上級問題 答
全知全能の将棋の神様同士が対局すれば、先手必勝、後手必勝、千日手のどれかになります。それは初級問題で証明したではないか。しかし、その内のどれになるかは、今のところ、人間には分かりません。初級問題と違って、読み取るべき手筋が多すぎるからです。
初級問題の将棋のようなゲームをする時は、我々人間の大部分も、将棋の神様です。なぜなら、指し手を最後まで読み切れるからです。最後まで読み切るから、このルールの将棋は先手必勝か、後手必勝か、千日手かが分るのです。将棋の神様は、普通の将棋も最後まで読み切れるのです。だから、将棋の神様にとっては、普通の将棋もやる価値の無い、無意味なゲームになってしまいます。我々人間にとっても、初級問題の将棋が、無意味なゲームであるのと同じように。
このクイズは小林秀雄の『考えるヒント』(文春文庫)の中の『常識』というエッセーを元にして作りました。このエッセーの中で、小林は、
機械は、人間が何億年もかかる計算を一日でやるだろうが、その計算とは反復運動に相違ないから、計算のうちに、ほんの少しでも、あれかこれかを判断し選択しなければならぬ要素が介入して来れば、機械はなすところを知るまい。これは常識である。常識は、計算することと考えることとを混同してはいない。将棋は、不完全な機械の姿を決して現してはいない。熟慮断行という全く人間的な活動の純粋な型を現している。
と、人間の行為と機械の行為の違いを明確に指摘しています。将棋を馬鹿馬鹿しいと言うのではなく、不完全な判断力を抱えながら、熟慮断行に賭ける人間の行為の尊さの表れと評価しているのです。
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