水が抜けて初めて全容が分かる。 排水枡は意外に深かった。 一見したところ、80cmぐらいはあっただろうか。 その底には糞尿とトイレットペーパーで出来ているであろうと思われるヘドロのようなものが10cmほど堆積していた。 私は思わず目を背けた。 全て自分が出したものだというのに。 さすがに業者さんは慣れたもので全然驚いていなかったが、市の職員は一目見ると近寄ろうとはしなかった。 これは大変な事になった、と私は思ったが、実のところ、これは大した問題ではなかった。 というのも、根管は非常に太いパイプなのである。 見たところ直径20cmぐらいはありそう。 トイレットペーパーだろうがヘドロだろうが、大量の水を流せば押し出されていくのだ。 市の職員によると、我が家の周辺は本管の流れが極めて良好で、本管に入ってしまえば全く問題ないのだそうである。 問題はやはり根っこの方だった。 複数の根っこが排水枡の縁にへばりつくように入り込んでおり、それが中で絡み合って、簡単には取り出せなかった。 業者さんもさすがに手で触るのは避けたいらしく、バールのようなもので引っぱりつつ、大きな枝きりばさみで切ろうとするのだが、一人ではなかなか上手くいかなかった。 誰か手伝ってあげれば良さそうなものだが、もちろん市の職員は手伝わない。 私が手伝うべきだったかもしれないな。 しかし、正直言えばあまり近寄りたくもなく、若干腰が引け気味でその様子を見守っていた。 すると、市の職員がゴミ袋を用意するよう私に促した。 取り出した木の根っこを持って帰るわけにはいかないから、自分で可燃ゴミとして捨ててくれ、というのである。 私は家の中に戻り、ゴミ袋を用意した。 そして使い捨てのゴム手袋をはめて玄関に戻った。 余談だが、イヤな事をするときには道具をケチってはいけない。 トイレ掃除などのために使い捨てのゴム手袋を大量に私は常備していたのだ。 これは不幸中の幸いであった。 このあと私はこの日最悪の光景を目にする事になる。 ホントに目の前で起こった、というか、目の前を上から下に通り過ぎていった。 ゴム手袋を用意していなければ、到底耐えられなかっただろう。 使い捨てのマスクも常備していたのだが、それは着用し忘れた。 その点は大変残念な事であった。 つづく |