真の救世主を召喚せよ

真の救世主を召喚せよ 2018_01_15

 

市役所の職員二人組がやってきたのは3時半ぐらいだったか。
二人のとも60過ぎてるんじゃないかと思えるほど年配の方達だった。
しかも、なんか普通の職員と感じが違う。
今どきの公務員は叩かれたくないから物腰の極端に柔らかな人が多いものだが、この人たちは無神経な物言いをする。
私と話すときはまだマシだったが、二人で話すときはメチャメチャ汚い地元言葉で話すので、ケンカしてるみたいに聞こえた。
でも仲は良さそう。
変な人たちだった。
たぶんOBを再雇用したか、契約職員にしたんじゃないかな。
現場に慣れてる感じと適当な対応が私にそう感じさせた。
まあ、それはどうでもいいか。

彼らは到着すると、さっきのクラシアンと同じ事をした。
排水枡を探して玄関をウロウロしたり、地面を掘ったりしたあと、やはり車庫側を見て回った。
ただし、ここからが違う。
市役所には水道管の設計図があるのだ。
探すのは5分程度で諦めて、一方の職員が水道局に電話を入れた。
すると、玄関の北側、お隣の敷地との境界に近いあたりにある、と連絡が来た。

しかし、そこには木が目一杯生えている。
そのすぐ横に幅60cmぐらいの鉢植えがあって、動かせそうな気がした。
動かしてみると、果たしてそこに排水枡はあった。
土に埋もれて見えづらかったが、直径50cmぐらいのコンクリート製のフタが見つかったのである。
位置的に地面が高いところなので、ここにはなさそうに思える場所だった。
それを発見した瞬間、職員の一人が、これは根っこが入ってるな、とつぶやいた。
確かにフタの端に根っこが覆い被さっているのが見て取れる。
聞いてみたところ、排水枡の中に植物の根が入って根管が詰まる事は、まあまあよくある事なんだそうである。
お年寄りなんかは排水枡があっても気にせず植えちゃう人が多いよ、と言われては私も、死んだ親はなに考えてたんでしょうね、などと言い訳せずにはいられなかった。

とりあえずこの排水枡の蓋を開けなければならない。
私はノコギリや枝きりばさみなどを持ってきて、可能な限り根を切った。
でも全部は取り切れない。
ある程度のところで断念して、蓋を開けてみる事になった。
市役所の職員はバールのようなものをフタの隙間に差し込むと、テコの要領でフタをぐいっと持ち上げた。
開けた瞬間、バールを握っていた職員は、うわっ!と声を上げた。
面一杯まで汚水の溜まった排水枡がそこにはあったのである。
しかも、トイレットペーパーらしきものも浮いていた。
私も思わず目を背けた。
もっとも全て私が出したものなのだが。
よく見ると、排水枡の縁にきしめんのように平たくなった根がこびりついていた。
原因は間違いなくこの根っこのようである。

蓋を開けてない方の職員はそれを見るやいなや、これはダメだ、もう呼んじゃうよ、と吐き捨てるように言うと、スマホを取り出し、どこかに電話をし始めた。
そう、彼らは清掃作業をしないのだ。
詰まりを直すのは市役所が契約している業者の仕事なのである。
真の救世主(メシア)はこれから登場する!


つづく