運のいい事に、業者は別件で近いところにいたらしい。 二三十分もすれば来るだろう、という話だった。 業者を待っている間、私は排水枡に覆い被さるように生えていた木を片っ端から切る事にした。 作業するのに邪魔だし、市の職員からもプレッシャーを受けていたからである、こんなところに木を植えるな、と。 当の木は太い幹が育つタイプではなく、細い幹が地面からたくさん伸びていくタイプだった。 太いものでも直径4cm程度と比較的切りやすくはあったが、本数が多かった。 30本ぐらいはあっただろうか。 それをただひたすら切り倒した。 真冬の寒さの中、汗だくになりながら切っては車庫に運び、切っては車庫に運び、を繰り返す。 業者が来る前に全部やっちゃおうと思って、一心不乱に働いた。 はじめはそれを眺めていた市の職員も、寒くなったらしく程なくして車の中に消えていった。 どれぐらい時間が経ったのかよく分からなかったが、ちょうど全ての木を切り終えて車庫に運んだあたりで業者が到着した。 彼は高圧洗浄機を積んだ軽トラでやってきたのである。 彼は50半ばぐらいに見える汚れた作業着に身を包んだ小男だった。 その風貌からして、出来る男のようには見えなかった、正直言って。 しかし、汚水の溜まった排水枡を見るとすぐに、ああこれは高圧洗浄するまでもないね、たぶん、と誰に言うとでもなくつぶやいた。 根を引っぱれば、たぶん水は抜けるだろう、というのである。 だが、その前に。 彼は携帯用の黒板に「作業前」と書いて、写真を撮るよう職員に促した。 業者に報酬を支払うために証拠写真を撮る決まりになっているのだそうだ。 ここでも二人の職員は揉めた。 汚水の貯まった排水枡の横に立つのはイヤだと言って。 散々揉めた挙げ句、やや年配の方が、ここは責任者の言う事きいてもらわんと、などと言ってやや若い方を排水枡の横にしゃがませ、スマホで写真を撮った。 相変わらず変な人たちだった。 それが終わってようやく業者さんは自前のバールのようなものを取り出し、根っこに引っかけた。 そして排水枡の縁を使ってテコの要領で根を持ち上げると、ずずずっと汚水が抜けていった。 汚水が抜けた排水枡の底にあったものは・・・・。 つづく |