをドライバ段に利用したグランデット・グリッド回路にてベストの結果を得たわけです。 今回、再度の CV18 への挑戦では、積み残した課題をクリアーするため、初期からの実験経過概要をレビューすることにしました。

1.1 カソード接地回路
 通常のカソード接地(・グリッド入力・プレート負荷)回路の場合では、上記+/−の動作の相違を無視して「力ずく」にて押し切る「パワードライブ」となります。 何しろ入手しやすい部品でまとめることも目標であり、その具体化は試行錯誤の連続でした。 

● 真空管ドライバによる試行錯誤
 初期の設計では、ドライバ段の内部抵抗が低ければ信号の+/−差も少ない筈と考えて 6AS7G/6080 を選択し、B級アンプ用ドライブ・トランス併用を考えました。 ところがトランスが高価、しかも先行実験した人が不成功でした。
 そこで「チョーク・コイル負荷結合」を発想、色々試行錯誤して「直結二階建て、タップ・ダウン回路」、すなわち、出力トランス一次側をチョークとして利用し、その 0 端子をドライバ管プレート、7kΩ端子をグランド側=ドライバの B 電源=CV18 のカソードに接続、5kΩのタップから CV18 のグリッドへ入力し、やっと成功しました。 タップ・ダウンによる低インピーダンス化は RF 回路では常套手段、それがヒントでした。 この構成にて「ゼロバイアス」シングル・同パラシングル・同パラプッシュプルの各アンプを試作しましたが・・・何となくスッキリしませんでした。(〜2001) 
 なお上記の詳細経過を記述したページは CV18 が入手困難でもあることから廃バージョンとしました。(〜2005)

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● パワー IC による+/−ドライブ
 その後 B 級出力管 6N7, 6N7GT, UZ-79 を試験する機会があり、トランス・ドライブを実現できなかった CV18 も似たようなドライブ環境を要するため一緒に盛り込むことにしました。
 前段およびドライバには上述の真空管式ドライブでは色々問題が多すぎるので、カーステレオ用のパワー IC TDA 1552Q を利用し、その出力を 600Ω/8Ωのトランスを逆接続した 8Ω/600Ωトランスにて B 級管および CV18 のグリッドに入力しました。 プッシュプルではトランスを二個使用し片方は 0/8Ωを逆にして位相反転を兼ねました。 このドライブ方法を大型送信管のドライブに利用しておられる例もあります。 下記のページをご参照ください。

◇ 参照 index:パワーIC Dr CV18 A2-パラ シングル, 6N7GT/UZ79 B-PP
◇ 本文 title :「パワー IC ドライブによる CV18 A2級 パラレルシングル・アンプ,
       6N7/6N7GT/UZ79 B級兼 CV18 A2級 プッシュプル・アンプ」(〜2005/06)

1.2 グリッド接地回路
 2001年当時、+/−でのアンバランスなグリッド電流課題は、グランデッド・グリッド回路 (以下 GG 回路) にて解決できるのではないかと発想して試作・実験に掛かりました。 
 GG 回路の実装も、ドライバ段〜終段間のマッチング・トランス結合にすれば簡単です。 ただし AF 信号ではカソード接地回路の場合と同様、グリッド電流の処理方法に関しては種々問題ありの条件は似たようなものです。
 取りあえず、カソード接地回路と同様に出力トランス一次側利用の「チョーク・コイル負荷」によるドライブ回路を色々試し、一応「音は出た」ものの、いろいろ調整しても音質が改善できず諦めました。 ドライバ段と終段の電流の向きおよび、チョーク・コイル負荷の直流磁化等が原因らしいと考えました。

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2 カスコード回路に至る

 さらにしばらく再検討を重ねて「チョーク・コイルには極力直流電流は流さない、低インピーダンス・ドライブ方式」として、ドライバ出力を終段ではグリッド接地回路にして受ける、超三結ドライバ段〜終段のカスコード回路化ではどうかな?と考え、試作・実験を繰り返しました。
 回路図を見て頂くと分りやすいですが、ドライバ段の負荷チョークにはドライバ段のプレート電流 (DC) は流さず出力信号電流 (AC) のみを流します。 また負荷チョークは終段のグリッド・チョークを兼ねています。 そして終段管グリッドはキャパシタ経由で接地されています。
 このグリッド・チョークには、ドライブ信号が終段グリッドの+側に振り込んだ時にだけ発生する(ドライバ段のプレート電流に比較すれば、相対的には)微小なグリッド電流 (DC) が流れるだけであり、この回路構成なら磁化および電流の向きの問題から解放されて音質は改善されるのではないか・・・と考えた訳で、この推論はアタリでした。
 なおカスコード回路の一般的な実用例としては RF 用双三極管による真空管式テレビ・チューナが挙げられます。  

 この実験アンプの音はマズマズであり、完成後は分解を免れて自室でしばらくの間稼働しました。 なおカスコード回路に至る経過詳細は下記のページをご参照ください。

◇ 参照 index:CV18 超三結 Dr GG
◇ 本文 title :「CV18 para 超三結 driven GG アンプの製作」 (〜2001/03)


3 再度レビューにて実験余地を発見

 今回は再度 CV18 を起用するに際して、更に改良余地はないかと上述の試作経過をレビューしてみました。 そして 2001年当時、本来は最初に実験する筈の「単純な三極管ドライバ」によるカスコード回路実験を経ていないことを思い出しました。
 最初から超三結アンプ・ドライブ方式に狙いを定めてトライして一応の成果を得たので、音質確保のキーポイントが超三結回路にありと理解、他のドライブ方式は実験するまでもなかろうと、省略したようです。 今にして思えば、当時実験した超三結アンプ・ドライバの 6Y6GT が三極管接続でもビーム管接続でも音質的に大差がないことをやや深く考慮すれば、単純三極管ドライバの実験にも着目できたはずですが・・・後の祭りです。
 言い換えれば、低インピーダンス・ドライブならパワーIC でも、MOS FET アンプでも何でも可ということです。 ただし唯一の先行例が超三結アンプ・ドライバ、その意味する所は「できるだけ低インピーダンス・ドライブが望ましい」です。 
 もし超三結アンプ・ドライバに戻るならば、別項の「球リントン」超三結アンプすなわち「球石ダーリントン」超三結アンプも対象に加わります。

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4 回路、主要部品・配置、結果、回路図

 ドライバ段を単なる三極管アンプにて構成します。 その三極管は CV18 のカソード電流と同じだけ流すため、内部抵抗が低い 5998/5998A を選択し、低プレート電圧・大電流に調整することしました。 単三極管の 7233 も使えそうなので試験余地がありましょう。
 ドライバ負荷兼終段グリッド・チョークには東栄変成器 T-850-7k の一次巻き線、出力トランスには東栄変成器 OPT-11S 相当、電源トランスにはタンゴ ST-220 を使いました。 電源用のキャパシタには 2200μF四個を投入し、危険防止の放電リレーを併設しました。 ドライバ段出力と終段プレートは同相であり、終段プレートから初段カソードに所謂 P-K NFB が適用できます。
 部品配置の様子は文頭の写真をご参照下さい。
 動作させると、若干甘めながら、まずますの音質が確保できていました。
 電源部分を省いた回路図を下記に示します。

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5 改造計画

 本アンプは発生時点にて転用を考慮していました。 追加の「穴埋め」実験が終わった後、暫く放置していましたが・・・ドライバ段および終段周辺を撤去、新設すれば大抵の管種および回路にてシングル・アンプが組めるように作ってあったのです。 さて次は何が載りますか・・・・ 
以上

改訂記録:
2010/10:初版
2012/05:改訂一版、改造