なんだかわからないが声が出なくなって、もう2週間以上が過ぎている。 ひょっとすると遅すぎる声変わりなんじゃないかと思うほどだ。 近所の耳鼻科へ行くと、いつものことなのだが、薬を出された。 耳鼻科の医者っていうのは、ちらっと喉・鼻をみるだけで終わりなので、随分と楽な商売だなあといつも思う。 私も耳鼻科の医者になりたいものである。 設備の整った病院のお医者さんはまた違うのだろうが。 薬を2週間に渡って飲み続けてきたが、俺はマメに薬を飲むな・・・ということに気づかないわけにはいかない。 毎食後欠かさず飲んだ。(食事自体がやや不規則なのだが) 私は薬を飲むたび、亡くなった祖母のことを思う。 彼女は薬を命綱であるかのようにマメに飲んだ。 医者に出された薬を飲まないと不安でしょうがない様子であった。 保険が効くようになってから90歳を過ぎて亡くなるまで、私の知る限り彼女は薬を飲み続けたのである。 彼女はいつも死ぬことを恐れ、自分の体を労り続けた人であった。 油っぽいものは絶対に食べなかったし、味付けも薄味のものしか食べなかった。 中華料理屋なんぞに間違って連れて行こうものなら、胡椒の味が少しするだけで、彼女は食べることを拒否した。 胡椒が体に悪いなんて事はないと思うのだが、刺激のある味を受け付けることが出来ないのである。 私はそんな祖母によく言ったものである。 「好きなものガツガツ食って、ウッ!と死んで見せろ」と。 だって、自分の体を過度に労り続ける年寄りというのは可愛らしくない。 そこには些かの美しさも感じられないのだ。 周りが止めるのもきかず、堅いせんべいなり、脂っこいステーキなりを食らって死ぬ年寄りの方が遙かに可愛らしく美しいのである。 しかし、私は最近になって、あの年寄りはひどく美しかったな、と思うようになっている。 あの醜いまでの生への執着。 それが人のあるべき姿。 貫くことが出来れば、それもまた美しいんじゃないか。 今の私は肉一片になっても生き延びてやろうと思うようになっている。 醜いほどに生に執着したい。 これは遺伝なのかね。 そんなことを考えながら、私は今日も薬を飲んでいる。 ひょっとして咽頭癌だったらどうしよう・・・、とか、ちょっとだけびびりながら。 |